ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
翌朝、鳥の囀ずる声が微かに聴こえ、東から太陽が登り始める。それは一日の始まりを告げるのを意味していた。
そして、ここはIS学園の寮にある一夏と楯無がいる部屋。
「う……うぅん……」
楯無は窓から射し込む太陽の光で瞼を軽く動かし、ゆっくりと眼を開けるーー眼はトロンとしていたが腕で擦りながら上半身だけを起こし、軽く欠伸をした。
それはとても可愛く余計にだらしないとも思えた。が、楯無はある事に気付き、慌てて扉近くのベッドの方へと振り返る。
そこには彼、一夏は居なかったーー正確には、楯無より先に起きたのか、寝間着は散乱している。なのに部屋には自分以外の人の気配はなかった。その証拠に浴室からはシャワーの音は聴こえない。
「……一夏君?」
楯無は部屋を見渡すも一夏は居ないのに気付くも、一夏は既に寮には居なかった。
「…………」
一方その頃、一夏は制服を着ており、一人教室にいて自分の席に座りながら俯いていた。教室には誰もいない。まだ寝ているのか寮で学園に行く為に身支度をしているのだろう。
その為、今の時間帯は、今の教室は一夏が独占していると言い換えれば良いだろう。無論、彼はそんな事を思っていない。今の一夏は物思いに更けながら席に腰掛けながらポケットに手を入れていた。
近くには勇人や止はいない。本来ならば彼等は三人で行動するが今の一夏は一人になりたかったのだ。理由は一夏自身が楯無と一緒にいるのが嫌だったからだ。
楯無と居ればあの事を問われるのと、楯無がまた弱気になるのは目に見えている。それに勇人や止はまだ寝ているのかも知れない為、一夏自身も彼等を気遣っていた。
が、プラズマキャノン砲は未だ勇人に預けたままである。一夏はそんな事を考えていた。刹那、教室の扉が開き、一夏は視線を扉の方へと向ける。
一夏は瞠目し、直ぐに歯を憤怒の形相を浮かべ歯を食い縛る。扉を開けたのは勇人や止でもなく、箒やセシリアでもなく、他の生徒でもない。
開けたのはーーこのクラスの担任であり、一夏が最も嫌う姉・千冬だった。ーーっ!? ーー。一方、千冬は扉を開けると、教室には、昨日まで死んだと思っていた弟・一夏がいる事に気付くや否や、眼を見開き驚く。
それに何故、千冬が朝早くから教室に来たのかと言うと、千冬は授業の準備する際に窓を開けたりしている。勿論、これは真耶もやっているが生憎、今日の当番は千冬だったのだ。
二人の間には会話はないーー二人の姉弟の間には会話はなかった。何故なら、姉は弟ではなく名誉を選び、弟は名誉を選んだ姉を毛嫌いしている。その為、二人が真っ先に掛ける言葉はない。ただいま、お帰り、等と言う言葉は無いに等しい。
が、そんなのは直ぐに消えた。二人が声が掛ける前に、一夏が動いた。一夏は千冬から眼を逸らし、手を拳に変え強く握り締めているも、席から立ち上がり、教室から出ようとした。が、扉の前には千冬がいる為、一夏は別の扉から出ようとした。
「待ってくれ!!」
千冬は一夏を呼び止めるも、一夏は教室から出ようとする。
「待ってくれ一夏!!」
千冬は一夏の元へと駆け寄り、一夏の手を掴む。刹那、一夏は千冬が手を掴んで来た事に驚きと怒りを感じ、直ぐに乱暴に振り解く。
千冬は乱暴に腕を振り解かされ尻餅も突く。が、そんな千冬を一夏は軽蔑な眼差しで見下す事も無く、再び扉の方へと歩き始めた。
「待ってくれ一夏! 私の話を訊いてくれ!」
千冬は立ち上がり、一夏を足止めするように羽交い締めした。勿論、一夏は突然の事で戸惑うも直ぐに暴れる。
「何するんだ放せ!!」
「放さぬ!! お前を二度と放したくないのだ!」
「何が放したくないだ!? 俺の事を散々ほったらかしにして挙げ句の果てには見捨てやがって!!」
「それは謝る! だが、あれには訳があったのだ」
一夏が暴れる中、千冬は何とか羽交い締めしながら、一夏に訳を話した。それは三年前のあの日に遡る。
あの日、千冬は第二回モンド・グロッゾ大会を偉業とも言える二連覇を成し遂げた。しかし、その後が問題だったのだ。
大会終了後、一夏が誘拐されたと連絡があったのだ。それは政府の女性秘書であり、女尊男卑主義者ではない者からの連絡だった。
これには千冬も驚くが、女性秘書は千冬が決勝の相手と戦う前に、政府から一夏を誘拐したと連絡があった。
これには女性秘書は驚き、千冬に連絡すべきだと言うも、政府の連中は名誉が得たいが為に連絡はしなかった。そして、それはモンドグロッゾが終わった後で良いだろうと見て見ぬ振りをしたのだ。
女性秘書は秘書の立場であるも、これには逆らえず、泣く泣く黙る事にしたのだ。が、女性秘書は密かにドイツ政府に連絡し、一夏を捜して貰ったのだ。
しかし、一夏はケルティック達に助けられた後であり、此処からは千冬達は知らないが誘拐犯とおぼしき男達は皆、何故か生皮を剥がされ逆さに吊るされていたのだ。
「私はあの事を知らなかった……なのに、私はお前の話を聞かなかった……だから何もかも嫌になって現役を引退した……何が名誉なんだと!!」
一夏が未だ暴れる中、千冬は一夏に説明した。その間に二人はその体勢を保ち続けていた。それは一夏がケルティックに鍛えられたのと、千冬が引退した身でありながらも体を鍛えている為、問題は無かった。
「そんなのは言い訳にしかならねぇよ!? 俺はあんたに見捨てられたのは事実だ!!」
「それは違う!! 私はあの時は知らなかったのは本当だ!! 私は五反田から聞いてお前が辛い思いをしているのを知らなかった……ちゃんと聞いてやれば」
「そんなのは関係ねぇ!!」
千冬が何かを言う前に一夏は力を入れて千冬を払い退ける。千冬は横向けに倒れるも、千冬は一夏の顔を見た。一夏は千冬に背を向けているものの、千冬と向き合うように振り返る。その表情は険しいーー千冬に憎悪を抱いているのは誰の目から見ても明らかだった。
「俺はあんたに見捨てられたのには変わりはない……だが、俺はあんたともよりを戻そうと思っていない」
「しかし私は」
「お前は勇人や止にも俺の事を聞こうとしたじゃねぇかよ!!」
千冬が上半身だけを起こし何かを言うも、一夏はそれを遮るように怒り、それを聞いた千冬は肩を竦めるも不意に眼を閉じるも、恐る恐る眼を開け、一夏を見上けだ。
一夏はまだ怒っているが、それは友人達に聞こうとした千冬に別な意味で怒っていた。
「あんたは俺の事を嗅ぎ回ってるかは解らないがあんたは俺の友人達に聞こうとした……それは間違いだーーあんたは俺達の事を干渉するな……俺に話し掛けるな」
「だが私は」
「俺の話を聞いてねぇのかこの野郎が!!」
千冬は再び肩を竦めるも、一夏は言葉を続ける。
「俺はあんたを許さない! 俺の親友を困らせるような事をするな!! お前が何を言おうが俺はあんたの元には戻らない!! あんたが例え何が言おうとな!!」
一夏はそう言うと、千冬への怒りが治まらないまま教室を出ていく。後ろから千冬の呼ぶ声がするも、一夏は聞く耳を持たず扉を開け、廊下を出るも扉を強く閉めた。
ーーあっ……ーー。刹那、横に人の気配がし、一夏は振り返る。そこには、壁に寄り掛かりながら瞑目しながら腕を組んでいる勇人がいた。
勇人は制服を着ているが止は近くにいない。止は昨日足首を挫いた為、部屋で待機中である。
「勇人、お前、居たのか?」
一夏は怒りは収まりきらないものの落ち着いて勇人に訊ねる。
「居たよ……お前がお前の姉と羽交い締めになりながら何かを話している間にな」
一夏は納得し「そうか」と頷くも、勇人は眼を開け訊ねる。教室から女性の啜り泣く声が聞こえたが二人は気にもしない。
「それよりも、お前は何しに来たんだ? まさか早起きしたから暇だから教室に来たのか?」
一夏が訊ねると、勇人は眼を開け、一夏を見る。
「嫌、お前にプラズマキャノン砲を渡しに来たかったがお前が部屋に居なかったからな?」
「良く此処が解ったな?」
そんな一夏に勇人は不敵に笑う。
「勘だよ……お前が学園にいるんじゃねぇかってな?」
「何だよそれ?」
一夏は少し呆れるも、勇人はある事を訊ねる。
「それよりも軽く散歩しねぇか? 時間を潰せるし、何より落ち着くぜ?」
「そうだな……行こうか」
一夏は頷く納得しそう言うと、勇人は微笑む。
「全く、お前は復讐に走ると、何にも見えなくなるのか解らねぇが、取り敢えず行こうぜ」
勇人はそう言うと、壁から離れ一夏から離れるように歩く、そんな勇人に一夏は何も言わなかったが、後を従いていくように歩き始めた。
教室から未だ千冬の啜り泣く声が聴こえたが、それは誰にも聞かれなかった。それは弟に拒絶された姉の哀しみとも思えるだろう。
次回、一夏と勇人がとある人物と逢います。(その人物は後の影のキーパーソン的人物です)