ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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第48話

 一夏は千冬への拒絶的な事を叫んだ後、勇人と共に学園の周辺を散歩していた。二人は学園が目の前にある校庭近くを散歩していたが朝早くからにも関わらず、数人の女子生徒がいて、校庭の周りを走っていた。

 その女子生徒達はタンクトップを着て、ブルマを穿いているも、走っているのか汗を掻いている。が、その女子生徒達は陸上部か何処かの運動部かは判らないが校庭の周りを走っている事に変わりはない。

 それに、一夏と勇人は学園周辺を散歩していたものの、女子生徒達を見てはいない。彼等にはそんな下心はないからだ。止は居たら多分、嫌、止に限ってはそんな事はないだろう。

 

「それにしても、四月なのに清々しい朝が有るなんてな……」

 

 勇人は不意に呟くも勇人は朝日を眺めていた。朝日は時間を掛けて徐々に登りつつあるも、勇人の朝日を見る表情は何処か寂しく何処か嬉しそうだった。

 そんな勇人に一夏は瞑目し軽く笑い、そんな一夏を見て「何だよ?」と言いながらジト目になる。

 

「嫌、お前の口からそんな事が聞けるのが嘘みたいに思えたからな?」

「別に良いだろ? 俺が朝日を眺めちゃ悪いのか?」

 

 勇人の問いに一夏は首を左右に振ると、目を開け、勇人に微笑む。

 

「嫌、何時も勇人が俺や止の為に動いているし、何より何時も俺や止、束さんやクロエさん以外の奴には無表情しかしないから、お前のそういう顔を見れたのは珍しいからな?」

 

 一夏が訳を述べると、勇人は「フン」と言った後、瞑目し、そっぽを向いた。が、一夏は肩を軽く動かす。

 

「それよりも寮に戻ろうぜ? 止が心配だからな?」

「安心しろーー今頃、湿布が欲しいとごねているだろうからな?」

 

 勇人がそう言うと、一夏は眼を見開きながら「そうなの?」と驚きながら訊ねるも、勇人は無言で頷く。

 

「ああ、あいつは昨日……誰だ?」

 

 勇人が何かを言おうとした時、近くから人の気配がして、振り返る。一夏も勇人が振り返った方を見るも、そこには一人の男性が立っていた。

 その男性は四十代後半か五十代かは判らないが、貫禄あるよりも何処か優しそうな顔立ちをしている。黄緑色の作業着を着て、作業用のズボンを穿いているも、両手に箒や塵取りを持っている。

 その男性は二人を見て微笑んでいるが、一夏は眼をパチクリとし、勇人はその男性を睨んでいた。ーー誰だ? ーー。勇人が男性に訊ねると、男性は何かに気付き軽く笑う。

 

「これは申し遅れました。私は轡木 (くつわぎ)十蔵(じゅうぞう)と申します。この学園で用務員をしているしがない男です」

 

 男性ーー十蔵の自己紹介に勇人は「轡木?」と言いながら警戒しているが、一夏は自分や勇人や止の他にも男性がいた事に驚きを隠せない。

 すると、そんな一夏と勇人に十蔵の二人は微笑みながらある事を訊ねた。

 

「それよりも君達ーー君達が噂の男子生徒達ですね?」

 

 十蔵がそう訊ねると、一夏は「は、はい」と戸惑いながらも答え、勇人は無言で頷く。一夏達の存在は十蔵にも伝えられていた。嫌、学園中が男子生徒達の存在を知っているからだ。

 ある者は驚異本意で、ある者は警戒し、ある者は気にもしなかった。が、十蔵は驚異本意の者だったと言い換えれば良いだろう。十蔵は二人を見て名前を訊ねると、一夏は自分の胸に手を当てる。

 

「俺は一夏……織斑一夏です」

「そうですかーーでは、そちらの方は?」

 

 十蔵は頷くも、勇人に訊ねる。一方、勇人は十蔵から眼を逸らす。

 

「勇人ーー俺は勇人と言う」

「そうですか……所で名字は?」

 

 十蔵は勇人が名字を言わない事を訊ねるも、勇人は歯を食い縛り、十蔵を睨む。そんな勇人に十蔵は少し驚くも、一夏は慌てて勇人に背を向け、十蔵と向き合うように割って入る。

 

「い、嫌ーー勇人は単に名字を名乗るのが恥ずかしいからです」

「そうですか? 別に名字を名乗るのが恥ずかしい訳ではないでしょ?」

 

 十蔵は首を傾げるも、一夏は少し冷や汗をかく。勿論、一夏は此処にいない止は勇人が名字を言わない理由を知っている。

 しかし、彼等二人は勇人自身の辛い過去を知っているのと、勇人自身が名字を名乗りたがらない理由も勇人から教えられた為に知っている。

 その為、一夏は勇人自身を気遣い庇うも、この学園が何故、勇人自身が名字を言わないのかや咎めないのもおかしい。勿論、二人は知らないが、とある人物が手を回してくれた為だからだった。

 

「ふむ……だったら辺に良いのですが、二人だけなのかい? 三人って聞いたけど、もう一人は何処ですか? それに君達は何故、朝早く居るんですか?」

 

 十蔵は辺りを伺うも、一夏はその事を教えた。

 

「いえ、止はまだ寝ています。それに俺達は朝練をしょうと思って早く起きました」

 

「そうですかーーところで何の朝練ですか?」

「あっ……嫌、それは」

「私の書類整理を手伝ってくれたからです」

 

 一夏がどう訳を話そうとすると、とある人物がそれを遮るように言う。一夏や勇人、十蔵の三人は声がした方を見やると、楯無が三人の方へと歩み寄る。

 楯無は制服を着ていたが表情は何処か悲しそうに笑っていた。

 

「更識?」

「生徒会長がですか?」

 

 一夏がなにか言うも十蔵が楯無を見てそう言い、それを聞いた一夏は「えっ?」と驚き、勇人は瞠目していた。

 が、十蔵は二人を見て首を傾げる。

 

「二人共知らなかったのですか? 彼女は更識楯無。この学園の生徒会長にして織斑先生の次に強いとも言える学園最強の女性ですよ?」

 

 十蔵が説明すると、一夏は「はっ!?」と声を上げて驚き十蔵を見るも、再び楯無を見る。楯無は悲しそうに笑い頷くも、一夏は楯無が何者かを知って驚きを隠せない。

 そして、楯無は自分の胸に手を当てた。

 

「ごめんなさい一夏君。私はこの学園の生徒会長なの」

「せ、生徒会長って……あんた俺を騙していたのか!?」

 

 一夏は楯無を問い詰めるも、楯無は首を左右に振る。

 

「いいえ、貴方は私に聞かなかったから……それに虚ちゃんから聞いたと思ったからよ」

「布仏先輩が?」

 

 一夏はある事を思い出す。それは虚先輩の事だった。虚先輩は一夏に楯無の事を頼むと言ったが、楯無が生徒会長だと言う事までは教えてくれなかった。

 嫌、あれは虚が楯無を思って言った事であるのか、そんな事を言わなかったのかや言い忘れていたのかは判らない。

 だが、楯無が生徒会長である以前に、虚が生徒会に入れたのも、会計を務めていたのも頷ける。が、一夏は楯無を見るも、楯無は懐から扇子を取り出し、扇子を開く。

 扇子には黒い文字で「心外」と書かれていた。

 

「それよりも一夏君にーー勇人君かしら? 貴方達は朝早くから何をしていたの?」

「嫌ーー朝早くに起きたから暇だから散歩していたからな?」

「だったら置き手紙くらいしなさいよね? 心配したじゃない?」

 

 楯無は少し怒るも、一夏は頭を抱える。

 

「別に良いだろ? 置き手紙をする以前にペンと紙を用意出来なかったし、お前を起こすのも悪いし、鞄を漁ると微かな音でもお前が起きると思ったからな」

 

 一夏の説明に楯無は「えっ?」と眼を見開くも、一夏は呆れながらも髪を掻く。

 

「それによ……別に良いよ」

 

 一夏はそう言うも、勇人を見るや否や「飯食うか?」と訊ねる。しかし、勇人は首を左右に振るも、一夏は溜め息を吐くと、こう言った。

 

「だったら俺は飯を食いに食堂へと向かうから、後は教室でな?」

 

 一夏がそう言うと、勇人は「ああ」と言いながら頷くと、一夏は軽く笑うと、食堂へと向かう為に学校の中へと戻る。そんな一夏に楯無も後を追い掛けるが二人の間には会話はなかったのは言うまでもない。

 

「……倦怠期の夫婦みたいに思えるな?」

 

 そんな二人を見た勇人は軽くからかうも、二人の耳には届いていなかった。

 

「それよりも君は良いのですか? 朝食は?」

 

 すっかり忘れていたが十蔵が勇人に訊ねる。勇人は十蔵を見て瞑目すると腕を組み、十蔵に背を向ける。

 

「別に良い、そんな気分じゃないからな」

「それはいけませんよ? ちゃんと朝食を摂らなきゃ脳が働きませんよ?」

「別に良いよ、何時もの事だからな?」

「それはいけませんーーちゃんと朝食を」

「別に良いよ」

 

 十蔵は言い終わる前に勇人が遮る。勇人は肩越しで十蔵を見るも鋭い眼差しをしていた。

 

「俺は朝食を摂りたいとも思っていない。だが、あんたに指図されるつもりもない」

 

 勇人はそう言うと、学校の中には戻らず再び散歩する。後ろから十蔵の呼ぶ声がするが勇人は背中で受け止め、内心こう呟いた。

 

「うるさいクソ爺が……!」と。しかし、勇人は十蔵と関わる事で勇人自身が変わるのもまた別の話である。




 次回、一夏、食堂にて楯無に「アーーン」?
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