ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
その頃、一夏は楯無と共に食堂にいた。食堂には厨房で何かを作っているか食材を切ったりして下拵えをしているおばさんがいた。一方、周りには誰も居ないが二人から見ればそんなのは関係ない。それに一夏と楯無は何故か隣同士に座っている。
本当なら寮に戻れば言いが箒が昨日の件で絡んでくるのは目に見え、女子達に何かを言われるのも明らかだった。しかし、二人の間には会話はない。二人は誤解で嘘の恋人同士の振りをしなければならなかった。
あんな事をすれば箒や他の女子達が誤解するし、何より噂は風の噂よりも人から人へと伝えられる意味で広まっているに違いない。
「「…………」」
その二人は渦中の人だったが片やピリピリとして、片や罪悪感よりも恥ずかしそうに俯いていた。ピリピリしているのは一夏であり、一夏は腕を組みながら険しい表情で瞑目し、楯無は恥ずかしそうに俯いていた。
誰から見ても喧嘩しているように見えるが幸いな事に辺りには誰もいない。そして、二人はそのまま会話もしないまま時間だけを過ぎていくのを待っているのか何もしない。
二人の前にはトレーはないーー二人は朝食を摂らないつもりなのだろうか。
「……ねぇ、一夏君?」
そんな重苦しい雰囲気に耐えきれないのか、楯無は顔を上げ、一夏を見るや否やそう呟いた。一夏は鋭い眼をしていたが楯無の方へと移し、それを見た楯無は肩を竦める。
「ね、ねぇ? 朝食を摂らないの?」
「別に良い……本当なら一人で摂りたかったのに、お前が来たから食事を摂る気が失せた」
一夏はそう言いながらそっぽを向く。勿論、楯無が悪い訳ではないが楯無は「そう……」と寂しそうに言うも。
「でも、朝食は摂らなきゃ脳が働かないわよ?」
「良いよ別に……俺は……嫌、こんなのは何度もあるから別に良い」
一夏は思わずケルティックとの修行の日々を語りそうになり慌てそうにるも、何とか堪えた。
「それにお前は飯を食え、お前は生徒会長だからな?」
一夏はそう言いながら、シッシッと楯無に手を振る。楯無は「そう……」と頷くと立ち上がり、厨房があるカウンターの方へと歩いた。
楯無はカウンターに着くと、近くにいたおばさんに食券を渡す。因みに彼女が頼んだのは焼き鮭定食である。
「はいよ」
近くにいたおばさんが楯無の食券を受け取ると、食事の準備をする。
「…………」
その間に楯無は一夏を見る。一夏は腕を組みながら俯いていた。一夏君……。楯無は不意に呟くも、おばさんの声が聞こえた。
「終わったわよ?」
おばさんは楯無にそう言いながら、トレーを楯無に差し出す。トレーにはご飯や味噌汁、漬物や焼き鮭があった。漬物以外は全て湯気が立っており食欲をそそる。
楯無はおばさんが差し出してきてくれたトレーを見るも、おばさんが楯無の様子に気付く。
「あら、どうしたの?」
「あっ……いえ、何でもありません」
楯無はおばさんを見るも直ぐに哀しそうに笑って首を左右に振る。が、楯無はおばさんとは知り合いだったが楯無はそれを言わなかった。
「何か遭ったの? 彼氏さんと喧嘩したの?」
「えっ?」
おばさんの言葉に楯無は目を見開くも、おばさんは哀しそうに笑いながら指摘した。
「喧嘩したのね? そうでしょ?」
おばさんの言葉に楯無は頷いた。それを見たおばさんは哀しそうに笑っていたが、何かを思い付いたのか表情を明るくすると、楯無に言った。
「あっ、良い事思い付いたわよ?」
おばさんの言葉に楯無は「えっ?」と惚けるも、おばさんは「ちょっと待っててね?」と言い残し、何かをし始める。楯無はおばさんが何をするのかは解らなかった。
そして、おばさんは楯無が頼んだトレーにある物を色々と置いた。ーーあっ……ーー。それを見た楯無は瞠目しおばさんを見るも、おばさんは軽くウィンクした。楯無は驚き続けるも恥ずかしそうに軽く俯き、トレーを手に一夏の元へと戻った。
「お待たせ」
楯無は一夏の元に戻りそう呟くも、一夏は明日の方向を向いていた。そんな一夏に楯無は恥ずかしそうに俯くと、一夏の隣に腰掛け、焼き鮭定食が置いてあるトレーをテーブルの上に置く。
「おい、何で俺の所……は?」
一夏は楯無が隣に座るのに呆れ振り返るも、楯無の頼んだ焼き鮭定食を見て愕然とする。何故なら、ご飯や味噌汁が焼き鮭が二つずつあったのだ。
にも関わらず、割り箸は一膳しかない。誰から見ても可笑しいが、一夏は驚きながら朝食を指差し、楯無に訊ねる。
「おい? お前二人前も食うのか?」
「違うわよ……そのぉ」
楯無は否定するも、少し恥ずかしそうに頬を紅くし俯いた。一夏は再び訊ねるも、楯無は顔を上げ、答えた。
「実は……喧嘩した場合は食べさせあう方がすぐ仲直り出来るって……食堂のおばさんが」
楯無は恥ずかしそうに言葉を述べるも、一夏は瞠目しながらカウンターの方を見ると、おばさんは何故か喜んでいた。それは、二人が付き合っているのが既に食堂のおばさん達にも広まっていたからだ。
一夏にとって誤解は(最早無理だが)止まる所を知らない事を意味し、交際はしない方が怪しまれるのと、楯無が箒に何をされるのかは判らない。
それに自分も箒に何をされるのかは判らない上、普段は勇人や止と一緒に行動しているが四六時中一緒に行動している訳でもない。
だが、楯無と一緒に行動するのは問題であるのかもしれない。が、楯無は一夏から眼を逸らすも心なしか頬を紅くし続けている。
食べさせ合うのが嫌なのか恥ずかしいのかは判らないが後者の方が強いだろう。一夏はおばさん達に文句を言おうと思い立ち上がろとした。
ーーダメッ……! ーー。刹那、楯無が一夏の手首を掴む。
一夏は楯無を見ると、楯無は潤んだ瞳で一夏を見つめていた。お願い、変な行動を起こさないで、と一夏に訴えかけていた。
あの時、楯無は一夏が殺しをしたのを目の当たりにしていたからだ。それも今、一夏がおばさん達に何を言うのかは判らない上、最悪の場合、傷害事を起こす危険があるのではないかと思っていた。
これには楯無も抑えたかった。彼が問題を起こすのを恐れていたからだ。生徒会長としてでもあるが、彼へのせめてもの償いでもあった。
「お願い……問題を起こさないで……お願い!」
楯無は一夏に懇願する。それを見た一夏は楯無に怒りを感じるも、「チッ!」と舌打ちすると、やるせない気持ちを抑えきれないながらも座った。
一夏を見た楯無は哀しそうに笑うと、割り箸を手に取り、二つに割ると、白米を一口掴み、白米を掴んだ割り箸を一夏の方へと差し出す。
ーーな、何だよ? ーー。一夏は楯無の行動に戸惑うも、楯無は小さく囁いた。
「おばさんを誤魔化すにはこれしかないのよ?」
楯無の言葉に一夏は瞠目するも、直ぐに怒りを抑えながら、聞き返すように小さく囁いた。
「だからって、食べさせ合うのは間違っているだろうが!?」
「それは解っているわ……でも、おばさん達を誤魔化すにはこれしかないのよ!?」
「そんなの間違ってるだろうが!? おばさんには悪いけど……俺はごめんだからな!」
一夏はそう言うと、腕を組みながらそっぽを向く。
「そうよね……私が悪いもんね……」
楯無は寂しそうに笑うと白米を口にする。
「……フン」
一夏は軽く怒るも、楯無は寂しそうにご飯を食べる。が、一夏はチラッと視線を楯無の方へと見る。楯無は寂しそうにご飯を食べ続けていた。
『更識だって一人の女の子だぜ?』
「…………っ~~!」
刹那、一夏は止の言葉を思い出し、何かを思ったのか、楯無の肩を掴む。ーー何? ーー。楯無は箸を止め一夏を見ると、一夏は頬を赤くしながらも、楯無の持ってる箸を指差し、その後に自分の口を差した。
それを見た楯無は表情を明るくし、白米は一口掴むと。
「一夏君、アーーン」
楯無は嬉しそうに言うと、白米を摘まんでいる割り箸を一夏に差し出す。それを見た一夏は表情を険しくしながら頬を赤くし続けながら口を開けた。
刹那、一夏は白米を食べた。それを見た楯無は「美味しい?」と訊ねると、一夏は嫌々ながらも頷いた。
「良かった……」
楯無は喜ぶも、一夏は心の中で「止ーー後で覚えてろ」と止に怒りを感じていた。
「良いわね、若いって」
そんな二人をおばさんは微笑ましそうに見ていたが近くにいたおばさん達も微笑ましそうに、一夏と楯無を見守っていた。
そして、二人は食べさせあっていたが、その間に食堂には女子生徒達が少しずつだが来ていたが、二人の行動に甘い物を食ったかのように辛い思いをしていたのは言うまでもない。
次回、一夏激怒、そして殺人未遂。