ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
第56話
「ど、どういう事、ですか?」
楯無は千冬の言葉に何も解らないでいた。一方、一夏は千冬の言葉に表情を険しくし、歯を食い縛り、拳に力を入れていた。が、千冬はその事を話した。
実は一夏が気を失っている間、千冬は真耶や他の教師達とこれからの事を話していた。それはクラス代表決定戦をこのまま継続するかしないかでの事だった。
勿論、千冬や真耶を除き全員の答えは決まっていたーー中止である。あんな闘いを見せられたのでは、更に危険な闘いがあるのと、先の闘いでシールドにヒビが入っている。
これ以上続けた場合、シールドが何時割れてもおかしくない上、現に一夏と勇人のISはボロボロであり次の止、セシリア戦では満身創痍の状態で闘わせる危険もあるのだ。
止は兎も角として、セシリアは別ピットで二人の闘いを観て恐怖で震えていた。セシリアは止との闘いでは苦戦の一方であり、最後は止の単一仕様能力、
あの時のセシリアは止の強さに恐怖したのだ(勿論、セシリアが止を怒らせるような事を言わなければ試合は変わっていたのかもしれないが)。
それを止とは同格かそれ以上の強さを誇る二人と闘ったら、自分のISはボロボロである以前に修復不能に陥る危険もあったのだ。
その為、千冬は真耶や他の教師達と話し合った結果、クラス代表決定戦を急遽中止にし、後日、クラスで籤引きをして決める事にしたのだ。無論、女子達が入れるのは一夏か、勇人か、止か、運が良ければセシリアに入れる者達もいるかもしれないが大半は一夏達に入れるだろう。
女子達も観客席で彼等の闘いを観て恐怖する者もいたが、ある思惑がある為、彼等に入れるに違いない。ここまではクラス代表決定戦が中止になった訳だが、此処からは別だった。千冬が一夏のISを没収する理由を千冬は話した。
「一夏ーーお前の使っているISは提出した書類とは違っていたーーお前のISは規定のスペックを遥かに越えている上、第三世代よりも更に上を行ってるかもしれないからだ」
千冬は訳を話す。勿論、それには理由があった。千冬は一夏のISが、ウェイランド・ユタニ社の提出された書類よりも性能が良かった事に違和感を感じたのだ。その為、一夏のISをーー他の二人のISも没収して調べようとした。
それは無理に等しいだろうーー何故なら、一夏達のISを造ったのは束である以前に、一夏達も束と協力しながらISを造ったからだ。束の造ったISは第四世代である上に、一夏達の身体能力を含めたら、第五か第六世代にもなっている。
「だからそのISを此方に渡せーー他の二人は山田先生に頼んでいるからな」
千冬は一夏や楯無に歩み寄る。ーーぐっ!! ーー。しかし、千冬の言葉に一夏は苛立ちを隠せず、更に拳に力を入れ起き上がろうとした。
「御言葉を返すようですが織斑先生、学園長や企業からの許可を貰いましたか?」
刹那、楯無が千冬に訊ねる。そんな楯無に一夏は瞠目し、千冬も瞠目しながらも立ち止まる。一夏は楯無を見ると楯無は凛とした表情で千冬を見据えていた。が、楯無は千冬の、千冬自身の嘘を見破っていた。
「何故だ更識生徒会長? それはちゃんと許可したぞ?」
千冬は反論するも目を一瞬だけ游がす。それを楯無は見逃さなかった。
「嘘ですね、もし許可しているのなら学園長から連絡は来ますし、企業も機密情報を自ら流すような自殺行為はしません。それに一介の教師が独断で生徒からのISを調べると言う名目で奪うのは、教師としてあるまじき行為です」
「だが私は一夏の……」
「一夏君の何ですか? 一夏君の姉だから姉に逆らうなと言いたいのですか?」
楯無の言葉に、千冬はバツの悪そうな表情を浮かべる。楯無の言ってる事は正しかった。千冬は一夏を自分の弟だからと言う理由でISを取り上げようとしていたのだ。
学園長や企業(束が創った架空企業)には許可を貰ってはいない。その上、その間に一夏には代わりの間として白式を使わせようとしていた。勿論、その目論見は楯無に看破され、束が聞いたら怒るだろう。
楯無はそんな千冬を見て呆れ、溜め息を吐くと言葉を続ける。
「織斑先生ーー貴女のしている事は専横です。モンド・グロッソをニ連覇した上に現役引退したとは言え、呆れて物も言えません。それ以前に、弟を思うなら教師である以前に身内として見守るのが貴女自身の、姉としての役目なのではないのですか?」
楯無は千冬に対し言葉を述べる。それを聞いた千冬は何も言えなかった。が、一夏は楯無を見て瞠目していた。楯無は一夏を庇っていた。
それは楯無が一夏への罪滅ぼしである以前に生徒会長として、同じ姉としての更識楯無として千冬に注意していた。が、普段の楯無はサボる事が多いが、いざと言う時の楯無は生徒会長としての役割を果たしていた。
虚が見たら感動と心配をされるだろうが今はそんな事を言ってる場合ではないだろう。楯無は千冬のしている事を指摘しているのだ。
ーー更識……ーー。一夏は楯無を見て不意に呟く。が、一夏は気付いていないだろうが一夏は千冬に憎悪を抱いている。最悪な事に此処には勇人や止はいないーー二人は一夏のストッパー的な役割をしている。
二人が居なければ、一夏は何をするかは判らない。判ったとすれば、千冬が余計な事をし、一夏の逆鱗に触れていたのだろう。それを、そんな最悪な展開を良い意味で外したのは楯無である。
一夏は楯無を見て何も言わなかったが、楯無は千冬にある事を言った。
「本来ならば学園長や企業に報告しなければならないのですが、今は一夏君を寮へと連れて帰らなければならない為、今回だけは見逃します。この事は厳重注意で済ませますが、今度やったら学園長や企業に報告します……それだけは覚えておいて下さいーー」
楯無は千冬に釘を刺すと、一夏を見るーー楯無は優しい表情を浮かべていた。
「一夏君……立てる?」
「えっ……あ、ああ」
一夏は楯無の言葉に戸惑うも上半身だけを起き上がらせる。 刹那、一夏は千冬と目が合うも、ケッと表情を険しくしながらケルティックのマスクを拾い、立ち上がる。その間に楯無は近くに置いてあった一夏の制服を拾い抱き抱える。刹那、一夏は倒れそうになる。
ーーあっ! ーー。楯無は一夏を見て慌てて支えるも、制服を落としてしまうが楯無は一夏に肩を貸す。すると、一夏を制服の事を思い出す。
「楯なーー更識……制服」
一夏は楯無と言いそうになるも更識と言い直す。幸いな事に楯無には聞かれなかったが楯無は制服を落とした事に気付く。
「あっ、ごめんなさい……今拾うわ、一緒に屈んでくれないかしら?」
楯無はそう言うと一夏は頷き二人は同時に屈むとブレザー、シャツ、ズボンを拾う。一夏はマスクやブレザーを片手で持ち抱え、楯無はシャツとズボンを折り畳んでから片手で持つと、一夏は楯無に肩を貸してもらいながら、楯無は一夏に肩を貸しながらピットから出ていく。
千冬の横を通り好きるも、一夏は千冬とは目を合わせなかった、嫌、合わせるつもりはないと言い換えれば良いだろう。ーーっ!? ーー。千冬は一夏が自分とは目を合わせない事に気付くも、一夏と楯無はピットを出入り出来る扉を最初は楯無、次は一夏の順で出ていった。
そして、ピットには千冬しか居なかった。が、千冬は顔を青くしながら力が抜け落ちるかのように膝を突き、そのまま四つん這いになる。
「……っ」
千冬は目にうっすらと涙を浮かべ、涙は床に落ちる。
「一夏……一夏」
千冬は弟、一夏の名を呟く。千冬は一夏とはよりを戻したかった。にも関わらず、それらは全て裏目に出てしまった。が、その行動は千冬が悪い。
千冬は勇人や止から一夏の空白の三年間を訊き出そうとしたり、専用機を返却して白式を使えとか、専用機がスペック以上であり没収するとかーーそれらは全て千冬の我が儘に過ぎなかった。
そして、千冬は泣き続けるも、誰も千冬を慰める者は居なかった。
その頃、一夏は楯無に肩を貸してもらいながら寮へと戻る最中の為、ピットの通路を歩いていた。が、先の闘いや単一仕様能力のお陰で体力を著しく消耗している一夏の足取りは重かった。
「大丈夫、一夏君?」
楯無は心配そうに一夏に訊ねると、一夏はそっぽを向きながら答えた。
「大丈夫だよ……別に寿命が削られた訳じゃねぇ……」
一夏の言葉に楯無は「そう……」と呟いた後、何も言わなかった。が、一夏はそっぽを向きながらも「ありがとう……」と小さく呟くーー頬を紅くしていた。
「何か言った?」
楯無は一夏が何て言ったのかを聞き取れなかった為に、訊ねようとした。
「更識ーーーーッ!!」
突如、後ろから声がし、一夏と楯無は後ろを見る。刹那、一夏は力を振り絞って楯無を突き飛ばす。
ーーブシュッッッーーッ!! ーー。刹那、何かが何かを叩く音が大きく響き渡り、そして、微かだが誰かの血が通路に飛び散った……。
次回、ネタバレになる為、何も言えません。