ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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 前回の直後の話です。


第57話

 ーーあぐっ……ーー。ピットの通路で一人の青年の激痛を感じたような声が微かに響く。ーーい、一夏君!? ーー。一夏に突き飛ばされた楯無の心配する声が微かに響く。

 が、一夏は右手を左手で押さえていた。何故なら、一夏は右手の甲をナイフで斬られた為に、右手からは血がポタポタと床に滴り落ちている。

 さっきの音は一夏が右手を斬られた時の音だったのだ。そして、ナイフを持っている者は千冬や箒ーーーーではなかった。その人物は女子生徒でもなく、一人の女教師だった。

 その女教師は二十代後半か三十代、金髪のロングヘアーに青い瞳。紫色の女性用スーツを身に纏っている。だが、その女教師は楯無に怨みを抱いており、楯無を刺し殺そうとしていた。

 

「貴女は!?」

 

 楯無はその女教師を知っていたが今はそんな事を言ってる場合ではない。今は、この現状をどうにかしなければならなかった。

 一夏は右手の平に走る激痛を堪えながら、女教師を睨む。女教師は標的であった楯無を殺せなかった事に戸惑いを隠せないでいた。

 が、一夏に睨まれてると「グッ!?」と下唇を噛み、ナイフを手にしたまま、身を翻す形でその場から走り去っていった。一瞬、楯無と目が合うものの、その表情は険しかった。

 

「あっ、待ちなさい!」

 

 楯無は追い掛けようとした。が、一夏はナイフの刀身を放り捨てると、そのまま膝を突きながら右手を左手で掴むーー表情は激痛を余り感じてはないが汗を流している。

 ーーあっ、一夏君!? ーー。楯無は女教師を追い掛けるよりも一夏を心配し、一夏の方へと戻る。

 

「何しているんだよ!? あの女を追い掛けろよ!?」

「そんな事言ってる場合じゃないわ! 今は一夏君が心配だからよ!」

 

 一夏は楯無に怒る。が、楯無は一夏に反論した後、一夏の近くに屈み、手をスカートのポケットへと入れ、ある物を取り出すーー白いハンカチだった。楯無はハンカチを取り出した直後に、一夏の右手を掴み、斬られた右手の甲をハンカチで包む。それは応急措置だった。

 ーーあっ、一夏!? ーー。刹那、後ろから声が聞こえ一夏は後ろを振り返る。そこは曲がり角だったが近くには止と勇人、真耶がいた。

 が、三人は一夏を見て驚くも止と真耶は勇人に肩を貸しているも、止は勇人を真耶に任せる意味で勇人から離れ、一夏の元へと駆け寄り、一夏の近くに立ち止まる。

 

「どうしたんだよ一夏!? 誰にやられたんだよ!?」

 

 止は一夏に訊ねると、一夏は答えた。

 

「全く知らねぇ女だ」

「知らねぇ女?」

 

 止の言葉に、一夏は「ああ」と言いながら頷く。勿論、一夏はあの女教師とは逢った事はないからだ。一夏達は学園に入学してから一週間しか経っていない。学園中にいる同級生、先輩、教師達の顔や名前を一週間で覚える事は出来ないからだ。

 しかし、楯無は応急措置を終えた直後、不意に呟いた。ーーあの人はエレーナ先生。ロシア語を教えているロシア人の先生よ……ーー。

 楯無の言葉に一夏と止は楯無を見やると、楯無は悲しそうに俯いていた。その間に真耶は勇人に肩を貸しながら三人の元へと歩み寄る。

 

「更識さん? さっきエレーナ先生と言いましたが、エレーナ先生が貴女や織斑君を襲ったのですか?」

 

 真耶が訊くと、楯無は真耶を見て「いいえ、私を襲おうとしました」と言いながら首を左右に振る。それに何故、楯無がエレーナ先生の事を知っているのかと言うと、それは楯無が所属しているクラスではロシア語を教えてもらった事がある為だった。

 しかし、楯無の言葉を聞いた真耶は「そんな……!」と信じらないと言うような表情を浮かべる。何故なら、真耶はエレーナ先生の事を少しは知っていた。

 エレーナ先生はロシア人でありながらも、他の教科やクラスを受け持つ教師達とは気軽に接する明るい人だった。それに生徒達には差別等しなく平等に接している為、一部の生徒達からの人気も高い。

 なのに、そのエレーナ先生が殺人未遂を起こす等あり得ない。だが、それには理由があった。それも、楯無にも原因があったからだ。

 

「それよりも楯無……そのエレーナ先生は何故、お前を殺そうとしたんだ?」

 

 一夏は右手に走る激痛が和らいだのか、徐々に冷静さを取り戻しつつあった。恐らく楯無の応急措置のお陰かも知れないが今はそんな事を言ってる場合ではなかった。

 一夏は楯無に訊くも、楯無は首を左右に振る。そうだろう、楯無には原因があるものの、完全に楯無に原因がある訳ではない。何故なら、エレーナが楯無を怨む理由はエレーナにしか知らないし、それに楯無も片棒を担いでいるとも言えるからだ。

 楯無はエレーナが何故自分を殺そうとしたのかは解らない中、真耶がある事を思い出し、それを一夏や楯無、勇人や止に言った。

 

「そう言えば二週間前、他の先生方から聞いたんですけど……エレーナ先生の妹さんが自宅で首を吊って亡くなったらしいんです……自殺だったそうなんですが」

 

 真耶の言葉に一夏と楯無と止は驚きのあまり「えっ!?」と真耶を見やり、勇人は真耶の言葉に瞠目していた。が、楯無は真耶の言葉に違和感と言うよりも、その理由が知りたくなり訊ねる。

 

「や、山田先生!? そ、それはどういう事なんですか!?」

 

 楯無は立ち上がり真耶に詰め寄るも、真耶は楯無の行動にたじろぎながらも話した。

 

「わ、私にも解りません。ですがエレーナ先生はそれ以来、元気を無くしてしまいました」

「でも山田先生!? それだけでエレーナって言う先生が更識さんを殺す理由とは言えない筈だろ!?」

 

 今度は止が詰め寄るも、真耶はたじろぎながらもその事も話す。

 

「だから私にも解りません! でも、エレーナ先生の妹さんが自殺したのと、更識さんを殺す理由は関係ない事には気付いています! ですが現にエレーナ先生は更識さんを殺そうとしたのは事実ですから!」

 

 真耶はそう断言する。そうだろう、真耶は知らないが一夏と楯無は襲われたのは事実であり、一夏は右手の平を斬られただけで軽傷で済んだのは良いが殺人未遂でもある為、何も言えない。

 例えエレーナ先生の妹が自殺したのが楯無に原因かあったとしても、エレーナ先生から理由を訊かない限り、何も解らない。

 真耶はそう考えた後、四人を見る。真耶は教師として生徒を守ろうと考えた。

 

「取り敢えず皆さん、今は無闇に動いてはいけません。エレーナ先生が何をやからすのかは私にも解りませんーーですがこれだけは言わせて下さい、エレーナ先生と逢った場合はなるべく刺激しないのと、私か他の先生方に連絡して下さい」

 

 真耶はそう言うと、勇人を止に託す。止は慌てながらも勇人に肩を貸すも、真耶は言葉を続ける。

 

「私はこれから学園長の元へと向かって、学園長の判断で学園全体に緊急放送を流しますーー勿論、私はこれから向かいますが貴方達は近くのピットで避難し、内側から鍵を掛け、なるべくピットから出ないようにして下さい」

「でも山田先生!?」

 

 楯無は真耶に反論しょうとしたが真耶は首を左右に振って、四人に微笑む。

 

「私は大丈夫ですーー私は一介の教師である以前に、貴方達や他の生徒達を勉学するだけでなく守る為でもあるのですから……では、皆さん気を付けて下さいね!」

 

 真耶はそう言うと身体を翻し、その場から走り去って行った。後ろから止の呼び止める声が聞こえたが真耶は背中で受け止め、学園長が居るであろう学園長室へと向かって行った。

 通路には一夏と楯無、勇人と止が取り残される。しかし、止は三人を見る。

 

「なぁどうする? このまま山田先生の言う事を聞くのか?」

「それは俺にも判らんが、ここはリーダーである一夏が決める事だ……だろ?」

 

 勇人は一夏を見るも、一夏は俯いていた。勿論、一夏は悩んでいた為に何も言えない。真耶の願いを受け入れるか、勝手に動くかを悩んでいた。

 ーーっ……ーー。しかし、それも楯無のお陰で直ぐに決まった。ーー更識? ーー。一夏は楯無を見るも、楯無は何故か震えていた。

 何故楯無は震えているのかはまた自分のせいで一夏に迷惑を掛けたと思ってしまったからだ。

 そんな楯無に一夏は楯無の肩に手を回し、自分の方へと抱き寄せる。ーーえっ? ーー。一夏の行動に楯無は驚きながら一夏を見ると、一夏は何故か悲しい目をしていた。

 

「一夏君?」

 

 楯無は一夏に訊ねるが一夏は哀しそうに笑うと、直ぐに表情を険しくし、勇人と止を交互に見る。

 勇人は一夏が何を言うのかを待っているも表情を険しくし、止は何故かキョトンとしていた。そして、一夏は何かを決意したかのように頷くと、二人に言った。

 

 ーー更識に二人共、近くのピットで待機するぞーーと。一夏は真耶の願いを受け入れる方を選んだのだった。

 それは真耶の気持ちを無駄にしない為であるのと、楯無を思い、守る為でもあった。

 




 次回、一夏が楯無に……。
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