ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
数分後、ここは誰も使っていないピット。そのピットの中は綺麗に掃除されており、空気も少し良い方だった。が、そのピットに出入り出来る扉が外から開けられ、ある者達がピットの中へと足を踏み入れる。
一夏と楯無、勇人と止だった。因みに扉を開けたのは止であり、止は勇人に肩を貸して上げながらピットに足を踏み入れ、その後に楯無に肩を貸してもらっている一夏が楯無と共にピットの中へと足を踏み入れたのだ。
何故、四人が、このピットへと来たのかは真耶から何処かへのピットへと避難してと言われた為である。勿論、エレーナと逢うのを避ける為であるのと、無闇に動かないようにと言われた為だ。
因みに真耶は学園長に報告する為に別行動を取っている為に、此処にはいない。話を戻そう、楯無は一夏と共に少し歩くと、二人は近くの壁に寄り掛かる形でその場に座る。
因みにマスクはコンピューターガントレットを操作してしまい、制服は楯無しが持っていたが近くに置いた。
ーー大丈夫、一夏君? ーー。楯無は一夏を心配し声を掛ける。勿論、一夏は瞑目ながら無言で頷き、それを見た楯無は「そう……」と呟いた後に俯く。
が、楯無の表情は何処か元気がなく、罪悪感があるかのように悲しそうだった。ーー更識? ーー。そんな楯無を見た一夏は険しい表情を浮かべ、首を傾げる。
勿論、一夏は楯無がどんな気持ちをしているのかまでは解らなかった。楯無は再び自分自身に罪悪感を抱いていた。
あの時の、自分と眼を合った時のエレーナ先生のあの険しい表情。あれは楯無に憎悪と怒りが込められている。それも、エレーナ先生の妹が関係しており、妹が自殺したのが楯無のせいだと言う事を意味していた。
楯無自身は知らないだろうが、エレーナ先生の妹はとある仕事をしていた。その彼女が自殺したのには理由には仕事があったーーそれを知ってるのはエレーナ先生だけである。
「更識、更識!!」
一夏は楯無の様子がおかしい事に気付き、楯無の肩に手を置き、揺らす。楯無はハッと我に返り、顔を上げ、一夏を見る。
「どうしたんだボ~~っとして?」
「あっ……いえ何でもないわ」
楯無はそう言いながらも首を左右に振るーーその表情は何処か未だ寂しい方だった。そんな楯無に一夏は訊ねる。
「どうした? あのエレーナ先生の事を思い出したのか?」
ーーえっ? ーー。一夏の言葉に楯無はそう惚けるも、一夏は「図星か?」と突く。が、楯無は一夏に何も言えず、軽く頷く。
「そうか……なら、何でエレーナって女はお前を殺そうとした?」
「私にも解らない……でも、山田先生が言ってたエレーナ先生の妹が自殺したのは少し前に聞いたから……」
楯無はそう言った後、俯く。何故なら、楯無はエレーナ先生の妹が自殺していた事は半分知っており半分知らなかった。エレーナ先生の妹が自殺したのは二週間前ーーつまり、その一週間後には一夏達は新入生として、楯無は二年生として進級したのだ。
それも入学式から、今日を入れての一週間の間にエレーナ先生の妹が自殺した理由を調べてはいない。調べようと思っても、エレーナ先生の妹はロシアにいて、そこはロシア警察が調べる為、日本が調べる事は出来ないのと調べる理由等無いからだ。
自分の家は暗部であるも、エレーナ先生の身内を調べる理由等ないのと、楯無自身が一夏を捜していた為にそっちの事まで手が回らなかったのだ。
楯無はエレーナ先生が何故、自分を殺そうとしたのが解らない中、一夏は勇人や止を見る。一夏と楯無が話している間、勇人は向かい側の壁にもたれ掛かるように座りながら瞑目しており、止は何故かウロウロしている。
だが、一夏達は何故かピットを出入り出来る扉には鍵を掛けなかった。それは、一夏達には得意な事があった為に。
ーー止ーー。一夏は止に訊ねると、止は立ち止まり一夏を見て「何?」と訊き返す。
「止ーー済まないがエレーナって女はお前に任せるのと、通路で扉を見張ってくれないか?」
一夏の言葉に止は「何で?」と言いながら首を傾げる。
「止、俺と勇人は先の闘いで単一仕様能力を使って体力を著しく消耗している。まぁ、もう少ししたら何とかなるが、今動けるのはお前だけだからだ」
「そっか……でも一夏、相手は武器を持ってるの?」
「ああ。相手は一応ナイフを持っているーーだが、お前は俺や勇人と同じように身体を透明に出来るからな」
一夏の言葉に止は納得するように何度も頷くと、「判った」と言いピットを出ると、通路で待機する。
ピットに残ったのは一夏や楯無、勇人だけだった。が、一夏は再び楯無の方を見ると、楯無は未だ俯いていた。
「…………」
そんな楯無を見た一夏は呆れて溜め息を吐くと、無言で楯無の肩に手を回し、自分の方へと抱き寄せる。そんな一夏の行動に楯無は驚きを隠せず顔を上げ、一夏を見る。一夏は楯無とは眼を合わさない形でそっぽを向いていた。
「い、一夏君?」
楯無は何かを言おうとした。刹那、放送が鳴った。
『学園にいる生徒達や教師達に連絡します。ロシア語を教えているエレーナ先生が生徒を襲うと言う報告がありました』
放送がなり、女性の声が聴こえた。一夏と楯無、勇人が顔を上げる。それでも、放送は止まらない。それに、放送が鳴ったと言う事は真耶が無事学園長に連絡した事を意味していたのである。
『その為、生徒達は速やかに寮へと戻り、鍵を掛けて部屋から出ないようにして下さいーーまた、教師達は近くに生徒達が居た場合、出来るだけ一緒に行動し寮へと連れて帰り、他の教師達はエレーナ先生を見つけ次第、他の教師達に連絡し、そして捕まえてください』
放送からそんな言葉が流れた。しかし、それは学園にいる生徒達や教師達に向けた物であり、ピットにいる一夏や楯無、勇人や止には関係ない物だった。
嫌、それはなかった。真耶は学園長に連絡した後、他の教師達と共に一夏達がいるピットへと向かっているのだ。無論、そんな事を三人は知らない。
放送を聴いた楯無は軽く胸を撫で下ろす。彼女は真耶が無事である事に安心したのだ。一方、一夏はそんな楯無を見て一瞬微笑むも直ぐに表情を険しくする。
まだ油断は出来ないからだ。真耶が無事だとしてもエレーナが何処にいるのかは判らない。その為、何時このピットへと近付くのかも判らないのと時間の問題でもある。
一夏がそう思うのは無理もない。一夏はエレーナ先生とは何か遭った楯無を守ろうとしていた。今の楯無は自分のせいだと思っている。今の楯無はエレーナ先生に何時殺されてもおかしくないーーその為一夏は命を掛けてでも楯無を守ろうと決めていた。
それは、さっきの恩を返す為にーー。一方、勇人は何故か再び瞑目するーー勇人には関係ない事だったからだ。
刹那、ピットの外から女性の叫び声がした。三人は声に驚き瞠目するも、直後に止の叫び声が聞こえ、またその直後に大きな音が響き渡る。
ーーな、何っ!? ーー。楯無の驚く声がピット内に木霊する。が、一夏と勇人は別の意味で驚いていた。何故なら、ピットの外には止がいる。その為、止の身に何が遭ったのかは二人から見れば明白だった。
ーーと、止っ! ーー。一夏は止を心配し立ち上がる。一夏の突然に楯無は「一夏君!?」と驚きながら慌てて立ち上がり、一夏を支える。
一方、勇人も立ち上がる。扉の方からは女性の何かを叫ぶ声が扉越しから聴こえた。それは大人の女性の声だったが、勇人は右腕に着けているコンピューターガントレットを操作する。
刹那、勇人の顔からスカーのマスクが着けられる形で、胴体や股部分や四肢からプレデターの防具が現れる。一夏と楯無は勇人の行動に驚くも、勇人は無言で左腕に装備しているリストブレイドを展開し、扉に近付く。
すると、扉が開いた。勇人は身構え、一夏は何故か楯無を守る形で前に出る。が、扉を開けたのは止だったーー片方の手には、誰かの腕を掴んでいる。
「と、止!? お、お前大丈夫なのか!?」
一夏は不意を突かれたかのように驚きながら、止に訊ねる。が、止はキョトンとした表情で「大丈夫だけど?」と答えた。
ーーエ、エレーナ先生!? ーー。楯無の驚く声がした。何故なら、止の近くには気を失っているエレーナ先生がいて、止が掴んでいる腕はエレーナ先生の腕だったのだ。
楯無がその事を訊ねようとしたが、通路の方から止を呼ぶ声と数人の走る足音が聴こえた。叫んだのは真耶だった。そして、数人の足音は真耶が教師達を連れてきた音だった。
そして、真耶は一夏達が無事である事に涙を流し、数人の教師達はエレーナ先生を拘束したのは言うまでもなかった。それも事件発生から一時間も経たない内に解決した……。
次回、エレーナ先生が何故、楯無を殺そうとした理由を話します。それは、救い様のない話です。