ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
ニ十分後、ここは学園の地下にある牢屋。そこは犯罪を犯した生徒や教師、襲撃してきたテロリストを拘束し捕らえる為に設けられてた場所でもある。
しかし、その牢屋はあまり使われていないが、今は色んな意味で使われていた。何故なら、牢屋には一人の女性が横向けに転がっていたのだ。
その女性は楯無を襲うどころか、一夏が咄嗟の判断で右手の甲を斬られ、止に返り討ちに遭う形で一本背負いされて、挙げ句の果てには真耶が連れて来た教師 達により拘束され、この牢屋へと放り込まれたエレーナであった。
刹那、エレーナの瞼が微かに動く。それはエレーナが目を覚ますのを警告するような物だった。それも直ぐに気が付く形でエレーナはゆっくりと目を開ける。
「…………はっ!」
エレーナは目を覚ますや否や直ぐに起き上がり辺りを見渡す。そこは牢屋である事に気付くもエレーナは目の前にある鉄格子の奥にいる人物達に気付く。
一夏と楯無、勇人と止。何故彼等が此処にいるのかと言うと、楯無が学園長に頼んでエレーナとの面会時間をくれないかと頼んだからである。因みに楯無を除いた一夏達は制服を着ている。
「あんたは……ぐっ!!」
エレーナは立ち上がるや否や楯無を睨む。それを見た楯無はエレーナから目を逸らす。
「此処は牢屋だって事には気付いてるな、エレーナ先生?」
一夏がエレーナに訊ねると、エレーナは頷く。
「ええ……でも、私がやった事を貴方やそこの女は覚えているでしょうね?」
エレーナの言葉に一夏は頷く。が、一夏は再びある事を訊ねる。
「先ず質問に答えろ。何故、更識を殺そうとした?」
一夏の言葉にエレーナは眉間に皺を寄せる。
「それには答えられないわーー第一、恋人に代わりに答えてもらおうなんて、あんたは酷いわね?」
エレーナは楯無にそう言うと、楯無は瞠目しながら、エレーナを見る。エレーナは不敵に笑っていたが直ぐに苦虫を噛んだような表情を浮かべる。
「それはそうよね……あんたはロシア代表でありながらも、私達姉妹に何が遭ったのかも知らないはずよね?」
「姉妹……それって、山田先生が言ってたあんたの妹が自殺した事か?」
一夏の言葉にエレーナはバツの悪そうな表情を浮かべる。が、エレーナは真耶が余計な事を言った事に怒りを感じる前に、それ以上にある事に怒る。
「ええそうよ……でも妹が死んだのは……その女が、あんたがロシア代表になったせいだからよっ!!」
エレーナは楯無に怒る。それを見た楯無は肩を竦め、止も肩を竦めるが、一夏と勇人は何も動じなかった。一方、エレーナは楯無に怒るも、目尻に涙を浮かべながら言葉を続ける。
「あんたのせいで、あんたがロシア代表になったせいで……関係の無い妹が自殺したのよぉぉっ!!」
エレーナは泣きながら、楯無に怒る。それを聞いた楯無は肩を竦めるも不意に同時に目を閉じてしまう。勿論、楯無は直ぐに恐る恐る目を開けるも、エレーナは怒りが抑える事は出来ないのに関わらず、未だ楯無を睨み続けている。
それを見た楯無は下唇を噛むも、そんな楯無を見かねた一夏は楯無を背中に隠すように前に出ると、エレーナに訊ねた。
「教えろ? 何故アンタの妹が自殺したのが更識のせいだと言いたいんだ?」
一夏が問うと、エレーナは哀しそうに俯きながら言葉を続ける。
「私の妹は、エリーナはある仕事をしていた……カウンセラーの仕事よ」
エレーナは妹に遭った事を話した。彼女の妹、エリーナはカウンセラーの仕事をしていた。勿論、それは楯無がロシア代表になった理由とは違うだろうが、別の意味で同じだった。
それはエリーナには親友がいて、エリーナがカウンセラーしている相手でもあった。しかし、その女性は、ある仕事をしていたのだ。
「まさか……」
勇人は何かを察したのかそう呟くと、エレーナは静かに頷いた。
「ええ、ロシア代表……いえ、だった人よ」
エレーナは再び言葉を続ける。実はエリーナの友人はロシア代表だったのである。何故、「だった」と言う過去形なのかは楯無がロシア代表になる際に、政府からロシア代表の座を降りるよう言われたのである。
これには友人も文句を言おうとしたが、政府の面々は楯無が若いだけでなく、友人よりも楯無の方が実力もある上に、若いのだと良い意味でのマスコミが注目するからだ。最年少の代表ならマスコミの格好のネタであり、イメージアップにもなるからだ。
勿論、友人は更に反論する。自分は代表になる為には必死に努力して得た地位である。なのにそれを、自分よりも若いだけでなく、ロシアのイメージアップしか考えない政府はそれを却下したのだ。
友人は泣いた。と言うよりも権力に逆らえなかった。しかし、それも権力があり、名誉を選んだ人間の汚い欲望が一人の女性を狂わせたとでも言い換えれば良いのかもしれない。
友人は代表を下ろされたその日、全てを失ったかのように、この世が終わったかのように絶望した。勿論、周りにいたスポンサーも親友が代表でなくなった事を知ると掌を返すように離れていき、楯無を選んだのだ。
勿論、スポンサー達も楯無が若いだけでなく実力もあると言う理由で良いイメージアップにもなるからと、政府と全く同じ理由だった。友人は更に絶望するものの、更に追い討ちをかける様な事が起きる。
それは、大半の友人がロシア代表だった友人の元から離れたのだ。その理由は周りが知り合いにロシア代表がいるとなれば後ろ盾になるし、権力を振りかざす事が出来るからだ。
だが、ロシア代表でなくなった友人を周りは用済みとして絶交したのである。これには友人は悲しむも、僅かながらに他の友人達もいた。他の友人達は必死にロシア代表だった友人を支えていた。
その中にもエリーナもいて、エリーナも必死に支えていた。自分はカウンセラーの人である以前に友人でもある為だった。しかし……。
「だけど、エリーナの友人は全てに絶望したかのように……自殺した」
エレーナの言葉に、一夏と止は瞠目し、楯無は瞠目しながらも、何故か一夏の制服の背広を掴む。
「だが……それが友人とアンタの妹が自殺したのとどんな関係があるんだ?」
そんな中、勇人は何も感じずに訊ねる。すると、それをエレーナは訳を話した。
「あれはエリーナの友人が自殺した後の事だった……」
エレーナは話の続きをする。あの後、友人達は葬式をした。友人達の啜り泣きしていた。その中にもエリーナが居たがある人物がエリーナに近付く。その人物はエリーナに怒っているのか泣きながらもこう叫んだ。
ーー何で……何でカウンセラーの仕事をしていながら、娘を助けてやれなかったのよ!! ーーと。
勿論、それを言ったのは友人の母だった。友人の母も彼女なりに支えていたがエリーナがカウンセラーの仕事をしている事も知っていた。しかし、あの時の友人の母は怒りや哀しみのあまり、我を忘れてそう口走ってしまった為である。
友人の母はエリーナ自身に怨みがある訳ではなかった。が、それはエリーナには衝撃的すきる物だった為、エリーナの心に傷を負わせてしまう。
その葬式にはエレーナも居たが、他の友人達と共にエリーナや自殺した友人の母を宥めるがエリーナの顔色は良くなかった。
エリーナは友人の母が言った言葉が、カウンセラーの仕事をしながらも、患者同様の友人を救えなかった事を後悔した。
エリーナが悪い訳ではないが、友人の母のたった一言や、友人を救えなかった事をエリーナは自分のせいだと思ってしまったのだ。
そして、彼女は三日後、家で首を吊って亡くなったのだった……。それも第一発見者がエレーナであったのだ……。
ーーひでぇ……! ーー。エレーナからあの時の出来事を聞いた止は愕然としながらそう口にする。
一方、一夏と勇人は何も言わずに腕を組みながら、エレーナを睨んでいた。そして、楯無はエレーナの言葉に下唇を噛みながらやるせない表情を浮かべながら身体を震わせていた。
しかし、エレーナの妹・エリーナがそんな理由で自殺したなんて信じられなかった。それにエリーナのせいではないが、全ての元凶はロシア政府と楯無がロシア代表になった事なのかもしれない。
そして、エレーナは楯無を睨むーー未だ泣いていたがこう叫んだ。
「アンタが……アンタが代表にならなければ……妹は……妹はぁぁぁっ!!」
エレーナは楯無に詰め寄ろうとした。が、その間には鉄格子がある為無駄だった。それでもエレーナは叫び続ける。
「返してよ……私の妹を返してよーーーーッ!! 返してーーーーっ!!」
エレーナは泣き叫ぶ。それは楯無への怒りだった。エレーナの身内を失った哀しみでもあった。が、そんなエレーナに一夏と勇人は軽蔑な眼差しを向け、止は少したじろいでいた。
そして、楯無は一夏の背中にすがり付いて泣き出す。勿論、一夏は楯無が抱き着いてきた事に気付きながらも何も言わず、楯無の行動を受けれていた。
そして、四人は面会時間が終わるまで、エレーナの泣き叫ぶ声を聞き続けていた。それは彼等なりの気遣いか、それとも出ていく勇気が無かったのかは、四人には解らなかった。
嫌、これだけは言える。彼等はエレーナの泣き叫ぶ事を聞き続ける方を選んだのかもしれない。
次回は色んな事情で教えられません。