ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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 今回はサブタイトルはいれない主義なのですが、今回は前後編に別けています。最初は勇人と止です。


第60話

 その日の夜。此処は一夏や楯無の部屋。勿論、一夏や楯無は当たり前として、何故か勇人と止もいた。一夏は自分が使って未だ間もないベッドの上に腰掛けながら俯いており、楯無はデスク近くにある椅子に座りながら悲しそうに俯いている。

 勇人は壁に凭れ掛かって腕を組みながら瞑目し、止はやるせない思いをしているのか表情は険しく、両手をズボンのポケットに入れながら室内をウロウロしている。

 三人の青年と一人の少女の間には会話はなく、重苦しい空気が流れていた。周りから見たら喧嘩したか、何か嫌な事が遭ったのかと察するだろうが後者の方が正しい。

 それは、四人は三時間前にエレーナと面会した際の、エレーナの妹が自殺した理由と、その背景にあるロシアと言う世界で一番大きな国の極一部の人間が引き起こした悲劇にやるせない思いを感じていた。

 その証拠に、一夏と止の表情は何処か険しく何処か哀しく、楯無はエレーナの妹が自殺した理由に同情しているのか哀しい表情をうかべ、勇人に至っては瞑目している為、彼が何を考えているのかは一夏や止やスカー以外、余り判断出来ない。

 勿論、四人には共通している事はあったーー四人はエレーナに同情していた。エレーナの妹が自殺したのも、エレーナの友人が自殺したのも全て、ロシア政府やスポンサー、ロシア代表ではなくなった事で自ら切り捨てた者達が引き起こした事による物だったのだ。

 しかし、それを四人は何も出来ないでいた。楯無は暗部の人間でありながらロシア代表でもあるが権力を振り翳すという事をしない為、他国に干渉する事は出来ない。

 一夏達三人に至っては、プレデターの力を使ってでも皆殺しにしたかったが生憎、相手は非武装の人間や女であり、殺しの対象ではない。

 束に頼めば良いが、束が知ったらロシアにある全ての不祥事をロシア以外の国に暴露出来る上、ロシアにある全てのISを停止出来るだろうが、そんな事をしてもエレーナの妹、エリーナや自殺した元ロシア代表の友人は帰ってくる訳でもない。

 故に一夏と楯無、勇人と止は己の無力さに恨みながらも、何も出来ないまま時間だけを過ぎていくのをただただ感じていた。刹那、止は立ち止まり、一夏達に訊く。

 

「なぁ皆はどう思うんだ?」

 

 止の言葉に三人は止を見やる。止は未だやるせない思いをしているのか焦りの表情をしている。しかし、そんな止の言葉に一夏は訊ね返した。

 

「何がだ止?」

「嫌……何かって訳じゃないけど、エレーナ先生、可哀想だった」

 

 止の言葉に、楯無は不意に目を逸らす。が、止は憶測に過ぎないがその事を、エレーナ先生の事を話始める。エレーナ先生は、このIS学園の教師である以前にエリーナの姉でもある。

 エリーナは元より自殺した元ロシア代表の友人も、各々の将来の為に努力したのだ。エレーナは教師を、エリーナはカウンセラーを目指していたのだ。勿論それは血の滲むような努力をしてまで就いた仕事だったのかもしれない。

 なのに、自殺した元ロシア代表の友人はロシア代表になる為にそれ以上に努力して、たった一つしかないロシア代表と言う最高の名誉を勝ち取ったのだ。

 それを、それをロシア政府は自殺した元ロシア代表の友人の努力を見もせずに、楯無を実力が良いのと若いだけだからと言って、彼女の最高の名誉であるロシア代表の地位を無理矢理奪ったのだ。

 

「おかしいだろ? 何で努力してまで得た地位を……ロシア政府は下らない理由で奪ったんだよ!? そんなのおかし過ぎんじゃねえか!? それにそれのお陰でエレーナ先生の妹が自殺したにも関わらず、見て見ぬふりしているんじゃねえかよ!?」

 

 止の言葉には怒りが込められていた。それはロシア政府への怒り、そしてエレーナとエリーナ姉妹の人生を狂わした事に怒っていた。

 もし、ロシア政府がそんな事をしなければ、ロシア代表は友人のままだったのだろうか? そうなれば、友人はロシアの為に頑張り、代表でなくなった時に離れていった者達とは嘘の友情を貫いていたのだろうか? 

 嫌、それ以前にエリーナは自殺せずに済み、友人とは一生友達でいたのだろうか? エリーナが自殺しなければ、エリーナはカウンセラーの仕事を続ける事が出来、友人とは友情を貫いていたに違いないのだろうか? 

 そうなれば、エレーナはこんな凶行に走らないで済んだ筈だ。だが、そんな止に楯無は目を逸らし続けながらも手を拳に変え、身体を震わす。楯無も辛かったのだろう。

 

「……どんなに努力しても報われれば良い結果もあり悪い結果もある――報われない努力だってある」

 

 刹那、勇人に不意に呟いた。一夏達は勇人を見るも、勇人は腕を組みながら目を開けた。

 

「そいつは、ロシア代表だった女は必死で努力して得た地位を、ロシア政府のせいで奪われた……それは一時的な報われだったんだよ」

「は、勇人!?」

 

 止は何かを言うも、勇人は言葉を続ける。

 

「その女は全てに絶望した――だがそれは、再び地位を返り咲こうとする努力をしなかったからだ……が、俺がロシア政府の一人だったら、更識を選ぶだろうな」

 

 勇人の言葉に、止は「なっ!?」と目を見開きながら驚き、一夏は瞠目し、楯無は顔を上げ愕然とした。そんな勇人に止は詰め寄る。

 

「勇人お前、何を言ってるんだよ!? お前は自殺した元ロシア代表よりも名誉を選びたいが為に権力を使うのかよ!?」

 

 止は憤りを隠せない。が、勇人は溜め息を吐く。

 

「違えよ……俺が言いたいのは、もしもの話だ」

 

 勇人の言葉に止は「えっ?」と惚けるも、勇人はその訳を語り始める。勇人は何故ロシア政府だったら名誉を選ぶのかと言うと、勇人はロシアが有名になるのならそれで良い、世界で一番大きな国だけではない事を知らしめる為でもあった。

 そうなれば、名誉を得る為には多少の犯罪にも手を出し、多少の犠牲を出してでも得たいからだ。勿論、それは間違った事であるが自分達は政府の人間であり、権力はあるーー多少の事は闇に葬る事も出来るからだ。

 例え、多少の不祥事があったとしても、元ロシア代表が自殺したのも自分達のせいだとしても、権力で揉み消す事が出来、自分達の悪事を調べようとするのならば、権力を使って暗殺する事も出来、地位を奪う事も出来るのだ。

 それを咎められても、何の事? と知らないふりをするだけだからだ。勇人はもしも元ロシア代表の自殺が政府のせいだとしても、ロシア政府は権力を使って黙らせる事が出来る、と。

 そんな勇人の語りに、三人は信じられないと思っているが、勇人は三人にこう告げた。

 

「権力は金と同じように人を変える――が、その権力を持ってる人間が権力に屈しない者が極僅かにしかいないのも事実であり、居たとしても何れは権力に溺れる――言わば権力は……」

 

 勇人は何故か間を置くように話すのを止めると、直ぐに決意したかのように、止に言った。

 

「権力は一度振り翳したら後戻り出来ず、中毒のように振り翳し続け、権力が無くなれば返り咲きたいが為に犯罪に走るからだ……権力を保てるのは名誉だけであり、それに権力は、一度振り翳せば一生止められない――薬物みたいな物だからな……」

「そ、そんな……あんまりじゃねえかよ……!」

 

 勇人の説明に、止は苦虫を噛んだような表情を浮かべながら俯き、勇人に背を向けるが止は肩を震わせていた。しかし、勇人の言い分には反論出来ないでいた。

 権力は人を変えるのは事実であり、不祥事を揉み消す事を出来るのも事実だ。そんな止に一夏は歯を食い縛るも不意に楯無を見る。

 楯無は震えていた。が、一夏はある事を思い出し勇人と止に訊ねる。

 

「すまねぇ二人共、もう遅いから部屋に戻ってくれねぇか?」

 

 一夏は二人にそう告げる。それを聞いた止は顔を上げて驚くも、勇人は軽く頷き壁から離れる。

 

「い、一夏、何を言ってんだよ!? まだ話をは終わってねえじゃねえかよ!?」

 

 止は一夏に詰め寄るも、一夏は冷静に答えた。

 

「今は答える事は出来ないーーだが、今はもう遅い。俺達に出来る事は明日だ」

「そんのなは理由にならねぇよ……それに」

「今はあいつの事を考えた方が良い」

 

 止が何かを言いかけるのを、一夏は遮るように言いながら、ある方角を首で振る形で指す。そこには楯無がいた。止は楯無を見て「あっ……」と呟くと、何も言えなくなる。

 因みに彼等は夕食を済ませたが、箒が絡んで来たのは言うまでもない。そして、止はやるせない気持ちを抑えつつも、一夏を見る。

 

「判ったよ……でも俺は許せねえんだよ……ロシア政府のやり方がさ……それに解るんだよ俺、身内を亡くしたヤツの気持ちがな……」

 

 止はそう言った後、一夏に悲しい笑みを浮かべながら「お休み」と一言を言い、一夏は哀しそうに笑いながら頷くと、止は勇人と共に部屋を出ていった。

 因みに扉を開けたのは勇人であり、最初は勇人、次は止が部屋を出ていった。そして、部屋に残っているのは、この住人である一夏と楯無だけであるが、一夏は楯無を見ると、不意に呟いた。

 ――更識、俺達も寝るか? ――と。




 次回は後編。一夏と楯無の会話からです
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