ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
一時間後、一夏は自分のベッドにいた。が、何故か一夏の表情は険しかった。
ーー何故、こいつが一緒のベッドに居るんだ? ーー。一夏は内心呟く。それは、一夏のベッドには一夏だけじゃなく楯無も一緒に横になっているのだ。
それは一夏から見れば興奮するよりも、楯無に呆れていた。何故なら、一夏は楯無にもう寝ようと言った際、楯無が自分と一緒に寝たいと言い出したのだ。
これには一夏も否定するが、楯無は引かない。その結果、一夏は渋々了承した。
そして二人は今、一夏は楯無に背を向ける形で横向けになり、楯無は一夏の背中を見るように横向けになっていた。
一夏は嫌々ながらも寝ようとした。これでは止にからかわれるのと、あの掃除用具に何をされるのかは判った物ではないからだ。
「ねぇ一夏君?」
刹那、一夏に訊ねてくる者がいた。勿論、楯無だ。一夏は楯無に背を向けながら答えた。
「何だ更識、まだ寝てないのか? 早く寝ろよ?」
「ううん、そうじゃないの……ちょっと訊きたい事があるの?」
「何だよそれ? 明日にしろよ?」
「嫌直ぐに終わるわ……ねぇ一夏君? ……一夏君は、どんなに頑張っても報われない努力ってあると思う?」
「何をいきなり言い出すんだよ?」
一夏は楯無に訊ねると、楯無はその理由を話始めた。楯無は最初、ロシア政府からISを貰い、自由国籍をも得た。勿論、楯無はロシア代表になるつもりはないが楯無自身は必死で努力していた。
家や妹を守る為に努力をしていた。勿論、色んな覚悟を背負ってまで努力して得た物が当主とロシア代表の椅子だった。が、その為には沢山の人を犠牲にしてまで得た物だ。
それを、自分は胸を張ってまで自慢出来る物なのだろうかと思っていた。
「私は解らないの……家のせいで一夏君に迷惑を掛けて以来、自分は何の為に当主になったのか、私がロシア代表になった間に、元ロシア代表だった人やエレーナ先生の身内に自殺に追い込んだ事を知らなかった……私はどうすれば良いの?」
楯無は悩んだ。自分は当主になって良かったのだろうか? 自分はロシア代表になって良かったのだろうか? と。しかし、そんな楯無に一夏は答えた。ーーそれはお前の自由だ、それにお前は自信を持てーーと。
ーーえっ? ーー。一夏の言葉に楯無は何も解らないと言った表情で一夏を見るも、一夏は楯無に背中を向け続けていた。が、一夏は楯無に背を向けたまま話す。
「更識……お前は誰だ? お前は更識楯無か? ーーお前は更識刀奈か?」
「えっ、その質問って……」
楯無は何かに気が付く。その質問は一夏がこの前、楯無への楯無自身に問う際の全くと言える程の同じ質問だった。
だが、この質問は楯無が一夏への罪悪感で悩んだ際の質問とは違う。この質問は一夏が楯無に、ある事を訊ねる為でもある。
「楯無ーー俺はお前に問う……お前は何の為に当主に、何の為にロシア代表になった?」
「そ、それは……」
「それはお前が努力して得た地位でもあり、同時に周りに迷惑を掛けてまで得た地位だ」
「迷惑を掛けてまで得た、地位?」
楯無の言葉に一夏は楯無に解らないように小さく頷く。
「ああ、お前はそれを自覚している筈だ……お前は妹を守る為に心ない事も言った……あれはお前が悪いかもしれないが、元ロシア代表の奴やエレーナの妹が自殺したのはお前が悪い訳ではない」
「でも、簪ちゃんは兎も角、エレーナ先生の事は」
「あれはお前が悪い訳じゃない!」
楯無が何かを言う前に一夏は楯無に怒り、それを聞いた楯無は肩を竦めるも、一夏は言葉を続ける。
「更識……お前はエレーナの妹や元ロシア代表の奴が自殺したのはお前のせいではない……あれはロシア政府がした事だ! お前が気に病む事じゃねえ! お前は更識楯無として、ロシア代表として胸を張れ! もし気に病むのなら、そいつらの無念を背負え! そいつらの分まで生きれば良い!」
一夏は楯無にそう説教した。が、それは弱気になっている楯無を励ます為でもあった。楯無は当主やロシア代表になれたのも楯無が努力して得た事。だが、努力には犠牲が付き物、努力は名誉を得ると共に代償をも得る。
だがそれは、誰にもある事だ。犠牲や代償のない努力何てない、努力はすればする程、喪う物もある。何故、一夏は楯無にそう言えるのかは、一夏も必死に努力したのだ。
その努力は千冬に認めて貰いたいが為の物ではない、一夏はプレデター一族に狩りや闘いを教えられて貰っている際、沢山の生き物達と喰うか喰われるかの修羅場を潜り抜けてきた。
勿論、一夏が戦った生き物達の中には家族持ちの奴等もいた。奴等は、身内を殺した一夏を怨むように叫んだが、それは弱肉強食の世界では当たり前の事だ。
もしも二つの生き物が闘った場合、それが野試合だっだ場合、どちらかが死ぬのは当たり前だ。片方が名誉や代償を得ると同時に、もう片方の御内に怨みを買う。
負けた方は文句を言われても言い返せないのも事実だ。一夏はその野試合をケルティックから教えられながら闘い、時には一人で戦った事もある。
それは一夏が野試合を勝ち抜き、生き抜いてきたのも事実だ。同時に沢山の生き物から怨みを買ったのも事実だ。
故に一夏は自分が殺した奴等の分まで生き、悪役を買って出ている。もし相手に殺されそうになっても返り討ちにする覚悟もある。
例え返り討ちにしても再び悪役を買って出る覚悟もある。一夏はその覚悟を、楯無にあるかどうかに訊ねた。
「俺はある人から色んな事を教えてもらった。それは誰かは教えられないが、お前は当主やロシア代表になった時の覚悟は何処へ言ったんだ!?」
一夏は楯無にそう問うと、それを聞いた楯無は何も言えなくなり、悲しそうに目を伏せ、何も言えなくなる。が、一夏は楯無と向き合うように寝返りを打つ。刹那、一夏は楯無の頭を撫でる。
楯無は一夏の突然の事に瞠目し、一夏を見ると、一夏は表情は険しい。が、悲しい目をしていた。それは楯無を気遣うよりも、楯無にある事を訊ねる。
「楯無……お前は何の為に当主やロシア代表になった? 怨みを買う為か? それとも名誉を得たいが為か?」
一夏の言葉に楯無は「そ、それは……」と口ごもるも、一夏は言葉を続ける。
「楯無……何でもかんでも一人で背負うな、何でもかんでも辛い思いをするな」
「えっ?」
楯無は再び驚くも一夏は言葉を続ける。
「更識……お前は生徒会長だろ? あの時のお前は何だったんだ?」
一夏はあの時の事を話す。あの時とは、千冬が一夏のISを没収しょうとした際、楯無は生徒会長として千冬を論破したのだ。あの時の楯無は凛々しかった。それなのに、一夏が近くにいると何故かヘタレになっている。
まるで二重人格のようで気味が悪かった。が、それを直すのは楯無自身であり、一夏の説得も必要だった。それを今、一夏は楯無に説得しようとしている
「更識……あの時のお前は生徒会長として立派な事をしていた……なのに何だ? 何故、俺の前だとそんな弱気になる?」
「そ、それは……」
「俺を人殺しにさせた事か? あれは俺がやった事だーー気に病む事じゃねえよ?」
「でも……人殺しは一生消える事はない……私はそれを貴方に背負わせるような事をした……」
楯無は俯く。が、一夏は瞑目した。
「それは違う……あれは確かにお前の家族のせいかもしれない……だが、俺はそれを後悔してはいない」
一夏の言葉に楯無は驚き顔を上げ、一夏を見る。一夏は瞑目し続けていたが、一夏は目を開ける。
「俺は……既に越えてはならない壁を越えながらも越えそうにもなっていない……それを踏み止めているのは、更識……」
一夏は目を開けると、楯無を軽蔑と言うよりも哀れみの目で見据える。
「更識……お前が居るからだよ……お前がいるから……俺は虚さんにお前を頼まれ、あの掃除用具からお前を守っているんだよ」
一夏の言葉に楯無は頬を赤くする。それは一夏の虚に頼まれた事を約束し、楯無のせいで誤解を生んだ嘘の告白で周りに楯無とキスをした為に、何時も楯無を狙う箒から楯無を守っている。
が、それも限度はある。何時でも楯無と一緒にいる訳ではない、一夏は楯無にそう言いたかったがそれを踏み止め、ある事を言った。
「更識、俺はお前を信じている。俺はお前が立ち直れるのを信じている」
「一夏君……」
「更識……もっと自分に自身を持て、生徒会長として、当主として、更識楯無である以前に更識刀奈としての自身を持つんだ」
「一夏君……私は……あっ」
刹那、一夏は楯無の頭を撫でていた手を楯無の頬に当てる。楯無は一夏の行動に戸惑うも、一夏は言葉を続ける。
「お前は強い女だ……実力もあるし、生徒会長でもあり、人気もあるからな」
「…………」
「勿論、当主としての自信がないのなら、お前はお前が知っている者達の前ではお前自身の姿を見せろ……周りもお前がクヨクヨしていたら心配する」
「……一夏君、私は」
「勿論、自身がないのなら虚先輩や薫子先輩や他の奴等に甘えろ、周りもお前の為に力を貸してくれるからな? 勿論……俺もお前に力を貸してやる」
ーーッ!? ーー。一夏の言葉に楯無は瞠目するも、目尻に涙を浮かべ、一夏に抱き着く。
「お、おい!?」
楯無の突然の行動に一夏は驚くも、楯無は顔を一夏の胸に埋めながら呟いた。
ーーありがとう、一夏君ーーと。それは楯無が一夏の言葉に少し自信を取り戻し、本当の自分を再び周りに見せようと言う決意でもあった。
「更識……ったく」
一夏は楯無の行動に戸惑いを見せなくなると、ゆっくりと楯無を抱き返す。その夜、二人は抱き合いながら眠った。楯無は少したけ自信を取り戻しのと、一夏は楯無の行動を受け止めただけだが、楯無を落ち着かせるのはこれだけしかないと思いながら……。
そして、夜が明けるまで、二人はそのまま抱き合いながら眠っていたのは言うまでもない。
次回、クラス代表者決まる