ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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 今回は夏休み最中なので本日二本目の投稿です。


第63話

「と言う訳で、このクラスのクラス代表は霧崎止君に決まりました」

 

 教卓に立っている真耶の言葉にクラスの女子達は拍手した。ある者達は、自分が止に投票したのと止が当選した事に喜びを隠せない。またある者達は、一夏や勇人に入れたが当選しなかった事に落ち込む者や仕方ないと思いながら拍手する者達もいた。

 しかし、女子達には共通する物があった。それは、半年間のデザート無料パスが手に入るかも知れないからだった。

 それを手に入れる事が出来れば、半年間のデザートは自分達のクラスの物であるかのように独り占め出来る。甘い物好きの者にとっては喉から手が出る程欲しい物だった。

 勿論、一夏に(誤解による)恋人がいた事をスイーツでも食って気を紛らわす者達もいるだろう。が、太るのが確実であろう事に女子達は気付いていないふりをするのだ。

 クラスの女子達が止に拍手する中、当の本人である止は、クラスの女子達に何故そんなに喜ぶかは判らないでいた。反面、クラス達の女子達は止の強さに期待していたーー止の強さは昨日の、クラス代表決定戦で殆ど知ったからだ。

 あの時の止は、冷静に、セシリアをライフルで一発も外さずに狙撃した。

 その上、止の必殺技とも言える単一仕様能力、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)が女子達を色んな意味で恐れさせたのだ。しかし、それは女子達にとって、デザート無料パスを手に入れる事が出来るのなら関係ない事だった。

 

「これでデザート無料パスは私達の物!!」

「これで失恋を乗り切る為にやけ食いよ!!」

 

 女子達が騒がしくなる。既にデザート無料パスを手に入れると言う結果に喜びを隠せないのだろう。ーー静かにしろ!! ーー。勿論、千冬の一喝により収まるも、未だ女子達は興奮が覚めきれないでいた。

 ーー……ッ! ーー。刹那、セシリアが突然立ち上がる。それを見た近くの生徒達は驚くも、セシリアは突然、駆け足で教室を出ていこうとした。

 ーーオルコットさん!? ーー。真耶がセシリアが出ていった事に驚きを隠せない。が、セシリアは黒板近くの扉ではなく、別の、この教室を出入り出来る扉で教室を出ていき、何処かへと走り去っていった。真耶も慌ててセシリアを追い掛ける為に教室を出て行った。

 

「な、何が起きたんだ?」

 

 突然の出来事に止はそう呟く。勿論、女子達も突然の出来事に戸惑う。無理もないーーセシリアは誰も自分の名前を書かなかった事に嘆き、それで教室に居たたまれなくなったからだ。

 勿論、その事を知ってる女子達はいない。そうだろう、セシリアの人を見下すような態度を誰も気にもしない。嫌、僅かながらにセシリアに同情する者もいるのも事情だ。

 そんな中、気にしないかのように一夏は頬杖を着き、勇人は腕を組みながら瞑目していた。男子達三人もセシリアの事など気にもしない……訳ではなかった。

 一人だけ、セシリアの事を心配している者がいた。止だった。

 

「オルコットの奴、どうしたんだろ?」

 

 止は気になったのか、席から立ち上がり教室を出ていく。後ろから千冬の呼び止める声がするも止は背中で受け止め、教室を出ていくと、セシリアや真耶が走った方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐっ……えぐっ」

 

 ここは学園の屋上。屋上には落下防止の手すりがある以外何もなかった。それ以外あるのは、この屋上を出入りできる扉が設けられている建物だけだった。

 しかし、扉がある壁の反対側には、壁に凭れ掛かる形で膝を抱きながら座り顔を涙でクシャクシャにしながら嗚咽を上げているセシリアがいた。

 何故泣いているのかは、さっきも行った通り、クラス代表になれなかったのと、自分が見下した男達に負けたのと、だれも自分には投票しなかった事が哀しかったのだ。

 

「オルコットさん?」

 

 すると、そんなセシリアに近付く者がいた。真耶である。真耶はセシリアの様子に気付き哀しい表情を浮かべていた。

 

「オルコットさん、どうかしましたか? 教室に戻りましょう?」

 

 真耶は優しい口調で訊ねるも、セシリアは真耶を見ずに答えた。

 

「嫌ですわ……教室に戻っても皆は私を嘲笑うに決まってますわ!」

「そんな事ありませんよ? 皆さんはオルコットさんを心配していますよ?」

「山田先生に何が判りますの!?」

 

 セシリアは涙を流しながら、真耶を睨みそう言った。それを見た真耶はビクッと肩を竦めるも、セシリアは涙を流し、真耶を睨みながら言葉を続ける。

 

「貴女に私の何が解りますの!? 私がイギリス代表候補生になるのにどれだけの努力をしたのか、何故男に負けたくないのか、代表を奪われた事も貴女に解って堪る物ですか!」

 

 セシリアは泣きながら、真耶を罵倒する。一方の真耶もそんなセシリアに何も言えずたじろいでいた。無理もない。真耶は彼女の辛い過去を知らないし、彼女自身がどんなに努力したのかを知らないからだ。

 セシリア・オルコットーー彼女はオルコット家の跡取りとしての幼き頃、女の身でありながらも経営者としての母に厳しく教えられながらも優しい母の元で育った。勿論、父も居たが彼は婿入りの身であるためか母の言う事に逆らう事はなかった。

 セシリアは、そんな父を見て威厳を感じなかったのと同時に軽蔑も感じた。それがセシリアの男を嫌う理由だ。父のような男とは結婚しないと。

 だが、ISが誕生し、普及し、世の中が女尊男卑となった頃、父は更に立場を悪くし、母も益々父に嫌気がさしてきたのか、三人で過ごす事はないに等しかった。

 だが、そんなある日、二人はセシリアを置いていく形でこの世を去った。交通事故だった。しかし、何故二人が一緒にいたのかはセシリアには解らないーー嫌、一生解らないだろう。

 そして、二人が残した財産、つまり遺産は娘のセシリアが相続する形で全て受け持ったのだ。

 同時に、金を狙う亡者達も現れたのだ。セシリアは亡者達から遺産を守る為に努力した。両親の遺産を守る為、自分がオルコット家を支える為に努力した。

 そしてそれが認められたのか、セシリアはイギリスからイギリス代表候補生としてIS学園に通うよう言われ、同時に専用機も貰った。

 これにはセシリアは喜んだ。セシリアはIS学園に来たのも、母の為、オルコット家の為、イギリスの為にだった。輝かしい栄光を亡き母への手土産としてでもあった。

 それを、それを一夏達が妨害したのだ。セシリアは一夏達を父と同じような存在かと思っていた。彼等を完封なきに叩きのめすどころか逆に返り討ちにされ、一夏と勇人とは闘っていないが彼等の強さを知り、三人に恐怖した。

 セシリアにとって屈辱的かつ母に情けない姿を見せてしまったと、セシリア自身そう思っていた。母に何と言えばいいか判らないし、母は自分を軽蔑するのでは、と。

 

「私は母の為に頑張った……なのに、なのに……うぐっ……えぐっ」

 

 セシリアは再び涙を流す。刹那、そんなセシリアを真耶はセシリアを包むように優しく抱き締める。

 

「や、山田先生、な、何をするんですの?」

 

 セシリアは真耶の行動に戸惑う。が、真耶は優しく囁いた。ーー辛かったのですね? ーーと。それを聞いたセシリアは瞠目するも、真耶は言葉を続ける。

 

「オルコットさん、貴女は辛かったのですね……貴女はお母さんの為に頑張ってたんですね?」

「山田先生、貴女に私の何が……判るのですか?」

「私には貴女の家の事情はよく解りません。ですが私は一介の教師として貴女に言います……貴女は一人ではありませんよ?」

「えっ?」

 

 セシリアは真耶の顔を見ようとするが、セシリアは真耶に抱き包まれている為、見る事は出来なかった。真耶は言葉を続ける。

 

「オルコットさんーー貴女は一人ではありません。この学園の、貴女の所属しているクラスが居るじゃないですか?」

「そ、それは無理ですわ……わ、私は皆さんの前で日本を馬鹿にするような事を言いましたのよ? それを周りは許す筈がありませんわよ……」

「謝れば良いじゃないですか」

 

 真耶の言葉にセシリアは「えっ?」と惚けるも、真耶は未だ言葉を続ける。

 

「謝れば良いのですよ……謝れば皆さんは許してくれます、勿論ーー中には許してくれる筈もない人がいるかもしれませんが、何時かきっと解ってくれますよ?」

「山田先生……私は」

「自信がないのは解っていますーーでも、解ってくれますよ? 私はあまり自信がある事を言えませんが、皆さんは良い人ですから」

「山田先生……貴女は何故、私に怒らないのですの? 私は先週日本を馬鹿にしたのと、教室を飛び出した事に怒らないのですの?」

 

 セシリアは真耶に訊ねる。確かにセシリアの言う通りだった。セシリアは先週日本を馬鹿にした発言をし、尚且つ、教室を出ていったのだ。これには真耶も怒ると思っていたが、真耶は怒らなかった。

 それどころか、真耶の様子にセシリアは疑問を抱いていた。刹那、真耶はその事を答えた。

 

「いいえ責めませんよ……私は日本を馬鹿にした事に怒ってますが、それ以前に貴女がクラス代表に拘る理由が解りましたし……それに私は」

 

 真耶はセシリアを見るーーその表情は母性を感じるかのように優しい顔をしていた。

 

「私は一介の教師であると同時に、貴女の所属しているクラスの副担任ですから!」

 

 真耶はニコッと笑う。それを見たセシリアは目を見開くも、直ぐにまた泣き出し、真耶に抱き着いた。

 

「先生……先生……ワァァァァン!!」

 

 セシリアは真耶に甘えるように泣いた。化粧が落ちようが醜態を晒そうがセシリアには関係なかった。

 セシリアは今、真耶と言う教師に甘えていた。真耶は真耶でセシリアを優しく抱き締めたまま背中を擦る。

 真耶はセシリアを優しく抱き締めたまま、セシリアは真耶に甘える形で泣き続けていた。

 

「……出てこなくても良いかな?」

 

 そんな二人を、壁の陰からこっそりと窺っていた止は二人を微笑ましそうに見た後、静かにその場から離れ、屋上から出ていく形で学園内へと戻った。刹那、放送がなった。

 

『学園にいる教員に連絡します! 学園にいる教員方は大至急、牢屋へと集まって下さい! 繰り返します、大至急、牢屋へと集まって下さい!!』

 

 それを聴いた止は瞠目し、牢屋へと向かった。嫌な予感がする、と。




 次回、ロシア政府の腐った役人達、破滅や鏖殺への序章。
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