ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
その日の夜。ここは学園にある保健室。その保健室には明かりが点いており、室内には保険医はいないがベッドの上には仰向けになりながら瞼を閉じている楯無と、そのベッドの近くには一夏が椅子に腰掛けながら無表情で、楯無を見ていた。
普通、こんな時間帯なら学生は居ない筈だった。嫌、一夏が楯無を此処に運んできたからだった。楯無に何か遭ったと、一夏が思ったからである。
勿論、保険医は突然の事で驚くも直ぐに楯無を診るも、只気を失っているから大丈夫だと言われた為、一夏が一瞬だけ安堵の表情を浮かべたのは言うまでもない。それに二人の右腕にはISの右腕部分は解除されている。
それに保険医は今、教員室で書類の整理をしている為、楯無が眼を覚ました場合は寮に戻り、楯無が眼を覚まさなかった場合は覚ますまで傍に居てやりなさいと言われたのも言うまでもなかった。
ーーう、うぅん……ーー。刹那、楯無の瞼が微かに動き、同時に声が微かに聞こえた。それを見た一夏は眼を見開くも、直ぐに無表情になるーー直後、楯無は眼を覚ました。
楯無が最初に見たのは天井だったが視界がボヤけているのも事実だった。ーーっ!? ーー。楯無は驚きのあまり起き上がるも、自分がベッドの上にいる事に気付き、一夏が近くにいる事にも気付く。
「一夏君……ここは? それに何で私はベッドの上にいるの?」
「……保健室だ。お前が倒れたから俺が此処まで運んだーーまあ、お前は二時間くらい気を失っていたぜ?」
楯無が訊くと、一夏は訳を話す。ーーそうなの……ーー。楯無は一夏から訳を話されそう呟いた。が、楯無の表情は何処か哀しく、何処か寂しそうである。
「どうした? 何処か悪いのか?」
一夏は首を傾げると楯無にそう訊ねるも、楯無は首を左右に振った。
「いいえ……何処も悪いって訳じゃないわ……只、私は何で気を失っていたのかは自分でも解らないのよ……」
ーー解らない? ーー。一夏からそう言われると楯無は頷き、訳を述べる。楯無は何故自分が気を失ったのかは自分でも解らないのと少し解っていた。それはエレーナ先生の事だった。エレーナ先生は気が狂ったように笑っていると言う事が女子の噂と言う形で流れたのだ。
勿論、エレーナ先生が故国にも居場所が無いのと、自分を迎い入れてくれる者達はいないと思ったからである。
が、女子達から見ればエレーナ先生の妹が自殺している事やロシア政府が裏で悪事を働いている事に気付いていない。と、言うよりもそんな強大な陰謀に気付く事は永遠に無いだろう。
だが、楯無はエレーナ先生があんな事になったのは自分のせいではないのかと思っていた。勿論、楯無が悪い訳ではない。悪いのはロシア政府なのである。
にも拘わらず、楯無は自分のせいだと思っていた。そんな楯無に一夏は呆れ溜め息を吐くと、楯無を慰める形で反論した。
「それはお前がそう思っているだけだ。お前が気に病む事ではない」
「でも! 私はロシア代表の間、エレーナ先生や身内にそんな出来事が遭ったなんて知らなかったのよ!?」
「それは当たり前だーー誰しも知らない事はあるーーそれもまた事実だ」
一夏はそう言うと椅子から立ち上がり、楯無の頭に手を伸ばし、楯無の頭を撫でる。ーーあっ……ーー。一夏の突然の行動に楯無は頬を少し赤くしながら瞠目した。
何度目かは判らない、一夏が楯無の頭を撫でる行動。それは一夏が自分の頭を撫でてくれるのと、一夏の手のひらには男性特有の温もりを髪で感じる事が出来る。
それだけではない、一夏が頭を撫でてくれると何故か自然と落ち着く。何故かは判らない。が、現に今の楯無は落ち着きつつあった。楯無は一夏の行動に戸惑いやそれを受け止めつつも、ある事を訊ねる。
「ねえ、一夏君?」
「何だ? 俺に何か用があるのか?」
「いえ……用って訳じゃないけど、一夏君は何で私の頭を撫でるの?」
楯無の問いに、一夏は眉間に皺を寄せるーー反面、哀しい瞳をすると、それを楯無に話した。
「俺にも解らねえ……でも、俺を鍛えてくれた師匠が何時も頭を撫でてくれたからかな?」
ーーえっ? ーー。一夏の言葉に楯無は疑問を抱き、顔を上げ、一夏を見ると、一夏は哀しい眼をしながら無表情だった。
楯無は疑問を浮かべたのは、一夏の言葉にあった師匠と言う存在。それは楯無には判らないが、一夏の師匠はケルティックの事である。
一夏が三年間、別の惑星で修行をする際にケルティックの下で教えられながら、体力作りをしたり、共に狩りをしていた。
あれには沢山の思い出があった。その中で一番に印象に残ったのが、ケルティックが自分の頭を撫でてくれた事である。
最初は一夏は戸惑ったが、ケルティックは何度も撫でてきてくれる為、徐々に慣れていった。人間にはない、宇宙人特有の温もりを一夏は髪で感じていた。
何もしてない訳ではない。一夏はその事をケルティックに訊ねた事がある。何故、自分の頭を撫でてくれるのか? と。勿論、ケルティックは直ぐに答えた。
「師匠はあの時、これ以上の事は言えないけど、こう言ったんだーー『何故かは判らないーーが、お前が頑張ったから撫でたからだ』ってな」
「お師匠さんがそんな事を?」
楯無が言うと、一夏は『ああ』と言いながら頷くが言葉を続ける。
「それに師匠は言ったんだーー『地球では褒める時に頭を撫でたり、落ち込んでいる時にも頭を撫でているからだ』ってーーそれに俺は、落ち込んでいるお前を見たくないからだよ」
一夏の言葉に楯無は「っ!?」と再び瞠目しながらも顔を真っ赤にして、慌てて俯いた。そんな楯無に一夏は無表情で「どうした?」と訊くが、楯無は首を左右に振る。
「な、何でもないわ! た、ただ恥ずかしいから……今度は、そのぉ……」
楯無は恥ずかしそうに顔を上げ、ある事を言った。
「私は別に頭を撫でてもらうのは嫌じゃないけど……人前ではあまりやらないで」
楯無の言葉に、一夏は「はっ?」と何も解らず首を傾げるも、楯無はある事を訊ねる。
「それよりも一夏君ーーお願いがあるの……」
「ロシアへ行くなと言われても俺は否定する」
ーーっ!? ーー。楯無は一夏が自分が言いたい事を先に言った事に驚きを隠せず、顔を上げ、一夏を見ると、一夏の表情は怒りに満ちていた。
そうだろう。一夏はロシア政府のやり方に腹が立っている。その為、楯無が何を言おうが一夏は殺るつもりだった。勿論、彼一人で殺る訳ではない。勇人や止も作戦に参加し、束も作戦に参加している。
因みに、勇人と止は今、止はクラスの女子が企画した自身のクラス代表記念パーティーに参加しており、そこには勇人も居たが箒を見張っている為にその場を動けないでいた。
二人は後から合流するように言った為、問題はなく、合流地点は屋上であり、そこで束に人参型ロケットで御迎えに来るようにも連絡した。準備は、万端だった。
それに今、一夏は色んな意味で足止めされていた。それは目の前にいる楯無にだった。楯無は一夏に詰め寄る形で制服の胸ぐらを掴む。
「ぜ、絶対に駄目よ!! だ、駄目っ!! これ以上、私の関わった事で……っ!?」
刹那、楯無は何かを言い掛けるも一夏が突然、抱き締めてきた。
「い、一夏君?」
これには楯無も驚く。が、一夏は楯無とは顔を合わせなかった。嫌、合わせないと言うよりも、会わせようとはしなかった。そして……。ーーっ!? ーー。楯無は首筋に電流が走る事に気付き眼を見開く。
それもほんの数秒も経たなかった。一夏は楯無の首筋に携帯用のスタンガンを当てたのだ。それは一夏は楯無を抱き締めている間に、ポケットから取り出した物だったのだ。
ーーい、いちーー。楯無は意識が遠くなりながらも微かに一夏の名を呟こうとしたが、無駄に終わった。楯無は一夏に抱き締められながら気を失う。
一方、一夏は楯無をベッドに横向けにする形で優しく寝かせる。一夏の表情は何処か躊躇もないかのように無表情だった。一夏は此れから、勇人や止と共にロシア政府の役人達を殺す。
それは一夏達が自ら課せた天誅。腐った役人達には死が相応しい。今までのロシア政府に関わった者達の無念を晴らす為でもあった。彼等には明日を見せる訳にはいかない、と。
「ごめんな……」
一夏は保険室を出る前に、楯無の頭を撫でる。本当は保険医から言われたが一夏には関係なかった。それに自分は死ぬかもしれない事にも気付いていた。
それは無いに等しいが一夏は敢えて楯無に言った。楯無は気を失っている為に何も言わない。だが、一夏は楯無の頭を撫で終える形で楯無から手を離れさせる。
そして、一夏は表情を険しくし、こう呟いた後に二人に連絡した。
ーー鏖殺、開始ーーと。
次回、ロシア政府に血の雨が降ります。