ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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 最後ら辺に注意。


第69話

 時刻は午前三時を回った頃、ここはIS学園近くにある寮。刹那、寮の屋上から一瞬だけ黄色い光が発せられたが、同直ぐに光は消え、そこから一つの物体が地面に微かに触れるように宙に浮いていた。それは、束が愛用している人参型ロケットだった。

 刹那、人参型ロケットの扉が開き、そこから三人の人物が降りてくる。一夏、勇人、止の三人である。

 それに防具や武器は解除しているが彼等は制服を着ていた。何故なら、彼等はさっきまでロシア政府の大半の役人達を殺したからである。殺した理由は、彼等が行った数々の悪事や元ロシア代表の自殺した本当の真相が理由だった。

 一夏達が人参型ロケットから降りると、人参型ロケットは自動で扉を閉め、そのまま風のように消えた。

 その場に残ったのは一夏、勇人、止だけである。ーー終わったなーー。一夏の言葉に勇人は瞑目した後に頷き、止は表情を曇らせながら頷いた。

 勿論、彼等は人を殺した事に罪悪感はあった。しかし、彼等は悪を行う事を躊躇わない。人を殺す事は許されない事だが、仕方ないと言う一言で片付けるしかなかった。

 

「終わったな……でも、エレーナ先生は元に戻らない……エレーナ先生の妹さんや元ロシア代表の人は生き返らない……」

 

 止の微かに呟くような言葉に、一夏や勇人は止を見る。止の表情は曇っているが哀しい目をしている。そんな止に一夏と勇人は互いを見合うと軽く頷き、再び止を見る。

 

「止、俺と勇人は先に戻る。お前はどうする?」

「俺はもう少し此処にいるよ……一人で居たいから」

 

 一夏が訊ね、止は答え返すと、一夏と勇人は頷き、そのまま寮の方へと戻る形で歩いて行った。それは一夏と勇人の止への気遣いだった。止は一夏や勇人よりも天然だが人を思いやる心や慈悲は僅かにあるからだった。

 その為、止は一人その場に残ったのは、エレーナやエレーナの妹エリーナ、元ロシア代表の者の三人を思い出していた。

 エリーナや元ロシア代表は故国ロシアの、ロシアと言う同じ者達の身勝手な理由で自殺に追い込まれ、エレーナは精神が崩壊している。あのエレーナの狂気的な笑いは今も止の耳に響く。

 過ぎた事かも知れないがあの光景は今も、嫌、一生忘れる事はないだろう。そして、止は空を見上げる。午前三時にも関わらず、黒い空がIS学園や日本全体を暗闇に包んでいる。

 が、止は無駄と判りながらもやるせない思いを吐き出す形で、こう呟いた。

 

「日本もロシアも……自分達の国が栄える為に自分達と同じ国で育ち、同じ血が流れている者達を犠牲にするのかよ……人の命を何だと思ってるんだよ……!」

 

 止はそう言った。そして、止は数分間、その場を動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、後は今日の朝までお別れだな」

 

 一方、一夏と勇人は自分達が住んでいる部屋を出入り出来る扉近くで、一夏は勇人にそう言った。勇人は軽く微笑みながら頷くと、軽く手を振って自分や止と同棲している部屋へと向かった。勿論隣だが一夏は自分の部屋を出入り出来る扉へと近付き、ポケットから、この部屋の物であろう鍵を取り出し、それを扉のドアノブにある鍵穴へと突っ込み、軽く捻った。

 ーーガチャーー。通路内に微かに音が響いた。が、一夏は鍵穴に挿し込んでいる鍵を取り出し、ポケットに戻すと、ゆっくりと扉を開けた。

 勿論、他の女子達を起こさないようにする為であるのと、楯無が寝ているかも知れない為でもあった。前者は兎も角、後者は一夏にはどうでも良かった。

 楯無は今、保健室にいるだろう。何故なら、楯無をスタンガンで気を失わせたのと、あの後の事は知らない。

 楯無が気が付き保健室から出て寮へと戻って来ても、楯無が未だ保健室で気を失ったままでも、今頃気が付いても一夏には関係無かった。

 一夏は扉を開けるーー部屋は電気を点けていないのか真っ暗だが、一夏は部屋へと入り、静かに扉を閉め鍵を掛ける。部屋の中は未だ真っ暗だが一夏は部屋の中を歩く。

 

「一夏君……」

 

 近くから声が聞こえ、一夏は無表情で声がした方を振り向く。そこは自分が寝ているベッド。

 そのベッドには何故か横向けに楯無が寝ており、それを見た一夏は瞠目した。楯無が戻って来ようが戻って来ないが関係ないーーなのに、楯無は自分のベッドに寝ている事に驚いていた。それにさっきの楯無の一夏を呼ぶ声は、楯無自身の寝言だった。

 それに楯無は寝間着を着ているが一夏は何も言えずにいた。ふと、一夏は楯無の近くに自分が使っている布団が無造作に放り投げられている事に気付く。

 

「ったく……面倒くせえ女だな」

 

 一夏はそう呟き、その後に溜め息を吐くと、ベッドの近くまで歩き、布団を持ち上げると、楯無の身体を覆い隠す形で布団を掛けてやる。

 

「う、うぅん……」

 

 すると、楯無の瞼が微かに動き、同時に声が聞こえた。これには一夏は驚くも、楯無は目を覚ます。ーーあっ! ーー。楯無は一夏に気付き、起き上がる。

 

「い、一夏君……ッ、馬鹿っ!」

 

 楯無は一夏を見るや否や一夏に怒りながら、一夏の頬を叩いた。刹那、渇いた音が室内に小さく響く。

 

「っ、何をするんだ!?」

 

 これには一夏は怒り、楯無に詰め寄ろうとした。刹那、一夏は再び楯無に頬を叩かれた。が、楯無は目に薄っすらと涙を浮かべながら下唇を噛み締めていた。

 楯無は泣いていた。しかし、楯無はまた一夏の頬を叩いた。三度目の渇いた音が室内に小さく響くも、一夏は怒りを露にする。

 

「てめえ言い加減に……」

「馬鹿」

 

 一夏は何かを言うのを楯無は一夏に「馬鹿」と言った。それを聞いた一夏は「えっ?」と惚けるも、楯無は一夏の胸元に飛び込む。

 

「お、おい楯無!?」

「馬鹿、馬鹿、馬鹿っ……!」

 

 一夏は楯無の突然の行動に戸惑うも、楯無は顔を一夏の胸に埋めながら「馬鹿」と言い続けた。それには訳があったが今はそんな事を言ってる場合ではなかった。一夏は楯無の行動や楯無が泣いている事に怒りが消えていくのと、戸惑いを隠せないでいた。

 楯無が何故泣いているのかは解らないが、一夏は「ッ……」と下唇を噛みながら何も出来ないでいた。楯無が平手打ちをしてきた方の頬は微かに赤くなっており、一夏自身も頬に微かに激痛が走っている事に気付くも、今は何も出来ないでいた。

 一夏は楯無が泣き止むまでその場を動けないでいた。それも数分間は続いたのは言うまでもない。

 

 

「そ、そんな……」

 

 あれから数分後、楯無は落ち着きを取り戻し、一夏に何処に行ったのかを訊ね、一夏は渋々答えると、楯無自身は戦慄した。因みに一夏と楯無は一夏のベッドで隣同士に腰掛けている。

 実は楯無は一夏が数分前に勇人や止と共に、ロシア政府の役人達の大半を皆殺しにした事を一夏から教えて貰っていた。

 これには楯無は戦慄しない訳にはいかなかった。一夏は又、自分のせいで人殺しをしたのである。今度の殺人は誘拐犯よりも何倍も多い人達を殺したのである。その証拠に楯無は身体を震わせていた。

 

「恐らく明日はロシア政府の数々の不祥事や元ロシア代表が自殺した真相が全世界にセンセーショナルに報道されるだろうな……だが、そんなのは俺には関係ない」

 

 それを聞いた楯無はますます身震いし、顔を青褪める。そうだろう、一夏は最早、死刑になっても良い程の大罪を犯している。それも全て、自分に拘わっている事だからだ。

 

「あ……ああっ……」

 

 楯無は何かを言い掛ける。だが、何を言えば良いのかが解らないでいた。一夏に謝罪を述べても一夏の罪が消える訳ではない。一夏に何の行動をすれば良いのかも解らないでいた。やったとすれば、自分は一夏をこれ以上人を殺させない為に止める行動をしたが無駄だった。

 自分は暗部の人間なのに、目の前にいる一人の青年に自分に関わっている事で沢山の罪を犯させてしまった。自分は何が暗部の人間だ、自分は何が更識の当主だ、と楯無は自分自身に問い質していた。

 

「……チッ」

 

 そんな楯無を見た一夏は呆れると、楯無の頬に口付けした。

 

「なっ!?」

 

 これには楯無も驚き、楯無は一夏を見る。一夏はそっぽを向いていたが、無言で楯無の頭を撫でる。

 楯無は再び驚くも、一夏は無言かつそっぽを向いたまま、楯無の頭を撫で続けていた。それは長くも短くもない。それは一夏が「もう寝る」と言うまで、続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、エレーナ先生は学園側が相談した結果、ロシアに帰す事が決まり、エレーナ先生は翌日、ロシアに強制送還されたがその日の夜に自殺した……。




 次回、あの中国娘が登場!
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