ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「成る程ね……その人はロシア政府の件で自分はロシア代表になって後悔しているのと、どうすれば良いのかは判らないのね?」
鈴は一夏から自分と楯無に起こった出来事を話した。しかし、その中には一夏が人を殺した事や楯無の身内に遭った出来事のせいで人を殺した話はしていない。
実は、一夏は楯無とはどう接したら良いか判らなくいのと、楯無が何を考えているかは判らないでいる。
そうだろう、一夏は女性の気持ち等判らない。例え楯無でなくても、隣にいる鈴や、毛嫌いしている箒に、今現在絶縁状態に等しい千冬ーー彼女達が一夏の事を想っていても、一夏は彼女達の気持ちを理解していないだろう。
それは本題ではないーー本題は、楯無がロシア代表になったのと同時に、元代表だっだ人が自殺した事、エレーナ先生のその妹、エリーナの姉妹の身に不幸な出来事が遭った事を一夏は全て話した。
どれも、自分が解決出来る本題ではない。元ロシア代表の人やエレーナが自殺した件はロシア警察が調べ終わった後の為解決している。
反面、本題ではないが楯無の件が残っている。それは一夏にとって最大の問題であり、障壁とも思える問題。
虚から聞いたが楯無は当主としての自信を無くし、更には突然、不思議ちゃんになったりと訳の解らない行動をし始めた。
これには一夏も戸惑い、悩みを抱える。それを今、鈴に吐き出す形で語り終えたのである。
「俺、解らなくなったんだよ……俺は更識の為にちゃんと向き合っているのか? ちゃんと自信を付けさせているのか? ってな」
「一夏……」
鈴は哀しそうな眼で一夏を見詰めるも、一夏は顔を両手で覆い隠す。
それは一夏がプレデターから闘う為や狩りの仕方を教えられ、精神面が強くなった反面、友情や家族の事、そして更識楯無と言う、たった一人の少女を助けているのかと、自分に疑問を抱き始めていた。
一夏は今にも泣きそうなのか、顔を両手で覆い隠している。一夏自身が弱気になっているのだろう。彼はプレデターに鍛えられていながらも一人の人間。
一夏は完璧な人間でありながらも完璧な人間ではない。嫌、完璧な人間程、誰かに頼りたいと言う強い気持ちがあるからだ。一夏はその一人でありながら、今まさに弱気になっている。
そんな一夏に、鈴は声をかけた。
「そんなの、誰かに頼りなさいよ?」
鈴の言葉に、一夏は驚き、両手を下ろすと、鈴の方を見る。鈴は少し笑っていたが言葉を続けるかのように言葉を述べる。
「そんなの誰かに頼りなさいよ一夏、何でもかんでも一人で背負うような事はしちゃ駄目よ?」
鈴は人差し指を軽く左右に振る。
「一夏、人はね一人で生きて行く事は出来ないわーー誰かに、周りに頼ってこそ成長する者よ? それに女性の悩みは女性から訊くのは当たり前よ?」
「でも……お前は更識を自信つける自信はあるのか? 俺でも無理だったんだぜ?」
「だからよ?」
鈴の言葉に一夏は首を傾げる。が、鈴は言葉を続ける。
「だからよ一夏? それに更識って人は貴方に対してあんな……いえ、それ以上は言えないけど、貴方から自信をつけるよう言われたから、彼女は貴方に恩があるからこそ、あんな行動をしたと私は思うわ」
「更識が……俺に?」
一夏は何故か戸惑いながらも自分を指差すと、それを見た鈴は呆れて溜め息を吐く。
「貴方は馬鹿なの? 更識さんは貴方に恩があるからあんな行動をしたとさっき言ったじゃない?」
鈴は呆れながら訳を話す。それは一夏が女性の気持ちを理解していないと言う事も意味していた。これには鈴も呆れるどころか、彼は何処まで鈍感なのかを疑ってしまう。
嫌、今は一夏に楯無に件の解決とも言える回答をするのが先であり、鈴は呆れながらも言葉を続ける。
「良い一夏? 女性の悩みは女性に訊きなさい。女性の気持ちは女性がよくわかる物よ? 男性がよく解る物じゃないわーーそれに……」
鈴は哀しそうに俯く。そんな鈴に一夏は疑問を抱き訊ねると、鈴は我に返り表情を晴らすと首を左右に振る。
「な、何でも無いわ! そ、それに更識さんには知り合いはいるんでしょ?」
「あ、ああーー黛先輩に虚先輩ーー後は、のほほんさんに簪と言う更識の妹かな? それ以外の交友関係は判らないな……」
一夏は楯無の女性関係者の者達の名を言う。因みにのほほんさんとは本音の事であり、簪は前に楯無から聞いた為に逢ってはいないが教えて貰った。
それに、一夏の回答に鈴は考える。
「そう……でも、それだけで充分よーーねえ、一夏にお願いがるの?」
「俺にお願い?」
一夏の言葉に鈴は頷く。
「ええ、一夏にはその人達に更識さんを元気づける為に力を貸してって言って頂戴、私は更識さんの方を何とかするから」
「何とかって……鈴は更識に用があるのか?」
「ええ、ちょっとね……」
鈴は再び哀しそうに俯く。何故なら、鈴は楯無に訊きたい事があった。それは楯無が一夏が好きなのかを訊ねたかったのだ。
一夏からあんな行動をしたのは、楯無が一夏に好意を寄せているような行動だと、鈴は思ったのである。もしそれが本当ならば、鈴にとって恋のライバルであり、超えたい存在。
本来なら楯無自身から訊きたいが今は一夏の悩みを解決する為に、楯無に自信をつける為に行動しなければならない。
ーーその話はいずれ、楯無と一対一の話になる時に訊ねよう。だが今は、その話は、隅に置いておこうーー。
鈴はそう思いながらも頷くと、再び表情を明るくすると顔を上げ、一夏に言った。
「どう一夏? 少しは自信がついたかしら?」
「あ……ああーーそれにありがとな」
鈴の言葉に一夏は少し肩の荷が落ちたかのように微笑むと、鈴の頭を撫でる。
一夏の突然の行動に鈴は瞠目しなが頬を少し赤くするもすぐに一夏の行動を受け入れる。刹那、鈴は目に涙を浮かべる。
鈴にとって一夏と二人きりになれた事に喜びを隠せないでいた。それは二度目の再会とは違い、今回は学園での再会。それも何時でも逢えると言う事実に喜びを隠せないでいる。
鈴にとって、隣にいる青年は初恋の相手ーー自分を中国人だからといって周りから苛められていた自分を助けてくれた恩人でもある。
願わくば、ずっとこのまま時が止まって欲しいーーたとえ一瞬でも良い……このまま、彼と一緒に居たい。鈴は今、そう願っていた。
「おい、貴様、一夏に何をしているんだ!?」
しかし、それを潰す者が居た。二人は声がした方を見ると、剣道着を身に纏い、竹刀を片手に持っている箒がいた。
何故剣道着を着ているかは判らないが恐らく部活の早朝での訓練である場所へ行く頃か帰る頃なのだろう。勿論、どちらかは判らないが箒の表情は怒りに満ちている。
「誰よあんた?」
「ちっ!」
鈴は箒が誰なのかを判らず戸惑う一方、一夏は舌打ちをする。最悪な奴に逢ってしまった、と。
そんな二人が何を考えているかも判らない箒は、一夏と鈴が座っているベンチへとズカズカと歩み寄り、ベンチの近くにまで来ると、一夏に訊ねた。
「おい、一夏!? この女は誰だ!? それにお前は誰だ!?」
箒の言葉に鈴はたじろぐも、一夏はイライラしながら答えた。
「彼女は鈴ーー俺の幼なじみだ」
「なっ!?」
一夏の言葉に箒は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべた。が、箒が驚いたのは、一夏には自分の他にも幼なじみが居た事だろう。箒から見れば幼馴染は自分だけだと思っていたからだ。
そんな箒を他所に、鈴は一夏に訊ねる。
「ねえ一夏? この人は誰? 知り合いなの」
鈴が訊ねると、一夏は首を左右に振ると、こう答えた。
「嫌、知らないーー此奴は俺に付き纏っている奴だ」
「なっ!? 一夏、お前は何を言ってんだ!? 私達は幼馴染みではないか!?」
箒は慌てながら反論する。が、一夏は険しい表情でそれを否定する。
「何が幼なじみだ。お前は俺に勝手に付き纏っては、俺に好きでもない剣道をやらさせていたじゃねえかーーそれにお前は俺が嫌だと言ったら竹刀で叩こうとしたじゃねえか!?」
「あ、あれはお前が私の言う事を聞かなかったからではないか!? どう見てもあれはお前が悪い!」
「っーーいい加減にしろよ!?」
一夏の叫び声に鈴と箒は肩を竦めるも、一夏は舌打ちすると、鈴を見る。
「行こうぜ鈴、こんな奴と話しても時間の無駄だ、それよりも勇人や止を紹介したいから寮へと来てくれないか?」
一夏の言葉に鈴は戸惑うも、一夏は鈴の手を掴むと、立ち上がる。鈴も一夏に吊られて立ち上がるも一夏は鈴を連れて寮へと戻る。
箒とすれ違ったが一夏は箒を見なかった。
「一夏……っ!!」
箒は一夏が自分を見なかった事に愕然とした。それに一夏と鈴は寮へと戻る為に歩いていたのか少し離れた場所にいた。
しかし、箒は表情を険しくするも、こう思っていた。一夏は自分の物だーー更識やあの女の物ではない、と。箒は振り返ると、竹刀を振り翳しながら一夏の近くにいる鈴目掛けて脳天を叩こうとした。
「貴様あーーーーっ!!」
箒は怒りに身を任せて竹刀で鈴を叩こうとした。
「っ!? 鈴!?」
一夏と鈴は箒に気付くも、一夏は鈴を突き飛ばす。刹那、鈴が尻餅をついた直後に、何かを叩く大きな音が聞こえ、同時に一夏は箒の竹刀で頭を叩かれ、叩かれた所から出血している。
そして、一夏は仰向けに倒れ、そのまま意識を失った……。
「一夏ーーーーーーーーっ!!
そして、それを見た鈴の悲痛の叫び声が辺りに響き渡った……。
次回……これもネタバレになる為、何も言えません。