ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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第73話

「あ~~もう大丈夫なの?」

 

 鈴が失恋していると思い泣き始めてから数分後、止は恐る恐る鈴に訊ねる。鈴は未だ泣いている訳ではないが瞑目しながら鼻を啜り、止に答える形で頷く。

 一方、楯無はもう泣いてはいないが鈴から目を逸らしているーー鈴への罪悪感なのだろう。楯無は罪悪感に苛まれていた。

 鈴に嘘を付いたのと、鈴を悲しませてしまった事だろう。勿論、楯無は別に鈴を悲しませる訳ではなかったーー嫌、既に悲しませている。

 楯無は心の中で「ごめんなさい」と呟く。

 

「そっか……それにしても貴女が一夏の幼馴染みね~~あの……篠ノ之だっけ? 彼奴も一夏の幼馴染みって言ってるけど、一夏が違うって言ってるけど」

 

 止は鈴を見て感心と、箒に嫌悪感というよりも疑心感を抱くような事を言う。止から見れば初対面かもしれないが一夏から鈴の事を聞いている為、逢う前に知っている。

 そんな止に鈴は瞼を開き、顔を上げ、止を見る。鈴の表情は何処か悲しいが何処か疑問を浮かべている。が、目尻には涙の痕が残っている。

 

「それはそうだけど、貴方は霧崎止って言うの?」

「ああ。さっきも自己紹介したけど俺は霧崎止、一夏とはちょっとした縁で友人だ」

「そうなんだ……それよりも貴方に訊きたい事があるわ」

「何かな?」

 

 止は首を傾げると、鈴は何故か俯く。止が心配して声を掛けると、鈴は俯きながらも何かを決意したかのように頷き顔を上げると、訊ねたかった事を止に言った。

 

「一夏が、私達の前から消えた空白の三年間、一夏に何が遭ったのかを教えて」

「えっ?」

 

 鈴の質問と言える言葉に止は目を丸くする。鈴は止から、一夏の空白の三年間を止から訊きたかったのである。

 最初、鈴は一夏と再会した際、一夏と再び逢えた事に喜びを隠せなかったが一夏が三年間何処に行ってたのかまでは聞いていなかった。

 あの時は鈴は一夏と再び逢えた事に喜んでいた為に、そんな事を聞き忘れたのだろう。再びこの学園で再会した際も、聞き忘れていた。

 しかし、一夏に空白の三年間を訊く前に、一夏は鈴を庇う形で箒の竹刀により気を失ってしまう。これでは一夏から三年間の事を訊く事は出来ない。

 例え訊いたとしても、一夏はその事を教えてくれるとは限らない。それならば、一夏の親友でもあり、一夏の空白の三年間を知っているであろう止から聞こうと、鈴は思った。

 勿論、それは間違っている事だ。止から訊いても一夏が喜ぶ訳でもなく、逆に自分や一夏や勇人が困る。自分達はプレデター達に鍛えられたのだ。

 もしも自分が話せば、彼等の存在まで話す事になる。それだけは嫌だった。止は鈴の質問には、こう答えた。

 

「悪い、それだけは無理だ」

「そんな……どうしてよ!? 私は一夏に何が遭ったのかを気になるのよ!?」

 

 これには鈴も困惑するが止に詰め寄る事まではしなかった。そんな鈴に、止は首を左右に振ると、悲しそうに目を附せ、言葉を続ける。

 

「俺が言うのも何だけど、それで一夏は喜ぶのかな?」

「……えっ?」

 

 止の言葉に鈴は目を見開く。そんな鈴に止は訳を話す。

 

「なぁ、凰さんは一夏の過去を知ってどうするの?」

「えっ……そ、それは」

 

 止の質問に鈴は戸惑いを隠せない。

 

「解らないみたいだね? それはそうさ? 人は誰しも、語りたくはない過去を持ってるよ? それに一夏は凰さんから過去を教えてくれと言われても、教える気はないと思うんだ」

「そんなの解んないわよ! それに一夏を心配してるのよ! 一夏はずっと一人で辛い思いをしてきたのよ! だか」

「それは違う!」

 

 鈴が言い終わる前に止が叫んで遮る。それを聞いた鈴は肩を竦めながら一瞬だけ目を閉じてしまう。

 楯無は目を閉じなかったが何も言わず、止と鈴のやり取りを見守る。一方、鈴は恐る恐る目を開け、止を見る。

 止は未だ悲しそうに目を附せていた。刹那、止は一瞬だけ瞑目するが直ぐに瞼を開き、言葉を続ける。

 

「凰さん、貴女のしている事は間違ってる。人は皆、沢山の過去を持ってる。その人自身が楽しかった事や辛かった事等の思い出は沢山あるーーなのに中には自分が思い出しくもない過去を持ってる人もいるんだ。その人自身の辛かった過去を思い出さそうとする何て間違ってるーー貴女は何がしたいの? 貴女は只、一夏を助けたいから俺から一夏の過去を訊き出そうとしたんでしょ?」

「そ、そうよ……私は一夏を」

「一夏はそれで喜ぶの? 一夏は自分の辛かった過去を凰さんに話す勇気はあるの? それは俺には判らないけど、一夏は絶対に話さないよ」

 

 止は言葉を述べるがそれは止自身が一夏を気遣う為や、一夏の空白の三年間やプレデター達の存在を鈴に教える訳にはいかない為でもあった。

 それに、一夏の事を鈴に教えても一夏は喜ばない以前に一夏を苦しめ、親友を裏切る事をも意味している。

 止はどちらも取るつもりはなかった。あったとしても、止は死を選ぶ。止はそう覚悟していた。

 

「凰さん……俺が言える事が只一つ、一夏を苦しめないでーー彼を、一夏を想うのなら、一夏を友人と接したいのなら、彼を見守るか助けて上げて」

 

 止はそう言うと、悲しそうに俯き下唇を噛む。

 

「身勝手なのは判るよ……でも、一夏と長い時間一緒にいるのは貴女だーー俺は君に嫉妬している訳じゃない、俺は一夏が苦しんでいるのを見たくないんだ……彼は俺達に頼る事もあるけど、何でもかんでも一人で背負おうとしている……姉の事や篠ノ之の事だ」

 

 止はそう呟きながら身体を震わせる。

 

「あいつは俺達のリーダーとして、復讐とも言える対象達に苛立ちを隠しているけどあいつは我慢しているーー二回ぐらいキレたけど、彼奴は自分の姉が俺や勇人から、彼奴自身の過去を訊こうとした事を勇人が教えたら、彼奴は姉への怒りを露にしていた……!」

 

 止はそう言い終えると顔を上げ、鈴と楯無を交互に見る。その表情は何処か寂しい。

 それでも、止は最後とも言える事を鈴や楯無に言った。

 

「貴女方にお願いがあります。一夏を助けて下さい! 凰さんは解るか解らないかのどっちかは判らないけど一夏は本当は優しい奴なんだ! あの時、火事の中で死に掛けていた俺を助けてくれたのは」

「馬鹿野郎が……!」

 

 止は何かを言い掛ける前に、とある人物の声が聞こえた。この突然の事に止、楯無、鈴の三人は驚きながら声がした方を見る。

 そこはベッドからだった。そこにいるのは勿論、一夏である。さっきの声の主は一夏だった。

 

「「一夏!?」」

「一夏君!?」

 

 止達三人は一夏を呼ぶと、一夏は瞼を開けるが表情は険しい。そんな一夏を見た止達は表情を明るくしながら再び一夏の名を呼ぶ。

 

「うるせえよ……それに、痛つ」

 

 一夏は頭に走る激痛を堪えながら起き上がる。ーーあっ! ーー。一夏が起き上がるのを見た楯無と鈴は慌てて、両側から一夏が起き上がるのを手伝う形で支える。

 

「一夏……何時から起きてたの?」

 

 そんな一夏に止は恐る恐る訊くと、一夏は険しい表情を浮かべながらも答えた。

 

「お前が鈴から俺の過去を訊かされた所まで」

 

 一夏の言葉に止は「うぐっ!?」と言いながらバツの悪そうな表情を浮かべる。一夏には最初から全てを聞かれていた。

 これには止も顔を赤くするが一夏は表情を険しくしたままである。一夏は止に何か言いたそうだった。

 止は止で一夏が何を言うのかを気にしていた。勿論、止は一夏が何を言うのかは判らないが一夏の表情を見れば一目瞭然だろう。

 

「止……」

「あ、ああ」

 

 止は一瞬だけ身体を震わせる。ーー……ありがとな……。刹那、止は耳を疑う。だが一夏の表情は何処か優しかった。

 

「い、一夏、お前今なんて?」

 

 止は恐る恐る訊くと、一夏はムッとした表情をするが頬を赤くしながら頬を掻く。

 

「だからよ……ありがとなって……お前が更識と鈴に俺を助けてくれと言った事にありがとうって言いたいんだよ……」

 

「い、一夏……」

 

 止は一夏の言葉に言いたい事を言えず、彼の名を呟く。

 

「だからよ俺は、その、お前に感謝してんだよ……俺はお前が俺をそこまで心配しているんだな~~って……」

「あ、ああーーっ~~!!」

 

 止は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしながら顔を両手で覆い隠しながら声を上げる。

 一方、一夏は恥ずかしそうに俯く。

 

「な、何か私達」

「お、男達の恥ずかしい友情を見せられたようにも思えるわね?」

 

 そんな二人に楯無と鈴は蚊帳の外だった。しかし、保健室内に止の恥ずかしさのあまりの声が木霊する。

 だが、そんな止に一夏は俯きながらも、三人に見せないように少し微笑みながら微かに呟いた。

 

 ーーありがとな、止ーーと。




 次回、一夏と止、怒る。
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