ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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第74話

「取り敢えず、教室に戻るか?」

 

 少し経った後、一夏は楯無、鈴、止の三人に訊ねる。

 

「そうだね、そろそろ一時間目の授業が始まる頃かもしれないからね?」

 

 一夏の問い掛けに止は頷き、その後訊ね返す。

 

「それにしても、一夏は大丈夫なの? まだ頭が痛むんじゃないの?」

 

 鈴は一夏を心配し声を掛けると、一夏は鈴を見て微笑むと首を左右に振る。

 

「大丈夫だーー俺は修ぎ……嫌、頭は頑丈な方だからな?」

「そう……だったら、いえ、取り敢えず私は先に戻るわね?」

 

 鈴はそう言うと、一夏に背を向ける。後ろから一夏の自分の名を呼ぶ声がしたが鈴は肩越しで一夏を見る。鈴の瞳は何処か寂しそうだった。

 それでも、鈴は俯くと一夏に「じゃ、後でね」と言い残し、足早で保健室を出ていく。そんな鈴の様子に一夏は何も解らず首を傾げ、楯無に至っては哀しそうに俯き、止に至っては何も言わずに目を逸らす。

 一夏は兎も角として、二人は鈴の様子とその原因は解っていた。鈴は失恋したと思っている。

 それは一夏が楯無を箒から守る為の嘘の告白をしたからである。その所為で鈴はショックを受けているのだ。そうなったのも一夏や楯無が原因だろうがそれを知っているのは止と、此処にいない勇人の二人だけ。

 一夏や楯無は兎も角として、彼等もまた、鈴を騙しているような事をしているに過ぎない。

 

「鈴の奴、どうしたんだ? 何か悩んでいるように見えたけど……なんか知らないか?」

 

 一夏は二人に鈴の事を訊ねると、楯無は下唇を噛みながら俯き、止は困惑しながらも「そうかな……」と答えた。二人は知ってるが一夏は生憎未だ解らないでいる。

 

「どうしたんだろ鈴? ……それに……」

 

 一夏は表情を険しくする。一夏はある人物を思い出した為に表情を険しくしたのだ。その人物とは、篠ノ之箒ーー自分がこんな目に遭ったのも全て彼女のせいである。

 一夏は二人に箒はどうしたのかを訊ねると、保健室の扉が勢いよく開き、一夏達三人は扉の方を見る。

 扉を開けたのは鈴ではない。扉を開けたのは、肩で息をしながら汗を掻いている虚だった。虚は俯いているがその表情は何か焦っている。

 

「う、虚ちゃん、ど、どうしたの? そんなに汗をかいて? な、何か遭ったの?」

 

 楯無は虚の様子に只ならぬ様子に疑問を抱きながらも訊ねる。すると、虚は荒い息をしながら言葉を述べる。

 

「じ、実はお嬢様、た、大変です! お、織斑先生が、は、勇人君に!」

「勇人がどうしたんだよ!?」

 

 虚の言葉に『勇人』と言う人物の名が出るや否や、一夏が驚きを隠せずそう叫ぶ。一方、止も勇人に何が遭ったのを気にしているのか苦虫を噛み締めたような表情を浮かべている。

 しかし、二人は勇人に何が遭ったのかを気にしていた。勇人だけならまだしも、織斑先生ーーつまり、千冬の名前もあった。

 勇人と千冬の間に何か遭った。二人から見ればそう結論付ける事を意味しているだろう。嫌、今は虚が何を言いたいのかを二人は気にしているが楯無は怒りを隠せない一夏を支える。

 

「お、落ち着いて下さいーーじ、実はお、織斑先生が勇人君に暴力を振るったそうなんです!」

「「なっ!?」」

「えっ!?」」

 

 虚の言葉に一夏と止は眼を見開きながら声を、楯無は声を上げる。千冬が勇人に暴力を振るった? それは三人から見れば信じられない事で耳を疑っているだろう。

 それ以前に勇人が何故、千冬から暴力を振るわれる事になったのか、何故千冬は一介の教師でありながら一介の生徒である勇人に暴力を振るったのだろうか。

 今は色々あるが今は色んな意味で驚きを隠せないでいる。

 

「な、何が遭ったのよ虚ちゃん!? 何故織斑先生が!?」

「私にも解りません! ですが今は織斑先生は山田先生や他の先生方が落ち着かせていますが勇人君は未だに……」

「あの女ーーっ!!」

「絶対に許さないよ!」

 

 虚が何かを言い終える前に一夏と止の怒りの籠った叫び声が木霊し、それを近くにいた楯無と虚は一瞬だけ驚き、二人を見る。

 一夏は憤怒の形相を浮かべ、止は一夏程ではないが少し怒っている。

 

「あの女、ぶっ飛ばしてやるーーッ!!」

 

 一夏は千冬に怒りを隠せず起き上がる。止と共に保健室を出ていこうとした。

 

「駄目よ一夏君!!」

「いけません霧崎君!!」

 

 そんな二人に、楯無は一夏を、虚は止を宥める。楯無は一夏の背中にしがみつき、虚は止の前に出て落ち着かせる。

 

「放せ更識! 何故止める!?」

「そんな事しても貴方や止君はどうなるのよ!?」

「そんなの関係ねぇ! あの女は勇人を、俺達の仲間に手を上げたんだぜ!? そんな許される事じゃねえよ!」

「それは私も解ってるわ! でもそんな事をしても貴方や止君はどうなるの!? 貴方達は停学か最悪、退学になるかもしれないわよ!?」

「それも関係ねえ! 仲間が理不尽に傷付けられたんだ! 例えてめえだろうが……っ!? ああっ!」

 

 刹那、一夏は頭に微かに痛みが走るのに気付き、頭を抑える。

 

「一夏君!?」

 

 一夏を見た楯無は驚きの声を上げる。一方、止や虚も一夏の様子に気付き、止は「一夏!?」と言いながら慌てて、一夏の元へと駆け寄ると、虚も一夏の方へと駆け寄る。

 その間に、楯無は一夏にしがみつくのを止めると、一夏をベッドの上に寝かせた。

 

「痛つ……クソッ、なんでこんなに頭が痛むんだ?」

 

 一夏は頭に走る痛みを堪えながらも手で抑えつつ歯を食い縛ると、再び起き上がろうとした。

 が、それを楯無が一夏をベッドに寝かすように押さえる。

 

「寝てなきゃ駄目よ!」

 

 楯無は一夏を心配し声を上げる。一方、止と虚は一夏のベッドの近くまで来ていたが二人も一夏を心配しているのか、困惑している。

 

「そんなのは俺には関係ない……! 俺はあのクソ教師が、あの女が勇人に、俺や止の大切な友人に暴力を振るったんだぞ!? そんなの許される筈もねえだろうが!?」

「それは解るわよ!? でも貴方が勇人君の為に織斑先生に何かをしたら、勇人君は喜ぶの!?」

「そんなの解んねぇよ! 俺は仲間の為に……」

「そんなの間違ってるわよ!!!」

 

 一夏が何かを言い終える前に楯無が遮る形で叫ぶ。それを聞いた一夏や止は突然の事に瞠目し、虚は驚く。

 

「さ、更識?」

「お、お嬢様?」

 

 一夏と虚が楯無に訊ねると、楯無は肩を震わせながら怒りと悲しみが混じったような表情で一夏を見詰めていた。

 

「駄目よ一夏君……そんな事をしても、貴方の得にはならないわ……! いいえ、私は貴方を心配しているからそう言ってるのよ!」

「な、何を言ってるんだよ?」

「まだ解らないの!? 貴方は何で自分を大事にしないのよ!? 何で自分が得にもならない事をしようとするのよ!? 私はそこが解らないわよ!?」

 

 楯無は静かに怒りながら言葉を続ける。そんな楯無に一夏は何も言わず、止と虚は楯無の言葉に耳を傾けていた。

 

「さっき止君が言ったのを貴方は聞いたか解るか解らないかは知らないけど、止君が言ったじゃない……貴方は止君や勇人君の親友でもあるけど貴方は何で自分一人で得にもならない事をするの? 貴方は何で、自分一人で背負うとしてるの? ……貴方はあの時、私に言ったじゃない……誰かに甘えろって……それなのに今の一夏君は誰にも甘えてないじゃない」

 

 楯無はそう言った後、一夏の手を両手で包むように握る。

 

「一夏君……誰かに甘えて、私にも甘えてーーそれに勇人君の件は私や学園長に任せて」

「学園長?」

 

 楯無の言葉に、止は首を傾げながらそう呟く。因みに学園長とは、この学園で一番偉い人の事である。刹那、楯無は目を閉じる。

 

「お願い一夏君、此処は私達に任せて……それにこれ以上、自分を苦しめるような事をしないで……お願い……お願いっ!」

 

 楯無は瞑目しながら、そう一夏に懇願した。それは楯無の一夏を思うが故のお願いでもあった。

 もうこれ以上、自分を苦しめるな、自分一人で背負うような事をしないでくれ、と。

 楯無は一夏にそう言いたかった。そんな楯無に虚は少し微笑んでいた。虚は楯無の言動に少し喜んでいた。

 ーー楯無は少しだけ自信を取り戻しているーー。虚から見れば楯無が少しだけ自信を取り戻した事が嬉しかったのだろう。

 そして、そんな楯無の懇願に、一夏は無言で楯無を見据えていたがやるせない気持ちを抑えつつ、楯無から目を逸らし下唇を噛むと、不意に呟いた。

 

 ーー勇人を頼むーー、と。それは一夏は楯無の願いを聞き入れた事を意味していた。

 が、それだけでも、楯無から見れば嬉しかったのは言うまでもない。

 そして、数分後、楯無は一夏の姉、千冬と対立するような話をするのは楯無自身や千冬、周りも知る由もないのも言うまでもなかった。

 

 

 




 次回、楯無対千冬、一夏を想う者同士の話し合い。
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