ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「あんたは!? ……束さん!?」
止は保健室に入ってきた人物ーー束を指差しながら驚きを隠せない。一方、勇人は元より、楯無や虚、真耶は束を見て驚きを隠せない。
「いっ君!!」
束は止や勇人や楯無達の事等眼中に無い意味で、楯無の近くにあるベッドで横になりながら気を失っている一夏を見て戸惑いを隠せず、ベッドへと駆け寄る。
「いっ君! いっ君!!」
束は一夏を呼び掛けるが一夏は目を覚まさない。それでも束は一夏を呼び続け。
「あ、あの束さん?」
束が一夏を呼び続ける中、止は恐る恐る束に訊ねるも、束は一夏を呼び続けていた。そんな中、勇人は束を見て呆れているのか、頭を押さえ、楯無、真耶、虚に至っては彼女が束だと言う事に驚きを隠せないでいた。
彼女達三人は彼女が、この人が篠ノ之束である事に驚きを隠せないでいる。それだけでなく、束は天才でありながらも天災と言われ、ISを造った科学者でもある。
無理もない、三人は束が此処に居る事にも驚いている。彼女は世界中の政府や科学者達が血眼になってまで捜している人物でもあり、指名手配さえもされている。
それにもう一つ、彼女達は別の理由で驚いている事があったーー束が纏っている服装だろう。束が纏っている服は不思議の国のアリスが着ているような白いドレス。
誰から見ても、束は科学者でありながらメルヘンチックな服装を着ている事に驚いている。勿論、科学者全てが白衣を着ている訳ではないので、そこは何も言えない。
「た、束さん……ちょっと」
止は再び束を落ち着かせる為に再び声を掛けると、束は困惑した表情で止と、隣にいる勇人を見る。
「とーくんにはやちゃん……いっ君に、いっ君は大丈夫なの!?」
「と、取り敢えず落ち着いて下さい! 束さん、何故貴女が此処に居るのですか? それに何故、一夏が倒れた事を知ってるのですか?」
「はやちゃんが教えてくれたの! はやちゃんが、いっ君が箒ちゃんやちーちゃんのせいで大怪我を負ったって!」
「勇人が!?」
束の言葉に止は驚きながら、勇人の方を見ると、勇人は瞑目しながら腕を組んでいた。勇人は何時束に連絡したかは判らないが止は一夏の安否を気にしながらも、再び束に訊ねる。
「取り敢えず束さん、貴女は何時此処に?」
「私はいっ君を治療したいから、ラボに連れて行こうと思ったから、急いでこの学園へと来たの!」
「ええっ!?」
止は再び驚きを隠せない。が、そんな止に束は言葉を続ける。
「いっ君は只、頭を怪我しているんでしょ!? だったら私が医療用目的で造ったアンドロイド、ビショップな」
「あのっ!!」
束が何かを言い終わる前に楯無が束に話掛ける。刹那、束は突然の事に驚く。
「な、何かな? それに君は、誰?」
束は何故か楯無に嫌悪感を見せるような冷酷な眼差しを向けていない。本来の束なら自分が良く接している人物達以外には心を開かない。
なのに、今の束は何故か楯無とは普通に接している。
何故なら、束は一夏達に人と接する大切さを教えられたからである。人と接する事が如何に大事で、如何に必要なのかを、一夏達は教えたのである。
「君は、誰?」
「あっ……私は更識楯無と申します。貴女が、篠ノ之束、ですか?」
楯無は束に自分の名を教えると、束は瞠目しながらも慌てて自分の名を教える。
「そ、そうだよ! 私は篠ノ之束だよ! それよりも貴女なの? いっ君が大事にしている人って?」
束の言葉に楯無は「えっ?」と目を見開く。いっ君が大事にしている人? それは楯無にとって、信じられない事を教えられたような物でもあった。
それは一夏が楯無を大切な人だと言い換えれば判り易いだろう。そんな楯無を他所に束は言葉を続ける。
「はやちゃんが教えてくれたの……いっ君が箒ちゃんから守りたい、大切な人が居るって……それが君だったんだね?」
束が楯無に訊ねると、楯無と、勇人の隣にいる止は驚きながら、勇人を見る。勇人は瞑目していたが何故か顔を逸らす。
「そ、それは……」
「言わなくても良いよ? それに此れもとー君から聞いたよ? 君は更識家の当主としてやっていく自信もない事や、ロシアがあんな事になって、ロシア代表のままで良いのかも?」
「……は、はい」
楯無は束に頷く。
「訳を話してごらんよ? 私が力になれるかどうかも判らないけど」
「し、篠ノ之博士に、ですか?」
楯無は束が力を貸してくれる事に驚きを隠せない。そうだろう、楯無から見れば束に話を聞いて貰える事は女尊男卑に染まった女性達から見ればこの上ない喜び。
それを楯無は非女尊男卑主義者でありながらも、束から話を聞いて貰えるのだ。反面、楯無は束に言っても良いのかも判らず、戸惑っている。
「わ、私は……貴女のような人に一夏君の事を話しても、い、良いのでしょうか?」
「良いに決まってるんじゃん? 君はいっ君に想われているかも知れないし、何より君は今の自分に自信が無い事も知ってるよ? それに私は、いっ君にも色々と迷惑を掛けたーーそれは私自身も良く判っているの……」
束は悲しそうに俯く。それを見た楯無は何かを言いたかったが束を見て、束にも迷惑を掛けたかのようにも思えたのか、訳を話し始めた。
「成る程ね……貴女はいっ君に色々と迷惑を掛けて、更には妹さんや、ロシアの先生にも迷惑を掛けていると思ってるんだ?」
楯無は、この学園にいた間、自分と一夏との間に起こった出来事を話した。簪の事、一夏が自分を箒から守る為に嘘の告白をしてくれた事、エレーナ先生の妹が自殺した事等を全てではないが話した。
それらは全て楯無が蒔いた種でもあり、それらの一部は一夏が何とかしてくれた。なのに、楯無は自分は何もしていない事に気付きながらも判らないでいた。
「私……判らなくなって来たんです。自分が関わって来た事で一夏君や、近くにいる勇人君や止君、虚ちゃんに迷惑を掛けているって」
楯無は悲しそうに言葉を続ける。
「お嬢様……」
「更識さん……」
楯無の会話を聞いた虚と真耶は悲しそうに見つめ、勇人は無言で俯き、止はやるせない気持ちを抑えていた。
そして、楯無は泣きそうになるのか腕で目元を拭う。
「私、判らなくなってしまったんです。私は一夏君の為にあんまり何もしていない。それなのに一夏君は私を責めようともしない……なのに私は……私は……うぐっ、えぐっ」
楯無は泣き出す。そんな楯無に虚と真耶は楯無の元へと歩み寄り慰める。
「お嬢様、大丈夫です」
「更識さん」
虚と真耶は楯無を慰める。が、あまり効果は無かった。その為、楯無は嗚咽を上げ続ける。楯無は一夏に再び迷惑を掛けた事、それも今度は一夏が死にかけるような事だった。
これには流石の楯無でも一番迷惑を掛けたような物だと思うだろう。その為、楯無は嗚咽を上げていた。
「それは違うよ、君のせいじゃないよ?」
刹那、束が口を開く。それを聞いた楯無は泣きながらも顔を上げ、勇人、止、虚、真耶の四人は束を見やると、束は悲しい笑みを浮かべていた。
「それは違うよ楯無……嫌、たっちゃんーー君は何も悪くないと言えないけど、君はいっ君の為にちゃんと頑張ってるじゃん?」
「そ、それは違います……私は一夏君の為って言っても、軽い程度の」
「それは違うよ?」
楯無は再び「えっ?」と言うが束は言葉を続ける。
「それは違うよたっちゃん? たっちゃんがやってる事は間違いじゃないよ? たっちゃんはいっ君の為にちゃんと頑張ってるんじゃん?」
「頑張ってるって言われても、それは一夏君に迷惑を掛けた事よりも小さい物です」
楯無の言葉に、束は首を左右に振る。
「いいや違うよ、君はちゃんといっ君の為に頑張ったよ? それはいっ君から見ればあまり小さな事かも知れないけど、君はちゃんと頑張ってるよ? それに君が居なかったらいっ君をーーううん、いっ君は一生、君への罪悪感は覚える事は無かったと思う、いっ君を止める事は出来なかったと思う」
「わ、私は……」
束の指摘とも言える言葉に楯無は何も言えなくなる。が、束は楯無の頭を撫でる。
「し、篠ノ之博士?」
束の突然の行動に楯無は戸惑う。が、束は悲しそうに笑っていた。
「たっちゃん、いっ君はね最初、とー君やはやちゃんや私を含めた人以外にはあまり感情を見せなかったの」
「一夏君が? ……」
楯無が訪ねると束は頷く。
「そうだよ、でもねいっ君を変えたのは誰かは判らないけど、その中にはたっちゃん、君も含まれているんだよ?」
「私もですか?」
「そうだよ? いっ君はね、たっちゃんが居たから、いっ君はちーちゃんや箒ちゃんに憎悪を抱きながらも、それ以上の事はしなかった。もししていたのなら、ちーちゃんや箒ちゃんを……ううん、それ以上にたっちゃんはいっ君にとって」
刹那、保険室の扉が開き、一人の女教師が保険室へと足を踏み込む。。
「一夏!! ……っ、た、束!?」
刹那、叫び声が聞こえた。その前に周りが保険室の扉を開けた人物を見やるも、勇人と止は憎悪が籠った目付きをし、束は目を見開きながら震えながら、その人物の名を言った。
「ち、ちーちゃん?」
次回、束対千冬、少し戻れぬ確執。