ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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 千冬ファンには少し注意。


第78話

「ち、ちーちゃん……!」

「た、束、な、何故お前が此処に!?」

 

 束と千冬は互いの相手を見て驚きを隠せない。何故なら、二人は幼馴染みでもあり親友でもあるからだ。

 しかし、二人は束が宇宙進出を夢見て造ったISのせいにより離れ離れとなり、連絡は出来るものの、いざという時にしか出来ない。

 もう一つ、束は追われている身であり、千冬はIS学園の教師。どちらも多忙の身でありながらも二人の友情は消える事はない。

 

「お、織斑先生? 何故貴女が此処に!? 貴女は学園長達に呼ばれ、処罰を言い渡されていたのでは!?」

 

 真耶は千冬が突然来た事に驚き指摘するも、千冬は答えた。

 

「そんなのはどうだって良い……ッ、それよりも一夏!」

 

 千冬は真耶の事等気にもせず、束が居る事に驚くよりも、ベッドで横になっている一夏の元へと駆け寄ろうとした。

 

「来ないで!」

 

 刹那、束が千冬を拒むような事を叫ぶ。束の叫び声に千冬は一瞬だけ肩を竦め、楯無達は束の叫び声に驚きを隠せない。が、一人だけ束の叫び声に驚いていない者がいたーー勇人である。

 勇人は束の叫び声にたじろぐ事もせず、細い目で束を見据えていた。勇人は何かをするつもりは無かった。勇人は見守る事を選んだのだ。

 その為、自分は両者の様子ややり取りを干渉しないのと、これは矛盾しているが自分は何時でも、千冬が束に何かをしないように警戒していた。

 勇人が見守る中、周りが困惑する中、千冬は束に問う。

 

「た、束、お前何を言ってるのだ?」

 

 千冬は恐る恐る束に訊ねると、束は険しい顔をしながらも悲しい目付きで、千冬を見据え、訳を話した。

 

「来ないでちーちゃん、これ以上、いっ君を苦しめないで」

「な、何を言ってるのだ!? 私は一夏の姉だぞ!?」

 

 千冬は再び一夏が横になっているベッドに近付こうとした。しかし、束はそれを阻む意味で前に出る。

 

「来ないでちーちゃん、これ以上来ると、流石の束さんも怒るよ?」

 

 束は千冬に警告する。しかし、千冬は退く事は考えないかのように反論する。

 

「それは無理だ! 私は一夏が心配なのだ! 私は一夏が居なくなったら……」

「だったら何で、あの時助けなかったの!?」

 

 千冬の言葉に束は怒る。それを聞いた千冬は再び肩を竦め、勇人以外の者達は固唾を呑んで見守る中、束は言葉を続けた。

 

「ちーちゃん……ちーちゃんは何で、あの時、いっ君を助けに来なかったの? ううん、それ以前に苦しんでいるいっ君に手を差し伸べなかったの?」

「な、何を言ってるんだ? 一夏が私に助けを求めていたのか?」

 

 束の言葉に千冬は驚きを隠せない。何故なら、束は一夏の身に遭った事を話す。実は一夏は極僅かな友人達を除き、周りから千冬の付属品としか見てくれなかった。

 出来れば当然、出来なければ「それでも千冬の弟か?」と。それに一夏が千冬に助けを求めても千冬は「忙しい」としか言わず、見ようともしなかった。

 普通なら気付く筈なのに、千冬は何故か気が付かなかった。どう見ても変であり、異常とも言える。

 もしも、千冬が一夏の事を良く見ていたのなら、それ以前に一夏を誘拐犯から救っていたら、姉弟の仲は変わっていたのかもしれない。

 嫌、それは最早過去の話ーー今はその過去の話をしない方が良いだろう。一夏に辛い思い出を過らせる事になるからだ。

 

「いっ君はね辛かったんだよ? ちーちゃんに助けを求めたんだよ? それなのにちーちゃんは何なの? ちーちゃんはいっ君を見ていなかったし、助けもしなかったじゃん?」

「わ、私は忙しかったんだ! それに私達は実の……っ、わ、私だって本当は一夏とは一緒に居たかった……一夏の傍に居たかった」

「だったら何で、それをいっ君に言わなかったの!? いっ君だってちーちゃんと一緒に居たかった筈だよ!?」

「お前に何が解るのだ束……!? お前には篠ノ之箒が居るだろうが!? お前は自分が追われている身でありながらも、自分の身内に迷惑を掛けてるではないか!?」

 

 千冬は反論するように指摘すると、束は下唇を噛みながら俯く。束自身が何も言えなくなった訳ではない。

 束は、ある事を話した。

 

「私だって辛いよ……いっ君から聞いたんだよ? 自分が造ったISのせいで沢山の人に迷惑を掛けた事を教えられたり、とー君やはやちゃんが政府のせいで、とー君の場合は身内を亡くしたり……はやちゃんの場合は……ううん、これ以上ははやちゃんを困らせるから言わない」

 

 束は一夏だけでなく、止や勇人の事をも言おうとした。そんな束の言葉に止は辛そうに下唇を噛み、勇人は瞑目しながらも腕に力を入れている。

 止や勇人の二人もまた、政府のせいで辛い思いをしたのだ。が、束は哀しく、そして悔しそうに言葉を続ける。

 

「私だって、私だって辛いよ……でもね今はそんな事を言ってる場合じゃない、今は……」

 

 束は顔を上げ、一夏の方を見る。一夏は未だ目覚める気配はなかった。が、束は再び千冬を見据える。

 

「今はいっ君を私のラボに連れていかなきゃ行けない! ラボにはクーちゃんや、医療用アンドロイドのビショップが待ってるんだよ!? ビショップならいっ君を治せるから!」

 

 束は一夏を抱き起こそうとした。刹那、千冬が束を止めようとして束に詰め寄り、どちらも掴み合うかのような行動を起こす。

 

「止めてちーちゃん! いっ君がこのまま死んでも良いの!?」

「それは嫌に決まってるだろ!? だけど、私は一夏と離れ離れになるのももっと嫌なのだ!」

「そんな事言ってる場合じゃないよ!? もし死んだらどうなるのさ!?」

「そん時はそいつをぶっ殺し、私は一夏の後を追うように自殺してやる!」

「そんな事をしても何も変わらないよ!! それ以前にいっ君が死んだらちーちゃんを許さないよ!! それにビショップなら、彼女ならいっ君を治せるよ!」

「そんなの信用出来ん!! ビショップか何かは知らないが、一夏を連れて行く等、私が許さぬ!」

 

 束と千冬は一夏を連れて行く連れて行かないかで激しく揉み合う。

 

「いけません篠ノ之博士に織斑先生!!」

「い、一夏君は、し、篠ノ之博士に任せましょう!!」

「てめえ束さんから離れろよ!!」

 

 虚、真耶、止の三人は二人の間に割って入ると言う意味よりも、千冬を止める。

 

「何をするお前達!? 何故束の味方をする!?」

 

 千冬は三人に怒るも、三人は訳を話した。

 

「何を言ってるのですか!? 貴女は学園長に処罰を言い渡されている筈です!!」

「そうですよ!! 貴女が一夏君に近付いたと知ったら学園長達は貴女に何を言い渡すのかは判りません!!」

「俺は単にお前が一夏に近付く事が許せないだけだ!! てめえはもう、一夏と縁を切られてんだよ!!」

 

 虚、真耶、止の順で三人は訳を言うように叫ぶと、千冬を束から引き剥がす形で離れさせる。

 その間に束は三人に感謝の言葉を述べ、楯無や勇人を交互に見るとこう言った。

 

「たっちゃんやはやちゃん、いっ君を外まで運びたいから、手伝って!」

「えっ、あっ、はい!」

「ああ」

 

 楯無は困惑しながら、勇人は冷静に頷くと、二人は一夏を両側から挟むように肩を貸すも。

 

「こいつは俺が抱える」

 

 勇人は楯無にそう言うと、一夏を横抱きした。それを見た楯無は驚くも、勇人は楯無を他所に束に訊いた。

 

「束さん、後はどうしますか?」

 勇人は一夏を横抱きしながら、束に訊ねると、束は軽く頷く。

 

「取り敢えず、外に」

「止めろおぉぉぉっ!!」

 

 束が何かを言うも、千冬が叫び声を上げる。それを聞いた楯無、束、勇人は千冬を見るも、千冬は虚、真耶、止の三人に押さえられながらも、千冬は泣きながら、一夏に手を伸ばしている。

 

「これ以上私と一夏を引き剥がすような事はしないでくれ!! これ以上、私を苦しめないでくれえぇぇ!!」

 

 千冬は泣きながら叫んだ。千冬は一夏を求めていた。一夏と撚りを戻したかった。何故なら、千冬と一夏は実の両親に捨てられたからである。

 何故、両親が自分達姉弟を捨てたかは解らないが千冬は両親の代わりに一夏を守ろうとしていた。

 バイトで家を空ける事は多く、一夏を独りぼっちにする事は多かった。が、それも全て一夏を思うのと、家計を何とかする為だった。

 しかし、それらは全て一夏にはあまり効果は無かった。逆にそれが、一夏を追い詰めている事を千冬自身は気が付かなかったのである。

 

「ちーちゃん……見苦しいよ……」

 

 そんな千冬を見た束は軽蔑よりも哀しい眼差しをしながら、そう呟く。

 

「ちーちゃん……私ね、ISを造ったのは……ううん、今はいっ君を治すのが先だね……じゃあね、ちーちゃん」

 

 束は千冬にそう言い残すと、楯無と、一夏を横抱きする勇人を外に出るよう促すと、保健室を出ていった。

 後ろから千冬が泣きながら一夏を求める叫び声が未だに聞こえるも、束は背中で受け止める形で聞き流す。

 だが、束は千冬に少しだけ幻滅していた。そして、それを後悔しているのか、目尻に涙を浮かべていた。

 それはまるで、束が千冬との少しだけの確執が生まれたかを意味するかのように……。




 次回、楯無、一夏に僅かながらに愛の告白。
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