ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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 今回、楯無さんが一夏に、一夏に……!


第79話

「さて、ここまでくれば安心だよ」

 

 三十分後、ここはIS学園にある森林地帯。そこには束、楯無、勇人に、勇人に横抱きされる形で気を失っている一夏の四人と、その近くには束が乗ってきた人参型ロケットが置かれていた。

 何故、彼等が此処にいるのかは、束が人参型ロケットを此処に置いといたからである。その為、一夏を除いた三人は、この場所へと来たのである。

 

「はやちゃんにたっちゃん、此処まで来てくれてありがとね?」

 

 束は二人に感謝を言葉を述べるも、目尻には少しだけ涙の痕が残っていたが束は何時もの自分に戻っている。束はさっきまで、千冬とは少しだけの確執を生み出している。それは束にとって、たった一人の親友でもあった。

 束から見れば、辛いに違いない。嫌、親友だからこそ、束はあんな千冬を見たくなかったのだろう。束は気丈に振る舞う中、楯無と勇人は束に同情しているのか辛そうな表情をしている。

 

「さっ、いっ君を人参型ロケットに乗せるから、今準備するね?」

 

 束は懐から無線機に良く似た物を取り出し、ボタンを押す。刹那、人参型ロケットの扉が開き、中から一つのベッドが出てきた。

 

「いっ君をベッドの上に置いて」

 

 束の言葉に勇人は頷くと、一夏をベッドの上に寝かせる。刹那、一夏のベットから二本のゴムの紐が現れ、一夏をベッドから離れさせない意味でベッドに絡み付く。

 

「さっ、後は」

「待って下さい!!」

 

 束が何かを言い終える前に楯無が叫ぶ。

 

「た、たっちゃん? どうしたの?」

 

 楯無の叫び声に束は一瞬だけ肩を竦めたが直ぐに何時も通りに戻ると、楯無に訊ねる。

 勇人は無言で楯無を見ていたが、楯無は俯きながら両手に力を入れていた。

 

「どうしたのたっちゃん? 何か用があるの?」

「別に用がある訳じゃありません……只……」

 

 楯無が何かを言うと、束は「只?」と言いながら首を傾げる。すると、楯無は顔を上げる。楯無の表情は険しいが何処か哀しいと言うよりも何かを決意したかのような目をしていた。

 楯無は一夏に何かを言いたかったのだ。勿論、束はその事に気付かないが勇人は直ぐに気付いた。

 

「な、何かなたっちゃん?」

「私に、一夏君と話をさせて下さい」

 

 楯無の言葉に束は「えっ?」と不意を突かれたかのように惚ける。勿論、束が惚けるのも無理はない。

 楯無が一夏と話をしたいーーそれは無理な話である。一夏は目を覚まさない為、楯無が何を言ったのかは判らないだろう。

 もう一つ、一夏には時間がない。最悪の場合、死ぬ危険がある。束はそれを指摘した。

 

「だ、駄目だよたっちゃん? それはいくら束さんでも無理な話だよ?」

「それは解っています。ですが、私は一夏君に話したい事があるんですーー私は一夏君に……一夏君に」

 

 楯無は瞑目すると、直ぐに目を開け、束を見据え、口を開いた。

 

「私は一夏君に言いたい事があるのです。一夏君には、いえ、彼には返しても返しきれない恩があります……ですが、私は一夏君に言いたい事があるのはそれではありません。私は一夏君に告白したい事があるのです」

 

 楯無は束に頭を下げる。

 

「自分勝手である事には気付いています。ですが私は一夏君に言いたい事がありますーー差し出がましいお願いかも知れませんが、私に一夏君と話をする時間を下さい! お願いします!」

「たっちゃん……」

 

 束は、頭を下げながら自分にお願いしている楯無を見て、何も言えなくなった。が、束は何故か戸惑っていた。

 本当なら一刻も早く一夏をラボへと連れていき、療養しなければならなかった。早くしなければ一夏は死んでしまうからだ。

 そうなれば、一夏を慕っている者達は嘆き悲しむ。束はそれだけは嫌だった。しかし、束は楯無を見て困惑するも、ふと、勇人の方を見る。

 勇人は束が見ている事に気付くと、深く頷いた。楯無に時間をくれてやれ、勇人は束にそう言いたかった。

 これには束も困惑するが束はふと、ある事を思い出す。

 

「(そう言えばたっちゃんは、いっ君が大事にしている人だったね?)」

 

 束は楯無が一夏の大切な人である事に気付く。一夏が楯無を大切にしているのなら、楯無も一夏が大事なのだろう。

 だが、そんな一夏を想っている者が他にもいる事にも気付く。篠ノ之箒、自分の妹だ。自分の妹は一夏を想っているが一夏には歪んだ愛を向けている。

 それは束から見れば、酷い物であった。反面、楯無は違う。楯無は一夏に歪んだ愛を向けてはいない。

 

「(箒ちゃん……ごめんね)」

 

 束は内心、箒に謝ると、束は楯無に対し微笑む。

 

「良いよ」

 

 束はそう答えると、楯無は瞠目し顔を上げ、束を見る。束は微笑んでいたが言葉を続ける。

 

「あまり時間はないから、三分くらいだよ?」

「あ、ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 束の言葉を聞いた後、楯無は泣きそうになるのを堪えながら、束に感謝の言葉を述べながらニ、三度頭を下げる。そして、楯無は顔を上げると、一夏が寝ているベッドへと近付く。

 近くには束と勇人が居るが二人は楯無を見守る形で何も言わなかった。

 

「ねえ一夏君? 私ね、一夏君に訊きたい事があるの……」

 

 楯無は哀しい笑みを浮かべながら、一夏に言う。しかし、一夏は気を失っているか眠っているかは判らない。それでも、楯無は一夏に訊き続けた。

 

「一夏君、私ね? 一夏君に言いたい事があるの……私は一夏君、私は貴方に何度も助けられたの……当主としてや、ロシア代表の事で自信が無くなった私に、貴方は自信を持てと言った……ううん」

 

 楯無は首を左右に振ると言葉を続ける。

 

「私はそれでも自信を取り戻す自信は無かった……でも貴方は私に貴方自信や周りに頼れと言ってくれた……いえ、それだけじゃないーー貴方は私の家や、私の行動のせいで篠ノ之さんや周りに誤解を与えさせ、多大な迷惑を掛けた……それなのに貴方は私を責めなかった……それどころか」

 

 楯無は一夏の頬を触る。一夏の頬はまだ温かかった。嫌、楯無から見れば一夏の温もりを感じさせている。

 

「それどころか貴方は篠ノ之さんから、エレーナ先生から私を守ってくれた……私の我が儘を聞いてくれた」

 

 楯無は一夏に今までの事を言う。それは一夏が楯無を箒やエレーナから守った事、朝食で食べさせあった事である。

 

「私は今まで、貴方に助けられてばかりだった。私も少しだけ貴方の力になりたかったけど、貴方がしてきた事よりも全くと言って良い程、良い物じゃなかった……それでも貴方は私を責めなかった、それで私ね……実は私はね」

 

 楯無は一夏の頬に触れていた手を一夏の頬から放れさせ、今度は一夏の手を両方の手で包むように握り締める。

 

「一夏君……私ね、多分だけど一夏君に惹かれたーーそれに私は、私は」

 

 楯無は瞑目する。少しだけ間を置いているが楯無は自分の心の中に微かにある自分の気持ちを言うか悩んでいた。

 そして、束から三分しか猶予を貰っていなかった為か楯無は目を開け、恥ずかしそうに頷くと、恥ずかしそうにそれを一夏に言った。

 

「一夏君、私は貴方が好き! まだ完全とは言えないけど、私は貴方が好き!」

 

 楯無は自分の気持ちを一夏に言う。が、それは一夏の耳に届いているかは判らなかったが楯無は自分の気持ちを一夏にぶつけた。

 

「えっ!?」

「……恥ずかしい」

 

 近くにいた束と勇人は楯無の言葉に反応を見せる。束は頬を赤くしながら驚きを隠せず、勇人は無反応だが頬を赤くしながら目を逸らしている。

 二人から見れば、楯無の告白は恥ずかしい物である。が、楯無はとんでもない事をしてしまう。

 楯無はゆっくりと、一夏にキスをした。それを見た束は更に驚き、勇人は恥ずかしそうに身体を翻す。

 刹那、楯無は一夏から離れると、楯無は名残惜しそうに一夏を見つめながらある事を言った。

 

「一夏君……約束して、絶対に死なないと言う保証はないけど、絶対に死なないで」

 

 楯無はそう言うと、一夏から離れ、束を見る。

 

「篠ノ之博士、もう大丈夫です」

「えっ、あっ、う、うん」

 

 楯無の言葉に束は不意を突かれるも、直ぐに我に返るも、まだ恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 

「じ、じゃあ私はいっ君をラボへと連れて行くからたっちゃん、はやちゃん、離れて」

 

 束の言葉に二人は頷くと、二人は離れる。その間に束は人参型ロケットに乗り込み、一夏が横になっているベッドは人参型ロケットの方へと移動する。

 

「じゃあね二人共、いっ君は私が何とかするからね~~!」

 

 束がそう言うと、人参型ロケットの扉は閉まる。刹那、人参型ロケットは空高く飛んだ。

 二人は驚くも、楯無は直ぐに心配するように表情を悲しくしながらも何かを決意しながら両手の指を絡めるように祈る。

 

「篠ノ之博士……一夏君をお願いします」

 

 楯無は束に一夏を頼むようにお願いする。一方、勇人は何も言わず人参型ロケットが飛んだ上空を見ていた。が、内心、一夏の無事を祈っていた。

 

 そして、束からの連絡は来なかった。それは、クラス代表対抗戦の日になっても、束からの連絡は来なかった……。

 




 次回、クラス代表対抗戦前日、それぞれの願いと思惑。
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