ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「簪ちゃん……」
身体にプレデターの防具や武器を装備し、顔にチョッパーのマスクを着けている止に監視されている事も知らずに、その場を一歩も動かない楯無は黒い鞄を大事そうに抱き締め、哀しそうに俯きながら、妹・簪の名を呟いていた。
妹は今頃何をしているのだろうか、怖い目に遭ってるに違いない。それも全て、自分のせいである事にも後悔していた。
「簪ちゃん……ごめんね」
楯無は再び涙を流しそうになる。刹那、楯無は何者かに腕を掴まれ、振り返った直後、眼を見開く。
その何者かは自分よりも背が高く、上は長袖の黒いシャツに黒のズボン。腹や脹ら脛等が一部露出している防具や、禍々しい武器を装備し、顔には口元が複雑なマスクを付けている。
その何者かは一夏であった。勿論、楯無はそれが誰かは知らない。
「な、何よあんた!?」
楯無は自分の腕を掴んできた一夏の腕を振り解こうとする。しかし、一夏は楯無の腕を放そうとはしなかった。
「放して!! 放さないと人を呼ぶわよ!?」
「大丈夫だーー俺はお前の味方だ!」
「何が味方よ!? 変なマスクを付けてるだけのコスプレ野郎じゃない!?」
「誰がコスプレ野郎だ!? それに人を呼ぶと言っても俺達は身体を透明にしているから誰も気付かれねぇよ!」
「そんなの……えっ?」
一夏の言葉に楯無は周りを見渡し、驚く。確かに周りにいる人達は自分達に気付いていない。
それどころか、広場を行き交うだけで一夏と楯無の存在には気付いていないーー駅の屋根上にいる止以外は……。
「これで解ったろ?」
「解らないわよ……それに何故、私も透明に!?」
楯無は一夏と向き合う。すると、一夏は溜め息を吐き口を開いた。
「それは俺がお前の腕を掴んでいるからだよ、俺達は身体を透明にした場合、何かに触れた場合もそれを巻き込むように透明にするからな……人に限るけど」
「触れたら透明にーー待って? 俺達も? 他にもいるの?」
一夏の言葉に、楯無は疑問に思い訊ね、それを訊かれた一夏は「あっ」と墓穴を掘ったかのように戸惑う。
「他にもいるよ……まあ、一人は用があるから、もう一人は、屋根の上にいるよ」
一夏は勇人や止の事を楯無に教える。楯無は納得どころか怪訝な表情を浮かべている。
楯無から見れば、いきなりそんな事を言われても信じかたい事だろう。一夏が何を言っても、彼女は何も信じない。
ましてや、自分達が装備している防具や武器が宇宙人が造った事も。
楯無は一夏に不信感を抱くかのように眼を細めて、それを見た一夏は言葉を詰まらせるが、ふとある事を思い出し、訊ねる。
「そう言えば、何で泣いてたんだ?」
「えっ……」
楯無は一夏に指摘され瞠目する。何故なら、楯無が何故、自分が泣いている事を彼が知ってるのかを疑問に思った。
楯無には判らないだろうが彼が自分の涙を見た者、一夏である事を未だ知らないのである。
一夏に指摘された楯無は戸惑うも、一夏は何も言わないーーケルテックのマスクを着けているとは言え、二つの黒い瞳は楯無を見据えている。
一夏自身が単に気になっていた訳ではない。一夏自身が優しすぎる故の行動でもあった。
一方、楯無は一夏に見据えられ困惑し、不意に呟いてしまう。
「簪ちゃん……妹が誘拐されたの」
「えっ?」
楯無は観念したかのように呟き、それを聞いた一夏は眼を見開く。
それは、勇人の言う通りであった誘拐と、妹と呟いた楯無がその妹の姉である事に驚きを隠せない。
誘拐、姉ーーそれは一夏にとって禁句に近い言葉。彼の心に大きな傷を追わせた言葉でもあった。
一夏は眼を見開く中、楯無は一夏の様子に気付く。
「どうしたの?」
楯無に訊ねられた一夏は我に返り、首を左右に振る。
「嫌、何でもない……ただ、妹さんが誘拐されたのか?」
「え、ええ……」
「そ、そうだったんだ……じ、じゃあそれで泣いてたんだ?」
「ええ……それも私のせいなの?」
「えっ?」
「私のせいなの……それよりも、貴方は何で私が泣いているのを、何処で知ったの?」
楯無の問いに、一夏は何も言わなくなり、そして直ぐ答えた。
「それは、貴女が涙を流していたのを見たからだ」
「私が、涙を流していた所を?」
楯無の言葉に一夏は深く頷き、そして言葉を続ける。
「ああ、でも、俺は貴女に素顔を見せる訳にはいかないし、名前も言えないーーそれよりも、何故、妹さんが誘拐されたのが貴女のせいだと言うんだ?」
「そ、それは……」
一夏の問いに楯無は困惑する。しかし、一夏は何も言わなかった。彼女が自分の口から言うのを待っていた。
数分後、楯無は再び観念したかのように口を開き、一夏に言った。
「成る程、家の為に妹さんを守り、妹さんに心に傷を追わせるような事を言った、と?」
数分後、一夏は楯無の腕を掴んだまま、楯無と隣同士で座り、楯無の話に耳を傾けていた。
楯無は自分は家の仕来たりに従い、楯無の名を襲名する形で貰った事。その妹の簪が自分の為に努力していたのを気にしていた事。
勿論、楯無の名は重くのし掛かるような物であるのと、妹には自分への協力は必要ない事を言い「無能のままでいなさい」と言ってしまった事。
それが妹を傷付け、妹と仲が冷めきってしまった事。そして、誘拐されたのが自分のせいではないのかと、楯無は思っていた事。
勿論、後者は楯無が思っている事であり、楯無が悪い訳ではない。逆に前者は楯無が悪い。
いくら、家の仕来たりとは言え、姉の為に協力しょうとする妹に心ない事を言うのはどうかしている。
勿論、それも楯無が優秀な姉であるからだった。楯無は妹の簪を思うあまりとは言え、流石に酷すぎる、と。
一夏はそう思いながらもあえて口にしなかった。
「それで私は思ったのーー何で自分達は更識の家で生まれたのか、何で家の仕来たり等で楯無の名を貰ったのか、何で簪ちゃんに酷い事を言ったのかな、って」
「…………」
「それでね、私は簪ちゃんんを思っているけど、私は簪ちゃんになんて謝れば良いのかなって……簪ちゃんが許してくれるのかって……」
楯無が話す中、一夏は楯無の話に耳を傾けている。それに、ケルティックのマスクを着けているとは言え、一夏の表情は悲しそうであった。
楯無は妹を想っている、大事に想っている。自分よりも名誉を選んだ姉とは違い、妹の為に助けようとしている。
それに一夏は楯無を見て、自分の姉もこんな姉だったら良かったと思った。
「最低よね……簪ちゃんが苦しんでいるのに、姉である自分が何にもしてやれなかった何て……最低よね?』
楯無はそう言うと、嗚咽を上げる。妹に謝りたい、妹にこれまでの事を償いたい。
楯無はそう言う気持ちでいっぱいだった。また、二人でお話をしたい、遊びたい、と。
そんな楯無の話を聞いた一夏は溜め息を吐いた後、楯無に言った。
「だったら、助けにこうぜ……俺達で」
一夏の言葉に楯無は顔を上げ一夏を見る。一夏はマスクを着けているとは言え、哀しそうに笑っていた。
楯無に同情した訳ではない、楯無に自分と同じ想いをさせたくないからであった。
「で、でもあなたは部外者!? あなたには私達の問題に巻き込まれる理由なんて無いわよ!?」
一夏の話を聞いた楯無は驚きながらも反論すると、一夏は首を左右に振る。
「嫌、理由はあるよ……それはね」
一夏は楯無の腕を掴んでない方の手を楯無の頬に当てる。楯無は驚くも、一夏は言った。
「君達の辛い想いは俺にも解るから、かな?」
一夏は哀しそうに笑い、それを聞いた楯無は再び驚く。刹那、コンピューターガントレットから通信が入る。
一夏は通信に応答しょうかとしたら、向こう側から通信が入った。
『聞いたぞ一夏、俺も行くぜ? お前の隣にいるお姉さんの為にも協力してやるぜ?』
通信してきたのは止だった。止は一夏と楯無のやり取りの一部始終をコンピューターガントレットから訊いていた。
「止,お前もか?」
『ああ、お姉さんの気持ちも解らなくもねぇよーーそれに俺は女の子を誘拐する野郎には腹が立つから……うわっ!! ハトが俺の頭の上に!! シッ、シッ!!』
「と、止?」
止の言葉に一夏は驚き訊ねるが止からはハトを追い出そうとする止の声が聴こえる。
そんな一夏に楯無は何も言わず見つめていた。
「取り敢えず、妹さんは何処にいるか教えてくれないか?」
「えっ……でも、そんな事をしたら」
楯無は戸惑うも、一夏は笑う。
「大丈夫だよ、俺達を信じて」
一夏の言葉に楯無は再び驚く俯く。それもほんの僅かだだったが、こう思った。
彼等なら妹を助けてくれる、と。勿論、彼等を信じた訳ではない、だが、妹を助ける事が出来るのは、彼等しかいない、と。
そして、楯無は決意したように顔を上げ、哀しそうに言った。
「妹を、私達姉妹を助けて……」
楯無は言った。一方、それを聞いた一夏は頷いた。
そして、一夏、楯無、止による簪救出作戦が今始まった。
この前、ゼノモーフを出そうかと思った話ですが、考えた末に出す事に決めました。