ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「では、本日の授業は
あれから五日後、此処は一年一組の教室。そこは一見、何の変哲もない日常だが此の教室だけは違う。
その教室には三人の人間がいない。織斑一夏、織斑千冬、篠ノ之箒の三人である。彼等は単に休んでいる訳ではない。三人は各々の理由で休んでいる。
一夏は箒の竹刀と、あれは事故だが千冬に殴られその後に吹っ飛ばされた際に頭を強く打ち、瀕死の重傷を負った。
彼は今、束のラボにて静養中であり、束は勇人や止に連絡を入れてない。一方、千冬と箒は学園長と、とある人物に処罰を言い渡された為に、此処には居ない。
なのに、二人の処罰は六日間の自室謹慎処分を喰らっている。軽い、どう見ても軽いと勇人と止の二人は思った。
勿論、それには理由がある。千冬は女尊男卑主義者達が崇拝している存在であるのと、箒は篠ノ之束の妹である事が理由だからである。
そんな二人を学園から追い出したら、女尊男卑主義者達が黙ってる筈もなく、何かをするのは目に見えていた。
これには二人は何も言えなくなった。言えば言えばで一夏を苦しめるだけだった。
「では明日は、クラス代表対抗戦です。皆さん、霧崎君を精一杯応援して下さいね」
一年一組の教室では副担任の真耶が教鞭を執っていたがさっき授業を終えると、真耶は周りにそう言った後、数人の生徒が少し驚く。
後の少しは一夏の安否と千冬が居ない事に哀しみを抱いている。が、気付けば明日はクラス代表対抗戦ーーつまり、明日は止が半年間のデザート無料パスを手に入れるか入れないかが掛かっている。
「そ、そうよね? 霧崎君、明日頑張ってね?」
「わ、私達は明日、霧崎君をいっぱい応援するから!」
「デザート無料パスは霧崎君に掛かっているんだからね!?」
女子達の一部が止に鼓舞する。女子達は一夏と千冬の安否を気にしていたがデザートと聞いて寂しさを紛らわせようとしていた。
勿論、当の本人である止はノートを取っていたが女子達の言葉に顔を上げ、辺りを見渡す。しかし、止の表情は何処か哀しい。
「……っ、う、うん、頑張るよ」
止は女子達にそう言った。が、止の顔を見て、止の言葉を聞いた女子達はバツの悪そうな表情を浮かべる。それでも、止は直ぐにニッコリと笑い、言葉を続けた。
「俺、明日頑張るよ。明日、皆の為に頑張って、デザート無料パスをこの手にしてみせる!」
止はガッツポーズをするが内心、一夏を心配していた。止から見れば、クラス代表対抗戦よりも、一夏の安否の方を気にしていた。
止はそれは内心留めておく形で口には言わなかった。それは止の願いでもあった。
そんな止の言葉に大半の女子達は立ち上がり、止に拍手を送る。
「そのいきよ霧崎君!」
「それを明日、他のクラス達に見せつけてやって!!」
「ファイトーー!!」
「頑張ってねトッマ~~!」
女子達は止にエールを送る。そんな中、勇人だけは止を見て何も言わず、瞑目しながら腕を組む。
勇人は止の気持ちを理解していた。が、それは口では言わなかった。勇人もまた、一夏を心配し、千冬や箒に怒りを抱いている。あの二人のせいで一夏は死にかけている。
勇人から見れば、千冬と箒は憎悪の対象。それ故、勇人は千冬と箒を殺したくてウズウズしていた。
が、そんな事をすれば一夏を哀しませ、更に苦しませる為、勇人は口を閉じてるものの、歯を強く食い縛っていた。
止と勇人は親友であり、恩人でもある一夏がどうなっているのかを気にしている反面、千冬と箒には怒りを押さえつつ、帰りの身仕度を始めた。
止は一夏が死なない事を願う中、勇人は千冬と箒を殺したいと言う思惑があった。
「ふぅ……明日でクラス代表対抗戦か……もうちょっと調整しなきゃ。いざと言う時に困るな」
あれから少し経った後、放課後、個々はアリーナ近くの整備室。そこには一機の打鉄に良く似たISと一人の少女がいた。
少女は一夏達と同じ一年生だが水色の長い髪で一部が内側に跳ねているのが特徴的かつ、紅い瞳に眼鏡を掛けていた。
そして、彼女の名は更識簪、更識楯無の妹である。彼女は今、この整備室にて、打鉄二式の最終調整に入っていた。
勿論、彼女は一年四組のクラス代表である為、明日のクラス代表対抗戦に出る事になっていた。その為、彼女が此処にいるのもそれが理由である。
「武器、機動力、火力、共に異常無しっと」
簪はパソコンのキーボードを打ちながらそう呟く。カタカタと言う音が整備室内に小さく響くも、簪はパソコンの画面を睨んでいた。
刹那、簪はパソコンのキーボードを打つ手を止め、ある者達の事を思い出す。
「そう言えば、お姉ちゃんが大事にしていた人はどうなったんだろう?」
簪は不意に楯無の事を思い出し、そして楯無が大事にしている者を思い出す。その人物とは織斑一夏であり、かの有名な女性、織斑千冬の弟である。
が、その一夏は、かの有名な篠ノ之束の妹である篠ノ之箒の竹刀で頭を叩かれ、事故だが千冬の暴行により頭を強く打ち、瀕死の重傷である。
それだけならまだしも、束が一夏を連れて何処かへと行ったのだ。それは学園中にいる女子達が噂しているも、大半の女子達は束と話をしたかったがそれも束は一夏を連れて直ぐにラボへと戻った為、無理だった。
否、簪は自分には関係ないと思い気にもしなかった。が、簪は何故か一夏の事を思い出す。
「あの人……もしかして」
簪はある事を思い出す。それは自分が狂言誘拐が本当の誘拐になった際、実の姉が男達に犯されるのを目の当たりにした直後、壁を破壊する形で外から出てくる形で現れた謎の、マスクを着け、胴体や四肢に防具を着けた人物。
簪はその人物を思い出すが、簪はその人物を一夏ではないかと前から疑っていた。その証拠に楯無は良く彼と一緒にいる。もう一つ、彼がクラス代表決定戦でISを展開した際に纏っていた防具と顔に着けている。
あれはどう見ても、あの時自分達姉妹を助けてくれた奴と良く似ていた。
「あれってもしかして、あの人が私達を助けてくれた人?」
簪はそう確信する。が、簪はある事も思い出す。
「それに他の二人も彼と同じ鎧やマスクのような物を着けていたけど……でも」
簪は表情を強張らせる。それは簪が、勇人や止の事も思い出し、それも良い物ではなかった。
簪は、勇人は元より、一組のクラス代表である止を警戒していた。彼はセシリアを難なく倒し、クラス代表ではいが一夏や勇人も警戒していた。
しかし、自分は明日、止と当たる。それは簪にとって警戒をも生み出していた。止はどのくらい強いかは判らない。
それでも、簪は再びパソコンのキーボードを打ち始める。
「明日、霧崎と言う人と戦うかもしれない……でも、私は負けない……! 私は無能じゃない!」
簪はパソコンのキーボードを打ちながらそう言いった。それは簪の願いでもあり、整備室内にキーボードの打つ音が辺りに小さく響き渡った。
「一夏……」
此処は学園の屋上。そこには一人の女子生徒がいた。鈴である。鈴は哀しい目で夕日を眺めながら一夏の名を呟く。
「一夏、あんたは本当に、会長に告白したの?」
鈴は一夏に問い掛ける。が、一夏は此処にはいない。それでも鈴は一夏を心配していた。
一夏は束が隠れる為に造ったラボで静養している。鈴から見れば一夏を心配しているのと、一夏が楯無に告白したと言う事実を少し前に同級生から聞いた。
これには鈴も驚く。楯無から一夏と交際していると聞いたが、同級生から一夏から告白した事の方が一番に驚いた。
鈴は一夏に訊ねたいが当の本人である一夏は居ないのと、楯無と話す勇気も無かった。
「一夏……一夏……っ」
鈴は泣き始めた。認めたくない、一夏と楯無が交際している事に。だが、鈴はそれを一夏の前で言い出せなかった。
何れ判る事だが今の鈴は明日の事で一杯である。鈴は明日、二組のクラス代表としてクラス代表対抗戦に出るのである。
だが今は、鈴は一夏と楯無が交際しているのが嘘であって欲しいと言う、願いがあった。そして、屋上では鈴が一人、屋上で啜り泣きをしていた。
「…………一夏君」
此処は生徒会室。そこには楯無と虚の二人が居たが楯無は窓の外を眺めながら何かを祈っていた。
楯無が祈っているのは、一夏が無事である事であった。が、楯無がどんなに祈っても一夏が無事かどうかは判らない。
「お嬢様、そんなに祈っても一夏さんは無事かどうかは私達には判りません」
そんな楯無に虚は言う。虚はテーブル近くにある椅子に座りながら書類を纏めている。が、楯無を心配し言うも、楯無は虚を見る。
表情は哀しいが楯無は聞き返す。
「それは判ってるわ虚ちゃん……でも、私は一夏君が心配なの、一夏君は私を守って怪我をしたんだから」
「それは判っています。ですがあれは事故です、お嬢様が気に病む事ではありません」
「だけど、それでも私は一夏君を心配しているの」
楯無は俯く。そんな楯無に虚は溜め息を吐くと、ある事を言った。
「お嬢様、私が言うのも何ですが、一夏さんがお嬢様にとって大切な人なら、お嬢様が哀しんでいたら一夏さんも哀しみます」
「えっ?」
虚の言葉に楯無は瞠目し顔を上げるも、虚は言葉を続ける。
「お嬢様、私だって一夏さんが心配です。私だけではありません、この学園には一夏さんを心配している人達もいます。それだけは判って下さい……それに、一夏さんがお嬢様が哀しんでいるのを望んではいません。お嬢様が元気な姿を見せるのを一番望んでいます」
「一夏君が?」
「はい、一夏さんはお嬢様が元気ならそれで良いと思っています。これはあまり自信ありませんが、お嬢様が元気なら一夏さんも無事だと思いますーーなので、自信を持って下さいーーそして、元気な姿で一夏さんに「お帰りなさい」と言えば良いのです」
「虚ちゃん……そうね、そうかも知れないわね」
虚の言葉に楯無は少しだけ元気が出た。そうだ、確かにそうだーー彼は、一夏は自分が元気じゃないと喜ばない。
自分が元気なら一夏も喜ぶ。そして、自分は一夏に「お帰りなさい」と言いたい。楯無はそう願っていた。
「ありがとう虚ちゃん、少しだけ自信がついたわ」
楯無の言葉に虚は笑みを浮かべる。
「それこそお嬢様です、では、仕事に取り掛かってくれませんか? 仕事は一杯あるので」
「ええ、判ったわ」
楯無がそう言うと、虚は頷き、楯無と虚は書類仕事に取り掛かる。
「(絶対に生きててね、一夏君)」
楯無は書類仕事を続けながら心の中でそう呟く。一夏が無事である事と彼に「お帰りなさい」と言いたい。
それは楯無の願いだった。そして二人は書類仕事に取り掛かり続けていた。
止、勇人、簪、鈴、そして楯無の五人の各々の願いと思惑がある中、一日は過ぎ、そしてクラス代表対抗戦の日を迎えた……。
次回、クラス代表決定戦の日、あの二人が勇人に問いつめます。