ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
今日この日、アリーナの観客席では多くの女子生徒達が座っていた。一年、二年、三年の全学年の生徒達が観客席でワイワイガヤガヤと騒がしくしている。
彼女達の目的は皆、半年間のデザート無料フリーパスである。彼女達は各々が所属しているクラスのクラス代表生を鼓舞する形で応援している。
女子生徒達は未だか未だかと戦いが始まらない事にソワソワしているが戦いはもうすぐ始まる事に気付いていない。
それに、何と言っても目玉とも言える人物が居た。その人物は今、ピットで待機している。
「うわ~~この前よりも少し多いじゃねえかよ?」
ピットではその人物、身にISスーツを纏い右腕にはコンピューターガントレットを着け、首にはIS、チョッパーの待機状態の物である首飾りをぶら下げている止がピットにあるモニターを観て驚きを隠せない。
止は一年一組のクラス代表だが彼は一組全員の期待を背負っている。しかし、そんな止の近くには楯無と勇人の二人がいた。
止の言葉に勇人は何か物思いに更けているのか何かを考えているのか俯いており、楯無は何か心配事があるのか哀しそうに俯いていた。
二人は止が何を言おうが気にもしてはいなかった。
「それに俺の最初の相手が……ありゃ?」
止は何かを言いながらモニターから二人を見ようとした時、二人の様子に気付く。
「どうしたの二人共? そんな暗い顔をして?」
止は二人に訊ねると、楯無と勇人は顔を上げ、止を見る。
「嫌、大丈夫だ。ちょっと考え事をしてた」
「わ、私はちょっと……ね」
勇人はほくそ笑みながら答え、楯無は少しぎこちない笑いをしながら答えた。
が、止は勇人は元より、楯無の様子に少し溜め息を吐き、哀れみの目で見つめる。
止は気付いていた。彼女は、楯無は一夏の事を思い出し、心配している事に。一夏は今、束のラボで静養中である。
それに何故か、束からの連絡はない。束は何をしているのか、一夏がどうなのかを訊く事も出来なかった。
自分や勇人は元より、楯無から見れば心配しかないだろう。
「なあ、一夏は大丈夫だよ、絶対」
止は楯無に励ましの言葉を掛けると、楯無は驚きを隠せない。そんな楯無に止は悲しそうに目を逸らす。
「俺だってこんな事言いたくないけどよ、俺、本当は怖いんだよ?」
「怖い? 止君が?」
楯無の言葉に止は頷く。
「俺さ、この前、火事の中で……」
『霧崎止選手、凰鈴音選手、三分後に試合を始めますので両者、ISを展開して下さい』
止が何かを言い掛けるのにも関わらず放送が鳴る。これを聴いた止は頭を抱え、モニターに移っている観客席にいる女子生徒達は歓喜の声を上げる。
「全く、俺に何の怨みがあるんだ?」
止は放送に愚痴を零しながらも渋々、二人から離れ首飾りを掴む。
「チョッパー」
止はその一言だけを発する。刹那、首飾りが紫色の光を発する。
再び刹那、止の胴体や四肢からISが展開され、背中には四つの木の棒を模したような色で、先端には血の涙を流しているようにも思え、後頭部から口元を貫通したようにも思える髑髏が特徴なウィングスラスターが展開された。
これこそが止のIS、チョッパーである。止は身体を軽く動かしていた。
「全く……まあ、頑張れ」
そんな止に勇人はそう言った後、再び何かを考え始める。一方、楯無は止のISを見て少し苦笑いしていた。
ーーああ、いつ見ても、悪趣味なウィングスラスターねーー。楯無は止のISにあるウィングスラスターを見て、内心、そう感想を述べる。
すると、放送が再び鳴った。
『霧崎止選手、凰鈴音選手、スタンバイして下さい』
放送を聴いた止は「ハイハイ」と怒りを隠しきれずそう言うと二人を見る。
「行ってくるわ」
止は二人にそう言い残すとスラスターを噴かし、アリーナへと向かう形でピットを出ていく。
そんな止を見た楯無は軽く手を振り、勇人は未だ何かを考えているのか俯き続けていた。
ーーワアァァァーーーーッ!!! ーー。止がアリーナに着いた直後、観客席にいる女子生徒達の叫び声が耳に響く。それは歓喜でもあり、それは怒号でもあった。
しかし、止は観客席にいる女子生徒達に目もくれず、目の前の少し先にいる一機のISを纏っている女子生徒を見ていた。
その女子生徒は二組のクラス代表生であり、一夏の幼馴染みである鈴だった。鈴の纏っているISは軽装であるが、マゼンダ色に黒や黄色のラインが入っているのが特徴的なIS。
後ろには少し禍々しい丸い物体が二基浮いているが、鈴は右手に大型の武器でもある青龍刀があった。
止は自分の最初の相手が鈴である事に戸惑いを見せるよりも、鈴を心配していた。
何故ならこの前、鈴は初恋が実らなかったと思って泣いてた。勿論、それは楯無が一夏を守る為でもあったがあれは鈴を傷付けるのには充分だった。
一方、鈴は何故か困惑している。理由は、止が纏っているISのウィングスラスターにである
「ねえ、その後ろにあるスラスター、悪趣味ね?」
鈴は止に指摘しながら空いてる方の手で、止のウィングスラスターを指差す。止は自分のウィングスラスターを見ると、再び鈴を見る。
「そうかな? 俺から見れば何時も通りだけど?」
「嫌、私から見れば悪趣味よ? それにそんなの見たら、誰だって悪趣味と言うわよ?」
「そうかな? でも、今はそんな事を言ってる場合じゃないでしょ? 今は勝負の時なんだからさ?」
「そ、それはそうだけど……」
そう言った後、鈴は何故か哀しそうに俯く。それを見た止は首を傾げるも、再び放送が鳴った。
『では、両者、戦いのスタンバイをして下さい』
放送が鳴ると、止は軽く頷き、シミターブレイドを展開し、身構える。一方、鈴も我に返り、表情を険しくすると青龍刀を構える。
「うん?」
鈴の切り替えに止は首を傾げるが放送が鳴った。
『これよりクラス代表対抗戦第一試合、霧崎止選手と凰鈴音選手の戦いを始めますーー始め!!』
放送が鳴り、今度はピィーーと言う音が鳴った。刹那、観客席にいる女子生徒達が叫び声を上げる。
「タアッ!!」
再び刹那、鈴は青龍刀を横に伸ばしながら、止に迫る。止は驚くも、鈴は青龍刀で止を斬ろうとした。
が、止はシミターブレイドで軽く受け止める。二人の武器の鐔競り合う音が二人の耳に響き、火花が飛ぶ。
『おおっと! 霧崎選手、凰選手、いきなり鐔競り合いからだ!!』
アリーナから実況とも言える放送が鳴り、観客にいる女子生徒の一部が二人を応援している中、ピットのモニターで観ていた楯無は固唾を呑む。
楯無は止を応援していた。一方、勇人は未だ何か考えているのか俯いていた。刹那、ピットの扉が開き、楯無は扉の開く音に気付き、扉の方を見たーー楯無は戦慄した。
楯無は、扉の前、嫌、ピットへと足を踏み入れる二人を見て戦慄したのだ。その二人とは織斑千冬と篠ノ之箒だった。
しかし、千冬は虚ろな目をしており、箒は楯無に気付き歯を食い縛るーー手には、何故か木刀を持っていた。
「貴様……一夏を奪った泥棒猫が!」
箒は楯無に恨みの籠った言葉を楯無にぶつける。それを聞いた楯無は歯を食い縛るも、勇人は二人を見て眉間に皺を寄せる。
何故、この二人がピットにいるのだろう。勇人はそう疑問を浮かべていたが直ぐに判った。
二人の自室謹慎処分は今日で切れたからだった。勇人はその事に気付くも、千冬の様子を見て、千冬を警戒する。
「なあ、勇人……教えてくれないか?」
「……はっ?」
千冬は虚ろな目を勇人に向けながらそう訊ねる。一方、勇人は惚けるも、それを聞いた箒は怒る。
「惚けるな! 一夏の事だ!」
「一夏の事だと? 何故それを俺に訊く?」
「ふざけるな! 私や千冬さんが姉さんに、一夏がどうなっているのかを電話で連絡しても、姉さんは電話に出てくれないんだ!! お前なら何か知ってるだろ!?」
箒の言葉に勇人は舌打ちするが千冬は勇人に歩み寄る。勇人は瞠目するも、千冬は勇人の前にまで来て、勇人の肩を掴み、勇人を激しく揺らす。
「教えてくれ! 一夏は大丈夫なのか!? それに一夏には何が遭ったんだ!!? 教えてくれ勇人!! 勇人!!」
千冬は虚ろな瞳をしながらも困惑した表情を浮かべながら、勇人の肩を激しく揺らしながら、勇人に訊ねる。
「くっ、止めろ!」
勇人は戸惑う。そんな千冬を見た楯無は千冬を止めようとした。
「いけま!!」
「貴様の相手は、この私だ泥棒猫めがぁぁ!!」
そんな楯無を箒は手に持ってた木刀を振り翳しながら迫る。それを見た楯無は驚くも、箒は楯無の脳天を叩き割ろうとして木刀を振り下ろす。
が、楯無はバックステップして木刀を躱す。
「っ……!」
楯無は距離を置く形で箒から離れ、下唇を噛みながら箒を見据える。
一方、箒は鋭い目付きをしながら涙目になりながら、楯無を睨んでいた。
そして、箒は楯無にこう言った。
「一夏は私の物だ……!! お前みたいな泥棒猫の物ではないぃぃっ!!」
箒は楯無にそう叫んだ。それを聞いた楯無は下唇を噛みながらも懐から扇子を取り出す。
そして、二人の間には色んな意味での一夏を巡っての戦いが始まろうとしていた。
次回、激突する者達、襲撃者、そして哀しき再会。