ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

86 / 117
第86話

 月影が渡を肩で抱え、ハウとファルなる生き物へと変形する緑色の球体と白の球体がアリーナから逃げてから数分後、アリーナは今、慌ただしかった。

 アリーナでは一夏、楯無、鈴、勇人、止の五人が医療班に診て貰っているが五人全員、ISを解除していた。一夏は兎も角、楯無と鈴、勇人と止は医療班に身体を診て貰っている中、楯無だけは違った。

 楯無は医療班の女性達に診て貰っているも近くには簪、虚、本音が心配そうに楯無を見つめている一方で、一夏は勇人と止の近くにいた。

 勇人は兎も角、止はさっき気が付いたが何故か膝を抱きながら俯いている。

 

「……渡」

 

 止は不意に自分の双子の弟、渡の名を呟く。止はさっき、一夏から渡が月影と言う人物に肩で抱えられる形でアリーナから飛び去っていった事を教えられた。

 そのせいか、止は哀しそうに膝を抱きながら俯いていたのだ。勿論、止自身は渡が生きていたのと再び逢えた喜びよりも、渡が自分に憎悪を向けている事も愕然としている。

 そんな止に一夏は止の肩に手を置こうとしたーー出来なかった、一夏は止の肩に触れようとした瞬間、何故か躊躇し、下唇を噛みながら、止の肩に置こうとした手をゆっくりと拳へと変えると拳に力を入れ、身体を震わせる。

 一夏は自分の無力さに悔しさを隠しきれないでいた。自分は月影と闘ったが自分は負けたようにも思えた。

 あのこびり付くような笑い顔と、ガトリングガンの銃弾の雨を浴びながらも月影はピンピンとしていたのだ。

 一夏から見れば屈辱以外かつ、怒りが込み上げてくる。が、一夏はそれを顔には出さず、空を仰ぐ。空は蒼かったが学園自体や自分の心は曇っている。

 

「(次逢った時は……絶対に、倒してやる)」

 

 一夏は自分にそう決意付けさせる。すると、遠方から声が聴こえた。

 

「一夏さん!! 会長が眼を覚ましました!!」

 

 叫んだのは虚だった。虚は一夏に楯無が眼を覚ました事を一夏に教える為に叫んだのだった。

 一夏は虚の叫び声を聞いて驚くも、ふと、止の方を見る。

 

「行って良いよ……」

 

 止は俯きながら、一夏にそう答え、それを聞いた一夏は驚くも、止は顔を上げ、一夏に哀しい笑みを向けながら言葉を続ける。

 

「行ってきな一夏、彼女は、更識さんは一夏に逢いたがっていたよ? 一夏が行けば彼女は喜ぶし、何より彼女の哀しい気持ちを埋められるのは一夏だけだよ?」

「だけど止……お前は……嫌、ごめん」

 

 一夏は止に何かを言い掛けるが止を気遣い首を左右に振ると、哀しそうに「後でな」と言い残し、駆け足で楯無の所へと向かった。

 

「(……渡)」

 

 止は、楯無達の所へと向かう一夏の背中を眺めた後、再び俯くと渡の名を呟いた。止にとって、渡は大切な弟だからだろう。

 が、その渡は敵として、自分を憎悪の対象として敵意の籠った目で見ていた。止から見れば哀しいとしか言いようがない。

 止は身体を震わせはしなかったが目尻には涙を浮かべてはいないが、その込み上げてくる哀しみを、気持ちを強く抑えていた。

 

「更識!」

 

 止に促され、一夏は楯無の所へと来ると、真っ先にそう言った。楯無の回りには簪、虚、本音、その他の医療班の女性が居たが簪、虚、本音は一夏を見やっていた。

 彼女達は皆、一夏を心配そうに見ている中、楯無は一夏を見て笑みを浮かべていた。

 

「一夏君……!」

 

 楯無は一夏を見て喜びを隠せなかったが目尻には涙を浮かべていた。一方、一夏は楯無の近くで屈むと、楯無の右手を両手で包むように掴む。

 

「一夏君……無事だったのね?」

 

 楯無は一夏を見ながら真っ先にそう答えた。楯無は一夏が無事である事に喜びを隠せないが、何故か上半身を起き上がろうとしている。

 

「お嬢様、寝ていなきゃ駄目です!」

 

 虚は慌てて楯無にそう言うも、楯無は首を左右に振る。

 

「良いのよ……私は一夏君に……っ」

 

 楯無は虚を制止すると、一夏の胸にゆっくりと抱き着く。

 

「お、おい!?」

 

 楯無の行動に一夏は戸惑うも、楯無は左手を一夏の背中へと回し、一夏の胸の中で身体を震わせていた。

 ーー良かった……ーー。楯無は一夏の胸の中でそう微かに呟く。一夏はあまり聞き取れなかったが、胸に濡れる感触を感じた。

 一夏は直ぐに気付くも、無言で眼を附せ、楯無の右手を放すと、左手を楯無の背中へと回し、右手を楯無の頭へと回すと楯無の背中と頭を撫でる。

 

「ごめん……俺が早く来ていればこんな事にはならなかった……」

「別のいいのよ……私は……私は一夏君が無事ならそれで良い……それで良い!」

 

 楯無は一夏の胸の中で言葉を続けた。楯無は一夏が無事であるならそれで良かった。

 一夏が生きていただけでも、楯無自身にはこれ以上のない喜びを感じ、一夏が生きている事を裏付けるのか意味しているのかは判らないが、楯無は一夏の温もりを力一杯感じようとしていた。

 一夏も一夏で楯無の我が儘を受け入れていた。それは一夏なりの償いなのかもしれないが一夏は無言で楯無の背中や頭を撫で続けていた。

 そんな二人を虚は涙ぐみながら微笑み、本音と簪は微笑ましそうに見守っていた。刹那、アリーナの入り口から一人の女子生徒が慌ただしそうに駆け足でアリーナの方へと来た。

 箒である。彼女がアリーナへと来た目的は勿論、一夏を心配しているからであった。箒は一夏を見付けるや否や、一夏の名を叫ぶ。

 

「一夏!!」

 

 箒が一夏の名を叫ぶと、それを聞いた一夏は瞠目し下唇を噛む。一方、虚と本音の布仏姉妹は驚き、止は顔を上げ驚き、未だ気を失っていた勇人は眼を覚まし、鈴はまだ気を失っており、医療班の一部が箒の言葉に驚き顔を上げる。

 一方、箒は駆け足で一夏の元へと迫るも一夏と楯無の二人が抱き合っている事に気付き、眉間に皺を寄せながら歯を食い縛る。

 

「貴様ーーっ!!」

 

 箒は楯無に怒りを覚える。

 

「来ないで!!」

 

 刹那、そんな箒を怒りが籠った叫び声で止めようとした人物がいた。それを聞いた箒は驚き止まるも、近くにいた医療班達、止は驚き、勇人は上半身を起こし、虚と本音は驚き、一夏も驚く。

 が、一番に驚いていたのは、楯無だった。アリーナにいる者の殆どが叫び声を上げた者を見やる。そして、叫び声を上げたのは、簪だった。

 簪は箒にそう叫んだ後、立ち上がり、一夏と楯無を守る形で背を向け、箒と向き合うと両手を広げる。

 

「来ないで……お姉ちゃんが今一番辛い思いをしてまで一番逢いたかった人とのゆっくりとした時間を邪魔しないで!」

 

 簪は箒にそう言う。一方、箒は眉間に皺を寄せながら怒る。

 

「煩い! その女は一夏をタブらかしたのだ! そんな奴は一夏を奪った……に過ぎない!」

「それは違う! お姉ちゃんは一夏をタブらかした訳じゃない! 一夏はお姉ちゃんを選んだ……それだけだよ!」

「それは違う! その女は一夏をタブらかしたに決まってる!」

「そんなのは貴女の独り善がり! それにお姉ちゃんを悪く言わないで!」

 

 簪は箒に怒る。が、それを聞いた楯無は瞠目していたが箒は簪に言い返す。

 

「そんなの嘘に決まってる! その女は一夏をタブらかしたのだ! それにお前はその女の妹だろ!? なのに何だ!? お前は一夏が好きだった場合、一夏が姉に取られたらどうするんだ!? それにお前がその女の妹だとは知らなかったし、お前の事はあまり知らない!」

 

 箒は簪に文句を言うと、簪は俯く。確かにそうだった。簪は箒とは初対面だがそんなのは関係なかった。

 

「どうした? 何も言い返せないのか!?」

 

 箒は簪が何も言い返せない事に怒るよりも勝ち誇った表情を浮かべていた。が、簪は顔を上げ、箒を見据える。

 その表情は怒りと言うよりも何かを決意したようにも思える。

 

「確かに貴女の言う通りかも知れない……でも、そんなのは事実でしかない。私は貴女とは今逢ったばかりの初対面とは言っても、私は貴女を許さない」

「許さないだと? 何をだ?」

 

 箒は眉間に皺を寄せながら訊き返すと、簪はそれを箒に言った。

 

「貴女は私のお姉ちゃんを、更識刀奈を馬鹿にした……私はそれが許さない……それだけじゃない、貴女は一夏君が好きと言っても、貴女は単に一夏君に付き纏ってるだけーーそれじゃあ、一夏君は振り向きもしないし、一夏君を苦しませているだけ」

「な……何だと!?」

 

 箒は怒るも簪は言葉を続ける。

 

「それよ。それだから一夏君は貴女を嫌い、お姉ちゃんを選んだ……でもそんなのはどうでもいい……それよりも謝って」

「何をだ?」

 

 箒は惚けるも、簪は一瞬下唇を噛むとそれを箒に言った。

 

「お姉ちゃんに謝って!! 貴女にお姉ちゃんを馬鹿にする理由はない! お姉ちゃんは私にとって大切な人であり家族だから! だから謝ってよ!」

 

 簪は箒に楯無に謝罪するよう訴える。一方、そんな簪を後ろにいた楯無は驚きを隠せなかった。

 

「か、簪ちゃん……」

 

 楯無は泣きそうになる。それは簪が自分を思っている事、それは簪自身が自ら口にした姉への思いを、姉に悪口を言った箒に怒りをぶつけていた。

 が、楯無だけではない。虚も本音も簪の言葉に驚きを隠せないでいた。

 

「貴様、言わせておけ……っ!?」

 

 箒は簪に詰め寄ろとした刹那、箒は意識が遠退いていくのを感じ、膝を突くと、そのまま前に倒れ掛かり、俯せに倒れた。

 

「は、勇人!?」

 

 そして、箒の後ろにいたのは勇人だった。勇人は無言で箒の後ろの首を叩き、意識を奪う形で箒に手刀を喰らわせたのである。

 一夏は勇人の行動に驚くも、勇人は無言で箒を見下ろし続けていた。

 




 次回、第六章「再会、招待ーーそして和解」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。