ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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 楯無がついに、ついに……!


第88話

「俺が、お前やお前の妹の家に?」

 

 楯無の言葉に、一夏は怪訝な表情を浮かべながら訊き返すと、楯無は深く頷く。

 しかし、一夏は楯無の言葉に疑問を感じていた。楯無と簪の更識姉妹が生まれ育った家、更識ーーそれは古くから伝わり、暗部の一族でもあり、由緒正しき家でもあり、この二人はそこのお嬢様でもある。

 一夏から見れば自分は一介の庶民にしか過ぎず、そんな昔から暗部を生業とする家の敷居に足を踏み入れるのは夢のまた夢である。

 もし足を踏み入れたとしても、自分は更識家から見れば異様な存在だろう。一夏は楯無の言葉にまだ解らないでいる中、楯無が口を開く。

 

「実はね一夏君……虚ちゃんから聞いたかも知れないけど、私が楯無の名をやっていく自信が無いって、知ってるわよね?」

 

 楯無の問いに一夏は無言で頷くと、楯無は哀しそうに笑うと再び言葉を続けた。

 

「そう……勿論、それは本当よ……それで私は刀奈として生きたいと思っていた……それに、一夏君にまた逢いたいと思っていた」

 

 楯無の言葉に一夏は瞠目する。が、楯無は言葉を続ける。

 

「一夏君に逢って、一夏君に謝り、一夏君と一緒にいたいーー私は一夏君の我が儘を受け入れたかった……家の事で一夏君を巻き込んでしまった罪悪感もあったけど、私はあの時、一夏君がこの学園に入学した時、真っ先に一夏君に逢いたかった……なのに、なのに私は一夏君に思わず、抱き着いちゃった」

 

 楯無は言葉を続けるが恥ずかしそうに頬を紅くする。それを聴いた一夏は呆れるも、楯無は言葉を続ける。

 

「それは良いかも知れない……でも私が一夏君を家に招き入れたのは別の理由があるの」

「別の理由だと?」

 

 一夏の言葉に楯無はゆっくりと頷く。

 

「ええ、私が一夏君を家に招き入れたい理由ーーそれは一夏君に父さんや母さん、他の皆に逢わせたいから」

 

 

 楯無の言葉に一夏は眉間に皺を寄せ、簪は眼を見開く。

 

「実はね、一夏君に私や簪ちゃんの両親や従者の皆に逢わせたい理由があるの……」

 

 楯無は一夏に訳を話始める。それは楯無が部屋に閉じ込もっている時、両親が部屋の扉の前にまで来ると、自分達も一夏を捜していると言い出した。

 これには楯無も驚くも、両親は自分達の狂言誘拐のせいで一夏なる健全な青年を人殺しにさせてしまった事を後悔していた。

 もしも彼に逢える事が出来れば、彼に謝りたいーー許されない事や謝っても彼の罪は消える事はない事も判っているーーそれでも彼に逢い、謝りたい、と。

 

「父さんや母さんは後悔していたーーだけど私や簪ちゃんも、貴方に後悔している……」

 

 楯無は起き上がると、潤んだ瞳で一夏を見据える。

 

「お願い一夏君、私や簪ちゃんの家に来て……両親を、従者の皆を元気付けて上げて……お願い」

 

 楯無はそう言った後、軽く俯いた。一方、そんな楯無に簪は宥め、鈴は何も言わず俯く。だが、一夏は腕を組んだまま楯無を細い目で見ていた。

 それは良いとして、一夏は何故か悩んでいた。自分は楯無の願いを聞き入れるのか、それとも此処は断るべきなのかと。

 勿論、どちらも間違った選択である事にも気付いていた。前者の場合は更識家の者達を苦しめるだけであり、後者はもっと苦しめるだけである。

 故にどちらも自分には関係ないが半分関係ある事だろう。一夏は少し悩んだが楯無の言葉に、ある事を思い出す。

 両親ーーそれは一夏にとって嫌な言葉でもあった。自分の両親は小さい頃に蒸発し、何処で何をしているのかは判らない。

 それに自分は束の所に居たが束に両親の事を調べて貰おうと考えていなかった。調べば調べばで面倒くさいからだ。

 それに自分は両親の温もりを知らないーー嫌、知りたくもなかった。両親は自分やあの女を捨てた、あの女は自分の事を見ていなかった為、自分は家族に愛されていないと一夏は思っていた。

 

「…………っ」

 

 一夏は悔しそうに下唇を噛むと、身体を翻すーー肩を震わせていた。そんな一夏を見た鈴は何かを思ったのか、何も言わなかった。

 

「(一夏……貴方まさか)」

 

 鈴は気付いた。彼は、一夏は両親の事を思い出したのではないのか、と。鈴は小学校の頃、一夏が両親が居ない事を教えてもらった事がある。

 その為、鈴は一夏が両親の事を思い出しのと同時に、一夏が両親に憎しみを抱いているのではないのかと、鈴は思った。

 が、鈴もまた両親の関係で寂しい思いをしていたーー鈴の両親は離婚したのである。親権は母の方へと行ったが鈴は両親が寄りを戻すのを第一に望んでいた。

 しかし、鈴はその事を今話す訳にはいかなかった。言えば言えばで一夏を苦しませるのではないのか、と。鈴は一夏に悩みを言えず下唇を噛む。

 一方、一夏は楯無と向き合う為に振り返る。一夏の表情は険しくそして悲しい。

 

「一夏、君?」

 

 楯無と簪は一夏の顔を見て疑問を浮かべると、一夏は俯き口を開いた。

 

「更識……俺はお前の願いは聞き入れる事は出来ない……」

 

 一夏の言葉に楯無は眼を見開くも、一夏は言葉を続ける。

 

「更識……俺には両親は居ない……」

「「えっ!?」」

 

 一夏の言葉に更識姉妹は驚く。が、一夏はまだ言葉を続ける。

 

「更識……俺は両親の温もりを知らない、俺には両親が何をしているのかも知らない……それに俺はずっと一人だったーー親友が居ても、俺には家族の温もりを知らない」

 

 一夏はそう言いながら下唇を噛むも直ぐに続ける。

 

「俺は家はあったけど、そこは帰る場所とは思っていなかった……あの女が居ても居心地が悪かったーー世間も俺をあの女の附属品としか見てくれなかった」

 

 一夏は肩を震わす。

 

「俺は家族と言う暖かい物を知らない……ずっと孤独だった……俺は家族を欲しいと思っていなかった、帰る場所もなかった……」

 

 一夏は顔を上げる。

 

「だから更識、俺は家族と言う物がある場所に居たくない……俺には一人でいる方が良いーー嫌、本当は彼奴とーー嫌、それは今は別に良い……だからお前の願いを聞き入れる事は出来ない」

 

 一夏はそう言うと、身体を翻し、保健室を出ようとして歩き出した。

 

「一夏君……っ」

 

 楯無はベッドから降り、一夏目掛けて走る。刹那、楯無は一夏の背中に抱き着く。

 楯無の突然の行動に一夏は驚きはしなかったが、簪と鈴は瞠目しながも頬を紅くしていた。

 

「どういうつもりだ、更識?」

 

 一夏は背中に抱き着いて来た楯無に問うと、楯無は額を一夏の背中にくっ付けながら答えた。

 

「一夏君、ごめんなさい……私はそれを知らなかった……それでも、私や簪ちゃんの家に来て」

「だからそれは……」

「私達の家が帰る場所だと思って!」

 

 一夏が何かを言い掛けるも楯無は叫んで遮らす。それを聞いた一夏は無言になるも楯無は言葉を続ける。

 

「一夏君……私達の家が帰る場所だと思って……私が一夏君に家族の大切さを、温もりを教えてあげる……私が、一夏君の心にある大きな傷を癒してあげる! 私が一夏君が辛かった事を知りたい! 一夏君が寂しくないように努力する!」

「楯な……」

「貴方は一人じゃない!」

 

 一夏が再び何かを言い掛けるが楯無は再び遮らす形で叫ぶ。それはさっきとは違い、一夏は肩を竦めるが楯無は言葉を続けた。

 

「一夏君、貴方は一人じゃない! 貴方には勇人君や止君、鈴ちゃんや篠ノ之博士、それに貴方を心配している人達もいる! それに、それに私も貴方を心配している!」

 

 楯無はそう言うと、両手を一夏の腹に回す。

 

「一夏君……貴方は私に言ったじゃない、お前は一人じゃないって……なのに貴方は自分が言った事は人に言えない事じゃない……貴方は私に嘘を付いたの?」

 

 楯無の問いに一夏は答えない。が、楯無はある事を言った。

 

「一夏君……これは言いたくないけど、私には少し判るーー貴方は本当は優しい人だって」

「俺が優しい人?」

 

 楯無の言葉に一夏が訊ねると、楯無は答える。

 

「ええ、貴方は本当は優しい人ーー私がエレーナ先生に殺されそうになった時、篠ノ之さんに暴力を震われそうになった時、私のせいで周りに誤解されそうになった時、私が織斑先生と一対一の話をすると聞いて心配した時も、貴方は全て私を心配し守ってくれた……それだけじゃない、私を守る為にクラス中に怒ったり、私を責めようともしなかった……」

 

 楯無は今までの事を一夏に話した。勿論、一夏は楯無を箒から守る為でもあり、千冬や箒に怒りを感じた為でもある。

 

「それに、それに、一夏君……私は、私は……」

 

 楯無は少し恥ずかしそうに口ごもるも、何かを決意し叫んだ。

 

「一夏君……私は貴方が好き!! 私は貴方の優しさに惹かれたーーそれで貴方が好きッ!!」

 

 楯無は一夏に告白した。それは楯無の本音でもあった。が、それを聞いた簪は眼を見開きながら頬を紅くし、鈴に至っては顔を真っ赤にしていた。

 

「さ、更、識?」

 

 一方、一夏は眼を見開いた。が、楯無は頬を紅くしたまま口を閉じながら強く瞼を閉じていた。

 しかし、楯無の告白は一夏の心に届いたのか、一夏はどんな反応するのかは一夏しか解らないのも言うまでもない。

 そして保健室は、楯無の告白のせいで重苦しいと言うよりも恥ずかしい空気が流れていた。




 次回、鈴、一夏に告白、そして一夏の答え。
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