ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「さ、更識?」
一夏は背中に抱き着いている楯無の言葉に驚きを隠せないでいた。一夏は、楯無が自分に想いを寄せていた事と好意を寄せている事に気が付かなかった。
否、一夏は楯無に恋愛感情を抱いている訳ではなく、箒から守るべきの存在であるからだ。
その為、一夏は楯無の言葉にまだ驚きを隠せないでいた。一方、楯無は恥ずかしそうに頬を紅くしていた。
さっきのは楯無の気持ちだった。しかし、一夏は何かを言おうとしたが楯無は突然、一夏から離れ保健室の扉の方へと駆け寄り、扉を開けると廊下の方へと向かう。
「お姉ちゃん!」
楯無の行動に一夏は驚くも、簪は姉の後を追い掛ける為に保健室を出ていった。
「お、おいお前ら!?」
一夏は更識姉妹が出ていった事に驚きを隠せない。そして保健室に残ったのは一夏と鈴だけであった。
「全く、あいつらは何なんだ?」
一夏は呆れながら、鈴に訊ねる。一方、鈴は何故か何も言わず起き上がると、ベッドから降り立ち上がると、一夏の方へと歩く。
「鈴?」
一夏は鈴の行動に疑問を抱き、鈴と向き合うように身体を翻す。一方、鈴は一夏の前に佇んだまま、何も言わず俯き続けていた。
「鈴、どうしたんだ?」
一夏は鈴に訊ねると、鈴は微かに口を開いた。
「ねぇ一夏? 一夏は彼女の事をどう思ってるの?」
鈴の言葉に一夏は眼を見開くも、鈴は顔を上げ、一夏を見据える。
「だから、会長の事よ? 一夏は会長の事をどう思ってるの?」
「どう思ってるって……俺は」
鈴は呆れて溜め息を吐くと、それを指摘した。
「貴方は馬鹿なの? 会長はね、貴方に告白したのよ? それに恋人同士なのに何故告白の事を間に受けないの?」
「嫌それは……ッ」
鈴の言葉に一夏は戸惑い、それを見た鈴は再び溜め息を吐くと、ある事を言い始める。
「ねぇ一夏? あの頃の約束を覚えてる?」
「えっ、約束?」
「ええーー私の作った酢豚を毎日食べるって約束?」
「あ、ああ……それがどうしたんだ?」
「……あれはね、私が唯一、大切な人に言った言葉だったの」
「大切な人……まさか!?」
一夏は何かに気付く。嫌、一夏は気付かなかったと言えば良いだろう。何故なら、一夏はあの時、鈴の言葉を真に受けてはいないと言うよりも、あれは単なる約束だと思っていた。
しかし、実際は違う。あれは鈴の一夏への告白の約束でもあった。その為鈴は一夏に好意を寄せていた為、あんな事を言ったのである。
「やっと気付いた? そうよね……でもあれは私の告白でもあった。酢豚を毎日作ると言ったのは、一夏とずっと一緒に、一緒に居たいと言う意味でもあったのよ? だけどそれはもう意味は無いかも知れない……でも、これだけは言わせて」
鈴は瞑目するーーそして瞼を開き、自分の思いを一夏にぶつける為に口を開いた。「一夏……私は貴方が好き! これは嘘じゃないーー私は貴方が好きなの!」
鈴は自分の気持ちを一夏にぶつけた。その証拠に鈴は頬を紅くしている。余程、恥ずかしかったのだろう。
そんな鈴の告白に一夏は瞠目していたーー嫌、一夏は楯無だけでなく鈴が告白してきた事、鈴が自分に想いを寄せていた事に気付かなかったのである。
一夏から見れば、鈴は幼馴染みであり友人としか思っていなかったのだろう。それ以前に、鈴が中国に帰国する前に、一夏に言った「酢豚を作ってあげる」ーーあれが鈴の一夏への告白にも近い言葉であり、それを一夏は気付いていなかった。
「り、鈴……お、お前」
一夏は鈴の告白を聞いて間を置くように少し沈黙した後、恐る恐る訊ねる。一方、鈴は恥ずかしそうに俯くと、恥ずかしそうに訳を話した。
「一夏……さっきの告白は私の貴方への気持ちをぶつけたーーでも、貴方には恋人が居る事は知ってる……それでも、それでも私は貴方が好き……これは私の気持ち」
「り、鈴ーーあ、あれは、更識は……あっ」
一夏は鈴の言葉に反論しようとしたが鈴は目尻に涙を浮かべており、涙は頬を伝っていた。その涙は鈴の我慢する形で溜めていた物であり、一夏に一向も早く一夏の口から告白の返事が欲しいーー鈴の、一人の青年に想いを寄せる少女の淡い願いなのだろう。
失恋しても構わない。だがらこそ、一夏の返事を聞きたい、と。
「鈴……っ」
一夏は鈴が涙を浮かべているのを見て、バツの悪そうな顔をしながら俯き下唇を噛む。鈴は早く返事が欲しいのだろう。だからこそ、自分の口から返事が欲しいーー鈴のたった一つの願いなのだろう。
一夏は少し悩んだーー鈴の事もあるが何故か楯無の顔を浮かべる。自分はさっきまで、楯無に告白された。あれは楯無が溜めに溜めていた気持ちを吐き出す形で告白した物だった。
一夏から見れば楯無は恋愛対象ではないが楯無は自分に恋愛対象を抱いていた。しかし、一夏は自分は何故自分が楯無の顔を思い浮かべたのかは解らなかったが今はそんな事を言ってる場合ではない。
今は鈴の、目の前にいる幼馴染みの告白の返事を答えるのが先だった。一夏は小さく頷くと、顔を上げ、鈴の告白に答える形で口を開いた。
「鈴、お前の告白は良く解った……俺はお前が好きだ」
一夏の言葉に鈴は泣きながらも瞠目し顔を上げる。一方、一夏は鈴を見て哀しそうに俯き、言葉を続けた。
「だけど、俺の鈴の告白に答える事は出来ない……俺は鈴ーーお前を幼馴染みであり親友として好きだ……だからこそ、俺はお前に恋愛感情を持つ事はなかった」
一夏は言葉を続けながら身体を震わせ始める。
「俺は鈴の気持ちや、鈴が恋愛感情を持ってる以前に、俺は女性の気持ちを全くと言う程知らない上、異性が異性と付き合っている事に羨ましいと思いながらも、応援したいと思っていても、自分が恋をしたいなんて考えもなかった……」
一夏は顔を上げる。その表情は悔しいと言うよりも悲しいかつ、鈍感な自分に怒りを感じているのか悔しそうに怒りが籠っていた。
それを見た鈴は驚きはしなかったものの、一夏が何かを言うのを待っていた。そして、一夏は口を開く。
「だから鈴、俺はお前の返事には答える事は出来ないーー嫌、俺はお前に恋愛感情を抱いてはいない、俺はお前を幼馴染みとして付き合っていきたい……それが俺の」
一夏は俯く。
「それが俺の……俺の答えだ」
一夏は鈴の告白を受け入れなかった。そうだろう、一夏は鈴を友として接していきたかった。長く入れば何れ恋愛感情を抱いていたのだろう。
嫌、二人を引き裂いたのは二人ではないーー二人の周りに起きた出来事が二人の恋愛を成そうとさせなかったと言い換えれば良いだろう。
もし一夏が鈴の気持ち知っていたら、もし一夏か鈴がどちらかが僅かな残り時間の間に告白していたら、二人は恋人同士になっていたのだろう。
が、それも過去の話ーー今はその過去の先である未来と言う名の現在。一夏は鈴に告白を受け入れなかったが一夏は、とある覚悟をしていた。鈴の罵倒、一夏は鈴の罵倒や何かをされてもそれを一夏は何もせずに受け入れようと考えていた。
「そうなんだ……振られちゃったな~~」
鈴は何もしなかった。一夏は鈴の言葉に驚き顔を上げると、鈴は何故か泣きながらも笑っていた。
「振られちゃったな~~まあ、そうだよね? 一夏には会長と言う立派な恋人が居るもんね?」
鈴は両手を後ろの腰に当てながら身体を翻す。
「そうよね~~会長は私よりも強いし、胸もあるし、私よりも綺麗だもんね……」
鈴は一夏を見る。鈴は微笑んでいたが一夏は鈴を見て何も言えなくなる。
「鈴ーー」
「だけど一夏? 私はね最初から解ってたの」
鈴の言葉に、一夏は「えっ?」と惚けてしまうが鈴は瞼を閉じる。
「私は失恋した……それはついさっき解ったーーでも、私は一夏がーーいえ、一夏が会長を恋人として見ているだけでなく会長を心配しているーーあの時、一夏が私に会長の事で悩んでいたのを話したのを覚えてる?」
「あ、ああ」
「そう……その時ね、私は少し思ったの、一夏は会長の事を思ってるーー会長の事を誰よりも心配していた、ってーーだから私は今告白したのも、一夏が誰が好きなのを知りたかった」
鈴は再び涙を流す。それはさっきとは違い、少し多かった。
「私はもう、一夏の傍にいる事は出来ないーーそう悟った」
「り、鈴……お前ーー」
鈴は泣きながらも笑っていた。かの少女は失恋に気付きながらも、一夏に弱い所を見せたくなかったのだろう。
そんな鈴を見た一夏は下唇を噛み俯くも、鈴は一夏に、こう言った。
「一夏、会長を、恋人を大切にしなさいよね? しなかったら、私が許さないわよ? じゃあね!」
鈴はそう言うと、保健室の扉の方へと駆け寄る。一夏が呼び止めようとしても、鈴は聞かず、鈴は扉を開けるや否や、廊下の方へと足を踏み入れ、右の方へと走って行った。
が、鈴は哀しそうに眉間に皺を寄せ、瞑目しながら涙を流していた。鈴は、少女は自分は失恋したと判り、それを一夏に見せたくない形で保健室を出ていったのである。
「り、鈴……ッ」
一夏は鈴を追い掛ける事は出来なかった。嫌、鈴を苦しめる事は出来ないと判断したのである。
「俺は……俺は最低だ」
一夏はフラフラしながらベッドに腰掛けると、身体を震わせながら悔しそうに俯いた。それは一夏が鈴を悲しませていた事と鈴の気持ちを理解していない自分に怒りを感じていたからであった。
そして、今の時間帯は夕日だったが夕日は沈み掛かっており夜になりつつあったが一夏はその場を動けないでいた。
次回、更識姉妹、二人の気持ち。