ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
三十分後、此処は保健室。保健室には一夏が哀しい目をしながら窓の近くで佇みながら空を眺めていた。
空は既に暗闇に包まれており、夕日も完全に沈んでいる。一夏から見れば、他の人から見れば一日が終わるのを告げるのと同時に、夜が好きな者達から見れば始まりだろう。
生憎、一夏は前者でもなく、後者でもない。一夏はプレデターから色んな事を学び、身も心も鍛える形で成長し強くなった。それは日夜でもあり、終わる事も無い修行を一夏は勇人や止と共に潜り抜けて行った。
言わば一夏達は修羅の人間でもあり、そこら辺の猛者達とは対等に渡り合える強者達となっていた。しかし、今の一夏は強者と言うよりも、葛藤に苛まれていた。
人間関係。一夏ーー或いは全ての人達に当てはまるであろう問題。一夏はその事で悩みを抱えていた。
一夏は数十分前まで鈴の事で悩んでいた。鈴は自分への想いを打ち明けた。が、自分は何故か鈴を振った。
自分は鈴を只、幼馴染みとしか見ていなく、恋愛感情と言う物を抱いていない。あったとしても、自分は鈴の告白を受けいたかは判らない。
それだけでなく、何故か楯無の顔を思い浮かべてしまった。何故かは判らないーー何故かは……。
「鈴……っ!?」
刹那、一夏は鈴だけでなく弾や数馬、蘭、束、そして何故か千冬や箒を思い出してしまう。
前者の四人は兎も角として、後者の二人は思い出したくもない存在。
「クソッ!!」
一夏は窓を叩く。バン、と言う音が一瞬だけ聴こえ、室内に小さく木霊する。一夏の怒りの表れだろうかーーそれとも、一夏が八つ当たりする形で叩いたのかは一夏にしか判らない。
すると、保健室の扉が開き、一夏は扉の方を見ると、楯無と簪が保健室へと足を踏み入れた。因みに開けたのは楯無だが閉めたのも楯無である。
「更識……」
一夏は二人の名字を言うがその表情は何処か哀しい。そんな一夏を見た楯無と簪は互いを見合うと、直ぐに一夏を見やる。
「どうしたの一夏君? 何か遭ったの?」
楯無が訊ねると、一夏は首を左右に振る。
「嫌、ちょっと考え事していただけだ……それよりも」
一夏は首を傾げる。
「二人はどうしたんだ?」
「「えっ?」」
一夏の言葉に更識姉妹は惚ける。が、一夏は言葉を続ける。
「だから二人はどうしたんだ? 何をしていたんだって聞いてんだよ?」
一夏は呆れながら再び訊ねると、二人は再び互いを見合うと、軽く微笑む。
「なに笑ってんだ?」
一夏は気になったのか訊ねると二人は一夏を見た。
「実は私達、一応だけど和解したの」
「何っ?」
楯無の言葉に一夏は目を丸くする。一夏は二人が和解した事に驚きを隠せないでいた。
更識姉妹ーーこの二人は姉、楯無の心ない言葉のせいで姉妹の仲は冷めきっていた。それは一夏は楯無から聞いた為に知っていたが一夏から見れば和解は驚きでしかない。
それだけでなく、更識姉妹が和解したとなれば、虚や本音ーー更には更識姉妹の身内や従者達は喜ぶだろう。否、更識家の面々から見れば悲願だろう。
一夏は驚く中、楯無は頬を紅くしながらある事を話す。
「私達は和解したけど、それは一夏君、貴方のお陰よ」
「はっ? 俺のお陰?」
楯無の言葉に一夏は惚ける。が、楯無はその訳を述べる。実は楯無は此処に戻ってくるまでの間、簪から家の事を、自分は一夏の事を教えあっていた。
簪は元より、一夏は虚から聞いたかも知れないが更識家の面々は楯無を心配していた。それは楯無が、刀奈が楯無としての自信を取り戻して欲しいのと、簪との仲が戻って欲しいのと、彼女自身が元気になって欲しいが為に努力した。
しかし、何れも失敗に終わり、楯無はますます心を閉ざしつつあったが更識家の面々は一夏なる者が楯無を、刀奈を救う事が出来る人物ではないかと。
一夏はそこで驚きはしなかったが楯無の方が問題であった。実は楯無は一夏と一緒に居た時の事を簪に話してしまう。
実は楯無は一夏と一緒に居た時の間、一夏は自分に色んな事を教えてくれた。ロシア代表になった時の自分を思い出せと怒った事、名誉は得るが代わりに怨みと言う代償を得る事等もあった。
それだけではない、一夏は楯無が箒に襲われないように守る形で一緒に行動したりしてくれた。何れも楯無から見れば、こう思うだろうーーそれを楯無は一夏に感謝と言う形で述べた。
「一夏君……私ね一夏君と秋葉原で出逢う前は楯無の当主であると同時に簪ちゃんとの事で悩んでいたーーううん、一夏君を許されない事をさせてしまった事で哀しんでいたーーでも、一夏君は私に何の文句も言わなかった……それだけじゃない、弱気になっている私を一夏君は優しくも厳しくしてくれた」
楯無は何故か言葉を詰まらせ俯く。それを見た一夏は首を傾げ、簪は心配そうに楯無の顔を覗くも、楯無は俯きながら頷くと、顔を上げ、一夏を恥ずかしかつ愛しそうに見つめながら口を開いた。
「まだ私は
「良かった? 何がだ?」
一夏が疑問そうに訊ねると、楯無はそれを答えた。
「だって、一夏君がいたからーー最悪な形だけど、一夏君は私を心配し、簪ちゃんと仲が戻ったのも、全て一夏君のお陰だから!」
楯無は恥ずかしそうでありながらも叫んだ。それを聞いた一夏は瞠目するも、楯無は一夏に微笑みながら、一夏の元へと歩み寄る。一夏は楯無が何をするのかは判らなかったが楯無は一夏の前に立ち止まると、そっと一夏に抱き着く。
「お、おい!?」
一夏は楯無の行動に戸惑うも、楯無は顔を一夏の胸に埋めていた。楯無は一夏の温もりを求めていた。
それも感謝の意味でもあり、一夏に惹かれている事をも意味していた。一方、一夏は楯無の行動に戸惑っていたが楯無の行動を受け止めていた。
心無しか、戸惑いながらも頬を紅くしていて頬を掻いている。
「お姉ちゃん……」
簪は一夏と楯無を微笑ましそうに見ていた。一方、一夏は楯無の行動を受け止めていたが、ある事を思い出し、それを楯無に訊ねた。
「それよりも更識、一つ訊いていいか?」
「何っ?」
楯無は顔を一夏の胸から離すと、一夏を見上げる。一夏は表情を険しくしていたが一夏は楯無に訊く。
「あいつはーー篠ノ之はどうした?」
一夏の言葉に楯無は瞠目した。しかし、楯無は箒がどうなったのかは知っていた。
篠ノ之箒、彼女は勇人に手刀で気を失われてしまうもその後、学園長と、とある人物の決断により、地下の牢屋に拘束されながら閉じ込められている。
一夏や楯無や簪は判らないが地下では箒が一夏を求めている事や理不尽だとかで喚いている。そんなのは関係ないだろうが楯無は一夏が何故、箒を気にしているのかは判らなかった。
一夏は箒を毛嫌いしている。それだけでなく、箒が自分や一夏に執拗に迫ってきてくる事も判っていた。その度に一夏や勇人に返り討ちに遭っている事も楯無は目撃者である為、知っている。
「い、一夏君、何故あなたは篠ノ之さんに逢いたいの? 逢ってどうするつもりなの?」
楯無は一夏に訊ねると、一夏はその訳を話し始める。
「あいつは何れ、お前を殺しに掛かって来るかもしれないーー嫌、お前の妹にも危険が及ぶかも知れない……それに」
一夏は楯無の頭を撫で始める。これには楯無は驚くが一夏は言葉を続ける。
「俺は彼奴には良い思い出は無い。だけど彼奴とは何れ決着を着つけなければならないーーその為には彼奴とは絶縁を言い渡さなければならないんだーーこれ以上、俺の為にお前ら姉妹を巻き込む訳にもいかないからな……」
一夏は悔しそうかつ哀しそうに言葉を述べる。一夏は楯無を心配していた。
何故かは一夏自身には判らないだろうが一夏は楯無を箒から守りたい存在でもあり、楯無や簪が彼女の毒牙に掛からない為の考えでもあった。
あまり効果はないだろうが箒に何があろうが一夏は彼女と決着つけるつもりだった。そんな一夏の言葉に楯無は考え込む。
彼を箒と逢わせるべきなのか、と。楯無は一夏を箒と逢わせる事は容易い為問題は無かった。
しかし、そうなれば箒は何をするかや一夏が箒を殺すかもしれない危機感を抱いていた。
だが、一夏は箒とケリをつけたいが為に無理矢理でも、箒と逢うつもりだろう。箒も箒で一夏に何を言うのかは判らない。嫌、彼は、一夏は自ら決着を着けたい為、何も言えない。
彼は自分だけでなく、簪を守りたいと言っている。これには楯無は悩んだのだ。簪に危険が及ぶのだけは防ぎたいーー彼、一夏が困る事だけも防ぎたい。
楯無は何かを決意したのか頷くと、それを一夏に答える形で言った。
「判ったわ……」
楯無の言葉に一夏は哀しい笑みを浮かべながら「そう」と言い掛ける。
「その代わり、条件があるわ」
楯無がそれを遮る形でそう言うと、一夏は「条件?」と言う。一方、一夏の言葉に楯無は深く頷くと、険しい表情で一夏を見据える。
これには一夏は生唾を呑み、簪は心配そうに見詰めている。
そして、楯無が何を言うのかは一夏や簪は判らなかった。判るとすれば楯無がそれを言うまでだろう。
そして、保健室内は重苦しい雰囲気が流れるも、それを緩和できるのは楯無だけであった……。
次回、一夏と箒、避けられぬ話し合いと、楯無の一途の想い。