ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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第93話

「…………」

「そ、そんな……」

 

 一夏と楯無は今、目の前にある鉄格子の向こうにいて、身体中を拘束されている箒自身の過去を聞いて、それぞれの反応を見せていた。

 一夏は無言で鋭い眼差しで腕を組み、楯無は信じられないと言うかのように驚きを隠せない。一方、箒は悲しそうかつ悔しそうに自分の過去を教えていた。

 箒は一夏と別れてからずっと辛い日々を過ごしていた。それは束が造ったISが原因であり、そのせいで家庭崩壊した者達に心ないことを言われ、誰も助けてくれなかった。

 それに転校を繰り返し、そこで友達を作る事が出来なかった。作ったとしても、束の機嫌を取り持ち、束に気に入られようと媚びる輩が大半もいたのである。

 箒はずっと孤独だった。家族も束のせいでバラバラになり、話す事が出来る存在がいなかった……箒から見れば苦痛その物であり、箒自身が普通に過ごしたかった事を束はぶち壊しにしたのである。

 一夏に歪んだ愛を向けたのも、彼だけが自分を助けてくれたのと、彼だけが自分にとって希望でもあった。しかし、そんな箒の話を聞いた一夏は何時の間にか下唇を噛んでいた。

 

「私はずっと孤独だった……誰も私を助けてくれなかった……あの人のせいで家族はバラバラになったーーなのに、あの人は助けようともしなかった!! あの人にとって、私は如何でも良い存在だったのか!? それに一夏、お前は何故、私を見ようとせずに、その女を見ているのだ!? 何故、私ではなく、その女を選んだのだ!?」

 

 箒は叫ぶーー目尻には涙を浮かべていた。その涙は箒の楯無自身への怒りと嫉妬が籠められている。そんな箒に楯無は何も言わず下唇を噛みながら、箒から目を逸らす。

 刹那、一夏は楯無を守る為か、背中に隠すように移動する。一夏の行動に楯無は驚くも、一夏は軽蔑な眼差しで箒を睨んだまま何も言わない……訳ではなかった。一夏は静かに、口を開いた。

 

「篠ノ之、お前の過去には同情するーーだが、そんなのはお前の自業自得だ」

 

 一夏は箒に言い放ち、それを聞いた楯無は瞠目し、箒は目を見開くも直ぐに怒る。

 

「な、何だと!? お前は私の過去が如何でも良いのか!? それに一夏、お前は私の過去を何だと思ってるんだ!?」

「さっき、お前の過去は同情すると言ったーーけどな、それはお前が誰にも助けを必要とはしなかったからだ」

 

 一夏は言葉を続けながら突然、瞑目する。

 

「篠ノ之……貴様は何故、周りに助けを必要としなかった? 何故、お前は束さんに助けを求めなかった? 何故、家族と一緒に居たいと言わなかった? 言えば、束さんが何とかしてくれた筈だ? それを何故、しなかった?」

 

 一夏は箒に指摘した。確かに束に言えば何とかしてくれた筈である。それを何故、箒はしなかったのだろうかーー勿論、箒はそれに答えるーー嫌々ながらに。

 

「あの人は私達家族をバラバラにした……あの人は私達家族よりも名誉を選んだ……私から見れば、あの人は憎悪の対象でしかない……」

 

 箒は怒りがこもった口調で、束の悪口を言う。元はと言えば全て束が原因であり、束がISを造らなければこんな事にはならなかった。

 それに箒が束をあの人と言うのも、箒自身が彼女を嫌い、彼女を最早、家族とは言えない存在として見ていたからである。

 そんな箒に、一夏は溜め息を吐くと、ある事を話す。

 

「それは違う、あの人は、束さんはお前やお前の家族を如何でも良いとは思っていない」

「嘘だ!! あの人は私達家族を蔑ろにしていたではないか!? それにあの人が私達家族をバラバラにしたではないか!?」

 

 箒は怒りながら否定する。が、一夏は首を左右に振り、その後にその訳を話す。

 

「篠ノ之……お前は知らなかったと思うが束さんはな、泣いていたんだよ」

「!? ……な、泣いていた? あの人が?」

 

 箒は恐る恐る訊き、一夏の後ろにいた楯無は目を見開く。だが、一夏は静かに頷くとその訳を述べ始める。

 一夏は最初、勇人や止と共に束のラボで束やクロエーー更にはビショップの六人で過ごしていたーーそんなある日、一夏は偶然、束が籠っている部屋で、誰かの啜り泣く声が聴こえた事に気付く。

 それだけではない、一夏は誰が泣いているのかは直ぐに判った。それは束であった。一夏は束を心配し、部屋に入り、束に訊くも、束は涙目になりながら、とある写真が納められている写真立てを大事そうに持っていた。その写真には幼き頃の束や箒ーー少女達の近くには束や箒の両親が写っていた。

 そうーー束は幼き頃の自分や、自分の両親や妹が一緒にいる家族写真を見て泣いていたのだ。束は自分の家族を心配していたのだ。

 束は後悔していたのだ。自分の造ったISのせいで家族がバラバになった事に……。

 束はISを造ったのは宇宙に行く為であるのと、家族を宇宙へと連れて行きたいが為に造った物であった。しかし、世間はISを宇宙進出するよりも兵器にした方が良いと考えたのである。

 これには束も怒るが、家族がバラバラになってしまい、束は自分のせいだと責めていたのである。身内の夢は、その身内の家族や周りに迷惑を掛けるーーまさにその通りであった。

 束は普段、あんな性格なのは元からであるが、内心家族と一緒に居たい気持ちで一杯であったのだ……。本当ならISを造らなければ良かったーーしかし、家族を宇宙へと連れて行きたい。それが束の夢であり、束が望んでいた事であった。

 それに束があの時、千冬にISを造った理由を話そうとはしなかったのも、その為でもあった。

 

「束さんはあんな性格だけど、本当はお前や、束さんやお前の両親を誰よりも心配していた……だから束さんはお前がIS学園に行った時も、束さんは心配していたーー『箒ちゃん、大丈夫かな……』って」

 

 一夏の言葉に箒は身体を震わせながらそれを否定した。

 

「う、嘘だ!! ……あの人は私達を如何でも良いと持っている筈だ!! 一夏、そんな作り話信じないぞ!!」

「嘘じゃねえ!!!!」

 

 一夏は一喝した。それを聞いた箒は肩を竦めるも、一夏は憤怒の形相を浮かべながら言葉を続けた。

 

「嘘じゃねえ……束さんは心配していたーー束さんは自分の造ったISが家族をバラバラにした事にも後悔していたーーなのにお前は何だよ? 何故、束さんの気持ちを判ってやれねぇんだよ!?」

「つ……そ、それは……」

 

 箒は何も言えなくなる。そんな箒を見た一夏は呆れると、後ろにいる楯無に訊ねた。

 

「更し……楯無、もう時間かも知れねぇから戻ろうぜ……」

「えっ? あっ……」

 

 楯無が何かを言いかける前に、一夏は楯無の手を掴み、階段の方へと歩き始め、楯無はそれに続くように歩いてしまう。

 

「待て一夏!? 戻るつもりか!?」

 

 箒は一夏を呼び止める。刹那、一夏は立ち止まり、箒の方を見るーーそれも睨みながら……。

 

「篠ノ之……俺はお前に言っとく事がある」

「な、何だ?」

「篠ノ之……俺はお前が嫌いだ」

 

 一夏の言葉に箒は目を見開く。しかし、一夏は言葉を続けた。

 

「篠ノ之……俺がここに来たのもお前を助ける為ではないーーお前に完全な絶縁を言い渡しにきたのと、束さんの気持ちをお前に伝える為に来たんだーーそれに俺の彼女や、その彼女の妹には手を出すな……手を出せば、お前を殺す!」

 

 一夏はそう言うと、箒は目を見開く。しかし、一夏はそう言った後、楯無を連れて階段を上り始める。後ろから箒が一夏を呼び止める声が聞こえるが一夏は耳を貸さず、階段を上り続けていた。

 しかし、箒の呼び止める声は一夏を求める物と、束が自分達家族を心配している筈も無い事を問い質す為でもあった。そして、牢屋に箒の叫び声が何度も木霊するも、箒は泣きながら叫んでいた……。

 

「(一夏君……)」

 

 一夏に連れていかれる形で階段を上り、箒の泣き叫ぶ声を背中で受け止めていた楯無は心の中で一夏の名を呟く。しかし、楯無はそれを口では言わなかった。何故なら、楯無は一夏を心配し、一夏を気遣っていたからである。

 そして、一夏と楯無の二人は無言で階段を上り続けていた。

 

 

 

 

 

 丁度その頃、ここはIS学園近くにある寮の、勇人や止が住んでいる部屋の洗面所。

 洗面所には勇人が下にはズボンを穿きながらも上半身だけを裸にしており、更にはカッターを右手に持ちながら洗面所に設けられている鏡で自分の身体を見ていた。

 勇人の身体には無数の傷痕があったーーそれはスカープレデターと共に修行し、修行により負った傷である。それはとても痛々しい物であったが勇人は自分の身体を見て下唇を噛むと、視線をカッターの方へと移す。

 カッターには刃物が剥き出しになるように展開されていた。が、勇人はカッターを自分の左腕へと近付ける。

 刹那、勇人は自分の左腕を切りつけた。勇人は別に自分の身体を傷付けるつもりで切った訳ではなかった。それに、勇人が自ら切り付けた左腕には小さな横一文字の切り傷が出来ていた。

 しかし、切り傷からは血は出なかったーー変わりに白い液体のような物が勇人の腕の肌を伝うように垂れる。

 

「……つぐっ!」

 

 勇人は自分の左腕を見て、下唇を噛むと軽く俯きながら身体を震わせていた。勇人は何かに怯えていた。それも自分は人間ではない事に怯えていた。

 何故なら、勇人が政府の人間により、半分人間であり半分アンドロイドにされたのだ……それも、勇人の心に、暗い影をも落としていたのである……。




 次回、一夏の楯無への想い。
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