ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
「成る程な……オルコットを救いたいのは、お前の我が儘じゃなく、山田先生の手助けでもある為か……」
止がセシリアの事を話した後、一夏は腕を組ながら呆れていた。一夏は元より勇人は瞑目しながら耳を傾け、楯無と簪はセシリアとは誰か なのかを知りながらも、止の話に耳を傾けていた。
因みに食事は止が話終える前に済ませている。
実は止がセシリアを助けたいと言ったのは、セシリアの為に動いている山田先生ーーつまり、セシリアと真耶を心配していたからである。
実は真耶はセシリアの為に頑張っているがセシリアもまた、クラスに馴染むように頑張っていた。しかし、効果はあまり良いものではなく、女尊男卑主義者からはあまり良い目で見られていなかったのである。
セシリアが一夏達男に負けた事が屈辱的かつ、それを無様に負け、尚且、クラスの代表にも選ばれなかった事が原因なのたろう。
女子の噂は凄い物である事は気付いていたがそれ以上である事に、一夏達は驚きと呆れていた。
「オルコットの奴、自分がした事の過ちには気付いている……でも、あいつは必死でクラスに馴染もうとしているけど、クラスの奴等はーー特に女尊男卑主義者の奴等はそれを許そうとはしない」
止はセシリアの事を心配しながら言葉を続ける。一夏と勇人は、止自身がセシリアの事を心配している事には気付いているが止は言葉を続ける。
「俺は最初、オルコットの事はどうでも良いと思っていた。でも俺はあの時、オルコットとの闘いをした時、オルコットが俺の着けていたマスクを馬鹿にした事には怒っていた」
「ああ~~っ」
一夏は止の言葉に納得するように頷く。勿論、それはクラス代表決定戦の時であり、その時にセシリアが止が顔に着けていたチョッパーのマスクを馬鹿にした事であり、それを聞いた止は怒り、セシリアを完封なきまで叩きのめした事である。
あれはセシリアが悪いが止はチョッパーを尊敬している為、仕方ないとは言え仕方ないだろう。
「俺さ……あん時は本当に怒ったよ? でも、クラス代表決定戦の翌日、籤引きで俺と決まった時、オルコットは泣きながら教室を出ていったのは覚えているか?」
「ああ、その後に山田先生が追い掛け、お前が追い掛けた後だろう?」
「うん、でもそれだけじゃなかった、オルコットは自分の過去を話した時に泣きながら話した時に、山田先生がそれを優しく論していた。俺から見れば山田先生は良い人だと思ったんだ」
「そうだな……山田先生は織斑先生……」
勇人は何かを言い掛ける前にある事に気付き、一夏を見る。一夏は勇人の言葉を聞いていたが一夏は哀しい笑みを浮かべながら首を左右に振る。
俺は大丈夫だ、心配するな、と一夏は勇人に訴え掛けていた。勿論、勇人は軽く頷くと言葉を続ける。
「山田先生は織斑先生よりもまともだが少しおっちょこちょいーーだがそこが逆に和むからな?」
「だろ? それに俺は力になりたいんだよ、山田先生やオルコットの為にもさ? ……なあ二人共、お願いがあるんだ」
「お願い?」
「…………」
止の言葉に一夏は訊ね、勇人は無言で止を見ていた。
「俺の身勝手かも知れないけど、オルコットや山田先生の為に力を貸してくれないか? 俺あのままじゃ、オルコットが可哀想で仕方ねえーーオルコットは必死で自分のした過ちに気付いている! だからこそ、二人の為にも力になりてえんだ! なあ頼む二人共、力を貸してくれ!」
止は一夏と勇人の二人にお願いする。しかし、止が何故、セシリアの為に動いているのかには理由があった。
実は止は三年前、あの火災で、実在は生きていたが渡だけでなく両親も失ったのである。止から見れば両親や弟を失ったのは哀しい物であった。
だが、止は一人ではなかった。一夏や勇人、三人のプレデター達がいる為、寂しくはなかった。
セシリアが独りぼっちなのを、止はセシリアを自分と重ねてしまったのである。セシリアは一人ではない。セシリアには自分達やクラスの皆がいる事を教えたかったのである。
だからこそ、止はセシリアを助けたいと思ったのだろう。そんな止の願いに一夏は哀しい目で、勇人は瞑目しており、楯無と簪は心配そうに見ていた。
刹那、口を開いた。
「止……俺はお前の言い分には理解出来る」
「一夏?」
止は一夏を見ると、楯無と簪も一夏を見やる。勇人は瞑目し続けたていたが少し笑っていた。
「止……確かにオルコットの過去は同情出来るし、オルコットが女尊男卑主義者達に嫌な思いをされている事にも判ってた……だが、お前はどうなんだ?」
「どうって……何が?」
止は首を傾げるが一夏は何故か言葉を詰まらせる。一夏は止に渡の事を言いたかったのである。
嫌、止に言いたかったが言えないでいた。言えば止を悲しませるだけであり、止はショックを受けるのではと思っていた。
「判ってるよ……渡の事でしょ?」
「っ!?」
止の言葉に一夏は目を見開くが止は哀しい笑みを浮かべながらそれを述べた。
「確かに俺は渡の事で一杯だーーでも渡に構ってる暇はないーー渡には悪いけど、今はオルコットや山田先生の事が先なんだ」
「止……お前」
「一夏……確かに俺は渡を心配しているけど、今はオルコットや山田先生が先だーー渡には何れ、俺から話をし、何れ兄弟として決着をつける」
「止……」
止は俯く。両手を拳に変え力を入れていた。止は渡を心配していたがそれは後にしていた。本当は渡を心配していた。
だが今は、セシリアや真耶が先であり身近な事から解決しょうとしていた。周りから見れば薄情者と言われるかもしれないが今はそれしかなかった。
「俺だってさ、渡を助けたいよ……でもよ今は、クラスの仲間を助けるのが先なんだ……クラスの奴が困っているのを見てられないんだよ」
止は顔を上げる。今にも泣きそうなのか止は目尻に涙を浮かべていた。そんな止に一夏は下唇を噛む。
一夏は止の気持ちを察した。止は堪えている、と。
「……止、俺は嫌だけど判ったぜ」
「一夏?」
「えっ、一夏君?」
一夏の言葉に止と楯無は一夏の名を言う。すると、一夏は嫌そうに訳を話始めた。
「俺はオルコットは嫌いだーー俺はオルコットが女尊男卑主義者であるのと、止を怒らせたと言う理由で嫌いだったーーだけど、お前はオルコットを嫌っているよりもオルコットを助けたいみたいだからな?」
一夏は髪を掻く。心なしか頬を紅くしていた。
「まあ、お前はそう言うのなら俺は文句は言わねえよーー俺はただ、お前が困っているのをリーダーとして親友として見たくなかったからな」
「いち」
「俺も助けてやるよ」
「勇人!?」
止は一夏に何かを言い掛ける前に勇人が口を開き、止は驚きながら、勇人を見ると、勇人は鋭い眼差しを止へと向けていた。
「止、俺は別にお前を助けるつもりはない、だがお前を見捨てるつもりもないーー俺は止と言う親友の願いを聞き入れる形で手助けするだけだ」
勇人は呆れながら言葉を続ける。それを聞いた止は涙を流しそうになる目を押さえる。しかし、止は嬉しかったのだ。
一夏と勇人が、二人の親友が自分の為に力を貸してくれる。それは止にとって、嬉しい以外なんでもない。
「止、泣くなよ?」
一夏は止に呆れながら言うと、止は首を左右に振る。
「嫌、別に泣いてる訳じゃねえよ? 目にゴミが入ったからそれで泣いてるだけだよ?」
止は恥ずかしそうに否定する。勿論、嘘がバレバレだが一夏は止をからかい、勇人は再び瞑目していたが笑っていた。
「お姉ちゃん、この三人、凄いね?」
「……ええ」
そんな三人の友情に更識姉妹は見守っているのか蚊帳の外だった。嫌、二人は彼等の友情に何も言えなかったと言えば良いだろう。
何故なら彼等は死地を潜り抜けた猛者達であると共に親友であるからだ。親友の危機には親友が駆け付ける。
一夏、勇人、止の三人は其処らの男達の友情とは違う。彼等の友情はそれ以上の友情で固く結ばれている。
だからこそ、彼等の友情は脆くはない。更識姉妹は三人の友情に何も言えなくなる中、一夏は止をからかい、止は泣きながらも否定し、勇人は無言だが笑みを浮かべていた。
それは何処にでもいる普通の男子生徒達だったがその光景は更識姉妹には珍しい物だった。
そして、それは食堂が朝の時間が終わるまで続いていた。
一方その頃、千冬は一夏に歪んだ思いに目覚めかけている事を一夏、は知らなかった。
次回、千冬、人が変わる。