ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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 今回は千冬しか出てきません。


第97話

「一夏……」

 

 一夏達が食堂で朝食を摂ってる頃、千冬は寮にある寮長室で一人、ベットの近くに凭れ掛かりながら一夏の名を呟いていた。千冬は寮長であるがこの時間帯なら教師が学園で授業の準備をしなければならない。

 では、何故千冬は未だに寮長室にいるのかは学園長やとある人物に寮長室もとい自室での三日間の謹慎処分を言い渡されたのである。

 これには千冬も反論したかったが楯無は千冬が勇人に詰め寄り問い質した事や、その内容が一夏の事である為、楯無は学園長達に洗いざらい話してしまい、このような結果となってしまった。

 そこは未だ良いだろう。しかし、千冬は虚ろな目をしており、一夏の名を呟き続けていた。彼女は今、一夏の事しか頭になかった。

 千冬にとって、一夏を誰よりも心配し、誰よりも求めていた。千冬の目が虚ろなのは一夏を求めるがあまり、心が弱りきっているからだった。

 

「一夏……何故お前は私を拒むのだ? 何故お前は私に過去を話したがらないのだ……」

 

 千冬は一夏に訊ねる。勿論、此処には一夏は居ない。居たとしても、一夏は千冬を拒み直ぐに寮長室を出ていくと同時に、自分の過去を話したがらない。

 千冬が強要しても一夏は更に拒絶し、千冬を殺しかねない。その前に一夏と接触した時点で千冬に重い処罰を喰らうのも目に見えていた。

 

「一夏……一夏」

 

 千冬は一夏を求める。千冬は寂しかったのだーー千冬は一夏が誘拐された事を日本政府が黙っていた事と、それが原因で一夏を苦しめている事を知らなかった。

 千冬は一夏を養う為や家計を助ける為にバイトをしていた。それが原因で一夏の事をあまり見てやれないでいた。

 一夏が苦しんでいるのに自分の事を優先し、一夏が努力している事を褒めてやる事さえもしなかった。周りから見れば異常かもしれないが、千冬は家計を助ける為に疲れきっていたのである。

 ある日、親友の束が造ったISで有名になった際も、それが一夏を更に追い込んでいる事にも気付いていなかった。

 そして、あの日が千冬や一夏の姉弟の絆を裂き、大きな溝を作る出来事が起きる。それは一夏誘拐事件。

 千冬は名誉を得たと同時に、ツケが回った意味であの事件で弟を失ってしまう。千冬から見れば絶望でしなかった。

 千冬にとって、一夏は大切な弟だった。日本に帰国した際も、一夏の親友達の一人である五反田弾に殴られ、弾から一夏が苦しんでいる事を知った。

 それは千冬にとって知るべき事実であり、千冬を追い込むには充分な程であった。千冬は一夏の苦しみを知ったと同時に一夏に謝りたかった。

 束が捜してくれても、千冬はドイツに恩を返す意味で一年間、教官を務めていた。そこでラウラと言う銀髪の少女と出逢い、ラウラ率いるクラリッサ以下数名の女性隊員の指揮を執る事にもなった。

 しかし、一夏を失ったと言う心の傷を拭いきれず、何時もは気丈に振る舞っていたが裏では泣いていた。逆にそこでラウラが一夏に怨みを抱く事になるのは別の話である。

 千冬が教官の役目を終えた後、今度はIS学園から教員にならないかと言われた。勿論これは、一夏誘拐の事を教えようとした女性秘書の願いでもあった。

 最初は千冬は断っていたものの、女性秘書は学園長や学園側にも頼み込み、千冬を学園の教員にしてくれと頼み込んだのである。

 

『これ以上、彼女が苦しむのは良くない、彼女は私達日本政府のせいで苦しんでいるーー彼女には悪いけど、彼女には一夏君の分まで生きて貰う為に過去に拘るだけではなく、明日の事をも見てほしい』

 

 女性秘書は学園長に対してそう言ったが学園長もまた、彼女が一夏を失った事で苦しんでいる事は知っていた。

 何故なら、一夏が死んだ事は女性秘書から聞かれ知っているが、学園長は彼女が日本政府の陰謀に巻き込まれた被害者に過ぎないと思ったのである。

 だからこそ、千冬には学園で教員をしてもらいたかった。千冬を心配しているのは束だけではなかった。周りの極一部もまた、千冬を心配していたのである。

 千冬は何度も拒んだが最終的には折れ、学園の教員となった。そして、二年後の今年、奇跡が起きたのである。

 弟が生きていたのである。千冬から見れば喜びしかなかった。これでまた、一緒に暮らせるーー千冬はそう思っていた。

 しかし、現実は違った。一夏は自分を拒絶しており、自分の方へと近付こうともしなかった。

 千冬から見れば判らなかった。無理もない、千冬も一夏や箒と同じように孤独の日々を過ごしていた。一夏を失った事で千冬は自分の過ちや一夏の大切さを知った。

 どんなに一夏を求めても一夏が生き返る訳ではない。一夏が自分を許す筈もない事に気付いていた。が、千冬は一夏が生きていても、罪悪感で一夏に近付く事は出来なかった。

 自分は一夏に嫌われている。千冬はそれに気付きながらも近付けられないでいた。

 近付いたとしても一夏は拒絶する事も目に見えていた。それだけじゃない、千冬が勇人や止に一夏の過去を訊こうと詰め寄ったのも、白式を与えようとしたのも、一夏のISをスペック上の理由で没収しょうとした後に白式を渡そうとしたのも、全て一夏の為でもあった。

 結果は全て的外れだった。過去の件は一夏に知られてしまったがそれでも訊こうとしている。白式を与えようとした件は一夏に拒まれ失敗し、没収しょうとした件は楯無に論され失敗した。

 千冬のやる事は全て裏目と出てしまった。過去の件を訊こうとした際や、楯無に一夏の事を教えても聞き入れてくれなかった。

 それは全て千冬の勝手かツケが回った事なのかは判らない。だが千冬は未だ一夏を求め続けている。

 自分には一夏が必要であると同時に、一夏への罪滅ぼしがしたかった。それらは全て裏目となるも、千冬は泣く。

 

「一夏……一夏」

 

 千冬は泣き続ける。一夏を失った後の孤独が故だろう。千冬は自身が悪いと気付きながらも千冬はそれを一夏に上手く言えなかった。そして、千冬は泣き続けた。

 それは数分間も続いた。扉の向こうにいる、この寮長室を出入り出来る扉を通る女子達に聴こえているのかは判らないが千冬は泣き続けた。

 

「…………ふふっ、ハハハ」

 

 刹那、千冬は泣きながら笑う。それは狂気と言うよりも孤独か弟を求めるがあまりの狂気とも思えた。

 千冬は虚ろな目をしながら泣きながら笑うと、口を開く。

 

「そうか……こうすれば良かったか……そうだ、そうすれば良い」

 

 千冬はある事を考えてしまう。それは一夏が拒もうとしても、一夏を無理矢理一緒に住ませれば良いと言う考えだった。

 その考えは最早ストーカーと言うよりも、千冬の我が儘だった。それでも千冬は言葉を続ける。

 

「一夏が拒んでも私は一夏を離さん……それに一夏と一緒にいる奴等は私が認めた者達しか近付けさせない……それにあの忌々しいガキ共や生徒会長は論外だ」

 

 千冬は楯無、勇人、止の事を一夏の親友であろうと近付けさせない者達として見始める。

 

「そうだ……そうすれば良かった……そうすれば……ふふっ……ハハハ!!」

 

 千冬は狂気的な笑いをする。それは千冬が壊れている事を意味していた。

 

「誰にも一夏を渡さん! 一夏は私の物だ! 一夏には私の考えたレールの上を走ってもらおう! それに、それに、私を認めた者達以外の奴等には一夏には指一本触れさせん……触れたら、例え誰だろうと破滅に追い込み、殺してやる! 何人いようが殺してやる!! 殺してやる……ハハハハハ!」

 

 千冬は狂気的な事を言う。異常としか見えなかったが千冬は既に心が壊れ掛けていた。千冬は一夏を自分の物としか見なくなり始める。

 それは千冬が悪いのか、一夏が悪いのかは判らない。だが姉弟はISにより絆を引き裂かれた被害者達と言えば良いだろう。

 弟は姉に憎悪を抱き、姉は弟を自分にしょうとする独占欲が出来てしまう。

 それは最悪な結果を招く事になる事を千冬自身は知らなかった。

 今は千冬は狂気的な笑い声を上げ続けていたが笑い声は室内に木霊し続けている。

 そして、千冬の心は完全とは言えないが一夏を思うがあまり壊れてしまった……。




 次回、秘密です。
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