ワンサマーとプレデター   作:噛ませ犬

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第98話

「あがっ……」

 

 此処は学生寮の勇人と止が共同生活をしている部屋。そこには二人の男女がいた。女性の方は織斑千冬であるが何故か気を失っている。

 もう一人は男子であったがIS学園の特徴である白い制服を着ているが何故か膝を突いて、腹を押さえながら踞っていた。

 しかし、千冬の近くには血の着いた包丁が転がっており、男子が押さえていた腹には血が着いていた。が、腹からは真っ赤な血が止まる事無く出続けているのと、男子生徒は汗を流しながら歯を強く食い縛っていた。

 何故こんな事になっているのかと言うと、千冬がその男子生徒を刺そうとした後、殴られ気を失ったのである。その為、このような事になってしまったのだ。

 

「う、ああっ……」

 

 男子生徒は腹に走る激痛に耐えきれず、そのまま前に倒れ掛かり、俯せに倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は十五分前。

 

「取り敢えず、教室に戻ろうぜ?」

 

 一夏達が食事を済ませた後、止が突然そんな事を言う。これには近くにいた一夏、楯無、勇人、簪の四人は頷く。

 

「そうだな、教室にはあの二人は居ないし、何より少しぐらい平穏な時を過ごせるな……」

 

 止の言葉に一夏は腕を組みながら言う。あの二人は千冬と箒の事であり、一夏から見れば顔を見たくもない存在。一緒にいるだけや顔を見るだけでも、憎しみが増す。

 嫌、今の一夏の表情は何処か安堵している。二人が居ないからか、二人がいるせいでゆっくりとした時を過ごせなかった為に、今の、二人が居ない事が一夏にとって、久しぶりとした安らぎの時間なのだろう。

 そんな一夏を見た楯無は少し微笑むが楯無から見れば、一夏がゆっくりとした時間を過ごせる事が、楯無にとって何より嬉しかった。

 逆に未だ、不安が楯無の心を支配していた。一夏が再び、人を殺さすのではないのか、と。それが楯無の不安を積もらせている物であり、楯無自身が一夏を心配している事を意味している。

 楯無は一夏を見ている中、楯無の心には安否と不安が入り交じっている。すると、一夏は楯無を見ると何故か楯無の頭を撫でる。

 楯無は突然の事に戸惑うが訊ねた。

 

「ど、どうしたの一夏君? 突然頭を撫でてきて」

 

 楯無の問いに、一夏は楯無を見て溜め息を吐くと、楯無に対し口を開く。

 

「どうしただと? 落ち込んでいたから気にしただけだが悪いのか?」

「えっ……わ、私は別に落ち込んでいないわよ?」

「嘘を付くな、お前、顔に書いてあるぞ? 落ち込んでいます、ってな?」

 

 ――えっ!? ――。一夏の言葉に楯無は自分の顔を触る。それを見た一夏は軽く笑う。

 

「ははっ、冗談だよ?」

「あっ……む~~」

 

 一夏は笑い、楯無は頬を紅潮しながら頬を膨らます。そんな光景を簪は少し笑い、勇人は瞑目しながらそっぽを向き、止は苦笑いしていた。二人のやり取りは恋人同士に見えなくもなかった。

 

「取り敢えず、後は昼休みか放課後でな」

 

 一夏はそう言うと、楯無の頭を撫でていた手を下ろし、立ち上がると、トレーを持つ。勇人と止の二人も立ち上がるがトレーを持ってカウンターの方へと歩こうとし、踵を返し、勇人や止も踵を返す。

 ――待って! ――。刹那、楯無が三人を呼び止める。勿論、楯無が呼び止めようとしたのは一夏だけであるが勇人や止も振り返ってしまう。

 

「何だ更識? 何か未だ用があるのか?」

 

 一夏は呆れながら、楯無に問うと、楯無は頬を紅くしながら何故かモジモジしていた。その仕草は可愛い物だったが一夏は何も判らず首を傾げる。

 一方、勇人は一夏を見て頭を抱え呆れ、止に至っては苦笑いと言うよりもニヤニヤしながら、一夏を見ており、簪に至っては無言である。 三人はそれぞれの表情を浮かべているが三人には共通している事があった。それは楯無が一夏に惚れているのと、一夏はそれをはぐらかしているのか何も判らないでいる。

 

「どうした? 何にもなければ俺達は教室に戻るぞ?」

「嫌……その、私のお願いはどうかな?」

「どうって何が?」

「嫌……私や簪ちゃんの家に来ないかって話」

「……あ、ああ~~っ」

 

 楯無の言葉に一夏は少し戸惑う。それは昨日の話の事であり、楯無が一夏を更識家に招待したいと言う話である。

 それはいいとして、一夏は行くかどうかは決めていなかった。が、楯無から見れば早く決めて欲しいのだろう。早く決めてくれれば楯無の心配は消えるだろう。

 否、それ以前に楯無は一夏に家に来て欲しかった。一夏と少しでも一緒に居たい、一夏の心に出来た大きな傷を少しでも癒したい。

 楯無は一夏が何を言うのかを期待していた。出来る事なら来て欲しい、と。一方、一夏は何故か悩むが、止がふと、ある事を思い出す。

 

「あっ!! 忘れた!!」

 

 止の叫び声に一夏達は驚く。

 

「ど、どうしたんだよ止?」

「あっ、嫌、ちょっと寮で忘れ物をしたんだ」

「忘れ物?」

 

 一夏の言葉に、止は頷く。

 

「ああ、今日の授業で必要なノートを忘れた、俺は先に寮に戻ってるから、二人は先に教室に戻ってて、俺はノートを取りに行ってから教室に戻るから、山田先生には俺は遅れると言っといて」

 

 止はそう言うと、カウンターの方へと歩いて行く。止は一夏達とはどんどん離れていくが一夏達は止の後ろ姿を只見ていた。

 

「止……あっ、それよりも更識?」

「何かしら一夏君?」

 

 一夏は何かを思い出したのか楯無に訊くと、楯無は一夏の方を見ると訊き返す。

 

「あっ、さっきの話何だけどよ……」

「さっきの話? あっ、うん」

 

 楯無は固唾を呑む。一夏が何を言うのかを期待するのと反面に、一夏の答えはどっちなのかを、楯無は心配する。

 行くか、行かないか、と。行くのならば喜ぶ、行かないのなら仕方ないと思って諦めるしかない。が、一夏の答えは一夏自身が少し悩んだ末に決まっていた。

 一夏はそれを決意した意味で頷くと、楯無に答えた。

 

「更識、俺は行くよ、お前やお前の妹の家に」

 

 ――えっ? ――。一夏の言葉に楯無は目を見開く。何故なら、一夏の言葉が「行く」と言う、楯無自身が望んでいた答えでもあったからだ。

 楯無自身は少し驚きながら、一夏に訊ねる。

 

「い、一夏君、行くの? わ、私や簪ちゃんの家に?」

「ああ、お前には少し、お世話になったからな」

 

 一夏は恥ずかしそうに訳を述べる。実は一夏は楯無の行動に少し感謝していた。楯無は千冬が自分のISをスペック上の理由で取り上げとした際に、楯無は千冬に対し論して止めたりしてくれた為に取り上げられずに済んだ。

 因みに勇人と止の二人のISは真耶が取り上げようとする前に、真耶は学園長に確認の連絡をし、千冬が許可を貰ってない事に気付き、言わなかった。

 それだけではない、楯無は一夏の為に、千冬に一夏に近付かないよう釘を刺したりしてくれたのである。

 それは少しお世話になったと言うよりも、楯無が千冬や箒の事で苦しんでいる一夏の為に動いてくれているとしか思えなかった。

 逆にそれが、一夏が千冬と箒への憎悪を抱く前に、楯無と一緒に居る時だけ、千冬と箒を忘れる事が出来た。

 最初は楯無の事等どうでも言いと思っていた。しかし、それが長ければ長くなる程、楯無と一緒にいるだけは少し安らかな時間が出来ていた。

 一夏にとって幸ある時間かも知れない――勿論、その時間は何れ別の形になるだろうが一夏はそれを知らない。そして、楯無にこう言った。

 

「更識、お前は俺にに沢山の事をしてくれた――否、お前と一緒にいる事が当たり前にもなっていた――お前は俺に安らかな時間を少し与えくれた……それが俺の答えかも知れないが俺はお前に感謝している」

「一夏君……」

 

 楯無は一夏の名を呟くと、一夏は少し恥ずかしそうにそっぽを向いた。

 

「だからよ、お前に恩を返す意味で家に行ってやる、お前やお前の妹の身内や身の回りの使いに少し挨拶してやるよ」

 

 一夏は恥ずかしそうに言葉を述べる。が、一夏の言葉を聞いた楯無は目を見開くも、直ぐに微笑ましそうに見つめる。

 

「ええ……後で家族に連絡するわ」

 

 楯無は嬉しそうに言った。楯無から見れば一夏が家に来る事は嬉しいのであろう。一夏が家に来れば、両親や皆を元気付ける事が出来る。

 嫌、一夏がしてきた事は許される事ではない。それだけでなく、自分は一夏を支えたいーー楯無の我が儘かもしれないが楯無の切ない我が儘でもあった。

 一方、一夏は恥ずかしそうに楯無にそっぽを向き続けていたが頬を紅くし続けている。楯無も楯無で頬を紅くしていた。

 

「ハァ……」

「お姉ちゃん……」

 

 一夏と楯無を見た勇人は溜め息を吐き、簪は楯無を見て少し何も言えなくなる。勇人と簪、この二人は一夏と楯無の二人の淡くも切ない気持ちを見て、呆れながらも応援したい気分で一杯だった。




 次回、繰り返される悲劇。
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