ワンサマーとプレデター 作:噛ませ犬
数分後、此処は学生寮。寮は生徒は殆ど居なかった。大半は身支度を終えて学園へと向かった者、残りの極僅かの者はサボりか風邪の為に休んでいるだろう。
そんな中、一人の男子生徒が通路を歩いていた。止である。止は慌てる素振りを見せていないが自分や勇人と共同で過ごしている部屋へと歩いていた。
彼は今、授業で使うであろうノートを取りに寮へと戻っていた。無論、一夏や勇人には山田先生に遅れると言い残している為、問題はない。
もし、真耶に指摘される形で怒られても、授業に使い、黒板で書かれた内容に録る為に必要なノートがなければ、何の意味もないし、怒られるよりはましだった。
止は自分や勇人が共同で過ごしている部屋を出入り出来る扉の前に着くと、制服のポケットから鍵を取り出し、鍵穴へと差し軽く回す。
ガチャッ……。鍵穴から小さな音が聴こえたーー開いた事を意味していた。止は鍵を抜くと、鍵をポケットへと戻す形で入れ、ドアノブを捻り、扉を開け、部屋の中へと入る。
「ああ~~っ、早く授業へと戻らなきゃ」
止は準備を怠った自分に怒り呆れながら自分が使っているデスクへと歩み寄る。止が使っているデスクには物は散乱してはいないが小綺麗であり、本が何冊も積み重ねられており、それらは全て、サバイバル関連の物であった。
それらは全て、パソコンの通販で購入した物ばかりであり、止から見ればいざと言うべきか、或いは渡を救えなかった事への罪悪感かは止にしか判らないだろう。
止はデスクの上にある、授業の内容を録る為に必要なノートを捜していた。直ぐに見付かった。
止は学園へと戻ろうとして、ノートを手に取ろうとし。刹那、扉が開く。
「誰だ……えっ?」
止は扉が開いた事に気付くが眼を見開く。扉を開けたのは千冬だったが千冬は俯いたままである。
「お、織斑!?」
止は千冬を見て驚く中、千冬は駆け足で止に迫る。
「えっ!?」
止は突然の事で驚くも、千冬は止に抱き着く。
「うぐっ……」
刹那、止は腹に激痛が走る事に気付き、腹を見ると眼を見開く。そこには、腹には包丁が突き刺さっていた。間に合わなかったのだ。
包丁の周りには自分の血が、白い制服を真っ赤に染めている。しかし、千冬は包丁を持ってる手に力を入れていた。
少しでも、止に致命傷を与えたようとしているが千冬は止を睨んでいた。その鋭い眼差しは憎悪が籠っている。
「一夏は誰にも渡さん……一夏は私の物だ……」
千冬は力ない声で呟くが止は「ぐっ……!」と歯を食い縛り、腕に力を込めて千冬の顔面を殴った。
千冬は吹っ飛ばされるが少し飛んだ程度であり、仰向けに倒れた。一方、止は無言かつ危険と判りながらも包丁を抜く。
「うぐあっ……」
止は苦しそうに顔を歪めるが包丁の抜く音が止の耳に響く。完全に包丁を抜く事は出来たが包丁の鋭い先端や刀身の半分は真っ赤だったが止は包丁を落とす。
カラン……包丁の落ちる音が辺りに小さく木霊した。
「あがっ……」
止はそのまま腹を押さえながら跪く。止の額には激痛の表れなのか汗が出ており、腹に流れ出る血は止まらない。
「う、ああっ……」
止は腹に走る激痛を堪えつつ力ない声を上げる。最早、自分は助かるかどうかも判らない。
このまま大量出血で死ぬのだろうか、止の心には死と言う言葉が過り、止の心を支配している。
「だ、誰、か……」
止は誰かに助けを求めようとしていた。千冬は気を失っている為無理に等しく、今の時間帯は皆、学園にいるだろう。
ならば、自分で何とかするしかない。だが、その自分は倒れておりどうする事も出来ない。
このまま死ぬのだろうか、止は身体を震わせるが止は出逢った者達を思い浮かべる。
それは走馬灯か、死へのカウントダウンかは判らないが止は出逢った者達を思い出していた。
一夏、勇人、楯無、簪、クラスの皆、本音。セシリアの件は未だ解決していない。止はそれに後悔しながらも眼を閉じ、今一番逢いたい者達の名を上げる。
「チョッパー……渡……」
止は二人の名を呟く。
チョッパー。彼はプレデターの一人であり、両剣の扱いを教えてくれた師匠。彼といる時はとても辛かったが楽しい事もあった。
止にサバイバルの師匠かも知れないが止から見れば逢いたい者の一人だろう。
渡、霧崎渡。彼は双子の弟であり、止の目の前で瓦礫に埋まれ死んだと思われていた。
しかし、彼は生きていたのだ。彼と逢った際は驚きしかなかったが渡は彼に憎悪を抱いていた。
それは止が悪い訳ではないが仕方ないとしか言えない。止は渡を心配していたが彼に謝りたかった。
あの時、自分を助けようとして巻き込んでごめん、と。勿論、渡は許してくれる筈もないだろうが止はチョッパー同様、彼に逢いたかった。
「みん、な……ご……めん」
止は意識が消えていくのか眼を閉じつつあった。大量出血の影響かもしれないが止は死を覚悟していた。
刹那、通路から叫び声が聴こえた。止はその叫び声に気付いたが止は静かに眼を閉じた。何故なら、扉は開いたままだったのだ。
それは幸いな事か何の意味もない事かは判らないが止が死んだのかは判らないが、止自身は少し気付いていた。通路からの叫び声は女性の物である事に……。
そしてその叫び声を上げた女性は誰か、そして止がどうなるのかはその女性に掛かっていた。