果たして。
「怪獣の郵便屋さん!走る走る!可愛い妖精さんの導きに従いながら走る、走る!こける!妖精さんに起こしてもらい、再び走る、走る!」
マイクを手にシルクハットをかぶった団長の叫びと共に走る怪獣の郵便屋さん。
それを手伝う妖精は黒くて長い髪に白いドレスを纏っている。
見守る白ヤギさんと黒ヤギさん。
舞台の端で包帯を巻いたピエロが心配そうに見守っている。
ピエロの隣に俺もいる。
ゆかいな仲間達という一団の中で一緒に演技している少女留美と俺はデートに来ている。
どうして、こんなことになったのか、そもそも、GUTSの仕事で忙しくて休暇などとる暇のない俺がデートなどできているのか。
その理由は一週間前まで遡る。
「八幡、留美ちゃんから電話が来ているよ?」
作戦室で資料を読んでいた俺へヤズミが声をかける。
留美、
誰だ?
「鶴見留美ちゃんだよ。なーに忘れた振りしているんだよ」
「……」
あぁ、ルミルミか。
俺は立ち上がると受話器を受け取る。
「どうした、ルミルミ?」
『ルミルミいうな!留美!』
「悪い悪い……それで、どうしたんだ」
『疑われているの』
「は?」
『彼氏の事!』
「……あぁ」
留美に言われて俺は思い出す。
アボルバスの事件で俺は留美と彼氏の振りをすることを約束していた。
それっきり、留美とは電話のやり取り位でしか話をしていない。
「それがどうした?」
『全くデートとか、そういうことがないから疑われているの』
「あぁ……でも、GUTSだから、忙しいってことくらい」
『ニュースでGUTSのこと全く報じられないし、怪獣騒動があったことだけじゃん、何をしているのかなんて話せないし』
「つまるところ、何もしてないと思われ始めているってことか」
『そう』
それはまずいな。留美の話だとデートとかの話題がないから彼氏がいないのではないかと疑われ始めているそうだ。
留美は告白されるのが嫌だから俺と付き合っているという振りをしている。
偽装彼氏が疑れてしまうのは流石にまずいだろう。
しかし。
「俺はまだ休暇とれそうにないんだよ」
『そう……』
「すまん」
『ううん、仕方ないよ。八幡、忙しいんだから』
「何とかするから、それまで待ってくれ」
『わかった』
そういって留美との会話は終わった。
この時、俺が電話をしていた場所は作戦室。
普通に昼間だったということから隊員が当たり前のようにいる。
出会いがないという事から“その手”の話に飢えていた。
加えて、彼らは人としてとてもできた人間達だ。
だから、あんなことを言い出したのだろう。
留美との会話から数日後。
俺は隊長から一方的に通達された。
「八幡隊員、貴方に休暇を命じます」
「へ?」
「聞こえなかった?」
「いや、あの、どうして、そんなことに」
「此処の所、レポートとか資料の作成で忙しかっただろ?たまには息抜きして来いってことだ」
シンジョウ隊員が俺の肩をポンと叩く。
「せやせや!もう少ししたらマキシマオーバードライブのテストもあんねん、息抜きしとけ」
ホリイ隊員が片方の肩を叩いた。
「ここは俺達に任せておけ」
「へ?」
リーダーまで任せろといってくる。
「レポートは僕がやっておきますから、任せて」
ヤズミも同じ。
残りの二人へ視線を向ける。
ダイゴ隊員は頑張れと口パク、レナ隊員はピースサイン。
一体、なんなんだ?
よくわからないが俺の休暇は確定した。
その日に留美と電話をすると次の日曜日が開いているという事でデートが決まる。
無難に遊園地へ行こうという事でまとまった。
それにしても、GUTSのメンバーに何があったんだろう。
「しかし、八幡君もうっかりしているというか」
「作戦室の電話であんだけ話していたら事情はわかるっての」
八幡のいない作戦室。
そこでダイゴとシンジョウが話をしている。
「せやけど、偽の彼氏とはいえ、あそこまでしてやるなんて、ええやつやなぁ」
「うーん」
「どうした?レナ?」
「多分だけど、留美ちゃん、八幡君の事大好きなんじゃないかな?」
「そりゃ、好きやなかったら偽の彼氏なんて頼まへんやろ?」
「そうじゃなくて……好きだけど、アプローチできないから、手段として八幡君に頼んだのかもと思って」
「……でもよ、確か、あの留美っていう子と八幡って」
「かなりの年齢差があるなぁ」
「恋愛というものは厄介なものもある。だが、いくつもの壁を越えてこそ、育まれるものがある」
「……リーダー、かっこよ過ぎですわ」
「どうなるかは彼ら次第ね」
優しすぎるGUTSメンバーは彼らの事を思いながら仕事を続ける。
尚、彼へ用事があった某看護師はデートの事を知ると怒り、近くにいたダイゴへさんざん、愚痴を聴かせたらしい。
知らぬのは八幡のみである。
鶴見留美は比企谷八幡に好意を寄せていると思う。
そもそも、恋愛とは何をもって恋愛というのか、あれだけ年が離れているのに恋愛など成立するのかという疑問が彼女の中で渦巻いているがこれは置いておくとして。少なくとも周りの同世代の男子や女子達と比べて彼は違う。
何が違うといわれたら“価値観”というものが正しいのかもしれない。
自ら一人であることを選ぶ、本質を見抜くといった目。
久しぶりに再会した彼はGUTSにいた。
GUTSの事は公になっている情報しか知らない。
隊員に誰がいるのか、どういう事件が起こったのか。それらはマスコミなどが明かす情報しか把握していなかったのだ。
しかし、レドルと、あの宇宙人と親しくなったことでGUTSの事を知った。
彼らといる時の八幡はどこか違う。
前の高校の女子二人と似ている…それよりも活き活きしているような気がした。
「これで、いいかな?」
留美は自分の格好を見る。
モコモコのファーが襟元と袖についた青いコート。
赤いミニスカート、ショートブーツ。
髪は三つ編みなどにしようかと健闘したが、いつか、彼に頭を撫でられたことを思い出し、そのままでいくことに決定。
留美は鞄を手にして外に出る。
心なしか彼女はいつもの不愛想と異なり笑顔だった。
待ち合わせ場所は駅の前。
遊園地の前で待ち合わせしてもよかったが混雑が予想できたため、少し離れた駅にした。
それにしても、休暇で遊園地。
前みたいに怪獣出現とか嫌だぞ?
休暇で怪獣騒動なんてもうこりごりだ。
その分、小町としっかり話が出来たから八幡としては万々歳だけど。
「はちまーん!」
考え事をしていると前から留……ルミルミがやってくる。
何、あの天使?
眩しいほど輝く笑顔を浮かべている少女。小町と比較するわけじゃないけれど、それに匹敵するほどの笑顔だ。
「待った?」
「いや、俺もさっき来たばかりだから大丈夫だ……行くか」
「あ、うん」
何か期待したような表情から落胆する。
ふむ。
「その服、似合っているぞ」
「!?は、八幡のくせに生意気」
「はいはい、行くぞ、ルミルミ」
「ルミルミいうな!」
ぷんぷんと頬を膨らませる留美へ手を伸ばす。
きょとんとしていたがすぐに意図を察して手を握りしめる。
小さくてとても柔らかい手だった。
一瞬、ドキドキしてしまったのは修行が足りなかっただろう。
「え、じゃあ、八幡、宇宙行ったの!?」
「いや、今回は参加していない。俺ともう一人は地上で任務だった」
「ふぅん」
留美に話したのは俺達の仲間が宇宙へ出動したという事。
「あぁ、そういや、俺も近々、宇宙へ行かないといけないんだった」
「え!?どうして!」
「有体に言えば……実験かな」
「それは、危険じゃないの?」
「既に何回か起動実験はしている。今までと比べると比較的安全だ」
「……ふぅん」
「ま、俺からすれば青い地球をみられるっていうのがいいかもな」
「あ!いいなぁ」
俺の言葉に留美は羨ましそうに声を漏らす。
「いつか、そう遠くないうちに留美も宇宙へいけるかもな」
「本当?」
コクンと頷く。
これに嘘はない。
十年、最低でも二十年以内に宇宙開発は劇的な変化をする。マキシマオーバードライブがより発展していけば、留美も宇宙へ行けるだろう。
そんな気がするのは開発にGUTSとして携わっているからか。宇宙へ出たからなのかはわからない。
「宇宙の話をしている八幡、少しいいかも」
「へ?」
「ううん、何でもない」
他愛のない話をしているうちに俺達は遊園地に到着する。
前に言ったよみうりランドでも、ディスティニーランドでもない。
最近、できたばかりの遊園地だ。
「いこっ、八幡!」
留美に手を引かれて俺は遊園地を回り始める。
ジェットコースター、ウォーターなんとか。
お化け屋敷も入ったが、ルミルミが怖くて途中で断念した。
しかし、これはないだろう!?
「なぁ、ルミルミ」
「カップルに見えないといけないんだから、これぐらい必要!」
俺と同じくらい顔を真っ赤にして留美はメリーゴーランドの馬、さらにいえば、俺の上へ乗っている。
カップルに見られる必要はあるけれど、これは犯罪的なものにみられないだろうか?
そんな疑問を抱きつつも、メリーゴーランドは回る。
回り続ける。
メリーゴーランドを満喫?した俺達はぶらぶらと園内を歩いていた。
その時にある一団が困った、困ったと声を漏らしている。
「なんだろう?」
「さぁな」
首を傾げているとルミルミは話しかけに行った。
「どうしたんですか?」
シルクハットの男性、ゆかいな仲間たちという演劇団らしいのだがピエロが怪我をしてしまって、これから始まる舞台ができないのだという。
「私、手伝う」
「留美?」
「その、今、演劇部に入って、いるから、少しくらい、役に立てると思う」
「でも」
渋る様子を見せる団長さん、その目は怪獣の着ぐるみへ向けられている。
「手伝わせてください!」
やがて、留美の真摯な想いに負けたのだろう。
団長は首を縦に振った。
そして、現在に至る。
留美はケガをしたピエロさんに変わって妖精というポジションでデバンという怪獣の郵便屋さんをサポートしている。
最初は緊張していたがコミカルな動きを見せるデバンのおかげか上手に演技ができていた。
しかし、久しぶりに留美の演技を見たがまえよりも上達していないか?
素人目だが、女優とかでやっていけるかもしれない。
「キミの彼女、凄いなぁ」
「あ、はい」
彼女じゃないと一瞬、いいそうになるのを堪えた。
そうしている間に劇は終わる。
団長さんらに感謝された。お礼にアイスの無料券とかいろいろもらった。
留美は要らないといっていたのだが、劇を手伝ってくれたお礼だとがんと譲らなかったので受け取ることにした。
それにしてもデバンとかいう奴、最後まで喋らずに演技していたなぁ。
あれだけの演技にのめり込んでいるという事だろうか?
そんな疑問を抱きながらベンチで座っている留美へジュースの入ったコップを渡す。
「大丈夫か?」
「うん、結構、緊張した」
ふぅーといいながら留美はジュースを一口。
「演技、上手かったな」
「練習、しているから」
「そっかぁ」
「できるなら、演劇とかを将来もやっていきたいと思っている」
「……将来の夢、か?」
「そこまでは考えていない、かな。まだ……八幡は?」
「どうだろうな、全く考えていない」
「専業主夫じゃないんだ」
「……社畜過ぎて忘れていた」
「そっか」
留美は小さく笑う。
将来の夢。
少し前まで専業主夫っていっていたがGUTSの仕事を通して俺の中で小さな変化が起こっている。
勿論、根本は変わっていない……筈だ。
だが、地球を見て、
怪獣と戦って、
ウルトラマンティガをみて、
GUTSのメンバーと一緒にいて、俺の中で何かが生まれつつある。
それは俺の望んだ本物のようなものだろうか?
まだ、わからない。
後日、留美からの話によると偶々遊びに来ていたクラスメイトが目撃していたことで彼氏説はより強くなり、告白されることは減っているらしい。
らしいというのは未だに告白してくるものがいるという事だ。
そこは留美が頑張るらしい。
彼女からいわれたのはまたデートしてくれということのみ。
強いと思えばいいのか、頼りたくないのか微妙なところだな。
さて、そろそろ現実へ意識を戻すべきか?
「ロリコン谷君、説明を求めるわ」
「ヒッキー」
「……先輩」
目の前にいる三人の女性たち。そろいもそろって美少女だけれど、目が笑っていない。
俺、生きていられるだろうか?
数多くの怪獣や侵略者を前にして怯えはなかったが、不思議と体は震えていた。
本能的に恐怖を察知していたのかもしれない。
その後、三人別々に約束を取り付けられたのは仕方がなかったのだろう。
俺自身は納得していないけれど。
後日、留美の友達が撮ったであろう俺達のツーショットが送られてきたことで余計な騒ぎが起こったが、どうでもいいことだろう。
デート回、これでよかったのだろうか。
それにしても、由比ヶ浜や雪ノ下のデートではなく、小学生……おっと、中学生のデートが先って、どうなんだろう?と思ってしまった。
今回の話で察した人が大勢いるでしょうけれど、次の話はアレです。