オビコという妖怪の話が彦野町へ広まりつつあった。
噂によるとオビコは夜の世界の住人。
「アソボ、オビコと遊ぼう?」
そんな言葉をかけられた時、後ろにいるのがオビコだという。
「髪が真っ白になっていたんだって!」
「よっぽど怖い目にあったんでしょう」
「おふぇのおばぁふたいゃんが」
「口から離してしゃべれよ」
ホリイ隊員がドリンクを口から離して喋る。
「オビコに呼ばれても振り返ったらあかんで」
「何で、すか?」
「喰われるから」
「「「喰われる!?」」」
俺達は息を飲む。
「俺の死んだばあちゃんがいっとってん、オビコに呼ばれても振り返ったらあかん、振り返ったら喰われるって」
「喰われるところみたのかよ」
「俺はないわ」
「年寄りの話というか、そういうたぐいの話はどこまでは本当かわかりませんけれど、噂になるということは忘れるなってことなのかもしれませんね」
「せやなぁ」
作戦室へ戻るとイルマ隊長から彦野町周辺で現れるというオビコの調査がGUTSで行うことが決定したという。
「何で、ですか?」
「それを今から説明するわ。ヤズミ隊員」
「オビコをみたという若者がいた場所がここです」
スクリーンにマップが表示され、赤い駒がでる。
「続いて、オビコをみたという話から五分後に彼がみつかった場所だ」
「五分でこの距離を!?」
「ありえないって」
「これが警察からGUTSへ調査が依頼された理由よ」
「成る程、通常では考えられない事態故にGUTSが調べるべきと警察が判断したわけですか」
「そうだ、本日より彦野町の夜間パトロールを行う」
「了解」
この時、俺は気づいていなかった。
返事をしていたシンジョウ隊員の体が小さく震えていた事を。
加えて、俺は忘れていた。
シンジョウ隊員はお化けや妖怪の類が苦手だったことを。
「うわっ!?へ、変な音がしなかったか」
「していませんよ」
あぁ、嫌だ。全力で帰りたい。
俺の隣で懐中電灯を構えてびくびくしているシンジョウ隊員。
本来なら別々でパトロールする予定だったのだが、人数の振り分けの都合で俺はシンジョウ隊員と組むことになった。
本当ならリーダーと一緒だったんだが、シンジョウ隊員がいきなり肩を組んできてこうなったのだ。
すっかり、忘れていたよ。シンジョウ隊員がこういうの苦手だったこと。
「それにしても、恐ろしいくらい静かですね」
「え、あ、あぁ……町の人達はオビコ騒ぎで外出を控えているみたいだな」
「オビコねぇ……本当にいるんなら会ってみたいっすね」
「そ、そうだな」
定期連絡のためシンジョウ隊員がヘルメットで通信回線を開く。
「こちらシンジョウと八幡、異常なし」
ガタンと後ろで音がする。
「うわっ、なんだ!?」
「猫が暴れただけですよ。少しは落ち着いてください。仮にもGUTSなんすから」
俺達が話をしながらラーメンの屋台を通り過ぎる。
あれ、こんな時間にラーメン屋?
疑問に俺が振り返ろうとした時。
「遊ぼう?オビコと遊ぼう」
そんな声が聞こえてきた。
「は、は、は、ははははははははははははははははははは」
隣で異常なほど体を震わせるシンジョウ隊員の姿があった。
武器やウィング関係ならカッコいいと思えるほどの人物がお化け、オビコが現れたというだけで生まれたての小鹿のように震えている。
「は、は、は、ははははははははははははははははははははははち、はちはちはちはちまんまんまん、はちまん!」
少し離れていてもカチカチと歯音が聞こえそうだ。
「とりあえず、振り返るのだけはやめましょう」
「お、おう」
「あの腕にしがみつかないでくださいよ……てか、痛い」
「む、無理無理無理無理!」
アカン、これはダメなパターンや。
ホリイさんならこういうだろうと頭に浮かんだ。
俺達はゆっくりと歩く。
歩いているのだが、なんだろう。こう、後ろから誰かがついてきているような気がした。
考えられる限り、さっきのラーメン屋台だろう。
このままだとずっとついてくるかもしれない。
「シンジョウ隊員、合図と共に振り返ってハイパーガンを構えます。いいっすか?」
「……うん」
やだ、この人、本当にシンジョウ隊員?幼児退行してんじゃないだろうな。
ホルダーからハイパーガンを取り出す。
念のため、カートリッジを入れ替える。
「いきます!」
合図と共に振り返る。
しかし、そこには何もなかった。
――ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
暗闇に不気味な笑い声がこだました。
「逃げられた?とにかく、もう、一安心」
「オビコが夜泣き蕎麦ぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「うぉっ!」
横を見るとシンジョウ隊員がヘルメット越しに叫んでいた。
傍で聞くとかなり迫力があるな。
俺はヘルメットを外す。
あまりの声のでかさに耳がやられた。
「声、でかすぎですよ、シンジョウ隊員」
耳を叩きながらシンジョウ隊員へ文句を言う。
『夜泣き蕎麦がどうした?』
「気にしないでください。それとオビコらしきものを確認しました」
その後、リーダーの指示で俺達はオビコの前へ姿を見せた。
オビコは白い服、白い髪の男だった。
ダイゴ隊員からの連絡でオビコは闇を移動する。デ・ラ・ムを追い越すほどの速度をもっている。油断はできない。
全員が懐中電灯を向ける中でシンジョウ隊員だけが頭上へハイパーガンを向けている。
俺もハイパーガンを構えてオビコを見る。
オビコは手の中に寸動鍋を持っていた。
「わが名はオビコ、これは我が影法師……いでよ、我が影法師」
鍋の蓋から黒い影が飛びだす。
影が火炎を吐き出す。
俺達は地面へ伏せる。
「闇の力を侮るでないぞ、ハチよ、約束を果たすときじゃ!」
「……は?」
オビコは杖を振るう。
放たれた光線が照明を破壊する。
逃げていくオビコへダイゴ隊員が何かを投げた。
「けったいな奴やなぁ」
「……今、八幡君の事をみてなかった?」
「多分」
俺を誰かと間違えた?
「オビコも、侮っちゃぁ、ダメですよね」
ダイゴ隊員はそういうと小型レーダーを取り出す。
「あ、さっき鍋に投げたの!」
「モンスター……キャッチャー」
「おぉ!」
あれ、この調子だと徹夜確定?
徹夜確定しました。
「それにしても、こんな山奥まできているのはなんでぇ?」
「おっかしいなぁ」
「壊れているんじゃないのか?」
「そんなことあらへん、俺の発明は丈夫で長持ち!」
「食べ物じゃないんすから……って、ここは」
山の中へやってきた俺は近くにある井戸へ駆け寄る。
「この井戸……」
「お探しはこれですかな?」
顔を上げると住職が立っていた。
彼の手の中にあるのはモンスターキャッチャー。
「それ」
「和尚さん、それをどこで?」
「夜中に檀家さんのところから帰っている途中、この井戸からでてきおったんです」
鍋へ放り込んだモンスターキャッチャーが井戸から。
待てよ。確か、オビコと出会ったという青年もここで見つかったんだよな。
「そうか、そういうことか」
「どういうこと?」
「オビコが持っている鍋はこの井戸に繋がっていたんですよ」
「そっか!だからあの青年もここで発見されたんだ!」
「オビコの鍋とここはつながっている」
「ほぉ」
「……和尚さん、理解しています?」
「オヒコ様の事でしょう」
「オヒコ様?」
「オビコは古くからオヒコ様と呼ばれており、大昔からこのよの闇に住むといわれております。ここも元々はのどかな村だったそうです。夜になれば村のどこもが静かな暗闇だったもんでしょうに。この山にも時期、健康ランドができる。明日から工事が始まり、ここが騒がしくなるでしょう」
「町が変わる……か」
オビコはどんな気持ちなのだろう。
ずっと、この街にいて、変化していくことを眺めるのは。
俺達はそんなことを思いながら街へ戻っていく。
「尻尾がみえたような気がしてんけどなぁ」
ぶつぶつと隣でホリイ隊員が何か言っていたが俺は気にしなかった。
俺達が街へ戻ると大量のマスコミがいた。
「なんや、あれ?」
「オビコ騒ぎの影響、ですかね」
車から降りると大量のマスコミと住民たちに囲まれてしまう。
「襲われた人の顔が真っ白になったって本当ですか!?」
「いえ、顔ではなくて」
「土鍋で殴られて生き血を吸われたそうじゃ」
「おい!何勝手なことをいってんだ!」
「オビコはお鍋を頭にかぶっているんですか?」
「あのね、お鍋は頭にかぶるもんやなくて」
「怖い!」
「貴方が好きです。付き合ってください」
「他をあたってください。あと、俺はノーマルです!」
「皆さん!」
囲まれてごちゃごちゃになり始めていた頃、リーダーが大きな声で叫ぶ。
「オビコに襲われた青年は生きています。なるべく夜間の外出を控えてください。あと、不審な夜なき蕎麦の屋台へは決して近づかないようにしてください!」
「……どうしたんですか?ダイゴ隊員」
ダイゴ隊員は今も騒ぎ続けているマスコミ達の様子を見ていた。
「そうか!わかった、オビコの目的が」
「怖がらせる?」
「はい、噂を流して怖がらせる。だから、青年を生きて返したんです」
オビコは人間を恐怖させるためだけに今回の騒動を起こしたという。
しかし、それなら納得できることがいくつかあった。
攻撃を仕掛けてきたオビコだが、誰も負傷していない。
奴が仕掛けたのはせいぜい、目くらまし程度の物。
成程と俺は納得する。
「人騒がせな」
その時、街中にチャルメラが鳴り響く。
「え!?」
「闇に住んでいるんじゃないの!?」
俺達はハイパーガンを暗闇へ向ける。
しかし、そこへオビコの姿はない。
「……仕方ない、街中の暗闇を探すぞ!」
『えぇ~~~』
普段なら了解と返すところだが、全員が気だるく答える。
はっきりいって闇の中を探すことは骨折り損だった。
あの後、ダイゴ隊員が一度、オビコを見つけるもすぐに逃げられてしまう。
俺達はチャルメラの鳴り響く町中を走り回る羽目になる。
俺達は公園で一休みしていた。
「何でこんなに人を怖がらせたいんだぁああああああああああ」
公園内でシンジョウ隊員が叫ぶ。
「……それ」
ダイゴ隊員がレナ隊員の持つ写真をみる。
写真の中はオビコが苦しそうな顔をしていた。
「本当にシャッター、光が苦手なのね」
「妖怪は闇の住人や、本来なら光の世界へでるだけでも苦痛の筈なのに……どうなってんねんやろ」
「そうですね」
元来、文献や伝承における妖怪は闇の中で活動している。
首を傾げながら俺はある案を思いついた。
「リーダー」
「なんだ?」
「オビコの影法師は井戸に繋がっています。ならば」
「……その逆もあり得るという事か」
「はい」
「よし、作戦を実行する」
この時、俺の中で小さな疑問が残っていた。
オビコは俺を見て、何かを言っていた。
――約束を果たすとき
あれはどういう意味なのだろうか。
『約束だよ』
遠い昔、まだ、オビコが神様として称えられていた頃。
彼は一人の子供と約束をした。
その子供はオビコと約束ということでもう一度を誓う。
――また、いつか遊ぼう。いつまでも続くこの闇
「ハチよ……今宵、答えが出るぞ!」
ガッツアタッシュからパーツを取り出してハイパーガンへ組み立てる。
「リーダー、こんなところで作戦って何するんすか?」
「八幡がいった……鍋は井戸に繋がっていた。なら、その逆は」
「……そうか!井戸も鍋に繋がっている」
「闇から闇へ……オビコの居場所を明らかにするぞ」
組みあがったガッツライフルを構える。
「行くぞ!」
合図と共に井戸の中へ光線が放たれる。
眩い閃光が暗闇に広がった。
しばらくして、上空へ花火ががある。
「あそこだ!」
リーダー達と共にオビコがいる場所へたどりつくとオビコが嬉しそうにしていた。
「闇じゃ!闇が戻ってきた!」
目の前に広がる街。
そこは光など一つもなく、真っ暗。まさに闇が支配していた。
「……あそこにはヤグラがあった!あそこには田畑がどこまで広がっているのじゃ!戻ってきた、戻ってきたのじゃ!」
「違う!」
喜ぶオビコへダイゴ隊員が叫ぶ。
「オビコ、あそこには村はないんだ」
「嘘じゃ!これだけ闇が広がる村はない!」
「違うんだ、オビコ、あそこはキミが住んでいた街じゃない。もう、違うんだ」
ダイゴ隊員の言葉にオビコは動きを止める。
「オビコ、アンタが村を愛していることはわかった。だが、繰り返しても村は戻ってこない。むしろ、止まらないんだ」
俺の言葉にオビコは信じられないという顔をしていた。
「……俺達と一緒に行こう、新しい住処を一緒に探すから」
「嫌じゃ!嫌じゃ……この村が昔の村でないというのなら……ハチよ、お主が否定するというのなら」
「……俺はハチじゃない」
オビコへ、彼に伝えたのは否定の言葉。
俺はハチじゃない。
重ねないでくれ。
その意味で俺はオビコへ伝えたつもりだった。
俺は言葉を失う。
ぽろりとオビコが涙を流していた。
表情を変えず涙を流しているその姿に何もいえない。
「………叩き潰してやる!」
叫びと共にオビコが巨大な怪物へ姿を変えた。
「全員、散開!」
リーダーの言葉で俺達はその場から離脱する。
だが、オビコは俺を追いかけてきていた。
「くそっ、だから、俺はハチじゃねぇつってんのに!」
叫びながらDUNKショットを構える。
光線がオビコへ直撃するが止まらない。
「こんなことしたって、村は戻ってこねぇんだぞぉ!」
皆が攻撃するがオビコは止まらない。
シンジョウ隊員の言葉で一瞬だけ、歩みが弱まるだけだ。
「やべっ」
オビコから逃げていて周りに気付かなかった。
目の前に広がる崖。
迫るオビコへDUNKショットを構えようとしたら、眩い光と共にウルトラマンティガが現れる。
ティガはオビコとぶつかりあう。
オビコは光線を放つ。
それを回避してウルトラマンティガが両手から光線を繰り出す。
オビコはそれを、避けなかった。
「なっ!?」
光線を受けたオビコはふらふらと前へ進むと地面へ倒れる。
ティガは慌ててオビコを抱きかかえる。
オビコは俺の方を見て手を伸ばす。
しかし、途中で力尽きて地面へ手が落ちる。
ティガはオビコを抱えると暗い空の中へ飛んで行った。
これにてオビコが起こした夜の闇をめぐる事件は終わる。
一つの謎を解明するため、俺はあの寺へ足を運んだ。
「くるとおもいましたよ?」
寺への階段を上がっていくと住職が待っていた。
「調べたら、この寺は何年も前に持ち主が死んで跡継ぎもおらず、廃れるだけだったということがわかりました……」
住職、いや、こいつが誰かは知らないがオビコに連なる者だということはわかる。
「粗茶ですが」
「普通のお茶ですよね」
「当然、化かすつもりはありません」
廃れかけている、人が住んでいる気配のない寺の中で俺は差し出されるお茶をみた。
おちゃらけるような態度で住職は縁側へ腰かける。
縁側で少し間を開けて座った。
「オビコは俺を見て誰かと重ねていた。そいつの名前はハチ、アンタはソイツが誰か知っているのか?」
「よく存じております」
住職が何者かは知らない。
それよりもオビコとハチという人物の関係が気になっていた。
「オヒコ様とハチは……一言で申すなら親友でしょう」
「……親友?妖怪と人間が?」
俺の疑問を答えるように住職の話は続く。
「オヒコ様が暗闇の中で一人の傷ついた少年を見つけました。それがハチです。彼は村から忌み子として嫌われておりました。何も信じられないハチは偶然にもオヒコ様と出会い、問答を繰り返した」
「問答の内容は?」
「それは私も損じ上げておりません、ですが、最後に、本当のオヒコ様とハチは問答、いえ、最後の約束を交わしました。内容は至ってシンプル。闇は永遠に続くかどうか……です」
「それは」
そこから先の言葉を俺は飲み込む。
本当に尋ねればいいか悩んでしまった。
此処から先は彼らの二人の領域、俺みたいな、只、顔が似ているだけの人間が聴くべきではないような気がする。
「貴方はとことん、ハチと似ておられる。オヒコ様も喜んでいたでしょう」
「え?」
住職はそういうと立ち上がる。
「この山は今よりもっと開発されてしまう。我々のようなものは忘れ去られるだけ……になるでしょう。悲しいですな」
「…」
「一つ、年寄なりのお節介をさせていただきましょう」
真っすぐに住職は俺を見る。
「時を間違えぬことです」
「……時、ですか?」
「あの問答の後、オヒコ様とハチは二度と会うことがなかった。私は思いました……思いは伝えられるときに伝えておく……そうでないと、貴方も後悔するかもしれませんよ?」
言葉の意味を尋ねる暇もなく住職は消えた。
ガサガサと派手な音と共に茂みが揺れている。
「……美味いお茶、だな」
あの人の前で伝えておけばよかった。
今までに飲んだ中で一番の旨みを忘れぬようしっかりと味わい、俺は寺を後にする。
後々の話だが、健康ランドの開発は流れたという。
緑の破壊を防ごうという意思があったのか、はたまた、オビコ事件の影響で人が離れることを察したのか、それは誰も知らない。