吸血鬼という存在がある。
勿論、伝承として存在しているだけだが、海外の歴史においてドラキュラのモデルとなった人物もいれば、吸血鬼と同等に扱われた危険人物がいるだけで、実際に存在しているわけではない。
つまるところ、吸血鬼は存在していないのだ。
それが現代の結論。
最も、存在が実証されたらそれは変わるだろう。
実物がいれば大きく変わる。それが世の中だ。
例え、人類に友好的ではない種族だとしても。
「あぁ~~、怖かったですよ!」
「そうか?作り物だろ」
隣であざとさを全開しているのは後輩の一色いろは。
今回、一色に無理やり休暇を作らされて俺は映画を見に来ていた。
有名な映画監督が作り上げたということで無理やりだった。
「先輩は吸血鬼とかみたことあるんですか?」
「アホか、いくら俺がGUTSにいるからって実在しない物をみれるわけがないだろ」
「……えぇ~、先輩なら見られると思っていたのに」
「お前、俺の事をなんだと思っているの?GUTSは心霊調査専門じゃないんだぞ」
「ちぇっ」
宇宙人なら数多く見ているけれど。
「そういえば、前に鬼と幽霊を見たな」
「えぇ!?ホントですか!」
「あぁ、確か」
突如、俺達の前にデ・ラ・ムが停車する。
あ、これは嫌な予感。
「八幡隊員、悪いんだけど」
「仕事ですね、行きますよ。というわけで一色」
「途中まで乗っていきます!」
「おい、いつの間に乗り込んでいるの?」
デ・ラ・ムの後部座席、そこに一色は座り込んでいた。
一瞬で回り込むなんてこいつは神速を使えるのか!?
「八幡君?」
「あ、行きます。場所は?」
「D-3地区だ」
「湾岸地区じゃないですかぁ~、夕焼け空の下で二人になると人気のデートスポットですよ~」
「知るか」
「あー、冷たいんだ。もしかして、私と一緒に行きたいと思っていますぅ?でしたらごめんなさい」
何故、謝る?そもそも、俺は一緒に行きたいなんて一言も告げていない。行くなら戸塚か小町だ。
「相変わらずあざといな」
「失礼な!こんなことするのはもう先輩だけですから」
「あ?」
「なんでもありませーん」
「はぁ」
わからず首を傾げる。
私服のまま俺は現場に到着した。しまった!?
「「八幡~~」」
こっちに向かって手を振っている男二人がいる。
俺の隣にはニコニコと笑みを浮かべている一色いろは。
ダメだ、これは詰んだ。
「リーダー」
「状況は?」
背後でタクシーに乗ってやってきたリーダーがやってくる。
リーダーの姿を見て二人は散り散りになる。
仕事に戻ったのだろう。
「ほら、一色もここまでだ」
「え~、先輩の活躍みたいのに」
「アホなこというな。危険がどこにあるかわからないんだ、大人しくしてろ」
「はーい」
話をしている横でリーダーがヤズミに連絡をしてここ最近の失踪事件の情報を依頼していた。
話によるとこのエリアに集中しているという。
「あ、そうだ、先輩」
「お前、まだ帰ってなかったのか」
「タクシーが捕まらないんです。途中まで送ってください~」
「あ、さっきここまできたタクシーは」
「いっちゃいました」
一色が指差した方向、走り去っていくタクシーが、どうやら誰かお客を捕まえたようだ。
「タクシー手配するしかないだろう」
「それまで一緒には」
「無理だな。あっちで何か発見があったみたいだし、本部へ戻らないといけない」
「え~」
「八幡」
話をしているとダイゴ隊員がやってくる。
「本部に戻りますか?」
「近くにいたタクシーを手配したから彼女をのせるといいよ」
「……ありがとうございます。ほら、乗れ」
「もう少し優しくしてもいいのに、先輩のけち!」
「いっていろ」
一色をタクシーに乗せてから俺はリーダーたちの待つデ・ラ・ムに乗車する。
「吸血鬼?」
「リーダーは今回の騒動が吸血鬼の仕業だと思うんですか?」
デ・ラ・ムの車内で今回の事件について話をしていた。
リーダーの話によれば今回の騒動は吸血鬼によるものではないかという意見があるそうだ。
「八幡はどうみる?」
「どうみるっていわれましても、今回の騒動がどうして吸血鬼に繋がったのかわからないし、あの体毛を詳しく調べない限り吸血鬼と何か関係があるかはわかりませんね」
「それにしても、吸血鬼なんて」
「危ない!」
レナ隊員の言葉と共にデ・ラ・ムが急停車する。
「大丈夫ですか!?」
「しっかりしてください!」
俺達は車から降りる。
その時、リーダーが後ろを見た。
目はどこか鋭いものだ。
「どうしました?」
「いや、気のせいだろう……本部のメディカルルームへ連れて行こう」
「うっす」
この時、もう少し周りに注意していれば。
気を配っていれば、あんなことにならなかったのだろう。
去っていくデ・ラ・ムとシャーロック。
二台の車を見ている怪しい男の姿を。
ダイブハンガーのメディカルルーム。
俺達が保護した女性は死んだように眠っている。
「検査の結果、異状はないって~」
「そうか」
「ヒッキーって、外に出る度に女の人連れてくるよね」
「アホなことをいうな、アホの子め」
「アホじゃないし!アホっていう方がアホなんだよ!」
「はいはい」
「むー」
頬を膨らませる由比ヶ浜。
あざといとかそういうところがない辺り、こいつは純粋にやっているのだろう。
その姿に可愛いと思いつつある俺は変わっているのだろうか。
「目を覚ましたら連絡をくれ」
「はーい」
作戦室へ向かう通路を歩く。
時刻を見ると既に夜だ。
「話し込みすぎたか?」
そんなことを考えながらR-7エリアを通ろうとした俺は動きを止める。
「お、おい!?」
通路に二人の人間が倒れているのだ。
「どうした!?」
リーダーが駆け寄ってくる。
「人が……」
「この先は、隊長の!」
「あ、リーダー、くそっ」
PDIを取り出して俺はこの場所に医療班を呼んでリーダーの後を追う。
しばらくして、ハイパーガンを構えているリーダーに追いつく。目の前には鋭い牙をはやした女性だ。
「吸血鬼?」
「隊長を狙う目的で」
俺もハイパーガンを取り出す。
相手がリーダーに飛びかかろうとするがハイパーガンを受けて地面に崩れる。
そのまま近づこうとしたら相手は海に飛び込んでいった。
「くそ!」
幸いにも隊長に大きなケガはなかった。
ただ、検査と麻酔のため彼女は眠っている。
作戦室で俺は今後の事を考えていた。
「くそっ、どこのどいつだよ!隊長を襲いやがったのは!」
「吸血鬼って話」
「え、冗談だろ!?」
「いえ、それが」
ヤズミの言葉で顔を上げる。
「何かわかったんか?」
「シンジョウ隊員が回収したサンプルですが、調べた所南米吸血鬼の体毛でした」
「体毛!?」
「何でそんなものが?」
「ホリイ隊員」
「なんや閃いたか?」
「仮にですよ?」
前置きして俺はあることを頼む。
「吸血鬼が相手だったとして俺達が戦うことになった場合、科学でどういう対処法ができますかね?」
「おいおい、八幡、吸血鬼だと本当に?」
「悪いっすけど」
俺は否定する。
「吸血鬼を見たんすよ。あれと戦う事を考えないといけない」
「よし、任せろ」
しばらくしてサワイ総監から失踪事件の捜査をしていた隊員達と連絡が取れなくなったことが伝えられる。
「奴らは血に飢えた野獣と同じです!このままでは被害は増えるばかりです!」
「負傷したイルマ隊長に代わり、キミが指揮をとれ」
「わかりました、ヤズミ隊員!」
「今までの失踪事件のデータを見る限り連中のアジトは湾岸エリアのG―13地区に間違いありません」
「ホリイ隊員」
「じゃーん!特殊紫外線レーザー銃、これさえあれば吸血鬼などおそるるに足りません……無闇に触らない」
「姿かたちは人間と同じだが恐るべき能力を持っている。油断するな!!作戦は夜明と同時に行う!」
「了解!」
日が昇る時刻、敵の本拠地へ俺達GUTSは攻め込む。
バイク二台、シャーロック、デ・ラ・ム。
レーザー銃を構えて俺達は建物の中へ入る。
リーダーと俺、シンジョウ隊員、ホリイ隊員と二手に別れる。
「おい、ホリイ」
「ん?」
「この銃、宛になるんだろうな!」
「吸血鬼が日光に弱いのは、紫外線に肉体が破壊されるからや」
「二人とも、そこまで、敵のお出ましです」
くるくると回転しながら現れる吸血鬼たち。
俺達はレーザー銃を撃つ。
攻撃を受けた吸血鬼は体から青い炎を吹き出して消滅した。
「紫外線に弱い……本当みたいですね」
「よっし、このまま」
「あははははははは!」
「うわぁ、ああああああ!」
目の前に現れた吸血鬼へレーザー銃を撃つ。
「怖がりか?」
座り込んでいるシンジョウ隊員にホリイ隊員が言う。
「怖い物苦手っすからね、シンジョウ隊員は」
「うるせ」
「うわっ!?」
背後から手が伸びたと思うと動きを封じられる。
後ろから吸血鬼に羽交い絞めにされているようだ。
「八幡!こっち向け!」
「はい!」
くるりと体を向けて背中を見せる。
そこを二人のレーザー銃が直撃、吸血鬼が消えた。
「助かりました」
「うし」
「いくで」
現れる吸血鬼たちを倒し、俺達はホールに集まる。
そこではリーダーとレナ隊員が一人の吸血鬼にレーザー銃を向けていた。
間違いない、隊長を襲った奴だ。
静かにレーザー銃を構える前に割り込む影が。
「待ってくれ!」
その男はリーダーと酒を飲みかわし、今回の情報を提供したオノダだった。
「撃つのだけはやめてくれ!」
「どくんだ、そいつはもう人間じゃない」
「わかっている……だが、俺はもう見捨てることをしない!」
その目にあるのは後悔、だけにみえなかった。
俺達に背を向けたオノダはあろうことか吸血鬼に抱き付く。
レーザー銃を構える。
その時だ。
「嘘、だろ」
吸血鬼から人間の姿に戻ったのだ。
――ありえない。
どうしてという疑問や様々な言葉が渦巻く中でオノダとユキナという人は抱きしめ合い、やがて、ユキナさんは黒いカーテンで遮られている窓を開ける。
日光が差し込み、彼女の体が炎に焼かれる。
「ユキナァァアアアアアアア」
オノダさんは床に崩れ落ちた。
俺達はしばらくその場に動けなかった。
しかし、事態は終わらない。
突如、空が暗闇に支配されたのだ。
「どうなっちまったんだよ!?」
「不謹慎ですけど、こんな展開、映画で見たことが」
「私も」
「なんや、あれ!」
ホリイ隊員が倉庫の前に現れた巨大な吸血怪獣を見て叫ぶ。
俺達が身構えている前でウルトラマンティガが現れた。
ティガが戦うも一瞬のスキを突かれて首に噛みつかれる。
「あ、ティガに噛みつきおった!」
「地上メカでティガを援護する!」
「了解!」
デ・ラ・ムとシャーロックに乗り込み、攻撃を開始する中、俺は扉の前に立つ。
少ししてレーザー銃を構えてやってくるオノダさんがいた。
「……あの人の敵討ち……ですか」
「そうだ」
「アンタが命を落とすかもしれないですよ」
「だとしても!!」
「……援護します。使い方、わかりますね?」
俺の言葉でオノダさんが小さく笑う。
銃のスィッチを入れて撃つ。
レーザー銃は吸血怪獣に多少なりとも効果があるようだ。
オノダさんに気付いたリーダーがバイクに乗って狙撃する。
それをサポートする形で俺も撃つ。
「今だ!」
「奴の目を狙え!」
俺とリーダーの言葉と共にレーザー銃を構えるオノダさん。
「セイ……チーズ!」
放たれたレーザーは吸血怪獣の目を撃ちぬく。
攻撃を受けた吸血怪獣はそのダメージがきいたようでティガから離れる。
続いて攻撃をしている間にティガが復活して、空に逃げようとする吸血怪獣を光線で倒す。
「あー、終らねぇ」
誰もいない作戦室。
そこで俺は今回の事件のレポートを書いていた。
本来ならリーダーがやることなんだが、今回の事件で疲れているだろうということで俺が引き受けることになった。
決してくじ引きで負けたからじゃない。八幡、嘘つかない。
カチカチと最後の部分をタイピングしてレポートが書きあがる。
「ふぅ」
「あ、ヒッキー、お疲れ」
作戦室の扉が開いてやってきたのは由比ヶ浜だった。
「お前、どうしてここに?」
「隊長さんに頼まれたの、ヒッキーがレポートを書いて疲れている筈だから夜食持って行ってあげって」
「へ、へぇ」
俺の前で微笑む由比ヶ浜はおにぎりを置いてくれる。
「これ、お前が握ったのか?」
「どうしてわかったの!?」
「なんとなーく」
少し形が崩れているおにぎり、由比ヶ浜のちらちらとこちらをうかがおうとしている様子からそんな気がしたがまさか、大当たりか。
「どれどれ、いただきます」
もぐもぐとおにぎりを咀嚼する。
ふむ。
「しょっぱいな」
「え!?」
「でも、おいしいわ」
「もう!ヒッキーの意地悪!」
怒りながら由比ヶ浜は隣に座る。
レポートを保存して隣を見た。
「なぁ、少しいいか?」
「なぁに?」
「愛する人を守る為に命を捨てないといけないかもしれないという時、そう簡単に死を選べるのか」
あの二人のやり取り。
吸血鬼になってしまった女性と吸血鬼にさせてしまった男性。
どちらかが生きられない状況下。
そんな時に命を捨てるという選択肢がとれるかどうか。
「多分、死ぬかもね」
「なんでだよ」
だって、といいながら由比ヶ浜は真っすぐに俺を見る。
「その人の事を本気で愛していたら、それぐらいできるよ……人を好きって、そういう強さを与えるんだよ」
「……そう、なのか」
机の上に置かれていた手と由比ヶ浜の手が重なる。
こっちをまっすぐにみている彼女と目が合う。
心臓がばくばくと音を立てている気がした。
俺は……もしかして?
この日、俺はやらかした。