その日、TPCアジアからTPC極東本部に奇妙な来客があった。
生化学研究所のタンゴは運ばれてきたカプセルの中を覗き込む。
「“眠りの乙女”ってコードネーム、ちょっときついよなぁ」
カプセルの中では緑色の皮膚に紫色の瞳をした小人のような宇宙人が保管されている。
全てはクリオモス諸島を襲撃した生物兵器が始まりだった。
「タンゴ博士!クリオモスを襲撃した生物兵器の金属反応と同じものがそのエイリアンの周辺で見つかっています。よーしらべてください!」
『あのね、こちらはティガの巨人像の調査とかで忙しいんですよ。隊長さんにいっておいてください。あまり好き勝手にこき使うなって!』
「あかんやっちゃなぁ」
「向こうの肩を持つわけじゃないですけれど、終わりの見えない研究に加えてどんどん仕事が増えたら機嫌悪くなりますよ」
「それが社畜ってもんだろ?」
「俺は社畜お断り何で」
「八幡、もう手遅れやって」
「そんなことはない、絶対に」
「無理だと思うなぁ」
ホリイ隊員が小さく悪態をつく横でダイゴ隊員が俺の肩を叩く。
「ねぇ、八幡君、巨人像の解析って」
「ティガの地で回収された巨人像の残骸。いや、砂とでもいうべきっすね。あれの調査は引き続き生科学研究所で行われているみたいですから……加えて、今回の事件の調査、嫌がるのは仕方ないでしょ。社畜まっしぐらだし」
「ふーん」
TPCに運ばれてきた宇宙人。
コードネーム“眠りの乙女”。
TPC本部に運ばれてきたのはクリオモス諸島を襲撃した生体兵器、コードネーム“デシモニア”の残骸を調べた所、このエイリアンが乗ってきたとされる円盤の破片と同じものだとわかり、調査として運ばれてきた。
ある程度、わかるまでこの話はこれ以上進まないだろう。
「そういえば、リーダーたちは?」
「他のTPC支部との会議だよ。ほら、サワイ総監がクリオモス諸島で会議の議題にあげた」
「あぁ、GUTSに匹敵するチームを結成するというアレですか」
部下にも告げずにTPC首脳陣たちと極秘会議をクリオモス諸島で行った理由。
それはGUTSのようなチームを他のTPC支部で結成させようという提案を行うためだったという。
会議ではGUTSのライドメカの情報開示というデリケートな問題もあったらしい。
ウィングシステムについて説明しに行っているのだろう。
作戦室を出た所で俺は由比ヶ浜と遭遇する。
「あ、ヒッキー、暇かな?」
「まー、少し時間はある」
「じゃ、じゃあさ!ごはん食べに行こうよ!」
「わかった」
俺は頷く。
嬉しそうに微笑む由比ヶ浜の顔を見ていると俺の頬も緩みそうになった。
気を引き締めて由比ヶ浜と一緒に食堂に向かう。
あの日、俺は由比ヶ浜と“キス”をした。
それだけで大きく変化が起こったわけではない。
俺だってバカじゃない。
あんなことをしたからといって大きく変わりはしない。外国では挨拶のようなもので、由比ヶ浜も理解している筈。
いや、こういう建前をしていないと俺はコイツと面と向かって話ができない。
卑怯な人間だ。
由比ヶ浜と食事を済まして作戦室に戻ると隊長達が戻ってきていた。
「話し合いは終わったんですか?」
「えぇ、八幡隊員」
「はい」
「人類は昔に逆戻りしてしまうのかしら」
「はい?」
「忘れて」
隊長がそういうと席に戻る。
しばらくして、俺達はあるデータをみていた。
空軍基地を未確認飛行物体が襲撃するという映像だ。
「今から十八年前、アジアの空軍基地が未確認の襲撃を受けていました」
「その時に回収されたのが眠りの乙女ですか」
映像には当時の防衛軍に回収されるエイリアンの写真があった。
「でも、死んでんだろ?」
「回収直前は息があったそうです。しばらくして生命活動停止」
「……でも、何年も連中は私たちの活動をずっと監視していたのかもしれない」
「その時、エイリアンが乗ってきたものって、どうなったんだよ?」
「データによると大破して破片のみ回収」
「そらぁ、おかしいで、連中の科学力でそんなぽかはありえへん」
「……では」
「破片を残して地下に潜ったかもしれへん、どこやぁ?」
ホリイ隊員が捜索を始める。
周辺から追跡を始めたのだろう。
しばらくして、見つかった。
「見つけた、崑崙山脈や」
崑崙山脈は中央アジア地域に存在する大規模の山脈だ。
「何だよ、これ」
「活動はしていませんが生命反応に似た反応を検知」
「こんな奴に動き出されたら大変だわ」
「では」
「ガッツ、出動」
「了解!」
「……ダイゴ、どこいった?」
俺達はウィング一号、二号に乗り込む。
一号で発進準備をしているとダイゴ隊員から緊急通信が入る。
『隊長!』
「なにしとんねん!出撃やぞ」
『生体検査室で異変発生!』
「このタイミングで?」
「ダイゴ、そっちに任せる。こちらは崑崙へ向かう」
「了解」
「発進するぞ」
ウィング一号と二号が崑崙山脈へ向かう。
崑崙山脈が見えてきた時、光る輝く何かが通過した気がした。
それは崑崙の瓦礫の中へ突っ込み、巨大な龍のようなものが現れる。
「アイツ、前の生態兵器と似ている?」
「いや、似てねぇだろ!?あっちはぶよぶよの肉塊、こっちはドラゴンだぞ!?」
「攻撃開始」
リーダーの指示で俺達は攻撃を開始する。
ウィング一号のニードルを放つ。
だが、ニードルは龍の体に当たった途端、はじける。
「効果が薄い?」
「うわっ!?」
眼前のドラゴンが赤いガスのようなものを吐く。
シンジョウ隊員は躱すが目の前に見えた山脈を前に上昇する。
ギリギリのところで回避できた。
あのガス、なんだ?
「ホリイ隊員、あの赤い煙のサンプルを回収しました」
『よっしゃ、ヤズミにデータを送ってくれ』
「はい」
しばらくしてヤズミから情報が送られてくる。
「こいつは……そうか!」
俺はリーダー達に報告する。
「あの煙は酸素と結合して未知の大気を生成しています!こいつが崑崙にいたのは此処の気流が地球全土に広まるからです」
『そうか!こいつは地球を作り替えるために送り込んできたのか』
「くそっ、誰だ、こんなものを送り込んできやがったんだ!」
『ほんま、誰やぁ!』
「おそらく、侵略者」
『ホリイ、奴の頭部を狙え、あそこに生態兵器がある!』
『了解、デキサスビームスタンバイ!』
「シンジョウ隊員、奴の目をこちらにひきつけましょう」
「おっし、舌噛むなよォ」
「善処しまぐぁ!?」
噛んだ!
噛んだよ!?
俺達がウィングでかく乱していると二号の前にウルトラマンティガが現れる。
現れたが。
「何ですでに胸部が赤ランプなんだよ?」
どこかで戦闘でもしていたのだろうか?
そんなことを考えているとティガがデキサスビームの射線に立った。
『なんでや?』
ホリイ隊員の驚く声。
俺も驚きを隠せない。
ティガがGUTSの攻撃を妨害することなどなかった。
機械龍はティガに赤い煙を吹きかけたり圧し掛かるなどの攻撃を仕掛けてくる。
攻撃を受け流したりしているが急所を狙う様な攻撃はしない。
それどころかシンジョウ隊員が攻撃すると庇うように前へ立つ。
「何なんだ?あの怪獣を攻撃したらまずい事でもあるのか?」
俺は通信回線を開く。
「リーダー、ぎりぎりまでデキサスビームの攻撃を控えてください」
『はぁ!?』
『どういうことだ、八幡』
「今、攻撃をしてはいけない理由がティガにあると思うんです。それがくるまで攻撃を待ってください」
『……しかし』
リーダーが渋るのもわかる。
このまま機械龍を野放しにしていたら地球環境が滅茶苦茶になる。
「お願いします。ティガを、俺達と戦っているウルトラマンを少しだけ、信じてください」
こんなことをいうのは俺ではないと思う。
だが、あそこまで傷だらけになっているティガをみていると何かが俺の中でこみあげてくるのだ。
『よし、タイミングをお前に任せる』
「ありがとう、ございます」
さぁ、ティガ。
後はお前次第だ。
俺の意思が伝わったのか、何かあったのかティガは地面を蹴ると手に光を纏い、機械龍の頭部を破壊する。
頭から生態兵器が離れた。
着地したティガがこちらをみて頷く。
「今です!」
『ホリイ!』
『うし!』
二号から放たれたデキサスビームが機械龍を貫く。
頭を破壊され大爆発を起こして機械龍は消えた。
「何で、俺が、レポート、なんすかぁ」
「今回はお前のタイミングで攻撃を任せた」
「つまり、俺の責任という事ですか?」
はぁ、もう嫌だ。
置かれているマッカンを一口。
「あれ?」
飲もうとしたらマッカンは空だった。
足元のストックもゼロ。
最悪だ。
溜息を零して作戦室を出るために立ち上がる。飲まないとやってられないのだ。
「はい、八幡君」
俺の前にマッカンが差し出される。
顔を上げるとダイゴ隊員が微笑んでいた。
「どうも」
「こっちも助かったから」
「はい?」
首を傾げる俺の前でダイゴ隊員は尋ねる。
「八幡君、この地球、いや、人類は守る価値があるかな?」
「……そんなの、個人の主観によって変わってしまいますよ……世界は一人で回っているわけじゃない、大勢の思考で動いているようなもんです。価値があるかどうかなんて、わかるわけがない」
「……」
「でも」
「うん?」
「少なくとも俺達GUTSは守る為に戦っているんですから、価値はあると思いたいです。でないと笑われそうですから」
「誰に?」
「――」
「え?」
「マッカン、ありがとうございます」
ダイゴ隊員に頭を下げて俺は作戦室に戻る。
この世界を、人類を守る価値があるか?
それはすぐに出ない答えだ。
しかし、俺は守るべきだと思っている。
そうでないと自分を犠牲にしているウルトラマンティガに申し訳なく思う。
共にいてくれるあの巨人に胸を誇れていえるくらい、人類に価値はあるのだと。
いつか、そういう答えを出したい。