今回はヤズミメインですけれど。
今回の事件程、嫌な思いはないだろう。
レポートを作成しながら俺は顔を上げた。
――タイムスリップ。
過去や未来を行き来するという現象。
それが実現されたら人の人生など好き勝手に変えることが出来る。
例えば、俺が過去に行ってマッカンが水と同じように当たり前になるように仕向けて未来へ戻れば、全国の自販機にマッカンが並ぶだろう。
だが、過去や未来を変えるという代償は高くつく。
過去のほんの少しの出来事を変えるだけで、未来は大きく変化してしまうのだ。
――タイムパラドクス。
そんな代償があるのにタイムスリップを望むのは憧れからくるのか。人類の目指すべき道の一つなのか、
時間や時空について少し考えさせられた事件だ。
切欠はTPCに通報されたある電話からだった。
「本当に船ですね」
『蜃気楼?』
『いや、金属反応がある。データを送ります』
ウィング一号から送られてきたのは日本の大陸にどでんと鎮座している船だ。
「あんな重い物、どうやって?」
「アメリカ国籍の輸送船、サザンポリス号です。七十年代にバミューダで消息不明になっています」
「まるでつい先日まで大西洋を航海していたみたいね」
「……タイムスリップ、っすかね?」
俺の呟きに応える者はいない。
現場周辺は危険という事でTPCとGUTSによって避難がなされた。
指揮を執っていた現場のリーダーからある報告が届く。
空から光があふれて女子学生が現れた。
なんていう報告だ。
『ひどく怯えているので、事情聴取は安心させられる奴を選んでください』
「「俺でしょ」」
リーダーの言葉にいの一番、いや同時に声を出したのはシンジョウ隊員とホリイ隊員。
ま、いつものことだ。
「俺や!」
「いや、俺でしょ?」
「俺に決まっているやろ!?」
パンと手を叩いてダイゴ隊員が。
「やっぱり、僕でしょう」
「いや、俺だって」
「俺やいうてるやろ!」
「ヤズミ隊員!」
イルマ隊長がヤズミを指名した。
「貴方にお願いできるかしら」
「あ、はい」
「八幡隊員も同行してあげて」
ヤズミに白羽の矢が当たり、同行者として八幡隊員、って!?
「俺ですか?」
「ヤズミ隊員のサポートをしてあげて」
「いや、俺なんかが行っても」
「命令、よ」
「うす」
隊長に命令といわれたら逆らえない。
社畜、いや、上下関係最悪だ。
俺ヤズミは事情聴取室まで向かう。
「八幡、どうしてそんなやる気ないの」
「あのさ、人と会って怯えられるような目なんだぞ?進んで会うと思うか?」
「そうかなぁ?」
こいつ、本気で言っているのか?
「とにかく、俺は後ろについてサポートするだけだからな!」
「はいはい」
わかっているのか?
ヤズミの背中を睨みながら俺達は部屋に入る。
彼女は俺達の姿を見て怯えを強くさせた。
ヤズミが腰かけて、話を始めようとした時。
急にヤズミの動きが止まった。
まるでありえないものをみたような。
対する少女は怯えているだけだ。
「……ヤズミ?」
「あ、ご、ごめん」
「あなた方はどなたですか?私をおうちに返してください」
「話を聞いたらすぐに――」
「怖いんです!ここはどこなんですか!?」
不安が高まっているのだろう、少女はヤズミへ訴える。
ヤズミと歳が近く、丁寧な対応だからだろう。
少女は不安をぶつけることで自分を落ち着かせようとしていた。
「落ち着いて、僕の質問に答えてください」
優しく言うヤズミの言葉に少女はやがて頷く。
ステルスヒッキー発動しているから彼女は気づかないようだ。
最近、使っていなかったけれど、役に立つ。
「テヅカ・ユリ、大正四年、八月十六日生まれです」
少し考えている間に話し合いが進んでいた。
大正四年か、
実際なら婆ちゃん、いや、死んでいないとおかしいか?
家の場所まで送ることになった。
大丈夫か?
俺はヤズミの傍へ立つ。
「あまりお勧めできないな」
「でも、このままにしておけないよ」
「ヤズミ、八幡!」
ホリイ隊員がやってくる。
彼は俺達に囁く。
「あの町で起こっている異常現象が治ったらあの子の止まっている時間が一気に流れ出すかも知れへん」
「え?」
「どういうことですか?」
「婆ちゃんになるかもしれへん」
「何を言っているんですか」
「婆ちゃんやったらまだええ、最悪」
「ホリイ隊員、ストップ」
真剣に言うホリイ隊員へ待ったをかける。
すぐ近くに少女がいるのだ。
余計なことを言って刺激を与えたくなかった。
「ホリイ隊員がいいたいことはわかります。ヤズミ、あの子に過剰な刺激を与えるようなことを言うな。ここは彼女がいた時代と違う。どんな些細なことでショックを受けるかわからない、注意しろよ」
「え、八幡、こないの?」
「俺がいけるわけないだろ?」
「そのことなんやけど」
ぽんぽんと手を叩かれる。
このタイミングは凄い、嫌な予感しかしない。
「八幡も同行するようにというのが隊長の命令、ヤズミの補佐やな」
「嘘だぁああああああああああああああ」
何もなければ俺はこの場に崩れ落ちていただろう。
デ・ラ・ムにて、俺達はテヅカ・ユリの家のある場所へ向かっていた。
「嘘だろ」
「これは流石に驚きだ」
目の前に広がるのは大きな道路。
昔の地図ならここにテヅカ少女の家があったのだ。
だが、これは酷い。
「昔の地図なんてあてにならないよ!」
「ま、まぁ、そうだな」
「私の……」
俺達のフォローはフォローになっていなかった。
「私の、おうちはどこ?」
泣き出した少女に俺達はあたふたする。
「あれ、先輩じゃないですかぁ~………………女を泣かしているなんてサイテー」
「一色、あ、いや、これは」
ひょんなところから現れた一色に軽く事情を説明。
「よし、ユリさんですね!遊びに行きましょう!」
「え、あ、貴方は?」
「一色いろはです!ここにいる比企谷先輩の後輩です。他に関係はありません、いえ、ありますね。キスはしていませんけれど、恋人に近い関係を目指しています」
「こ、こいび」
「お前は何を言い出すんだ。こいつは高校の後輩だ。それ以上でも以下でもない」
「ひっどーい!」
「とにかく!一色さんの言葉通り出かけようか!」
ヤズミの言葉によって俺達は四人で街にとびだすことになった。なんでこうなった?
その頃、作戦室では異変が起きていた。
「うわっ!世界各地に現存するミステリースポットの磁場が全部、こっちに集まって着てやがる!?」
「あの町の磁場が凄いことに」
「時空界や」
「時空界?」
作戦室へ戻ってきたホリイが呟く。
「時間や空間を歪める力が一気に集まって特殊な空間、時空界を形成しています。おそらく、範囲は広がっていくばかり」
「ホリイの言う通りだ。このままだと、この基地まで」
『隊長、怪獣の姿が確認されました』
「何でゲーセンなんだよ。てか、こんなところでもぐらたたきをするなんて」
「モグラたたきじゃありませんよ!ワニです!」
「誰もそんな揚げ足いらねぇっての」
「でも、楽しそうですよ?」
一色に言われてみるとヤズミとモグラ、ワニ叩きをしているユリさんは楽しそうにしていた。
「先輩、あの人、元の時代に帰れるんですか?」
「さぁな、そもそもどうやってここにきたのかすらわかっていないんだ」
「辛い、ですよね」
「言うまでもないだろ」
誰も知らない、全くわからない場所で独りぼっち。
そんなもの、普通の人が耐えられるわけがない。
今はまだヤズミを支えにしているが、何かの切欠で彼女は白骨になってしまうかもしれない。
「これ、ヤズミにはきついかもなぁ」
どうなるかわからない結末。
現場に出ることの少ないヤズミに待つのは最悪な結果が、マシな結果なのか。
「ま、今は楽しみましょうよ!今は遊びますよォ!先輩のお金で」
「おい、そこは割り勘だよ?あれ、一色さん?聞いている?聞いていますかぁ?」
俺の言葉に一色は反応しない。
てか、あの手の中にある財布、俺のだよね?
俺の?
いつの間に!?
「ささ、遊びますよ!ユリちゃん!」
「え、あ、はい!」
一色に手を引かれて歩き出すテヅカ・ユリ。
その姿は年の近いこともあるから親友に見えなくもなかった。
「そのペンダント、後でプレゼントしてやれよ」
「みていたの!?」
「あぁ」
顔を赤くするヤズミに俺は微笑む。
こういう気づかいをするヤズミをみるのは新鮮で面白い。
後で弄るネタになるだろう。
その頃、GUTSは時空界を破壊する作戦を展開していた。
「時空界を展開するエネルギーに反発するエネルギーをぶつけて消滅させるんです」
『方法は』
「反重力と重力のエネルギー照射装置を使うわ」
『できる限り、急いでくれ。嫌な予感がする』
「ヤズミと八幡を呼び戻した方がいいんちゃいますか?過去の人間と触れ合うのはどうも」
「……彼らに任せましょう」
「了解、現地で合流します」
デ・ラ・ムの中で俺達は隊長から通信を受ける。
「何か始まるんですか?」
「サクラガオカで起こっている異常現象を終わらせるんだ」
「そんなこと、できるんですか?」
「できるさ、そうすれば」
運転席にいるヤズミの言葉が止まる。
おそらくホリイ隊員の話を思い出したんだろう。
しばらくして、デ・ラ・ムが停車してヤズミがユリさんを下す。
「一色」
「なんです?」
「悪いけど、最後までユリさんの傍にいてやってくれ」
「え、私がですか?」
「俺達はこれから作戦を行わないといけない、最悪なことを頼むかもしれないけれど」
「任せてください!貴重な先輩からの依頼、必ずクリアしてみせますとも!」
「……悪いな」
車から降りた一色はテヅカ・ユリの所へ向かう。
戻ってきたヤズミと共に俺達は作戦指揮所へ急ぐ。
ヤズミは指揮現場に俺はウィング二号へ乗り込んだ。
時空界を破壊するための作戦が開始される。
用意されたエネルギー照射システムを用いて時空界破壊の作戦がなされた。
それを邪魔するように怪獣が現れる。
金色の鱗が目立つ怪獣にデキサスビームやHEAT弾を叩きこむ。
しかし、怪獣は特殊なフィールドのようなものを形成して、攻撃を弾く。
二号が放ったデキサスビームも弾かれて、ウィング一号に直撃してしまう。
『奴を逃がすな!時空界をこれ以上広げられたら厄介だ』
「どうしろって」
「奴の足元にデキサスビームを。そうすれば動きが鈍るはずです」
「ようし!」
二号のデキサスビームが怪獣の足を狙う。
しかし、狙いが浅く外してしまった。
そこにウルトラマンティガが現れる。
攻撃を捻じ曲げる怪獣にティガも苦戦した。
赤になるもパワーもある金色の怪獣に終始ティガはおされている。
『アイツの超能力は角から発射されています。あの角を破壊すれば』
角。
俺は怪獣の角を睨む。
「角は光った後、コンマ三秒、力が弱まります。その隙を狙えば」
「できるか?」
「はい!」
「二号も行けます」
「遠隔操作システムを起動しろ。ヤズミ、発射ボタンをお前に預ける」
「わかりました」
俺はウィング二号の遠隔システムをONにして通信を開く。
「ヤズミ、できるな?」
『任せて!』
一発目をヤズミは撃つ。
しかし、外してしまう。
「ヤズミ、再チャージする。落ち着いて狙え……お前なら、できる」
『了解……』
暴れる怪獣と動きを止めようとするティガ。
レナ隊員がウィングを操作して狙いを角に向けた。
「再チャージ完了」
「ヤズミ!」
『……さよなら』
ヤズミがスィッチを押すとともに放たれるデキサスビーム。
それは怪獣の角を破壊して相手の力を奪う。
ティガは光線を怪獣へ放つ。
攻撃を受けた怪獣は消滅して、周りに現れていた船や戦闘機の類が消滅していく。
おそらく、彼女も。
「先輩」
「彼女は?」
「消えちゃいました」
「……そうか」
一色は元気がなさそうにしている。
「もう、会えないんですね」
「あぁ、本来の時間に戻ったと、思うしかないな」
「ヤズミさんは」
「あそこに……あれ?」
公園の岩に座り込んでいたヤズミが顔を上げて近づいてくる。
「八幡!きて!!」
「え、あ、おい!?」
俺と一色の手を引いてやってきたのはヤズミの家。
ガレージの中で俺達は漁っていた。
「あった!」
古い箱をみつけてヤズミはそれを開ける。
中に入っていたのは年季の入っているペンダント。
鎖は千切れてないのだろう。
丸い蓋をあける。
そこにあったのは。
「ユリさん!?」
「お前、これ」
「良かった……あの、おばあちゃんだ」
過去、ヤズミは「元気がないぞ」といわれて自分に話しかけたおばあちゃんがいたことを話す。
それは偶然だったのか、意図したものなのかはわからない。
だが、テヅカ・ユリという過去から来た少女は元の時代に戻り、元気に生きていた。
骸骨になっていたとしても彼女は自分の時間を精いっぱい生き抜いたのだ。
わかっただけでもうれしい事だった。