地球平和連合TPC、その使命は地球の平和と宇宙の安寧を願う組織である。
GUTSはそのTPCの中から選ばれた栄えある八人であり怪獣や侵略者達から地球の平和を守る――。
作戦室で大きな鼾が鳴り響く。その鼻を抑え込む。
「なにすんねんもう!」
「ホリイ隊員のイビキがでかすぎるからですよ」
「最近、暇ね」
「わしらが暇なのは平和っちゅう証拠なんやろうけれど、こうも暇やとなぁ」
マッカンを飲もうとするとホリイ隊員に奪われてがばがばと飲まれた。
「うぇっ、あっま!」
「当然でしょ」
「すさまじい眠気覚ましやわ」
「あげませんよ」
「最後の出撃いつだったけ?」
「円盤が出現したという報告ですから」
「もう一月も前や」
「あいつが寝ぼけおったからや」
「おらっ!」
シンジョウ隊員が肘をついて寝ているヤズミをペンで殴る。
「春眠、暁を覚えずか」
「もう四月なんですね」
桜の季節。
宇宙人も怪獣も花の匂いに誘われたのか俺達GUTSの出番も遠ざかっていた。故に隊員達も常に張り詰めた空気、ではなく。ぐでーとのんびりしかかっているのだ。
何より、鬼のリーダーと隊長がいない分、余計にだらりとしたがるのだ。
「はい、本部」
『こちら一号機、定時パトロール異常なし、これより帰還する』
「りょうかぁい」
『ダイゴ、ふぁわぁ』
通信越しの会話も欠伸塗れだ。
「やべ、俺も眠い」
「だからってメディカルセンターに遊びに来ることないでしょ!?私だって仕事しているんだよ!?」
「うるさいな、アホの子」
「アホじゃないし!ヒッキー!」
メディカルセンターの近くで俺はマッカンを飲んでいた。
「仕方ないだろ?作戦室はメインコンピューターの整備で座る場所なんてないんだよ。俺は研究員でも防衛軍出身でもないからな。あぁいう仕事に参加できないんだよ」
「だからって、私の仕事妨害することないじゃない!」
「してねぇよ。こうしてマッカンを飲みに来ただけだ」
「ぶ~」
頬を膨らませても怖くないし、あざとさもない。
「平和な証拠だな」
「へ?」
「花見!?」
ダイゴ隊員の嬉しそうな声が作戦室に響く。
イルマ隊長の話によるとサワイ総監からGUSTメンバーの外出許可がおりたらしい。
「僕ね、花見にはうるさいんですよ!」
「誰も聞いてへん」
「でも、全員でここをあけるわけにはいかないんっすよね?」
「そうね、誰かひとり残ってもらうわ」
「はーい」
シンジョウ隊員がホリイ隊員の手をあげる。
レナ隊員とダイゴ隊員がホリイ隊員を指さす。
「何で俺やねん!?」
「どうせなら、俺が残りますよ」
「ダメよ」
何で!?
「サワイ総監から念入りに八幡隊員はこういう集まりの参加を拒否しようとするから強制参加になっているわ」
「なっ!?」
あの人、なんてことを!
「より、親睦を深めよってことやな!」
「あのぉ、それだったら僕が……メインコンピューターでチェックが終わっていない所もありますから」
ヤズミの言葉にシンジョウ隊員とホリイ隊員がサムズアップしていた。
この二人、行く気満々だな。
「それなら貴方でなくてもできるでしょう?」
隊長に言われてヤズミもカードを取りにテーブルに来る。
俺は逃げられないように座らされていた。
一回目の引き、左右を見るもジョーカーを引いた者はいない。
やり直しか。
皆がカードを戻す中。
「ほら、ダイゴ、はよ戻せ」
渋々とダイゴ隊員がカードを裏返す。
引いたカードは“ジョーカー”。
居残りはダイゴ隊員となった。
こっそりと相談して交代すれば。
「八幡隊員」
ぞくりと背中が震えた。
おそるおそる振り返る。
笑顔を浮かべるイルマ隊長。
あ、これ。
「ここまで渋るなんて最終兵器の出番みたいね」
桜が満開の木の下。
昔の有名小説で桜の木の下は死体が埋まっているという話がある。これは咲き乱れる桜がとても幻想的だからという理由があるらしい。
それにしても、これだけ咲き乱れる桜を見ていると幻想的という言葉がひどくあてはまる気がするな。
「ヒッキー、どうしたの?」
「別に」
隣で俺の顔を覗き込むようにしているのは最終兵器こと由比ヶ浜だ。
渋り、裏技を使って逃げようとした俺の為に投入された。
総監や隊長は俺達の関係を誤解しているのではないだろうか?
由比ヶ浜がいれば、俺が逃げないと。
「さ、乾杯の音頭をリーダー」
桜の木の下、ダイゴ隊員を除くガッツ隊員による花見が始まった。
「乾杯!」
『乾~~杯!』
「って、これ、お酒ですか!?」
「あら、アナタ、二十歳だったわよね?」
「そ、そうですけど」
「なら、問題ないじゃない」
隊長に言われて目の前のグラスを見る。
日本酒か、
まだ飲んだことないな。
そんなことを考えながらグラスの中を一口。
慣れなかった。
すぐ花見に来たことを俺は後悔する。
「ヒッキー~~~、えへへへへへへ」
「お、おい、飲み過ぎじゃないのか?」
「そんなことにゃいよぉ、まだ二杯目だよぉ」
花見開始から一時間が経過。
みんなも酒の酔いが回り始めていた。
ビデオカメラを回しているヤズミの前で割り箸を鼻と口にくわえたホリイ隊員と楽しそうに踊っているシンジョウ隊員の姿がある。
酔っている人間ならではの光景だ。
ちなみにリーダーは酒が飲めないので牛乳を飲んでいる。
レナ隊員も少し酔いが回ってきているのだろう、頬が赤い。対してイルマ隊長は飲んでいるのに全く顔に変化がない。酒に強いのだろう。
普段から強い人間ほど、こういう場で乱すこともないのだろう。
すっげぇと思うよ。
「ヒッキーィ?聞いているのぉ?」
さて、そろそろ現実を直視しないといけないのだろうか?
俺は目の前を見る。
そこには頬を赤く染めて瞳を潤ませている由比ヶ浜の姿があった。
安心すべきことは服がさほど乱れていない事だろう。これで何かあったら俺は犯罪者として殺されている。
多分。
由比ヶ浜は日本酒を飲んだ途端、こうなってしまった。
「えへへへ、ヒッキー」
「あ、こら、馬鹿、くっつくな!」
「なんでぇ?あったかいのにぃ」
ぎゅぅぅぅと俺の腕を掴む。放そうにも万力のようにしがみついてくる。
ヤバイ、柔らかいモノを感じる。
酒が回ってきているのだろう、俺の体温も高くなってきていた。
「とにかく、色々と不味いから離れたらどうだ?」
「何が不味いの?」
「え、それは」
「いいじゃん、これくらい、裸じゃないんだし」
「それも危険だが」
「お、お前らは熱々だねぇ~」
「ひゅーひゆー!」
シンジョウ隊員、はやし立てないでください。ホリイ隊員、口笛吹けないならやらないでください。ヤズミ!カメラ向けるんじゃない!しばき倒すぞ!!
「二人とも付き合えばいいのにぃ、てか、八幡、俺に彼女を紹介しろぉ」
酔っているシンジョウ隊員が絡んでくる。
彼女欲しいって、俺に言う事じゃないでしょ?シンジョウ隊員に紹介できる人って平塚先生とか?
「そうそう、平塚先生だよ!」
「あれ!?」
俺、喋っていない筈なのになんで伝わったの。
てか、シンジョウ隊員、酔っているからだよね?平塚先生を紹介しろって、即ゴールインするようなもんだよ!
「いいから紹介しろっていってんだろぉ!」
俺の自由な腕をブンブンと揺らしてくる。
ホリイ隊員、目の前で変な踊りをするくらいなら助けてほしい。
由比ヶ浜。よじ登るように顔を近づけてくるな。なんか、いい匂いと酒の臭いが重なって変なことになっているんだけど!?
「ヒッキー、大好きだよぉ」
「おぉ!告白だ!」
「ヤバイ、撮影しちゃったよ」
「消せ、今すぐ消せ」
「えへへへへへ、うにゃーん」
さらに一時間後。
ヤバイ、理性が限界だ。
右と左に男女に抱きしめられた状態で俺の理性は色々な意味で吹っ切れそうだ。
水を飲もうにも由比ヶ浜がどんどん酒を飲ませてくるから俺はおかしくなってくる。
「あれ、隊長は?」
「向こうで花見をしていた人を連れて車の所に」
「え?」
レナ隊員の指さす方を見るも、そこには何もいない。
何もなかった。
嫌な予感がした俺はシンジョウ隊員を引きはがしてPDIを取り出す。
「どうしたぁ?八幡」
「定時連絡の時間ですよ……あれ?」
連絡しようとPDIを起動するも激しいノイズが起こる。
何か、嫌な。
『こちらダイゴ』
「ダイゴ隊員、どうして」
『この地域で一か月前に姿を消したとされる円盤の反応が検知されました』
「なに?」
「あの円盤がここに?」
「ダイゴ、慎重に行動しろ」
『了解』
緊張した空気が漂う中、しばらくして事態は収束したらしい。
星人はウルトラマンティガが倒し、円盤はウィング一号が撃墜したという。
そして、やってきたダイゴ隊員を踏まえて俺達は花見を再開することになったのだが。
「疲れた、もう、ダメ」
「えへへへへへ、ヒッキー、可愛いなぁ」
頭がぐるぐるする。
何か、由比ヶ浜の膝の上にいるような気がするがどうでもいい。
疲れたんだ。
どこで休もうが俺の自由だ。
そう、例え、由比ヶ浜の柔らかい膝の上だろうといいのだ。
「ヒッキー?私の事、好きぃ?」
「あ~?」
「私は、ヒッキーの事、大好きだよ」
「そうだな、俺も……」
多分、
うん、そうだ。
俺は――。
「由比ヶ浜のこと好きだ」
とんでもない事を告白した。
加えて。
「やっば」
ヤズミの慌てた様な声が聞こえた。