地球平和連合、TPCは世界各国に支部、そこを束ねる極東本部の他に宇宙にはステーションと月面基地が存在している。
宇宙ステーションは三基あり、そのうちの一つが宇宙ステーション・デルタ。
名前の通り三角形の形をしたステーションであり、278名の職員が常駐待機している。
宇宙は無重力で過酷な訓練を積んだ人達ばかりだ。
これだけ聞いていると社畜生活の中でワーストワンに位置するだろう。俺としてはGUTSの生活もワーストワンクラスなんだろうけれど、上にはまだ上がいる様子だ。
何でいきなりステーション・デルタの話をしたかというと現在、ステーション・デルタにアンノウンが向かっている。
俺達は基地内でステーションの様子を見ているのみ。
緊急の場合は出撃する可能性もあるのだが、ステーション・デルタには武装が少なからず搭載されている。
故に俺達が慌てて宇宙へ向かう必要はない。
しかし、何かあってからでは遅い。故に地上から状態を把握しておく。
作戦室にはサワイ総監もきている。
スクリーンではステーション・デルタに勤務しているヤナセ・オミ技官とアサミヤ・シゲキ技官の姿がある。
バルキリー砲は発射できる状態だが、ヤナセ・オミ技官がまだ交渉できると渋っていた。
まだ交渉の余地ありと考えているらしい。
しかし、事態は一刻を争う。
アンノウンはとうとうステーション・デルタの範囲内に入ってしまう。
サワイ総監の一言と、ヤナセ技官の決断によりバルキリー砲が放たれた。
バルキリー砲はアンノウンへ直撃、消滅する。
「アンノウンの反応、ロスト」
ヤズミの言葉で全員から緊張の色がなくなる。
「ヤナセ技官、決断が少し遅かったのではないか?」
サワイ総監はヤナセ技官に咎めるような視線を向ける。
多くの人員の命を預かっている者にしては遅すぎる判断だとサワイ総監は言いたいのだろう。
ヤナセ技官に本部出頭命令を出して今回の話は終わった。
「八幡君はどう、思う?」
ステーション・デルタの騒動から少しして、俺はレナ隊員に呼び出されてある事をきかれていた。
それは、ヤナセ技官の判断について。
今回の話、俺としてはサワイ総監のように即決性を求められる話だと思う。
「お、多くの人命を預かる以上、あの決断の遅さは問題、になるんじゃないすか、てか、サワイ総監に呼び出し食らっているわけですし」
「…そう、だよね」
ヤナセ技官は相手へ呼び続けたかったようだが、状況は性急さを求められるものだ。
今回は間違っているだろう。
多くの命と応答しないアンノウン。
手に取るなら多くの命…なのだ。
それが当たり前になっている。
人の気持ちを問わずして。
「……何かあったんすか?」
レナ隊員の様子がおかしい。
そういえば、ヤナセ技官とレナ隊員は何か関係があるみたいだけれど。
深く追求しない方がいいかもしれない。
誰にも踏み込まれたくない領域というものがある。
「ううん、何でもない」
ヤナセ技官はステーション・デルタからオービタルが発進する。
進路先は地球だ。
ヤナセ技官は昔を思い出していた。
『もう、決まったことだ。レナの前で話をすることじゃない』
そういって、机に突っ伏しているレナへ駆け寄る。
『レナは次の誕生日、欲しい?』
『…口紅!』
『口紅?』
『レナ、もう子供じゃないもん!』
そういって微笑む“娘”の顔を思い出すヤナセ技官。
久しぶりに地球へ戻るからだろうか。
彼の黄昏ているような姿を見て、付き合いの長いアサミヤ・シゲキ技官が声をかける。
「お前の娘さん、美しく成長しているんじゃないか?」
「…」
「確か、GUTSのエースパイロットだそうじゃないか、血は争えんな」
「私は家族を捨てた男だ」
「そうだな、いまじゃ、家族なのは俺だけだ」
アサミヤの言葉にヤナセは小さな笑みを浮かべた。
直後、機内でアラートが鳴り出す。
「コース変更!」
慌ただしく操作をするヤナセ技官たちの乗っているオービタルを後ろから円盤が襲撃していた。
赤い光線が地球へ降下中のオービタルのエンジンを撃ちぬく。
「はぁ、面倒だ」
夜間のパトロールなんて、面倒過ぎる。
ヘルメットを手にガッツウィング一号へ乗り込む。
発進準備に入った所で後ろから音がしたと思うと後部座席へレナ隊員が乗り込んできた。って、え!?
「レナ隊員?」
「何も言わずに発進して」
「え、は?」
「いいから!」
あまりの剣幕に俺は驚きながらもガッツウィングの発進準備に入る。
『レナ隊員!本部に出頭しなさい!レナ隊員』
ウィングへ作戦室から連絡が入る。
しかし、その通信をレナ隊員が切ってしまう。
ちらりと後ろを見ると凄い目で睨まれてしまった。
大人しく、俺はウィングを発進させる。
だって、殺されると思ったんだもん。
「何か、あったんですか?」
レナ隊員の指定したポイントは風力発電のプロペラが多くあるエリアだった。
少し前と違い、現在は多くの風力発電が普及している。
此処で何かあったのか?
俺だけ状況把握できていないんですけど。
困惑している俺へレナ隊員が短く告げる。
「ヤナセ・オミ技官は私の父だったの」
「父…だった?」
ヤナセ・オミ技官は宇宙開発のため、家族を捨てた。
その事がレナ隊員に深い傷を残しているという。
話によると九歳の誕生日をすっぽかされて以降、会っていないらしい。
「あんな人は父だと思っていない…でも、オービタルが撃墜されたと聴いた時、なぜか、ウィングに飛び乗っていた…矛盾している」
矛盾。
きっと違うと思う。
レナ隊員は心のどこかで父親の愛情を求めているのかもしれない。
表上は父親の事など興味ない、嫌いといっているが奥底、本人の把握しきれていない所で求めているのだろう。
だから、本人は矛盾していると言っていた。
「家族に関しては、俺だって、矛盾、抱えていますよ。両親や妹に仕事したくない、無茶をしないTPCの部署にいるって嘘をついているのに、実際は激務のGUTSにいる。ほら、矛盾しているでしょ」
肩をすくめながら現地で調査を始める。
そんな俺の言葉にレナ隊員はヘルメットの奥で小さく笑いながら肩を叩いた。
「ありがと」
「え?」
「なんでもなーい、さ、行くよ」
此処で待つという選択肢はないようだ。
俺は溜息を零しながら探索機を起動する。
レナ隊員の話によるとオービタルは撃墜されたという。
ならば。
その撃墜をした奴も地球へ降りてきている可能性がある。
ホルダーからハイパーガンを取り出す。
カートリッジをチェック。
うん、大丈夫だろう。
命中率はないに等しいけれど、警戒しておく。
誰だって死にたくはない。
朝が来た。
「……見つからない」
森の中をかなりの距離歩いたが操縦者はおろかオービタルの残骸すら見つからない。
「反応からしてかなり向こう…なんすかね」
「そうかも」
平然としているがやはりいつもより声に力が入っていない。
どうしたものかと考えていると茂みをかき分けて何かが現れる。
ハイパーガンの銃口を向けた。
「まった、待った!」
両手を上げてやってくるのはダイゴ隊員。
しかし、俺はすぐに銃口を下さない。
「貴方が、ダイゴ隊員だという事の証明をしてください…でないと、下せないっす」
「八幡君…」
「……数日前、八幡はカレーを頼んだけれど、やってきたのは大盛カレー…断れず、それを食べて気持ち悪そうにしていた」
「ダイゴ隊員っすね」
ハイパーガンを下す。
「みていたんすね」
「まぁ、偶々だけど」
ダイゴ隊員は苦笑するとレナ隊員へ駆け寄る。
「無断出撃はダメだよ」
「……ごめん」
「リーダーもみんなも怒っていたよ」
「…」
何だろう。俺を置いて、目の前で微妙な桃色空間を展開しないでほしい。
このリア充どもめと叫びたくなるから。
そんなことを考えていると茂みにエイリアンがいた。
俺は咄嗟にハイパーガンを構える。
レナ隊員やダイゴ隊員も気づいたようでハイパーガンを構えていた。
「…待て、あれはホログラムだ」
「ホログラム?」
「本物にみえますけれど」
「今、葉がすり抜けた。実体じゃない」
「本物同然、みたいにみえます」
目の前のエイリアンが掌から何かを放つ。
光はレナ隊員を包み込んで消える。
俺はハイパーガンを撃つ。
しかし、弾丸はエイリアンの体をすり抜ける。
ホログラムだけれど、あっちは干渉できるのか!?
「ヤナセの娘は頂いた」
「なに!?」
「お前の狙いは…」
「貴様らは用済みだ。消えろ」
ダイゴ隊員が咄嗟に俺を突き飛ばす。
二人でごろごろと崖を転がり落ちていった。
何かにぶつかって俺の意識は闇に消える。
再び意識を取り戻した時、全てが終わっていた。
何でも、俺は打ち所が悪すぎて、意識不明になっていたという。
ダイゴ隊員はすぐに目を覚まして、作戦へ合流したが俺だけ、ダイブハンガーへ戻され、医務室にいた。
幸い、頭に問題はなかったという。そこは命の問題じゃないのかな?
「ヒッキーがバカになっていたらどうしょうって思ったよ」
「お前よりバカになることはない」
「酷いし!」
看病してくれていた由比ヶ浜に悪態をつきながら体を起こす。
「もう少し休んでいないとダメ!」
「レポート書かないといけないんだよ。てか、多分、始末書も」
ガッツウィングで哨戒任務をせずに直接、オービタルの所へ向かったことで責任を取らされるかもしれない。
てか、レナ隊員を作戦室へ戻す事すらしなかったから確実に罰則か何かはあるだろう。
本当なら、もう少しのんびりしていたんだけれど、不味すぎる。
「あ、やっぱり抜け出そうとしていた」
扉が開いたと思うとやってきたのはレナ隊員だった。
「あ、レナさん!聞いてくださいよ。ヒッキー、まだ安静にしないといけないのに抜け出そうとするんです」
「そんなことだろうと思ったよ」
苦笑しているレナ隊員は立ち上がろうとする俺をベッドへ押し戻す。
なんだ、なんだ?
困惑しているとレナ隊員が「お礼」という。
「今回は迷惑かけちゃったから、始末書は私が書くから、八幡君は安静にしていて」
「いいんすか?」
「うん、結衣ちゃん、八幡君が逃げ出さないように見張っていてね」
「任せてください!」
「ありがとね、八幡君」
そういってレナ隊員が出ていく。
ビシッと敬礼する由比ヶ浜。
なんだろう、安静にできるんだろうけれど、なんだか、別の理由で休めない気がする。
今更なんだが、由比ヶ浜の格好はミニスカートのナース服。
足と、手とむ、むにぇが。
「ヒッキー?」
「なんでもありません…そういや、仕事しなくていいのか?」
ベッドへ横になる。
「うん!マユミさんが「頑張るから結衣ちゃんはその子の面倒を見てあげて」って」
マユミっていうのが誰なのかわからないが、余計なことをォ。
ニコニコと微笑んでいる由比ヶ浜から視線を逸らす。
頭の中で考えるのはレナ隊員の事。
あの様子からするとレナ隊員の中で決着がついたのだろう。
俺はただただ、空を睨む。
「なぁ、由比ヶ浜」
「なに?ヒッキー!」
「……傍で監視する必要、ある?」
「ある!」
俺が眠りにつくまで由比ヶ浜は監視…しておらず、途中で舟をこいでしまっていたので開いているベッドまで運ぶことになった。
おかしくね?
病人、俺なんだけど
柔らかいと思ったけれど、これは黙っておこう。