ーーー 午前8:30
充電していた携帯の画面に、表示された数字をぼんやりと眺める。いつもなら、もっと早く起きるのだが今日は10月31日。東京武偵高の文化祭2日目が行われる日だ。昨日行われた、変装食堂《リストランテ・マスケ》とは違い、普通の文化祭である。ケンジも今日は、文化祭を見て回るだけで特にすることはない。
「どうしたんですか、ケンジ?」
ケンジが寝ていたベッドの横から、美しい鈴の音のような声が聞こえた。ケンジが目を向けると、そこにはエシルが立っていた。
腰に届きそうなほど長く伸びた美しい白銀色の髪は、朝日に照らされて美しく輝いている。この世のものとは思えないくらい整った顔をケンジに向け、大きな青透色の瞳はケンジを見ている。東京武偵高の制服から覗く肌は、搾りたてのミルクのように白く綺麗だ。見た目は14歳くらいだが、本当は何千年も生きているらしい。なぜなら彼女は、少女の姿をした 精霊 だからだ。
「いや、何でもないよ」
そう言って、ケンジはベッドから降りてエシルの横に立つ。
「ちょっと待っててくれ、すぐ準備するから」
「わかりました。では、朝ごはんの支度をして待ってます」
「ありがとな」
ケンジは、エシルの頭に右手を置いて優しく撫でた。エシルは気持ち良さそうに目を細める。その反応が可愛くて、少しの間エシルの頭を撫でてから手を降ろす。
「ケンジ、もっとしてください」
「いや、俺も準備があるから・・・・」
ケンジの言葉に、エシルが少し不満そうな顔をする。その顔が、ケンジの中にある 何か を刺激する。
「・・・・っ!!」
今すぐ、エシルを抱きしめたいという衝動に駆られる。その衝動をなんとか抑えつけるとケンジは、エシルに向いていた視線を少し逸らす。そのままだと、理性が持ちそうにない。
「じゃあ、俺は準備してくるから」
エシルにそう伝えると、ケンジは速足で寝室を後にした。
「はぁ~~~」
思わず、ため息が出る。さっきは本当に危なかった。あのまま理性が飛んでいたら、大変な事になっていた。すぐ隣には、ベッドまであったのだから・・・・。最近、エシルやレストの前だとすぐにさっきのような衝動に駆られてしまう。まぁ、理由は分かっているんだが。
「とりあえず、今は抑えるしかないよな」
ケンジは、一人呟くと東京武偵高の制服に着替える。そして、愛刀 神楽《しんら》 を腰に差して自室を出た。そのままケンジは、エシルとレストの待つリビングに向かった。
「おはようございます、ケンジさん」
ケンジがリビングに入ると、目の前に一人の少女が立っていた。
肩をくすぐるくらいに伸びた髪は美しい緋色。エシルと同じくらい整った顔立ちをしていて、その中にある大きな紅玉色の瞳がケンジを見つめていた。東京武偵高の制服から覗く白い肌は、緋色の髪のせいか、さらに際立っていた。見た目は14歳くらいとエシルと同じくらいで、背丈や体型もほとんど一緒だ。その理由はもちろん、この少女が 精霊 だからだろう。
「おはよう、レスト」
そう、この少女がケンジのもう一人の契約精霊。正式名は「テルミアス・スカーレット」だが、ケンジはレストと呼んでいる。その方が呼びやすいし、なによりケンジ本人が考えた名前だから・・・・・・「エシル」もケンジが考えた名前だ。
「ケンジ、朝ごはんが冷めてしまいますよ」
「わかった。ほら、レストも早く食べようぜ」
すでに、朝ごはんの支度はできているようでエシルは食卓に着いていた。
「ケンジさん、少ししゃがんでください」
「え?」
思わず聞き返してしまったが、ケンジはレストに言われた通り少ししゃがむ。もともと、ケンジはレストやエシルとは頭一個分くらいの身長差がある。つまり、ケンジが少ししゃがんだことでレストと同じくらいの背丈になる。
・・・・ちゅっ
「・・・・!?」
いきなりレストが、ケンジの唇に自分の唇を合わせた。つまり・・・・キスしてきた。さすがに驚いた。エシルも箸を銜えたまま目を見開いていた。レストが唇を離して、ケンジを見つめる。
「おはようのキスです、マスター」
「いったい、どこで覚えたんだよ」
「お昼頃にやっている、ドラマです」
「それは、見ちゃいけないヤツだ!」
「?」
可愛らしく首をかしげるレストに思わずドキッとしたが、とりあえず食卓に着く。
「後でお仕置きですね」
「勘弁してください!!」
エシルの発言に、別の意味でドキッとした。
「何だあれ?」
時刻は午前9:30になる少し前。あの後、エシルにさんざん怒られたケンジは「そろそろ行きません?」とエシルに時計を見るように促した。すでに、午前9:00を少しまわっていたので「ケンジも反省してください」と言われ、なんとか許してもらえた。そして東京武偵高に向かう途中、人だかりを見つけたのだ。
「何でしょうか?」
レストも気になったのか、いつもの透き通ったような声音に疑問を浮かばせている。
「行ってみるか」
ケンジ達は、その人だかりに向かって歩き出した。
「どうしたんですか?」
ケンジは、とりあえず近くにいた男性に声をかける。
「なんでも、銀行強盗があってるみたいだよ」
「銀行強盗?」
こんな武偵高の目と鼻の先で今、現在進行形で犯罪が起きてるらしい。武偵高の生徒も何人かいるようだ。
「おい、なんで強襲しない?お前ら強襲科《アサルト》だろ」
近くにいた武偵高の生徒に声をかける。
「それが、人質がいて中に入れないんだ」
「人質?」
なんか、王道な展開だな。こういった展開だと、もうちょっとしたら≪ヒーロー≫が出てくるもんなんだろうな。確かに≪ヒーロー≫は 実在 するが、まぁ当分来ないだろう。今頃、『デート』でもしてるだろうから。
「仕方ねぇ、俺が行くか」
「ちょっと! どこ行く気だ!?」
「エシルとレストは、ちょっと待っててくれ」
「「わかりました」」
「だから! どこ行く気だ!!」
強襲科の生徒の言葉をキレイにスル―して、ケンジは銀行の中に入って行った。
「なんだお前!?」
銀行の中には、20人くらいの一般人と5人の強盗犯がいた。
「てめぇ、武偵だな!」
「そうだけど」
それくらい、制服見てわかるだろ。
「っ!?・・・・まぁいい。こっちは5人もいるんだ。てめぇ一人で何ができる!!」
確かに、相手は5人いる上に全員が銃を持っている。さすがに厳しいか・・・・・・そんな訳ねぇだろ。
「さーて、神楽を始めるか」
ケンジは、腰に差していた愛刀 神楽《しんら》 を鞘から抜き構える。
「おい、武偵は人を殺せないんじゃないのか」
「安心しな。絶対殺さねぇからよ」
「だったら、こっちが殺してやるよ!!」
強盗犯の5人が一斉に発砲した。しかし、ケンジには当たらない。
「神楽流剣舞《かぐらりゅうけんぶ》 ニノ型 神楽瞬身《かぐらしゅんしん》・・・・ッ!!」
すでに、ケンジは5人の強盗犯の 後ろ にいたから。
「なっ!? てめぇいつの間に!?」
再び、強盗犯5人がケンジに銃口を向ける。
「本当は高速移動用の技なんだが、少し工夫すれば こんな事 もできるんだぜ」
「?」
「 瞬身狩り《イグニション・ハント》・・・・ッ!!」
ケンジが、刀を鞘に収める。刹那・・・・
バキィィィィィ!!
「「「「「っ!?」」」」」
5人の強盗犯が、ほぼ同時に倒れた。さっき、高速移動した時 一人ずつ攻撃 したのだ。まぁ、 速過ぎて見えなかった だろうがな。あの、「シャーロック」ですら見抜けなかったのだから。しかし、この強盗犯5人は生きている。当然だ、殺したら武偵法を破ったことになる。それに、ケンジの愛刀 神楽《しんら》 は、人を殺せない。なぜなら・・・・
「この刀は、不殺の誓いを立てし・・・・・・ 逆刃刀 だ」
Go for the next....!!!
次話から、アリアやキンジ達が登場します。
なるべく、早く投稿できるようにがんばります。