「・・・・よう。久しぶりだな」
ケンジが、一歩前に出る。
---今、ケンジの10メートルほど先には一体の堕精霊《フォール・スピリット》がいる。
その姿は、全身がほぼ漆黒の怪物。身長はケンジの三倍くらいだろうか。右手には、巨大な槍を持っている。
「最近あんま見なかったけど、なんかあったのか?」
しかし、ケンジは極めて冷静だった。
「・・・・ガアァァァッ!」
堕精霊が吠えながら、ケンジに向かって突進してきた。それを、ケンジは右に飛んで避ける。そして、そのまま腰に差していた 神楽《しんら》 に手を伸ばしながら、堕精霊に声をかける。
「お前みたいな 下位精霊 が、俺と神楽を舞えんのか?」
「ガアァァァァァアッ!!」
堕精霊が、持っていた槍をケンジに向かって突き出す。ケンジが神楽を抜こうとすると、
「「では、私たちと舞いませんか?」」
突如、ケンジの前に白銀の魔法陣が現れた。その魔法陣が、堕精霊の槍からケンジを守る。
「・・・・ガアァ?」
堕精霊が困惑していると、今度は透き通るような声が辺りに響く。
「『地獄の烈火《ヘル・レスパラード》』」
その声の後、堕精霊の立っている地面に大きな緋色の魔法陣が現れる。そしてその魔法陣から、大量の炎が出現した。
「ガアアアアア!?」
瞬く間に、炎は堕精霊を包み込んだ。堕精霊が激しく動き回るが、炎はまったく消えない。むしろ、どんどんその激しさが増している。
「ケンジさん。後はお願いします」
レストがその紅玉色の瞳で、ケンジを見つめながら言った。
「お、おう・・・・」
(けど、もう終わりじゃないっすか?)
ケンジが堕精霊を見ると、すでに体勢を整えて右手に持つ槍をケンジ達に向けていた。・・・・燃えながら。
(お前、根性あるなッ!?)
ケンジが内心驚いていると、誰かが服の袖を引っ張ってきた。ケンジが視線を向けると、エシルが立っている。
「どうした、エシル?」
「私を使ってください」
「え?」
「最近、ケンジは私を使ってくれません」
「そ、そういえばそうだな」
「私を使ってください」
「けど、あれくらいの相手なら神楽《しんら》で充分な気が・・・・」
「私を使ってください」
「・・・・はい」
ケンジが渋々頷くと、エシルは嬉しそうに目を閉じた。
(確かに、エシルを使うのは久しぶりだな・・・・)
ケンジはそんなことを考えながら、エシルの左肩に自分の右手を乗せる。そして、展開式《レリーズ》を唱えた。
「---魔を滅し、闇を斬り裂く白銀の聖剣よ! その身の力を解き放ち・・・・
---今、我が手に力をッ!!」
ケンジが叫ぶと、エシルの身体が光に包まれる。そして光が消えると、もうそこにエシルの姿はなかった。
その代りケンジの右手には、白銀に輝く大剣が握られていた。
「いくぞ、エシル!」
『---はい、ケンジ。 私はあなたの剣。あなたの願うままに』
ケンジの頭の中で美しい鈴の音のような声がする。この白銀の大剣はエシルの精霊魔装。
つまり、この白銀の大剣がエシルなのだ。
「ガアァァァアッ!」
堕精霊がケンジに向かって、もう一度突進してきた。しかし、ケンジは落ち着いて剣を構える。
「見せてやるよ! エシルの・・・・・・」
(・・・・・・いや、待てよ。今は、正式名で呼ぶべきだな)
そして、ケンジは叫んだ。
「エクス・シルバーの力をなッ!!」
堕精霊が突き出した槍をケンジは素早くかわし、その槍の下を全力で駆け抜ける。そのまま堕精霊の目の前まで行くと、ケンジはグッと身を屈める。エクス・シルバーを自分の右側で、下段に構える。刹那、
「神楽流剣舞 三ノ型 神楽彗閃・・・・ッ!!」
「ガアッ!?」
思いっきり、振り上げた。身を屈めたのも、足をバネのように使うことで、この技の威力をさらに上げるためだ。そして斬られた堕精霊は、まるで霧が晴れるように消えていった。
「・・・・よし! これで終わりだな。じゃあ、帰るか」
「「はい」」
ケンジの言葉に、少女の姿に戻ったエシルといつの間にか近くに来ていたレストが頷く。
そして、3人はバス停に向かった。
-----翌朝。
ケンジはいつものように武偵高の制服に着替えて、腰に 神楽《しんら》 を差す。いつもと違う事といえば、制服の胸ポケットにカナから渡されたコルト・シングル・アクション・アーミー、通称 ピースメーカーを入れている事だろう。
「じゃあ、行ってきます」
ケンジがそう言うが、返事はない。エシルとレストは、まだ寝ているようだ。リビングには、ケンジ1人しかいなかった。
(昨日は、寝てないって言ってたからな・・・・)
今日は、しっかり休んでもらおう。ケンジはエシルとレストを起こさず、1人で武偵高に向かった。
そして、学校での1日が終わる。放課後の教室でケンジは、ある生徒の前にいた。
「説明して貰おうか、遠山キンジ君」
「・・・・・・はい」
ケンジは、キンジの一つ前の席に腰を下ろす。そこでキンジから自分が意識を失った後のこと、ケンジがアリア達の病室に行く前に何があったのかを聞く。あと、昨日の夜の事も。
「なるほどな」
(・・・・とりあえず、)
「ドンマイ。キンジ」
「わかってくれたか! ケンジ!」
キンジが嬉しそうに、立ち上がる。
「やっぱ、アリアたちとは違うな! 俺の話をわかってくれるのは、ケンジだけだぜ!」
「お前は本当に苦労人だな、キンジ。それで、どうするつもりだ?」
「?」
「相手は頭がいいからな。今日の昼休みのも 自分の存在をアピールするため だろ」
「あ、あぁ。よくわかったな」
「『あの・・・・お兄ちゃんを呼んでくれませんか? 私、遠山かなめといいます』」
ケンジがジーフォースの・・・・いや、かなめの声マネをする。
「う、うまいな・・・・」
キンジが、それを聞いて驚く。・・・・まぁ、本職《理子》から教わってるからな。
「で、どうする?」
「そうだな~。俺は目立った行動ができないし。なにより、かなめの情報が少なすぎる。それに、頼りになるかと思ってた玉藻《たまも》たちも ふざけた提案 しか言わなかったしな」
「ふざけた提案?」
「ーーーその、つまり、ロメオだ」
「ロメオっ・・・・!?」
ケンジは、危うく椅子から落ちそうになった。
ロメオとはーーー武偵用語の一つで、男版の、ハニートラップ。
「おいおい。それはいくらなんでも、危険すぎるだろ」
ケンジが、椅子に座り直しながら言う。なんせ相手は、アリア達を1人で倒したヤツだ。ロメオが失敗すれば命に係わる。
「危ないから止めとけ。他の作戦を考えるべきだ」
「ホント、・・・・お前がいてくれて助かるよ。やっぱ、頼りになるのもケンジだけだ!」
「・・・・・・苦労してるんだなキンジ」
とは言え、具体的な方法がなかなか思いつかない。
「やっぱり、戦うしかねぇーだろ」
「俺もそう言ったんだが、玉藻たちに止められたよ。『今戦えば全滅する』ってな」
「だったら・・・・」
「?」
「俺に一つ、考えがある」
「どんな?」
キンジが身を乗り出して聞いてくる。しかし、ケンジは何も言わずに立ち上がった。
「・・・・どうしたんだ?」
「誰かに 見られていたような 気がした」
「っ!?」
キンジも慌てて立ち上がる。しかし、もう 気配 は消えていた。
「とりあえず、今日はもう帰ろう」
「そ、そうだな」
ケンジの意見に、キンジが頷く。二人は、素早く下校した。
--ーその後を、・・・が付いて来ていることに気づかないまま。
翌日の放課後ーーー
かなめが妙に焦るような態度で、キンジを引っ張りながら男子寮を出て行った。もちろん、ケンジも付いて行くつもりだったんだが・・・・・・
「「どこに行くつもりですか?」」
エシルとレストに捉まっていた。
「だ、大丈夫だって。ちゃんと、帰ってくるから」
「「信用できません」」
うッ。・・・・やっぱり、前科があるとだめだな。ケンジが、どうしようかと悩んでいると。
「ケンジ。本当に早く帰ってくるんですね?」
エシルがその、青透色の瞳でケンジを見てくる。
「ケンジさん。本当ですか?」
レストもその、紅玉色の瞳で同じようにケンジを見てきた。
普段からクールで無表情な2人だが、今は一層に表情が冷たい。
(信用がないってツラいな・・・・)
ケンジは、大きく息をはいた。
---そして、
エシルとレストを両手で包むように、抱きしめた。
「「!?」」
2人が、ビクッ! と体を震わせた。
「大丈夫。心配しなくても、絶対帰ってくる」
ケンジは、エシルとレストの耳元でゆっくりと甘い声で囁いた。・・・・なんか、『ヒステリアモード』みたいだな。
「ズルいです、ケンジ」
「ズルいですよ、ケンジさん」
ケンジは、2人の体から力が抜けたところで手を離す。
「じゃあ、行ってくる」
そのまま振り返らず、ケンジは駆け出した。
(・・・・今度は、早く帰らないとな)
ケンジは、走りながらそう決心する。
---ーーしかし、現実はそれほど甘くはなかった。
キンジを追いかけて台場に向かっていたケンジの目の前に、空からもの凄い勢いで 何か が落ちてきた。
「えっ?」
ケンジは反射的に後ろに飛んだが、風圧のせいで着地に失敗する。地面を何回か転がり、ようやく止まる。
「っててて・・・・」
腰を抑えながら立ち上がる。ケンジは 何か が落ちてきた方に視線を向けた。そして、
「っ!?」
驚愕した。
・・・・なぜなら、
そこには、一人の 女の子 が立っていたのだから・・・・・・。
Go for the next!!!
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次話も早めに投稿します。