来禅高校のとある女子高生の日記   作:笹案

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番外
京乃クッキング


 ある場所。

 そこは──戦場だった。

 

 少女は闇雲になりながらも得物で敵と戦い、少年は少女の邪魔をしようとする他の敵を排除し、そしてひとときも気を緩めてはいけないとばかりに、瞬きさえもせずに血走った目を見開いて四方八方に目を配らせ、すぐに少女の方へと目を向ける。

 

「まだか……まだなのか……!」

 

 そう言って時を待つ少年。

 そして次の瞬間、少年はカッと目を見開いて大きく息を吸って叫んだ。

 

「今だ! 観月やれ!!!」

「い、いえっさー」

 

 返事を返しながら観月京乃は、火に直接当たったことで熱くなった鉄の塊の上にある黄色いものを、漆黒の得物でひっくり返した──

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し(さかのぼ)る。

 

 

 

 

 休日の昼過ぎ。

 五河家に遊びに来ていた京乃はそわそわとしながら士道に話しかけた。

 

「……あの、五河君。その……ええと……」

「観月か……どうかしたのか?」

「だから、あの……」

 

 もじもじとした煮え切らない態度でいる京乃。

 何だ? 気付かない内に何かやらかしたのか? 

 

 考えてみるが特に何も思い当たらない。

 京乃は昼から五河家に遊びに来ていて、それで昼飯をご馳走して、同じく家に遊びに来ていた十香のゲームの遊び相手になってくれて、そのお礼にということで焼いた菓子を食べてもらい、そして十香はあいまいみーのトリオと遊びに出かけていったことにより、士道は京乃と二人きりとなったのだ。

 

 やはり、何一つとしておかしな点はない。

 だったら何なのだろうかと、士道がそこまで考えた後で、京乃は何かを決心したように拳を握り、キッと目を強めた。

 

「そ、その! ……わ、私に料理を教えてくれませんか!?」

「うん?」

「……えっと、その……前に言ってたやつ、です」

「ああ、そういえ……!?」

 

 そういえば前、家に来た時にそんな話をしたような気がするというのとともに、忘れかけていた感触を思い出した。

 すんごい柔らかかったあれ。

 ちゃんと下着を見につけていたのだろうか? それにしては……

 

「どうかしました?」

 

 観月に声をかけられ、士道は邪な考えを奥底にしまった。

 

「あ、いや……何でもない。そんなに凄いのは作れないが、それでもいいか?」

「い、五河君が凄くないなんてことないです! とても美味しいですから!」

 

 食い気味でこちらににじり寄ってくる京乃を見て、士道は少し嬉しくなった。

 理由は何であれど、自分の作った飯を褒められるのは嬉しいものだ。

 約束していたというのもあるし、上手く教えられるか分からないものの、士道は京乃の料理を見てみることにして頷いた。

 

「ありがとう、観月。それなら試しに何か作ってもらえるか? そうだな……、おにぎりとか?」

「おにぎり、ですか……?」

 

 頭の上にクエスチョンマークが出ている京乃を見て、士道は言い訳がましく言葉を連ねる。

 

「ば、馬鹿にしてる訳ではないぞ? 

 ただ基礎の基礎だから!」

「分かり、ました! 

 あの、その、台所入っても……」

「ああ、もちろん良いぞ。

 しゃもじや茶碗もそこら辺にあるの使っていいから……と、そういや塩とか出さないと場所分からないか。じゃあ出しとくな」 

「あ、ありがとうございます!」

 

 京乃の感謝の声に手を振って答え、士道は台所へと向かってキッチン台の上に塩や海苔、しゃもじや茶碗を置いてリビングにいる京乃に呼びかけた。

 

「観月、茶碗とか出したぞ」

「ありがとうございます。では行きます……!」

 

 威勢よく返事を返し、台所に入って来た京乃。

 そこまで張り切らなくてもいいのにと思いつつ京乃を見ると、彼女はチラチラと士道の顔を見つめ、そして口を開いた。

 

「五河君はその……リビングでテレビでも見ててください。おにぎり作るだけですし、その……見られるの恥ずかしいので……」

「ああ、分かった」

 

 確かに二人で居るには手狭な空間であるし、集中出来ないというのもあるのだろう。

 そう思った士道は了承し、テレビをつけて偶々やっていた動物番組を見た。

 どうやら子猫の特集をやっているようだ。

 こういうの観月も好きそうだなと思いながら見ていて、五分経ち、十分が経った。

 そしてまだ時は刻まれようとしているのに中々戻って来ない京乃を不審に思い、あっちの様子を見に行こうかと思った時に彼女は茶碗を持って帰ってきた。

 

 

 

 茶碗の中に入っているおにぎりを取り出し、見た目で想定していたよりもずっしりと重かったおにぎりを口に入れる。

 瞬間、士道は自分が渋い顔になるのを感じた。

 

 なんだろう、これ。

 まず始めに感じたのはじゃりじゃりとした食感と塩っ辛さだった。

 そしてしょっぱい上に噛みづらいし、ネチャネチャと口の中に(まと)わりつく。

 そのくせに海苔はパリッとしているが、数度噛めば米の中に交わって持ち味を失くし、口の中で風味が広がることもなく口の中に引っ付く。

 

 いうなれば、固くなって伸びなくなった餅に塩をぶっかけて食べているのような気分だ。

 

 つまり、不味い。

 

 急いで机の上のお茶を口の中にぶち込むと、京乃は不安そうな顔で士道の様子を伺った。

 

「どう……でしたか?」

「……」

「その……正直に言ってもらいたい、です」

「分かった。……けど、ちょっと言うことを頭の中で纏めさせてくれ」

「は、はい!」

 

 京乃の緊張した声を聞きながら、士道はどうするべきかと思案した。

 勿論、くそ不味いと直球に伝えることも可能だ。

 しかしそれでは、ただのクズ野郎ではなかろうか? 

 それは自分の良心が痛むし、彼女が可哀想だ。

 

 そんな風に考え抜いてどう答えるべきか結果、オブラートに考えを伝えることにした。

 

「……力込め過ぎじゃないか?」

「そう……ですか?」

「米の持ち味がなくなっている。何の力を入れないって訳にはいかないけどな」

「そうですか。……いつもはもっとうまく出来るんですが……」

 

 その言葉は本当なのだろうかと疑う気持ちを抑えて、士道はアドバイスを続けた。

 

「そ、そうか。あと、塩は濡らした指に少しつけるだけでいいんだ。ひとつまみぐらいで」

「えっと……ひとつかみ?」

「ちょ、待って! ひとつまみだ! ひとつまみ!  もしかして今のやつにひとつかみ入れたのか!?」

「やだな五河君。さすがの私もそんなことしませんよ……」

 

 顔にも声にもいつも以上の動揺の色は見えないが、その代わりに服を掴んでいた彼女の手が離れて指が所在なげに空に円を描いている。

 これは確実にひとつかみ入れたのだろう。

 

 士道は半眼で京乃を見つめると、京乃は少しビクついた。

 

「少なくとも、ひとつまみの倍以上は入れたよな」

「そんなことないですよ、いつも通り、いつも通りの量です」

 

 ……あ、指が悪化した。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、料理は後回しだ! 俺と一緒におにぎりを作ろう!」

 

 士道がそういうと、京乃は『この人何を言っているのだろう』とでも言いたいかのように不思議そうに顔をこてんと傾げた。

 

「……一緒に?」

「一緒に」

「……あのちょっとよく分からないんですが、おにぎりを一緒に作るとは、……その、つまり、どういうことなんでしょうか」

「観月が作るのを後ろで見てるから、俺のことは気にせずに作っていてくれ。あ、これは駄目そうだなと思ったら手伝うからな!」

「わ、分かりました?」

 

 京乃は困惑してそうな表情で頷くと、台所へと歩いていった。

 

 京乃は真剣な表情で釜から茶碗へと米をよそぐ。

 そこで一息おいて、水で濡らした手に塩を馴染ませ、茶碗から左の手のひらいっぱいに米を乗せて、その上に右手を被せて回転させて三角の形に固める。するとおにぎりがぺしゃんこに潰れた。敢えてもう一回言おう、おにぎりが潰れた。

 

「……」

「い、いつかくん……」

「……観月」

「あ、あれ? なんでですかね?」

 

 なんでか聞きたいのこっちの方だ。

 いったい何でそうなるんだ。

 

 そう思い、士道はこんな京乃を助ける為にはどうすればいいのかと目を瞑って考えていると、妙案が思いついたので目を開けて彼女に声をかけた。

 

「……よし、観月、もう一回茶碗から米をよそいでくれ」

「は、はい」

 

 京乃は士道に言われた通りに、また塩を馴染(なじ)ませた手に米粒を乗せた。

 

「それで本当に弱く握って……」

「は、はい」

 

 ロボットのようにカチコチになりながら返事を返す京乃。士道はその横に立ち、おにぎりを握っている京乃の手を自分の手で包んで力を加える。

 京乃の手は小さく、思っていたよりも楽にことを終えることが出来た。

 

「よし、こんくらいの力加減で……」

 

 と、そこまで言った後で、士道は京乃から反応が返ってこないことに気がついた。

 そしてその理由について考えていると、自然に自分の手を彼女の手に重ねてしまったことに気がつき、すぐに掴んでいた手を離し、ついでに密着してしまっていた体も離した。

 

「す、すまん! つい!」

 

 すぐに謝罪して京乃の顔を見ようとするが、彼女は俯いていて顔を見ることは出来なかったが、すぐに返事を返してきた。

 

「あ、いえ……大丈夫、です。その、びっくりしちゃっただけで……」

「なら良かった」

 

 士道がそう言うと、京乃は俯いていた顔をあげて嬉しそうに笑った。

 

「それに五河君のおかげで握るコツが分かった気がします!」

「じゃあ一人で作ってみるか?」

「は、はい!」

 

 京乃は嬉々としてもう一度おにぎりを握り、そしてまた潰れさせた。

 

「……」

「よし、今日はこれくらいで終わりにするか!」

 

 無言で崩れ落ちる京乃を横目に士道はパンパンと手を叩く。

 これではいくらやってもきりがなさそうだと思っての行動だ。

 その後、士道と京乃は使った茶碗なんかの後片付けをして、生産されたおにぎりを食べた。

 食べたそれはやっぱり冷めた餅の味で京乃は少し泣いた。

 

「……なんかおにぎり作るだけで終わってごめんな」

「い、いえ! 私が全然出来ないのが悪いので五河君は気になさらないでください!」

「また明日にでも家来てくれれば作るの見てやるから」

「えっ、本当ですか!?」

 

 嬉しそうに目を輝かせ、京乃は食いついた。

 そこまで食いつくとは思っていなかった士道は驚き、そして笑って肯定した。

 

 

 

 

 

 その日以降も京乃は放課後などに五河家に通ったが、何度おにぎりを握っても、米粒が潰れて餅のようになってしまう。

 仕方がないので士道は作戦を変更し、スクランブルエッグや野菜炒めなどの簡単な料理を作ることにした。 

 士道が見ていないと炒めすぎて殆どスクランブルエッグがパサパサになっていたり、焦げていたりとしてしまうが、指示を出すとそれなりに上手に出来るようになっていた。

 

 

 

 

 

「おお、京乃! 前見たときよりも上手になってるではないか!」

 

 五河家に遊びに来ていた十香が、京乃の作った料理を見ながらそう言った。

 目の前には出来たてホヤホヤの野菜炒めがとても美味しそうな香りを漂わせている。

 

「……そ、そうですかね? まあ、五河君に手伝って貰っていますからね。五河君がいなかったらとてもこんなの作れないと思います……」

「そうだぞ! 美味しそ……ああ、いや何でも……」

「良かったら食べますか?」

 

 涎が出ている十香に対して京乃がそう言うと、十香のポニーテールが犬の尻尾のようにピンと立った……ように感じられた。

 

「良いのか!?」

「はい。その……夜刀神さんにも食べるの手伝って貰いましたし……」

 

 そうなのだ。 

 この最近五河家に入り浸っている京乃は当然、十香ともよく遭遇していた。

 初めの頃は十香を見るたびにギクシャクとしていたが、今では若干の苦手意識があるだけで挨拶されたら会釈を返すぐらいのことは出来るようになったし、無理して食べなくてもいいと言っても、いや大丈夫だと、作った料理(失敗作)を食べてくれるようにもなった。

 京乃にとって、初めてとも言える成功作。

 それをあげるくらいのことはしてあげたい。

 京乃がそう思って十香を見ると、そこには憮然(ぶぜん)とした様子の顔があった。

 

「十香だ」

「……?」

「私のことは十香と呼んでくれ。夜刀神と呼ばれるのはなんだかムズムズするのだ。あと、敬語も堅苦しいからやめてくれると助かるのだが……」

「分かりま……分かったよ、やと……十香、ちゃん?」

「うむ!」

 

 納得したように嬉しそうに頷いた後、十香は机の上に置いてある野菜炒めを数十秒で食べきった。

 

「京乃、美味しいぞ! 所々でびたーな苦味が出ているのもあくせんととなっていて……!」

「あああ……ごめん十香ちゃん……! それ多分焦がしたところだぁ……!!」

 

 グッドと言った感じで親指を突き出した十香を見て、京乃は慌てた。

 やっぱりそう簡単にうまく行くものではないらしい。

 

 

 

 

 

 

「なあ観月、そういえば何で料理したいんだ?」

 

 ある日の料理の待ち時間、ふとした時に士道はそう尋ねた。

 その問いに対して、京乃ははにかんだような笑顔を浮かる。

 

「出来ないことをそのままにしとくのは良くないと思いますし……その、好きな人に美味しいって言われるようなものを作れるように、なりたいんです」

 

 好きな人。

 その言葉にいい感情を覚えないのを不思議に思いつつも、士道は京乃にねぎらいの言葉をかけた。

 

「そっか……頑張れよ」

「は、はい!」

 

 嬉しそうに笑っている京乃。

 それを見て士道は前まではこんなに俺の前で楽しそうに笑うことはなかったな、ということを思い出した。

 

 それも料理を手伝ったおかげなのかと思えば嬉しいけど、また数日経つと元通りに戻るのだからなんとも言えないのだが。まあ、嫌われているのだろうし仕方がないか。

 ……でも嫌ってるやつのところにわざわざ行って、料理を教えてもらったりなんか普通するか? 

 いやいや、観月だったらそれもありえるかもしれない。

 

 そんな風に考えている間に焦げくさい臭いが漂ってきたことに気が付き、士道は慌てて火を止めた。

 その日作った卵焼きは、とても真っ黒だった。

 

 

 

 

 それから京乃はまた数日特訓をした。

 包丁で野菜や肉を切るのもこなれてきたし、前に比べたら火を止めるタイミングを掴めるようになってきた。

 

 

 そして、話は文頭に戻る。

 

「今だ! 観月やれ!!!」

「い、いえっさー」

 

 京乃は士道に指示された通りに鉄の塊の上にある卵をひっくり返した。

 

 そして純白の器の上にある、鮮血のように朱に染められた穀物、焼かれた野菜、残酷にも小さく切り分けられた家畜の肉の上に黄金色に焼けた卵を乗せる。

 少し形が(いびつ)になっているが、それ以外に問題はなし。

 そのことを確認した士道は安心したように、リビングにある椅子に座った。

 士道が席についたことを確認すると、京乃は席の死角となる位置でケチャップを卵の上にかけた。

 ちょっと線が曲がっているがハートマークだと分かるものを大きく描き、しかしそのまま渡すのは恥ずかしかったようで、顔を真っ赤にしながらケチャップのハートマークをスプーンで潰し、卵全体に伸ばした。

 

 

 全ての工程を終えた京乃は、出来上がったオムライスを士道のいる机へと置いた。

 

「で、出来ました……。あの、どうでしょうか……?」

 

 士道は緊張した面持ち、恐る恐るといった感じで、出された物の一部を崩してスプーンで(すく)って口に運ぶ。

 最初、士道の顔は強張っていたが、すぐに安心したように頬を緩めた。

 

「……よし、合格点だ。旨いぞ、観月」

「ほ、本当ですか? 

 やったぁ……」

 

 初めてマトモに成功した安堵のためか、へなへなと崩れる京乃。

 しかし直ぐに立ち上がると、拳を天へと掲げて威勢よく口を開く。

 

「……じゃあ次は肉じゃがを!!」

「今日のところはもう勘弁してくれ!!!」

 

 京乃が次の提案をしたところで、士道は間を置かずに土下座をした。

 ダイナミックDOGEZAである。

 それを目にした京乃は目をパチクリと瞬かせ、そして頬を緩める。

 

「はい、分かりました。

 では、その……また今度お願いします」

 

 また今度。

 そんな約束が出来るという幸福を噛み締めながら京乃は微笑んだ。

 

 

 そんな穏やかな日々の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ(一応書いていたやつ)

 

 

 

 

 突然だが士道の妹である五河琴里の話をしよう。

 五河琴里はラタトスクの司令官である。

 それ故に四糸乃の霊力が封印された後は仕事でてんてこ舞いだった。

 

 精霊の精神が安定しているかの報告書。

 精霊の霊力を吸収した士道や十香、そして四糸乃の霊力反応や怪我などを確認する為に精密検査を受けさせて、その結果のチェックetc.

 士道や十香は比較的早く終わったが、四糸乃に関してはそうはいかない。

 世間に出ても大丈夫かどうか、霊力が逆流しないかを調べた。

 結果を見たところ、まだ地上で生活は出来ないがよしのんと一緒にいれば精神的に安定しているし、想定していたよりも早くマンションに移動しても構わないだろう。

 

 コミュニケーションはまだ苦手のようだが……京乃に、そして言葉にはあまり出さないものの士道にも早く会いたいようで、よしのんと一緒に上手くなるように努力している。

 

 京乃の家に遊びに言ってもいいかと言っていたが、それも直に叶うだろう。

 

 そのことが“五河琴里”としても嬉しい。

 

 それらも区切りついたので十香や士道に顔見せたらどうかと部下達に言われて、琴里は仕方ないと家に帰る。

 

 十香に何か不調がないかを目で確認しに行くだけだ。

 

 ……別に士道に会いたかったからとか、顔が見たかったからとかそんな理由では断じてないのだ。

 

 そう頭の中で否定して地上に降りる。

 目の前にある我が家。

 

 それを見て少し気持ちが高揚し、家の鍵を取りだし鍵穴に挿して、ガチャリと扉を開ける。

 

「ただいま」

 

 家に入る。

 

 とんとんと、兎が跳ねるように駆け足気味になりながらリビングに向かって歩いていることに本人は気づいているのだろうか。否、気づいていないのだろう。

 

「ん?」

 

 しかし、琴里は扉に近づくにつれ強くなってくる家の中の匂いにふと違和感を抱いた。

 何か臭いし、心なしか鼻につんとくる臭いもしてくる。

 

 明らかに発生源はリビングだ。

 

 そのことに少し怯みながらも琴里は歩みを進める。

 無論、先程までの弾んだ足取りではなく、得体のしれないものに挑む小動物のようにビクビクとしながらではあるが。

 

「な、なに……これ!」

 

 こういう時は勢いだとばかりにバーン! と扉を開けると、先程までとは比べ物にならない異臭が鼻に入ってくる。

 臭いの濃い色々な料理が置いてある部屋は、むせてしまうくらいで、急いでリビング中の窓を開けて換気をする。

 すぐに無くなる臭いでもないかもしれないが、まあしないよりかはマシだろう。

 

「本当、なんだっていうのよ……」

 

 ぶつくさと呟きながら部屋を見渡すと、そこにはぐったりとしている士道の姿があった。

 

「琴里……おかえり……」

「え、ええ……ただいま。その、状況が掴めないのだけど、これはどういうことかしら?」

「換気ありがとな……助かった……!」

「士道……説明しなさい、いったい何が……」

 

 と、そこまで言ったところで台所から誰かが出てきて琴里に声をかけた。

 

「あ、琴里……ちゃん? 

 ……はっ! 私は怪しいものではありませんよ!? 

 五河君のクラスメイトをさせてもらっている観月京乃ともうひます!」

「……」

 

 琴里は京乃を目に捉えると、無言で黒いリボンを解いて瞬時に白いリボンに付け替えた。

 

「京乃おねーちゃん! 

 どうしたのこんなところで!」

「え? ……あ、いや……その、五河君にお料理の教えを請うていたところで……」

「料理の、教えかー」

 

 琴里はちらりと何かを作ったと思われる残骸に目をむける。

 いったい士道は京乃に何を教えたというのか。

 

 ジトーっとした目で士道を見つめると、士道はあからさまに慌てる。

 

「ち、違うんだ琴里!!」

「おにーちゃん、何が違うの?」

 

 可愛らしくキョトンとしているのに、あん? とでも言いそうな威圧感がある。

 それを見た京乃は何かに気がついたようにハッとした。

 

「……はっ、もしかして私、兄妹で団欒(だんらん)するチャンスを邪魔してしまっているのでしょうか? 

 も、申し訳ございません! すすすす、直ぐに出ていきます!」

「待て観月出ていくな! 話をややこしくさせるな!!」

「ひゃい! どうもすみません!!」

 

 それを見ていた琴里は納得したように呟いて、廊下の扉へと向かう。

 

「あー、私邪魔っぽいし、友達のところに遊びに行ってくるねー」

「待つんだ琴里ぃ!」

「ばいばーい、おにいちゃん」

 

 士道の制止も虚しく、琴里は家から出ていった。

 その後には、誤解だ……俺がダークマターの作り方を教えた訳じゃないんだ……と嘆く士道と、それを不思議そうに眺める京乃の姿があったという。

 

 




京乃と士道が料理するだけの話。
おにぎりを作るだけで殆ど終わる謎な回。
好きな人に作ったものを食わせたいとか言いつつも、その好きな人に教わるツワモノ。
京乃はメシマズ。
でも兵器的なマズさではないし自覚ありで更生可能。
メシマズヒロインが好きな方は申し訳ない。
ちなみに料理講座といった感じで、士道に費用を払おうとしたが断られた為に、出来る限りの材料は持参して来るようにしている。

あと、何気にオリ主と初めてマトモな会話をしている十香。
フライパンを食えるとか言ってる十香ならば、不味いなと言うくらいのメシならば食べる、そう信じます。
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