来禅高校のとある女子高生の日記   作:笹案

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幕間
七罪アドベンチャー


 その日。七罪は静粛現界をして、『観月』と表札が書かれている家の前まで来ていた。

 

 つい先日、七罪は京乃とショッピングに行っていた。最初は七罪をメイクしていたり髪を切ったりと、七罪を磨く時間になっていたが、士道と狂三がデートしているのを見て以降、彼らを探しまわっていたのだ。しかし、七罪は士道を見つけてから、士道と京乃との間に何があったのかは全く知らない。

 というのも、士道を公園で見かけた七罪は、気をきかせて姿を消してしまったのだ。少しの間、姿を隠して京乃と会うつもりだったが、いつの間にかロストしてしまっていたようで、どうも姿を隠してからの記憶がない。

 故に七罪は、京乃に会って事の顛末を知ろうとしたのだが、家の中には誰もいないようで、呼び鈴を鳴らして数分待っても鍵は開かない。その事実に、七罪は渋々といった感じで懐を(まさぐ)り、鍵を取り出す。

 

 七罪はずっと前から京乃の合鍵を渡されている。

 鍵の存在が敵にバレたら京乃に迷惑がかかると察して受け取りたくなかったが、それでもキラキラと嬉しそうな目をされては受け取らずを得なかった。

 鍵なんて落とさなければ良い訳だし、敵連中に盗られそうになったら鍵を別物に替えればいい。

 そう思っていたのだが、こういった形で役に立つとは思っていなかった。

 

 七罪は渡されていた鍵を使って京乃宅へと入ったが、中には誰も居なかった。

 

「……どうしたってのよ」

 

 七罪はそう言って、眉をひそめた。

 おかしい。今日が平日であり、学校がある可能性については分かっているが、それでもなおおかしい。

 京乃がここ数日、家に帰ってきている気配が全くしないのだ。その証拠として、リビングに置いてある花が枯れているのに、全く片付ける事をしていない。

 存外几帳面に彼女にしてはそれは少し奇妙だったし、日めくりカレンダーだって数日前からめくられていないようで、デジタル時計の年月日と一致していない。

 もしかして自分のせいで京乃の身に何か起きたのではないだろうかと思い、七罪は自分の顔が険しくなるのを感じた。

 真偽は分からないが、それでもここでじっとしている気にはなれない。

 七罪は玄関の扉を開けて、外へ駆けだ──そうとした。

 

「あら、京乃さんに用ですの?」

 

 扉の前に人がいさえしなければ、そして声をかけられさえしなければ駆け出していただろう。

 

「あんた誰」

 

 少しむっとして、七罪はそう聞いた。

 京乃を連れ出した誰かという線もあるのだから、気をつけなければならないかもしれないが……七罪は、自分が精霊……人類の最悪の敵であると自覚している。

 たかが人間一人、どうとでも出来るだろう。

 そう思っている事もあり、気は抜かないにしても戦意を剥き出しにする事はなかった。

 対する相手は、あらと口元に手を当てて頭を下げた。

 

「ああ、挨拶が遅れてしまいましたわ。

わたくしは時崎狂三と申します、京乃さんとは学友でしたの」

 

 にこりと微笑を浮かべる狂三を、七罪はじっと見る。

 どこかのご令嬢のような立ち姿だが、何故か片目を隠している。多分厨ニ病が入っているのだろう。そうでなければ、こんな暑い中で長袖の真っ黒な服なんて着ない。

 それに加えて白々しさを感じる飄々とした態度。

 七罪は、狂三は京乃と合わなそうだと直感的に察知した。彼女は、七罪にとっても嫌いなタイプだ。

 

「あんたが時崎狂三?」

「あら、ご存じでしたの?」

「まあ、京乃から転校生が来たくらいの話は聞いたし。……で、何か用」

「京乃さんの家から出てきたあなたの事が気になってしまいまして」

「あっそ」

 

 七罪が素っ気なく返すと、狂三が笑みを深くする。

 

「でもォ、わたくしは違いますが、あなたは京乃さんに会いたいのですよね?

なら、天宮東病院に行けばいいと思いますわ」

 

 始終興味なさそうだった七罪だったが、狂三が病院という単語を発すると、不思議そうに首を傾げた。

 病院という場所については、体調が悪い人や怪我をしてしまった人が行く所だと知っていた。

 だからこそ、嫌な予感を感じながらも口を開いた。

 

「……何で京乃がそんなところに?」

「ご存じないのですか?京乃さんは学校で起きた事故に巻き込まれてしまって、入院していますの」

 

 狂三は悲しくて仕方がありませんわと言うのを片隅に聞きながし、七罪は焦ったような声をあげて狂三に詰め寄る。

 

「……は?京乃が事故に?大丈夫、大丈夫なの!?」

 

 血走った目の七罪にぐわんぐわんと揺らされ、狂三は困ったように制止の言葉をかけた。

 

「わたくしも病院に行った訳ではないのでわかりかねますが、気になったのなら行ってみたらよろしいのでは?」

「……行く」

「ふふ、京乃さんも喜ぶと思いますわ」

 

 人畜無害そうな笑顔を浮かべた狂三は、七罪に別れを告げてどこかへと歩いていった。

 それを見届けた七罪は慌てて京乃の家の中に戻り、お見舞いに必要なものを適当にハニエルで作ったバッグに入れて、また家を飛び出した。

 そして通りかかった花屋で、京乃から貰った駄賃を使って彼女の家によく飾られている花を買って、天宮東病院に向かう。

 そう、天宮東病院に……

 

「……そういえば天宮東病院ってどこなの?」

 

 がむしゃらに走り回っていたが、そもそもの位置を知らない事に気がついて、七罪は血の気が引くのを感じた。

 こういう時に携帯を持っていたら便利なのだろうが、生憎と七罪は持っていなかったし、能力で携帯電話を創ろうとしても、再現出来るのはガワまでであり、機能までは手がまわらない。マップを見ようにも置いてある場所も分からない。空を飛べばそれらしい場所を見つけられるかもしれないが、人の目が多い場所で飛ぶのは目立って仕方ないし、ASTを呼ばれる可能性だってあるので選択肢から排除した。その為、人を頼るのが一番楽なのだが……

 七罪は、辺りを見渡す。犬を連れた老人、子連れの親、スーツを着たサラリーマン、露出の多い拘束着のようなものを着たうり二つの顔の痴女、虚空を見つめている浮浪の民っぽい人。様々な人間が道を歩いているが、どの存在にも声をかけづらい。

 

 ただ、その中でも一際目立つ痴女二人に目が寄せられる。……というか、あの痴女達、なんか近づいてきてないか?

 

 そう思うのも当然で、実際に痴女の片割れが七罪の方に向かってきていた。慌てて逃げようとするが、嵐のような速さで接近してきた彼女を相手に、なす術もなく接触を許してしまった。

 

「応答。夕弦に何か用でしょうか?」

 

 表情筋のあまり動いていない橙色の髪の痴女。自分の事を夕弦と呼ぶ彼女は、首を傾げて七罪に問いかけた。

 

「えっ……まあいいか。質問なんだけど……」

 

 話を聞いてくれるなら四の五の言ってられないと、七罪は彼女に病院の場所を聞こうと口を開いた……が、それはもう一人の痴女によって阻まれた。

 

「小さきものは我に用があると言っているぞ!」

「嘲笑。小ささでは耶惧矢も負けていません」

 

 その言葉の通り、少し小馬鹿にするような表情になった少女。それを受けて耶惧矢と呼ばれていたもう片方は怒ったように口を開く。

 

「はっ?負けてないし!てか夕弦も私とそう変わらないじゃん!」

「嘆息。それは身長の話でしょう。夕弦が言いたいのは身長ではなく」

「……あんた達忙しそうだし、他の人に聞くわ」

「待たぬか!」

 

 途中から蚊帳の外になっていた為、抜け出そうとしたが駄目だったらしい。

 制止の言葉をかけられて、七罪は困ったように耶惧矢と呼ばれている方を見る。

 

「小さきものは何を困っているんだ?

颶風の巫女たる我に言ってみるがいい!」

「……て、天宮東病院の場所って知ってる?」

 

 七罪がそう問いかけると、二人は互いに顔を見合った。

 

「……夕弦知ってる?」

「否定。耶惧矢も知りませんか」

「うん」

 

 ぐぬぬと唸った後に、耶惧矢と呼ばれている方が妙案を思いついたとばかりに明るい顔で口を開いた。

 

「あっ、そうだ。次の対決はどっちが先に病院を見つけられるかっていうやつにしない?

条件として人に聞くのはなしでそれで」

「あっ、……もういいから……」

 

 厄ネタだという事を感じ取った七罪は間髪入れずにそう答えた。なんか、少し会話しただけでもう一杯いっぱいだったのだ。

 しかし、二人にとっては納得いかなかったのか、心配そうな表情で七罪を見た。

 

「そうか?まあ、また何かあれば我に尋ねるがいい!」

「疑問。耶惧矢もここに来たばかりでは?」

「まあそうだけど、この子なんか困ってそうだし助けなきゃって思うじゃん!」

「失笑。一人迷うのが三人に膨れ上がるだけです。耶惧矢は後先考えなさすぎです、頭へっぽこぴーです」

「そこまで言われる筋合いないわっ!」

 

 ぎゃいぎゃいと突っ込む耶惧矢に返事をする前に、夕弦は七罪に小さく頭を下げる。

 

「謝罪。力になれなくてごめんなさい」

「……別に大丈夫だから。探そうとしてくれて、あ、ありがとう……」

 

 そして七罪はそそくさとその場から抜け出した。

 

 その後──七罪は少し離れた所で棒立ちしていた。

 本来ならすぐに声をかけなければならないのだろう。しかし、彼女の今までの積み重ねがそれを容易に行う事を阻んでいた。

 そこらへんの背景と化せるくらいの長時間じっと突っ立っていた七罪。違和感を持ったのか、駄弁っていた高校生三人組が七罪に声をかける。

 

「そこで突っ立ってどしたのー?」

「迷子?」

「おおー、かわいーちっちゃいしぷにぷにだー!」

 

 余計なひとことがあったものの、一応話は聞いてくれるらしい。

 きゃいきゃいと騒ぐこの女子高校生達もまた、七罪の苦手なタイプであったが、肯定的な言葉を投げかけられて困惑した。

 

「かっ、かわ……!?そ、そうじゃなくて、病院、知らない……?天宮東病院って、ところなんだけど」

「天宮東病院ー?」

「どしたの?病気?」

「大変じゃん!」

「……あの、と、友達のお見舞いに……」

 

 七罪がそう告げると、三人組の一人が胸元をドンと叩いて笑う。

 

「よかったら案内するよ!」

「小さな子一人じゃ危なっかしいしねー」

「おねーさんたちに任せなされ!」

「う、うん。ありがとう……」

「いや何、私達も学校が休校で暇だったところだし、気にしないで……って」

「そういえば今日平日だけど、学校ないの?」

「実は君が病気だとか?」

「あ……」

 

 失念していたが、確かに今日は平日だった。

 どう見ても成人しているように見えないであろう七罪が街中をうろついているのはおかしいだろう。

 実は見舞いに行くというのが嘘で、実は自分が病気なんて言った日には、この三人組が着いてくるのが目に見えて分かる。

 

「引っ越してきたばかりで、まだ転校の手続き整ってなくて」

 

 嘘をつくのには、演技をするのには慣れている。だから適当な理由をでっち上げると、三人組は納得したように頷いた。

 

「そうなんだー」

「引っ越してきたばかりで友達がこっちにいるんだね」

「どこから越してきたの?」

「えっ、えっと」

 

 押しが強い。

 ここで逃げたから明らかに怪しいだろうし、そもそも京乃のいる病院までたどり着けない可能性もある。

 しかし引っ越してきたところか。

 

「南甲町の、南甲小ってとこ」

 

 苦し紛れにそう答えた。

 なぜそんな言葉が出てきたのかは謎だったが、それにしても小学生じゃなくて中学と言っておけば良かっただろうって言うのにと、七罪は少し後悔した。

 七罪の小学生設定は、女子高生達には案外すんなり受け入れられたようで、それはそれで七罪の心を複雑なものにした。

 

「ほー、じゃあ結構近いんだね」

「友達と離れちゃったとは言っても、頑張れば会いに行けるね」

「良かったね!」

「う、うん」

 

 少し心が痛んだが、真実を全て告げるのは危険だし、そもそも信じないだろう。

 七罪が話下手なのを感じ取ったのか、三人組は七罪にあまり話しを振ることなく……しかし、シカトをしない程度に話を振った。

 大抵は岸田くんがどうだとか、同じクラスの五河士道がとんでもない不届き者である事など。

 話題がポンポンと飛んでいき、ぼんやりと話を聞いているうちに大きな建物の目の前へと辿り着いた。

 

「おっ、着いたよ」

「お見舞い行ってらっしゃい」

「じゃあまたねー」

 

 病院入り口まで、案内してくれた女子高生達に引き攣った笑みを浮かべて手を振り、姿が見えなくなった瞬間に病院の受付に向かう。

 

「えっと、……観月京乃は、ど、どこの部屋……?」

「ちょっと待っててくださいね」

 

 受付は断りを入れ、パソコンを操作する。

 

「すみません。観月さんは今、面会謝絶中でお会いになる事が出来ません」

「そ、そんなに悪いの!?」

「すみません。その質問にはお答えする事が……」

 

 そう言いかけた時、どこからともなく黒服の男が現れて、受付嬢に近付いた。彼女は少し動揺していたが、どうやら関係者だったようで、すぐに表情を引き締めた。

 

「……えっと、なんでしょうか?

……ッ!そうでしたか。それで……はい、分かりました」

 

 受付嬢はちらりと七罪の後ろを見ると、すぐに頷いた。

 

「観月さんにお見舞いですね。202号室です」

「……行っていいの?」

「はい」

「あ、ありがと」

 

 もしかして京乃が……なんて考えるうちに、嫌な想像が膨らんでいく。少しでも考えを否定して欲しい七罪は、受付の人に詰め寄った。

 

「そ、その……京乃の調子がどんなもんか分かる?」

「……熱があり意識こそないですが、身体にも脳にも異常はないので、きっと、良くなります」

「……そう、教えてくれてありがと」

 

 取り敢えず、命に別状はないらしい。

 その事に内心ほっとしながらも、体調が悪化しやしないかと不安になり、すぐに病室に行こうとした。

 

「……あの」

 

 受付を後にしようとした瞬間、後ろから弱々しい声をかけられた。

 七罪はその声が自分にかけられたものだとは思わず、受付の人に話しかけたのだろうと解釈して横に避けようとしたが、そこでもう一度声をかけられた。

 今度は、相手に目をじっと見つめられた状態で。

 

「……すみ、ません。京乃さんの、お知り合いですか?」

 

 その少女は、小首を傾げてそう問いかけてきた。

 海のように蒼い髪は、ふわふわとしていて触り心地が良さそうだった。

 

『やっはー!なになに、京乃ちゃんってばこんなぷりてぃーな知り合いがいたのん?』

「誰、あんた」

「……その、京乃さんに……前、お世話になって。

それで、私もお見舞いに行きたい……と思って……でも、お部屋の位置が……分からなくて……!」

『泣かないでー!よしのんがついてるよ!』

 

 途中から泣きそうな声音になっている少女と、それを励ますように口をパクパクとさせて、甲高い声を発しているように見えるうさぎのパペット。

 七罪には全く見覚えのない人物であり、思わず身構えていたが、七罪は少女とパペットを見比べて、ふと思いついたように口を開いた。

 

「……もしかしてあんた、四糸乃って名前?」

「……は、い。あの、あなたは……」

「名乗る必要ある?」

「……その、知りたい……ので……!」

 

 キラキラとした目で詰め寄られてしまった七罪は、思わずどもった。

 

「な、七罪よ。これ以上、何も言わないから……!」

「ありがとう、ございます……七罪さん」

「……うっ」

 

 何気に、名前を呼ばれたのは京乃に続いて二人目だ。

 京乃がこの事を知ったなら、『七罪おめでとう!今日は四糸乃ちゃんに七罪の名前が呼ばれた記念日。略して四糸乃記念日だね!お祝いに女子会しよう!』……とかなんとか面倒くさい事を言い出すのだろうと、ぼんやりとそう思った。

 

 

 

 

「ついたけど、どうかしたの?」

 

 『202』と書かれた部屋の前に着き、斜め後ろを歩いていた四糸乃に声をかける。四糸乃は考え事でもしていたのか、少し反応が遅れて口を開いた。

 

「……あっ、七罪さん。私、忘れものしてしまって……だから、良ければ、先に京乃さんに、会っててください……!」

「え?忘れものって?」

「……えっと、……忘れものは忘れものです……!

10分後くらい……に、帰ってきます……!」

『七罪ちゃんふぁいおー!』

 

 四糸乃とよしのんはさっきまでの道を逆走し始めた。

 病院だと言う事を意識してか、走ったりする事なく歩いている四糸乃と、なぜか声援を飛ばしてきたよしのんを見て、七罪は目を瞬かせた。

 10分くらいとはやけに具体的な時間を出してきた。

 しかも、病室が着いた瞬間にだ。

 ……まるで、七罪を京乃と二人きりにする時間を作ってくれていたみたいに。

 

「まさか、ね」

 

 ただの偶然だろう。

 そうだとしても、四糸乃は10分くらいは戻らないと言っていたし、それまでに用は済ませておこう。

 そう思い、七罪は京乃の居る病室の扉を開けた。

 扉を開けた先の、個室にポツリとベッドが置いてあり、そこに京乃が横たわっていた。

 

「……京乃!」

 

 駆け寄って声をかけるが、返事はない。

 ただ、苦しそうな表情と呼吸音が聞こえてくるだけだ。

 ……看護師は熱もあると言ってた。

 その事を思い出した七罪は、恐る恐る京乃の額に手を乗せた。

 

「あ、熱い……」

 

 乗せたら目玉焼きが焼けてしまうのではと思えてしまうくらいに、京乃の額は熱を帯びていた。

 これではうなされてしまうのも当然だろう。

 

「……ごめんなさい。ごめんなさい……」

「何謝ってんのよ。謝るくらいなら目を覚ましなさいよ」

 

 ため息を吐いて椅子から腰を上げると、買ってきた花を京乃の家から持ってきた花瓶に適当に挿した。

 その後に時計を見てみると、後五分くらいは猶予があるのが分かった。

 部屋を見渡してみるが、特に何もない殺風景な部屋だ。

 これでは起きた時に暇だろうと思い、七罪は鞄の中から京乃の部屋にあった本を取り出して、花瓶の近くに置いた。

 

「……うぅ」

 

 京乃が、また苦しそうな声を上げた。

 見ていられなくなった七罪は、備え付けられている椅子をベッドの近くに置いて座り、そこで放り出されている京乃の手をそっと取った。

 

「大丈夫、大丈夫だから」

 

 何が大丈夫なのかも分からずに七罪は呟く。

 

「大丈夫、大丈夫……」

 

 繰り返しそう呟くが、やはり返事が帰ってくる事はない。

 いつも七罪が話しかけたら嬉しそうに返事を返してくれたのに、何度呟いても返事が返ってこない事に仕方ないながらも不安を隠しきれないのか、眉尻を下げた。

 そもそも、病気をしている所だって見た事がなかったのに、突然の病院行きに気持ちを落ち着かせる事も出来ないのだ。

 

「……大丈夫よね?

あんたはこんな所で死ぬタマじゃないわよね……?

だって、あんたがお熱な五河士道にだってまだ何も言えてないんでしょ?そんなんでへこたれてどうすんのよ」

 

 デコピンをしようとしたが病人にそんな事が出来る筈もなく、デコピンの形を作りかけていた指を解く。

 

「……そんなに重症じゃないって、聞いた気がするんだけど」

 

 心なしか、少し和らいだように感じられる京乃の表情を見て、七罪はもう一度京乃の頭に手を乗せる。

 やはり高熱を出していて熱いが、今度はその手を使って頭を撫でた。

 

 

 

「おや。君も京乃の見舞いかい?」

 

 誰かに声をかけられた。

 七罪が思わずびくりと身体を震わせて振り返ると、そこには銀色の髪を1つに括り、白衣のような服を着ている妙齢の女が立っていた。

 色濃い隈と眠たげな眼をしている女で、服の胸元には継ぎ接ぎのクマの人形が入っていた。

 これを入れる事によってあざとさを出しているのだろう。

 何よりもその胸元……もとい胸はビックサイズだった。

 つまり、七罪の嫌いなタイプの女だ。

 

「何よ、何か文句あるの!?私みたいなちんちくりんは見舞いにくる側じゃなくて病院送りになる側だろって言いたいの!?糞があああ!!」

「いや、そういう訳ではないんだが。……困ったな」

 

 すっとぼけたような口調でいるが、ふむと言いながら胸を組んだことを七罪は見逃さない。

 何と、胸を組んだ事によって、元より特盛りだった胸がより一倍強調されているではないか。

 何たる策士か。

 

「む、どうかしたのか令音」

「……!」

 

 七罪がぐるると威嚇する声を出していると、曲がりから夜刀神十香が顔を出した。

 夜刀神十香。

 豊満な胸を惜しげもなく晒している黒髪ポニーテールのこの女は、やはり七罪の苦手なタイプの人間である。

 

「……京乃の知り合いか?」

「ひっ!」

「おい待て!」

 

 まあ目的は達せたのだ。

 ここらで退散しても問題はないだろう。

 七罪は、次は京乃が退院している事を願いながら、トンズラをこいた。

 

 

 七罪は後で気がついた事だが……

 そもそもの話、ハニエルを使って変身すれば話が拗れる事もなかっただろう。

 

 

 

 




個人的に七罪と四糸乃の組み合わせが好きです。
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