来禅高校のとある女子高生の日記   作:笹案

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三章
五河シスター 冒頭部


観月京乃という少女について

 

善人でも悪人でもない人物。

観月京乃という少女は、それらへんに転がっているような、そんなありふれた人物である。

 

 

 

──崇宮澪調べ

 

 


 

 

 

 

 ひたりと、誰かの手が自分の頭を触った。

 その後からずっと夢心地だった。

 ふわふわとした妙な浮遊感の中、夢での出来事をずっと見続けていた。

 夢心地なんて言ったが、良いものではない。楽しいから見ているのではない、ただ強制的に見せられているシロモノ。

 目を瞑って視覚からの情報を遮断しようとするのだが、それでも脳裏にこびりついた映像は流れてくる。

 気が狂いそうだった。早く終わって欲しかった。

 目を瞑り、耳を塞ぎ、身体を丸めてうずくまる。

 それでも何も終わらずに、自分にはどうすることも出来なくて呆然としているだけだった。

 

 

 暫く経った時、突如として誰かの手が自分の手を握っているのを感じた。誰かなんてことは分からない。それは大人の女の人だったかもしれないし、小さな女の子のものだったのかもしれない。もしかしたら同じ歳の男子生徒だったという可能性もあるけど、そんなことは些細な問題だった。

 その温もりはひんやりとしていて、それでも優しかった。私にとってはそれが全てだった。

 その手の主からかけられた声音は真剣なものだった。よくは憶えていないがそうだったような気がする。

 その声を聞いて、心配をかけてしまったのだと悟った。

 早く会って、謝らないといけない。

 だから、早く戻らないと──

 

 

 

 

 

「……あれ、ここは」

 

 京乃が目を開けると、そこは見知らぬ天井だった。

 どこかで聞いたようなことを考えた後に起き上がろうとしたが、痛みを伴う耳鳴りがするのと、身体に違和感が生じて上手く起き上がれない。

 仕方がないので眼球を動かして辺りを見渡す。

 どこまでも白い壁と天井、独特の消毒液の匂い、そして腕に繋がれた点滴。

 ここまで見た所でやっと、自分が病院にいると言うことに気がついた。

 これまでのことを思い起こそうとした。

 すると簡単に、意識を失う直前まで学校にいたことを思い出した。

 学校、確かに学校にいた。

 

「なら、私はどうして病院に……?」

 

 と、そう呟くと頭上から声が聴こえてきた。

 慌てて京乃は首を動かそうとするが……全く身体が言うことを聞かない。

 声の主はそのことに気がついて気を利かせたのか、京乃の視界に入る位置に顔を出した。

 

「……ああ、目が覚めたか」

 

 眠たげな顔でそう告げた隈の深い人物に、京乃は見覚えがあった。

 何かと人の名前を覚えるのが苦手な京乃だったが、この人の名前はちゃんと覚えている。

 

「村雨先生」

「……ん」

 

 確信はあったものの、間違っている可能性も考えられた為に、返事を返してもらえて安心した。

 着ている白衣のポケットに継ぎ接ぎのクマの人形を忍ばせているこの人は、京乃のクラスの副担任の村雨令音である。京乃にとってはあまり接点もない人物なのだが、だからと言って忘れるなんてことはない。

 

「君は高熱を出して寝込んでいたんだ。

学校で倒れた生徒は他にもいたが、そこまでの症状を訴えた生徒はいなかった」

「高熱?」

「……ん、ああそうか。君は知っているはずもないことだね。君は学校のガス漏れの事故に巻き込まれてしまったんだ」

 

 ぼんやりとした表情で淡々と告げる令音を見て、京乃はこてりと首を傾げる。

 

「何で村雨先生が?」

「岡峰先生も心配していてな。

ただ、彼女も忙しいから代わりに私が来たという訳だ」 

「そう……なんですか……」

 

 熱が引いていないから顔を真っ赤なまま、ぼんやりとしながら京乃は相槌を打った。

 しかし自分の言った言葉の意味を考えていなかったのか、暫く経った後に疑問そうな表情を浮かべた。

 

「あの、すみません。岡峰先生って誰ですか?」

「岡峰珠恵先生。君のクラスの担任だろう?」

 

 令音がそう言うと、京乃はまた少し考えた後ににっこりと微笑んだ。

 

「あはは。そうでした、すみません。いつもたまちゃんって呼ばれてたので、いざフルネームとなると忘れてしまって」

「まあ、君のような生徒は少なくないだろう」

 

 だから謝る必要はないと言いながら、令音は自分の腕時計を眺めた。

 その仕草を見てか、京乃は口を挟む。

 

「今は何時ですか?」

「6月11日の昼過ぎだ」

「……え」

 

 その日付は、京乃が記憶していたものとは離れており、彼女は放心したような声を出した。

 

「そんなにも寝込むとはにわかには信じがたいだろうがな」

 

 事故。令音が話すところによると、学校でガスが漏れてしまうという事故があったという。それにより、学校に残っていた生徒は意識不明で病院に運ばれているらしいが、幸いにも死者はおらず、また重症の生徒は京乃くらいのものだったらしい。そして、今は学校でメンテナンスをする為に臨時休校なのだと言う。

 京乃は説明された言葉の内容を噛み砕くように反芻し、そして今の状況に追いついたのか、納得したような表情を浮かべる。

 

「……いえ、村雨先生が訳もなく嘘をつくなんて考えられないですし信じます」

「そうか」

「それに日時なんて後で調べたら分かることですし、そんな無意味な嘘をついても村雨先生が損をして信用を失うだけですから」

 

 意識が朦朧としているのか少しふらついているが、貼り付けたような笑みを崩さないままでそう言った。

 令音はその言葉を聞いて、少しの間があったものの眉一つ動かさずに京乃を見て観察していた。

 

「声は良く出ているようだな。体調はどうだい?」

「悪くないです。大丈夫です」

 

 まるで酩酊状態であるかのように顔を真っ赤に染めて、不自然に笑顔ばかり浮かべている京乃は、はたから見ても大丈夫には見えない。

 

 令音は息を吐いて、座っていた椅子から腰を上げて京乃の額へと手を伸ばす。

 京乃は一瞬、その手を嫌がるように顔を背けようとしたが、思うように動かなかったのか、結局令音にされるがままとなった。

 

「……熱がまだあるようだな。痩せ我慢かは知らないが、無理はしない方がいいだろう」

 

 何か差し入れた方がいいかねと尋ねてきた令音の言葉には答えずに、京乃はぼそりと呟いた。

 

「……お母さんみたい」

「母親か?」

 

 令音は不思議そうに聞き返した。

 

「ええ。最近は母と会えていませんが……」

 

 笑みを浮かべて語る京乃に対し、令音は自身の記憶を探るように、目を瞑る。すると、数秒後に思い出したのか目を開き、納得したような顔を浮かべた。

 

「京乃はひとり暮らしをしていたね」

「あはは、そうですね。母と父は海外に住んでいますから。

両親には一緒に来るように言われたのですが、私からこっちに残りたいって言ったんです。海外というと不安が残りますし、住み慣れた街にいたかったというのもあります。それにこっちには……」

 

 穏やかな表情で語っていた京乃だったが、言葉の途中で息が詰まったように語るのをやめた。

 

「──あれ、なんで」

 

 (かぶり)を振り、京乃は気まずそうに苦笑する。

 

「変なこと言ってすみません。

気分を害されたと思いますし、忘れてくれて構いません」

「いや、害されてはいないが……そうか、母親か」

 

 どこか複雑そうな表情を浮かべた令音を見てか、京乃はよく理解出来ていないように笑みを浮かべていた。

 

「村雨先生、どうかなされましたか?」

「……いや、何でもない。それよりも、まだ眠いなら寝た方がいい」

「眠たくはないですし、寝たくもないです」

 

 普段の京乃ならそんなことは言わないだろう。しかし、普段から寝起きが良いとは言えず、そして病み上がり……それどころかまだ熱も引いていない京乃は普段よりも本音が出てきてしまっていた。

 

 それ故、駄々っ子のようになってしまっている京乃を見て、令音は困ったように眉をひそめる。

 

「私でもいいなら側にいよう」

「それは……嬉しいですが、先生のお時間は大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。ただナースコールは押すし、君が検査を受けている間に学校に連絡をしておくことにするよ」

「……先生方、大変ですよね」

 

 ガス漏れが原因で生徒達が病院送りになったという話を令音から聞いていた京乃は、申し訳なさそうに顔を俯かせた。

 

「決して楽ではないがこれも勤めさ。

……それに、一応はごたつきも落ち着いてきたからね。君が心配することはないさ」

 

 そう言って、令音はナースコールを押した。

 

「では、また検査が終わった後に会いにいけるようにしよう。何か差し入れを買っておくが、何かリクエストはあるかい?」

「特に要望はないです」

 

 令音は頷いた後にすぐに病室を出ていった。

 それと入れ違う形で、看護師や医師が慌ただしくやってきた。

 検査やバイタルチェック等をした結果、記憶の混濁や高熱はあるものの、その他には異常はなかったらしい。

 しかし大事を見て数日検査入院するらしいという旨の話を医師から聞いて、開放された頃にはそれなりな時間が経っていた。

 令音はまだ病院には戻ってきていないので、することもなく暇を持て余していた京乃は机に置いてある本を手に取る。

 

『厨ニ病患者の接し方』

『うまく友達と疎遠になる方法』

 

 良く分からないラインナップである。

 両方京乃のものであったが、長年本棚の端に封印されていたはずのものだ。

 そこまで興味も湧かない京乃だったが、することもないので片方を手にとって文字を目で追いかける。

 ……熱で浮かれている為か、全く持って内容が頭に入ってこないが、暇と時間を潰す役割はきちんと果たしてくれたようで、数十ページをめくっている頃には用事が済んだ令音が病室に顔を見せに来た。

 

「どうだね、気分は落ち着いたかい?

これは差し入れだ」

 

 令音が昔読んでいたものだろうか?

 年季の入った編み物おすすめ集と毛糸を差し出された。

 

「えっ、こ、こんなものいただけません……!」

「長い間じっとしているのも暇だろう?

これは好意として受け取ってくれ」

「……分かりました」

 

 少しむず痒そうな表情で頷き、京乃は令音の手から二つを受け取る。

 

「後、これは君の鞄だ。本当はすぐに渡す予定だったが手違いがあってな」

「わっ、ありがとうございます」

 

 京乃は手渡された鞄を中身を軽く確かめてみるが、意識を失う以前と何ら変わりはないようだ。財布も入っていたが、金額は記憶していたものと変わりない。

 安堵するように息を吐き、京乃は令音に向き直る。

 

「さて、まだ面会終了まで時間がある。何かしたいでもあるかい?」

「実は村雨先生に聞きたいことがあるんです」

「何でも言ってくれ」

 

 京乃は言葉を選ぶように沈黙し、そして重々しく口を開いた。

  

「変なことを聞くようですが……最近、私と学校外で会ったことなかったですか?」

「どうだろうな?

学校ですれ違った記憶ならばあるが」

「そう、ですか。そうですよね」

 

 確かにその程度の仲であるのは間違いないと京乃は理解している。ただ、この病院にいる少しの間だけだが接してみて、学校外であったような錯覚に陥っているのだ。

 いったい、いつ会ったのだろうかと記憶に頭を張り巡らせるが、京乃は答えには行きつかなかったようだ。そして令音の言葉を聞き……きっと他人の空似でも見たのだろうと結論を出した。

 

「……私と君は教師と生徒だ。他にも何か質問があるのなら受け付けよう」

 

 そう言って、令音はベッドの近くに置いてある椅子に腰をかけた。どうやら長居をするつもりらしい。

 

 それなら好意に甘えようと、京乃は質問を頭に思い浮かべる。

 京乃が令音について知っていることなんて、いつも眠そうな隈をお供にしていることぐらいだ。

 何が好きで、何が嫌いか。その程度の話だって多少は興味がある。

 だからまずは、令音のことについて無難な質問をすることにした。

 

「先生は休みの日は何をなされているんですか?」

「ふむ、休みか。あまり馴染みがないな」

「ちゃんと休養しないと身体に毒ですし、倒れちゃいますよ」

「本当に倒れた君に言われると説得力があるな。善処しよう」

 

ㅤ京乃は少し、顔を(しか)めた。

 

「それで、休みの日だったか。

脳を休める為に甘いものはよく摂っているし、読書もよくするな」

「編み物も村雨先生の趣味ですか?」

「……手芸は、イチローを直す為に手を出してはいたが趣味と呼べる程のものではないな」

「イチロー?」

「彼がイチローだ」

 

 そう言って令音は自身の胸元にいる……クマのぬいぐるみを指差す。

 

「な、なるほど。……ぬいぐるみにそう名付けるなんて、先生は野球が好きなんですか?」

「……いや、16日に貰ったから16(イチロー)と名付けたんだ」

「……そうなんですか」

 

 今まで、少し一歩引いた位置にいた令音。今まで先生という立場の彼女しか見ておらず、プライベートの欠片も見えなかった令音。しかし、彼女もまたちょっと抜けているところのある人なのだということが分かり、京乃は少しの親しみを感じた。

 ……まあ、中々に残念なネーミングセンスに、どこかの誰かさんの影を重ねたというのもあるのだろうが。

 

「君は休日何をしているのかね?」

「休日は友達と遊んだり、最近は五河君の家にお邪魔したりもしています」

 

 令音は少し目を細める。

 

「友達、か。“君”には友達がいるんだね」

「そんなに友達がいないように見えますか?」

「そういう訳ではない。他の先生方から君の噂は聞いているから、不思議に思っただけだ」

「参考までに伺いたいのですがどのような内容ですか?」

「君が同性の学友に話しかけられる度に泡を吹いて倒れたり、気絶するという噂だ。まあ脚色されているのだろうとは思うが」

「わあ……お恥ずかしながら全部本当です」

「……なまらびっくり」

 

 本当だとは思っていなかったらしく、令音はなぜか東北弁で話した。

 

「そうなるようになったきっかけは?

まさか、生まれたときからそうという訳ではないだろう?」

「それは……」

 

 京乃は言い淀んだ。

 まさか、副担任にそんなところまで突っ込まれるとは思っていなかったが、きっとたまちゃんに聞くよう頼まれたのだろうと解釈して、この後どうしようかと迷うように令音に顔を向ける。

 京乃はこの話を面白い話だとは思っていない。そもそも笑い話にするものでもないが、そうでもなければ内容に価値がないと感じている京乃は、今まで誰かに言うこともなかった。

 士道には絶対に話したくはないが、それ以外になら別に言ってもいいと思える程度の話だ。

 

 今まで令音という人物を測りかねていた京乃だったが、短時間だが話してみて、令音が秘密話を口外するような人物ではないということは分かった。

 だから、言ってしまっても問題なかった。

 

「大したことはないのですが、中学の頃に同じクラスの子達にからかわれていた時期があって」

「からかわれる?」

 

 令音は不意を突かれたように、そう問うた。

 

「はい。私って見ての通りとろいですし、気が回らない所があるので、そこなんかをズバッと言われたりして」

「ズバッとか」

 

 ズバッと、そう言われて京乃はその効果音でいいものかと現実逃避のように考えた。

 

「……もしかしたらグサッとも言われたりしたかもしれないですし、もしかしたらザクッかもしれないです」

「別にオノマトペはどうでもいいのだが」

「そうですね、話が横道に逸れてしまいました」

 

 冷静に指摘をされて、京乃はまた少し笑った。

 

「そんなことがあって、多感な時期ですので、ちょっと傷ついてしまった……のですかね。それでこんな感じに」

「──少しではなかったのではないか?」

 

 問いかけられた京乃は不思議そうに、そして真意を探るように令音を見る。

 

「時間が経てば記憶は風化する。それでも辛い記憶というのは心に残るものだ。それが身体に現れていたのだろう。それに今の君も……少し辛そうだ」

「そう見えますか」

「ああ」

 

 真剣な表情を浮かべる令音に、彼女にも覚えがあるのだろうかと京乃は考える。そして彼女は己を顧みる。どうしてだか他人の出来事のように俯瞰的に眺めてしまっていた過去。思い返すと……確かに、胸にチクリと痛むものがあった。恐怖、そして後悔と罪悪感。

 これだけは確かだったのであろう感情。胸を押さえて、苦々しそうに心内を吐露する。

 

「……そうですね。当時も嫌だったのかもしれません。思い当たる節もあったので余計心に来たんでしょうね。

私も駄目だって分かってはいたんです。でも、だからって中々直るものでもないですし、アレはやっぱり生まれつきの性分で……」

 

 あははと苦笑しながらも、京乃は段々と落ち込んでいった。

 後半は本人しか聞き取れないような大きさになっていたが、これもまた誰かに聞かせるつもりではなかったのだろう。

 内容が聞こえないにせよ、ここからは負の連鎖になってしまうのだろうということが手に取るように分かった為にか、令音は普段よりも幾分か柔らかい声音で口を挟む。

 

「君が言っている意味はあまり分からないが、今の君はそんなに悪くないように思える。折紙や十香達とも仲良くやれているようだしね」

 

 京乃は目を瞬かせた。

 

「そう見えますか?」

「ああ。十香は君と話すのを楽しんでいるようだ。折紙だって、嫌いな相手とは一緒にいたいと思わないだろうしね」

「そう、ですか」

 

 京乃は安堵の息を洩らした。確証のない言葉でも、肯定の言葉を貰えるだけで嬉しく思えるものだ。

 それに……ただ単純に、十香や折紙と仲良くなれていたというのが嬉しかったのだろう。無意識だろうが、自然な笑みを浮かべていた。

 

「仲が良いといえば、君はシンの家にも遊びに行くと言っていたな。君はシンのことが大切かい?」

「……シンって、士道くんのことですよね」

 

 確認するように呟いた京乃は視線を窓へと向け、そして令音に戻した。

 

「はい、私は彼のことが大切です」

 

 熱で浮かれているせいで分かりづらいが、平熱であれば頬が桜色に染まっていただろう。

 布団の裾をぎゅっと握って、京乃ははっきりとそう告げた。

 

「そうか。なら君は、()()と一緒にいる時間を大切にするべきだな」

「私も……そう思います」

 

 京乃は少し俯いた後に嬉しそうに笑った。

 

 

 その後も二人は世間話をして、話題が尽きた後には持ってきたスクールバッグの中から教科書を取り出して、問題の解き方のコツや次の定期考査のヤマとなりそうな場所を時間ギリギリまで教わった。

 

 面会終了時間のアナウンスがなった後、令音が個室から出るまでにこやかに手を振った京乃は、令音の姿が見えなくなると令音の持ってきてくれた鞄を手に取った。その中から一冊のノートを取り出してパラパラとページをめくり、最後に書かれたページを見た。怪訝そうに顔を顰めて考え込んだ後にその続きを書き始める。

 書き始めて数分が経った後にノートを鞄の中にしまい、仰向けに寝て、ぼんやりと天井を眺めた。

 しかし面白いものでもなかったからか、暫く経つと目を閉じて寝息を立て始めた。

 

 

 

 


 

 昔からひとりが怖かった。

 

 昔からお母さんは優しかったし、それなりに遊べる子もいた。

 孤独ではないはずだった。だから怖かったことに別に理由なんてものは存在してないはずなのだ。

 ただただ怖かった。恐ろしかった。寂しかった。漠然とした恐怖や不安が身体を包むことに耐えられそうもなかった。

 だから、ずっと一緒にいられる人が欲しい。

 “家族”になれる人が欲しい。

 そんなことを考えながら日々を空虚に暮らしている中、私はあなたに出逢ったのだ。


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