来禅高校のとある女子高生の日記   作:笹案

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可能性の話

 帰りのホームルームが終わり、京乃は学校の屋上にてファントムに出会い……霊結晶(セフィラ)を見て、士道の言っていた言葉の意味を知った。

 

「精霊にはなりません」

【絶対に?】

「ええ、絶対に」

【君は昔、私に精霊になると言っていたじゃないか】

「そんなことを言った記憶はありません」

 

 京乃が断ると、ファントムは沈黙した。

 京乃の様子からして、取り付く島もないのは明白だった。何が京乃を駆り立てるのかと、ファントムは不思議そうに彼女を見る。

 

【なら、君の記憶を戻してあげる】

 

 ファントムが、京乃の額に手を当てる。そして京乃は全てを思い出した。

 それは、京乃にとって重要な記憶。そして、ファントムと交した契約。

 

 

「私は、自分のことが大切です。でも、今はそれ以上に士道くん……いえ、士道くんたちが幸せに暮らしている今を壊したくない」

 

 ファントムは、静かに京乃の言葉を聞いている。

 

「約束を破るなんて最低ですよね。それでも……私が未来を(つい)やしてしまうなら……私を殺してもいい。だけど士道くんたちの未来を潰すような真似だけは許さない」

【君は何をそんなに警戒しているんだい?】

 

 何も知らないのだろうか。間違いなく、元凶は目の前の人物なのに、そんなとぼけるような言葉に、身体に力が籠もる。

 

「そう遠くない未来に、私のせいでその場にいた士道くん以外の皆が死んだと、士道くんは言ってました」

【へえ、彼以外の皆が……】

 

 ファントムは、興味深そうに呟いた。

 

【でも、そうか。それが君の答えなんだね。なら約束は無効だ】

 

 そんな言葉をかけたファントムは、程なくして姿を消した。

 

 京乃が精霊になってしまう可能性は、限りなく減ったのだ。ようやく緊張が解けたらしい京乃は、階段へとへたり込む。

 士道の言うことが確かなら、危機的状況だったとしても京乃が手を出す必要がない。むしろ、京乃の手助けが無用な災いを招く可能性だってあり得る。どうすればいいのか、京乃は考え込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 京乃が狂三の時喰みの城により意識を失う前、放課後になった直後のこと。士道は廊下に出ると、耳にインカムを嵌めて軽く叩く。すると、要件を察したらしい琴里が、淡々とそれを告げる。

 

『士道、頼まれていた件だけど、京乃からは霊波は観測出来なかった。隠蔽する術を持っている……なんてことも考えられなくはないけれど、人間と考える方が自然じゃない?』

「ありがとうな」

『別に、今は余計な雑念に囚われてほしくないだけよ。京乃のことは士道とは別にカメラをつけるから……気にしないで』

 

 連絡を終わらせ、狂三との約束場所である屋上へと向かう。しかし、その途中に倦怠感に身を包まれる。そして、周りにいた学生の皆が倒れていった。

 結局狂三の気持ちは変わらなかったらしい。しかし、今後は士道次第で変わるだろう。そう、気合いを入れ直して、重い身体に鞭打って屋上へと向かう。

 

 屋上の鍵穴には銃痕のようなものがあり、ぼろぼろですぐに開くようになっていた。

 士道は、扉を開けて前を見据える。

 赤と黒の霊装を身に纏っている少女、時崎狂三がそこにはいた。

 

「あらあら、士道さん」

 

 士道は狂三を……正確には狂三の分身体を見る。

 士道は未来で目の前の彼女を納得させた。そして、士道に絆されてしまった彼女は、本体によって殺されてしまったのだ。

 

 

「狂三、俺は言ったはずだ。この狂三が、狂三本体ではないことだって想像がつく」

「そうですの?」

 

 狂三は笑う。その声は今目の前にいる狂三ではなく、それよりも下から聴こえた。

 影だ。影が揺らめき、そこから狂三が出てきた。

 それが本体なのかの判断はつかない。それでも……伝えたい言葉の価値がなくなるわけではない。

 

「……狂三、俺はお前に死んでほしくはない。お前が悪いやつなのかはまだ分からない。でも……救いたいんだ。お前を……他でもない、時崎狂三を」

「わたくしを、救うと……士道さんはまだ世迷い言をおっしゃるのですね」

「俺は、お前を救うことに決めた。琴里にも、京乃にもお前を殺させない。それにお前に……誰も殺してほしくもないんだ。頼むから……皆から寿命を吸い取ることを、やめてくれ」

 

 士道の懇願に対して、狂三は少し考え込む。

 

「条件を呑んでくださるのなら、やめても構いません」

「言っておくが、お前を救うと言ったのを撤回する気はないぞ」

「違いますわ。今からなんの抵抗もせず……わたくしに撃たれてくださいまし」

 

 狂三は短銃を士道に構えて笑った。

 なんの抵抗もせず、狂三の攻撃を受ける。それを聞いた士道は……

 

「構わない」

  

 迷わず、そう告げた。

 士道には再生能力がある。即死するような攻撃であっても、問題なく生き返るだろう。そして士道は、狂三が士道を殺すことを目的としているのではないということを知っていた。

 その二つの理由がなかったとしても、士道は首を縦に振っただろう。

 

「そうですの」

 

 士道の言葉にか、それとも迷いのない雰囲気にかは分からないが、狂三は面白くなさそうに返事をした。そして、士道へと言葉通り銃口を向ける。

 

「それでは、士道さん。以前この屋上にて起こった惨劇を頭に思い浮かべてくださいまし」

「なんでまた」

「してくださらないのなら、皆さんから時間をいただくのをやめることは出来ませんわね」

「……分かった」

 

 士道は目をつぶり、当時のことを思い起こす。

 忘れたい、しかし忘れることを許せない惨状。そして、そのときに抱いた感情を一層強く思い出した。

 

「──【一〇の弾(ユッド)】」

 

 狂三は楽しげに己の頭へと銃口を向ける。

 士道は怯えずに、真っ直ぐと狂三を見返す。狂三は、士道の頭へと短銃を向けた。そして引き金は引かれる。

 

 士道の記憶を探る。

 そして……士道が体験した出来事を知る。そして、目を見開いた。

 

「……これは」

 

 士道による、狂三の説得。そして、最後の最後に、炎の精霊と化した琴里の攻撃から、身を(てい)して守ってくれたこと。そこからは記憶の断片でしか分からないが、霊装を纏った京乃が現れたということ以外は大した情報は見つからなかった。だが、士道の言っていたことの意味が本当であったことくらいは分かった。

 士道が狂三へ抱いている想いが、一切の偽りがないことを……知ってしまった。

 

「そう、ですわね」

 

 狂三は目を伏せる。

 

「今、何をしたんだ?」

「士道さんから、過去の記憶を読み取らせてもらいましたの。ええ、随分と熱意のある呼びかけでしたわ」

「なんで、そんなことをしたんだ?」

「──知りたいから、ですわ」

 

 彼女はいつになく、真剣な表情で微笑む。

 

「知ることを拒んで後悔するよりも、先に真実を知っておきたい。そう思うのは、何も不思議ではないでしょう?」

「俺は、狂三がただの殺人鬼だとは思えない。何か理由があるんじゃないか?」

「生憎と、士道さんが想像しているようなことは何もございませんわ」

「俺は、狂三のことを信じられる……とまでは言えないが、信じたいんだ」

「……酷く、歪ですわね」

 

 狂三の声は、風にかき消えるほどに小さなものだった。

 

「士道さん、あなたにもう一つ、お願いをしてもよろしいでしょうか」

「ああ」

「……目を、いいと言うまでつぶってくださいまし」

 

 士道は、目をつぶる。すると、唇に柔らかいものが触れるような感覚がした。それは恐らく……

 

 霊装が消えることはなかった。狂三本人の反応からしても違和感に気づいた様子はない。好感度なんて、さして上がっていないということなのだろう。

 

「士道さんが、わたくしの救うだなんて与太話をするのなら、わたくしと士道さんが和解出来る道はありません。ですから……今日は、ここで失礼しますわ」

「あ、おい……!」

「では、またいずれ」

 

 

 狂三の姿は、影のように掻き消える。

 それを見届けた士道は……安堵した。本来なら、まだ油断は許されない状況であるが、一番の難所を抜けたという気持ちでいっぱいだったのだ。しかし、次の瞬間には反省した。結局のところ、狂三の霊力を封印することは叶わなかったのだ。交渉だって決裂した。最悪の事態は避けれたが、まだ京乃のことだって片が付いたとは言い難い。

 

「琴里、京乃の件は……」

 

 口を開いた士道だったが、前方に真那が現れたためにその行動を中断した。

 

「兄様! 先程ここにナイトメアがいたのではないですか!?」

「あ、ああ真那。確かにいたが」

 

 苦し紛れながら、なんとか言い訳を考えていると扉から十香と折紙が現れる。

 

「確か私は狂三と戦っていたはずなのだ。突然消えたことを不思議に思ってはいたが……狂三はどこに行った?」

「士道、説明を求める」

「兄様! 単独でナイトメアに接触するなんて危険でいやがります!」

 

 やいのやいの、ガヤガヤと声が広がる。誰に何と返事をするべきか、誤魔化すべきなのかと、もみくちゃにされながらも考えていると、三人とは違う声が……聞き覚えのある声が聴こえた。

 

「えっと、士道くん?」

 

 誰なのか察した士道は、緊張しながら声の主を見る。

 京乃だ。精霊の姿ではない、普段の制服姿のままだ。その表情も、普段と何一つ変わりはない。士道はインカムを叩くと、意図を理解したらしい琴里が言葉を紡ぐ。

 

『今の京乃に霊力はないわ。それに……いえ、これは後で話しましょうか』

 

 もったいぶるような琴里。しかし、今はそちらに集中することは出来ない。ただ京乃に霊力がない……その言葉は大切なもので、琴里たちに内心感謝しながらも京乃を見る。戸惑った様子の京乃は……真那の方へと顔を向けた。

 

「あの皆さん……お揃いでどうかなされましたか?」

「真那さんは……えっと、どうしてこんなところに?」

「観月さん、でしたか? これは……つまりそういうことですから、そんなことで失礼しやがります!」

「あっ」

 

 真那は目を離した刹那、どこかへと行ってしまった。

 

「い、今真那さん飛ばなかったですか?」

「気のせい」

「いや、でも……」

「気のせい」

「しかし、どう見ても今のは」

「気のせい」

「……確かに見間違えてしまったかもしれません」

 

 勢いに押された京乃は、目をそらしながらそう告げた。

 

「あなたはどうしてここにいるの?」

 

 折紙の剣呑な視線を受け、京乃は視線をそらす。

 

「あの、皆さんがここに向かうのを見ていたので……でも、すみませんでした」

「そろそろ、自衛隊と救急車が来る。この場にいたら、事情聴取が起こる可能性がある。面倒ごとを避けるなら、このまま帰宅することを勧める」

「い、いえ。皆さん、起きるかもしれないので、近くの人に声はかけてきます……!」

 

 京乃はそう言葉を返すと、足早にその場を抜け出す。

 十香はそんな京乃を見て、得心が行ったとでもいうかのような表情で頷く。

 

「うむ、そういうことなら私も声をかけよう。一人よりは、二人の方が良いのだ」

 

 そして、十香はすぐに京乃の後を追い……屋上には折紙と士道が残された。

 

「士道は、どうするの?」

「俺も救急車が来るまで手伝いをするよ」

「それなら、私もASTに報告してからする」

「良いのか?」

「他にすることもないから構わない。それに、人命救助も大切」

 

 素っ気ない言葉だが、それでいて善意にあふれた言葉だ。折紙は、士道に狂三の話を聞きたがっているのに違いないのに、人命救助を第一としてくれた。それだけで……士道にとっては嬉しかった。

 

 

 

 屋上から校舎内へと入ると、やはりぐったりとうつ伏せている生徒の姿は多く、歩き回るほど元気な生徒の姿は見当たらない。

 誰かの声が聴こえる。その声の方へと向かうと、京乃の姿が見えた。真剣な表情で、特に息がしづらそうな体制の人物を抱き起こし、皆に声をかけているようだ。

 

「……ッ」

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫……」

 

 頭を押さえながら、そう告げる様子は大丈夫そうには見えない。彼女もまた、狂三の能力にかかっているのだろう。彼女も休んでいた方が良いのではないだろうかと懸念するが、大丈夫というのなら無理に休ませることもないだろう。

 

「私はこの階の生徒に、出来るだけ声をかける。十香ちゃんには一階をお願いしてるから、二人は他のところを優先してほしいな」

「他にすべきことはある?」

 

 折紙がそう尋ねると、京乃は少し考えたあとに口を開く。

 

「水を欲しがってる人もいるから、備蓄倉庫を開けて水持ってこようと思っていたけど……」

「私がやる。顕現装置(リアライザ)を使えば、多少重くとも問題ない」

「ありがとうね、折紙さん」

「礼には及ばない。私は、私に出来ることをするだけ」

 

 折紙は淡々とそう告げると、職員室へと向かっていった。

 

 士道も学校のめぼしいところへと向かって、人のいる場所で声をかける。呼びかけに対して、意識を取り戻す者もいるようで、更には自力で歩ける程度まで回復している人も現れ始めた。

 

 救急車の音が聴こえるまで、呼びかけは続いた。

 

 未だ意識が戻っていない生徒などの重症者は、救急車に運ばれていったが、全ての生徒がそうだったわけではない。そのため、比較的軽症な生徒に紛れて、学校から出た。

 折紙はASTに事後処理と報告をしに行き、十香は霊力が逆流したということで念の為に検査をしにフラクシナスに行った。残る士道と京乃は、気まずい雰囲気の中……自分たちの家へと向かった。

 

「あの、士道くん」

「……大丈夫か? 休んだ方がいいんじゃ」

「優しいんですね……でも、休む前に報告したいことがあります。君が昼休みに言っていた、お話しの続きがしたくて……」

 

 重要な話。士道が今一番聞きたい話に、再度緊張の糸が張り詰める。

 

「私のことなら、これで……大丈夫、なんだと思います」

「本当か?」

「その、心当たりが出来ました。でも、ちゃんと断ったので、大丈夫だと思います。それよりも、あの、聞きたいことがあって」

 

「私のこと、覚えてませんよね」

「京乃って幼馴染みがいたってことは覚えてる」

 

 最後の最後で思い出すという、タイミングでいえば最悪に等しい状況ではあった。それでも、思い出したのには変わりない。

 

「で、でも全部戻ってるわけじゃない……ですよね?」

「京乃に嫌いだって言われたの、流石の俺も堪えたぞ」

「あ、え、えっと」

 

 明確に動揺している。そんな京乃を見て……士道はむしろ安心した。こんなにも自分を慕ってくれている少女が、本心からあんなことを言ったとは思えなかったのだ。

 

「これは今度の期末テストの面倒見てもらわねーと割に合わないかもな」

「わ、私で良ければ相談乗るけど……って、どうして笑ってるんですか?」

 

 泣きついても、見放さずにしょうがないなと微笑む。それが、士道の知る京乃だった。その面影があるのに、どこか違う。どこか間の抜けた京乃を見て、士道は安心しように笑った。

 

「正直、皆が生きていてくれるだけで、俺はもう嬉しいんだ。だから……過去がどうとか、そこまで頭が回ってなかったのかもな」

 

 京乃は、目を伏せた。

 

「ごめんね、酷いこと思い出させちゃって」

 

 京乃にはどうしても一つ考えてしまうことがあった。

 それは……自分さえ存在していなければ、士道が傷つく未来は存在していなかったのではないかという疑念だ。

 士道の話が本当ならば、未来で京乃はあの場にいた瀕死の皆を殺してしまうところだったのだろう。しかし、その未来を断ったとして、過去に士道へとひどい態度をとってしまっていた事実は変わらない。

 つまり、京乃がいなければ。もし、小さな頃に士道に出会うことがなければ。もし、話しかけることがなければ……士道がこうして苦しむこともなかったのではないか、と。京乃はそう考えずにはいられなかった。

 

「……士道くん?」

「良かった、お前が皆を殺さなくて」 

「そうだね、私のせいで皆が殺されなくて本当に」

「違う、違うんだ」

 

 士道は首を横に振る。

 

「お前が傷つくこともなかった。それが嬉しいんだ」

 

 士道は心底ほっとしたような表情で、そう告げた。

 士道はあの時、絶望のさなかにいた。それでも、京乃は、最期に話した京乃は驚いたような表情で、茫然と声を出した。まるで……今まで我を忘れていて、ついさっき意識が戻ったとでもいうかのように。

 そんな京乃が自発的に皆を殺そうとしたとは、士道には思えなかったのだ。

 

「こんなことを言うのは恥ずかしいが……京乃がそばにいてくれて、良かったと思っている。だから、どこかに行こうだなんて考えないでほしいんだ」

「……士道くんには、勝てないな」

 

 困ったように微笑む京乃。

 

「私ね、君の助けになりたいって思ってたんだ。それなのに、実際は全く真逆の結果だから……」

「昔から不思議に思ってたんだが、京乃は、何で俺を助けようとするんだ?」

「……え?」

 

 そんなことを言われるとは思っていなかったのか、京乃は目を丸めた。そして、すぐに口元を緩めて笑った。

 

「……士道くんは、私にとって道標、だったからかな」

「道しるべ?」

「うん、道標。士道くんの存在は、会ったときから大きなもので……私の道を照らす光そのものだった」

 

 恥ずかしげもなく告げる京乃に、聞いている士道の方が恥ずかしくなりそうだった。

 

「壮大すぎないか?」

「それでも本当のことだから。でも……今は、それだけじゃないけど」

 

 ほんのりと頬を赤らめた京乃だったが、すぐに罪悪感に苛まれたのか、気を落とす。 

 

「……私は士道くんのことをずっとずっと騙してきた。士道くんは、嘘つきな私が、側にいていいっていうの?」

「ああ」

「君がそう言ってくれるのなら……安心する」

 

 京乃は目をつぶり、そして意を決したような表情を浮かべた。

 

「士道くん。私……私ね」

 

 京乃は、たどたどしく口を開く。

 

「何をやればいいのか分からない。何を成したとしても、無意味なのかもしれない。それでも……私は、動くのを止めたくない。だから……」

 

 京乃は、口を開く。決めていた言葉を、士道へと告げるのだ。

 

「君のいるところで、働きたいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 これから、彼女たちは本来とは違う筋道を辿る。

 

 

 崇宮真那は違う道を辿る。

 真那は重症化せず、そのためにラタトスクへと邂逅するのは遅れるのだろう。しかし、真実はなくなったわけではない。いずれ、ラタトスクに感謝する日が訪れることだけは間違いないだろう。

 

 五河琴里は違う道を辿る。

 琴里は高校の屋上で精霊化しなかった。そのため、士道とデートをする必要性はなくなった。しかし、今後もそうであるかは分からない。もしかしたら、新たな精霊を攻略するときに、耳栓をしていたことで洗脳にかからず、そこで精霊の姿になることもあるだろう。そうではなくとも、非常事態に陥れば、彼女は選択しなくてはならない。

 

 鳶一折紙は違う道を辿る。

 琴里のことが知られなかったために、折紙がホワイトリコリスを無断で持ち出すこともない。そのために、DEM社に目をつけられるのは遅くなるだろう。それでも、京乃がファントムの誘いを断った時点で……きっと、それは訪れる。

 

 観月京乃は違う道を辿る。

 彼女は精霊になる選択肢を捨てた。本来よりも早く、ラタトスクと接触した。その行き着く先は、きっと悪いものじゃない。

 

 

 ■■■は違う選択を選ぶ。

 本来与える予定だった相手に、霊結晶(セフィラ)を渡すことにした。元々、どちらでも問題はなかったのだ。

 

 

 少しずつ、ズレの生じた世界。

 その後の結末が、どうなるのかは分からない。いずれにしろ、彼は幸せを掴むために奔走するのだろう。

 

 元来よりも優しい世界になるかもしれないし、その逆も然り。どうなるのかは、誰も知らない。努力の分だけ救われるとは限らない。それでも、最後には幸せな未来であるべきだ。

 なぜならば、これは……精霊を助けたい少年と、それを支えたいと願う少女の物語なのだから。

 

 




今まで見てくれてありがとうございました。またどこかで会いましょう。
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