艦こレスキュー   作:レスキュー

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第1話

世界消防庁とは、ジャマンガとの戦いを経て事態を重く見た人類が犠牲を最小限に留める為に発足した機関である。

更にその機関の特殊部隊、レスキューフォース。

その役割は多岐に渡り、隊員による人名救助、超兵器を使用した災害の未然阻止、ネオテーラを始めとした征服組織との戦闘、全てをこなさなければならない。

しかし人名救助を己の役割と捉え力を入れる隊員は多く、男もまたその一人だった。

 

「…………」

 

そしてその隊員は今、金縛りにあった様にその場に縫い付けられていた。

レスキュー用の耐熱機能の付いた半袖のシャツの上に青いジャケット。更に同じ色のズボン、胸元にはレスキューフォースの隊員である事を示すRの文字。

レスキューフォース、R1=轟輝。

それが彼の名前だった。

彼の視線の先では司令室の文字が扉の中心に堂々と鎮座している。

世界消防庁、ヨーロッパ支部。

1年前に派遣されてから、轟輝は此処で勤務しているのだが。

其処で呼び出しを受けたのだ。

世界消防庁総司令と………更にその上司である刑部長官から。

たった一人で来い、と。

そうなれば、萎縮するのも無理は無かった。

其処で、声が輝の注意を引いた。

 

「ふっふっふ〜、愚かな人間どもめ、こんな広い建物なんか作っちゃって〜。

今こそこれを使う時が来たわね」

「流石マール様ザンス! それでは早速」

「スイッチ、オンゴンスー」

 

曲がり角に隠れたその姿に、輝は視線を向けた。

明らかに何か兵器を持っている口振りに、輝の体は警戒態勢に入った。

そして同時に、走り出したところで

 

「何やってんだお前ら」

 

盛大に力が抜けた。

 

「あらR-1、久しぶりねー」

「丁度良かったでゴンス」

「この掃除機が起動しないザンス、どうなってるザンス?」

 

三人の土偶型ーー女性型と青年型と格闘型ーーアンドロイドが、掃除機を抱えて話し合っている場面などを見せられたからだ。

 

「触り方が悪かったんじゃないのか?」

 

それでも、悩んでいる以上輝に放っておく事は出来なかった。

取り敢えず思ったままの事を言った。

明らかに格闘型のアンドロイドーーシーカの腕は大きく、スイッチを押すのに不向きだからだ。

 

「それだー! マール様、貸してみて欲しいゴンス、きっと触り方が悪かったでゴンス」

「もうしょうがないわねー、はい」

「いや、だからそうじゃ……」

 

女性型アンドロイドーーマールから掃除機を受け取ると、シーカは男性型アンドロイドーーサーンと共に抱えた。

1年前、ネオテーラという超災害ーー常識を超えた災害ーーを起こす組織に所属し、敵対していた三人だが、ある日を境に彼等は超災害を起こす事を止めた。

それ以来、総司令の元で働いており、時々現場に出ては人名の救助に励んでいる、のだが。

 

「どん! どん! どん!」

「ベタベッタ!」

「どどんどどーん!」

「ベタでーす!」

 

普段は清掃を始めとした雑務に励んでおり。

殆どの隊員は彼等の存在を呆れ半分面白半分に見ている。

輝もまた例外では無く、掃除機のスイッチを叩く彼等を尻目に輝は司令室のドアの前に立った。

其処に先程迄の緊張感は無く。

それだけは輝はあの三人に感謝した。

 

「轟輝! 只今出頭しました!」

「入りたまえ」

「…………」

 

室内にある二つの気配に声を掛け。

指示に従い、足を前に踏み出す。

自動ドアがそれぞれ反対にスライドした。

二人の姿が徐々に現れてくる。

大きめのデスクを囲う様に何らかの機械が置いてある。

更に其れに挟まれる様に、隊員との通信用の巨大なモニター。

その前に、二人は居た。

初老の男性、刑部長官はデスクに体重を預け、黒いスーツに纏った両腕に顎を乗せている。

対照的に総司令の方は居住まいを正し、青いスーツに包んだ身体を椅子に余り預けていない。

そんな二人の姿を確認すると、輝は数歩前へと歩きデスクの前で足を止めた。

 

「来たか、轟隊員」

「はい、あの………何のご用件でしょうか?」

 

萎縮しながらも、単刀直入に輝が切り出した。

元々突貫野郎と同僚に言われる程に真っ直ぐな輝である。

それはこの公の場でも遺憾なく発揮された。

 

「前置きは要らん、単刀直入に言うぞ若造」

 

低く、地の底から発する様な声だった。

初めて会った時と、口調が似ていた。

要救助者を助けられず、手をこまねいている時に助けて貰ったその時と。

 

「人を殺す覚悟はあるか?……若造」

「うぇ!? 何ですかいきなり」

 

口調から覚悟はできていた。

しかしそれはアッサリと吹き飛ばされてしまう。

想像を絶する内容に、輝の決意は揺れた。

 

「もう一度聞くぞ若僧………人を殺す、覚悟はあるか?」

 

其処へ更に追い討ちをかける様に、更なる威圧を含んだ口調で、刑部が話しかけた。

そこで、漸く気がつく。

本気で問い掛けているのだと。

だから、本気で答えることにした。

 

「…………」

 

目を閉じ、気持ちを落ち着ける。

人を殺す覚悟?

そんな事は決まっている。

 

「ありません」

 

輝ははっきりと言い切った。

 

「ほう……どんな状況でもか」

「はい、どんな状況でも、俺はレスキューフォースです。

人を救うのが俺の使命だから、人を殺すなんてありえません。」

 

面白いと言った風に笑うと、しかし刑部長官は真剣な顔になり、これまでより一層強く重圧を掛けてきた。

それは、殺気とも近いものになっている。

多くの修羅場を潜り抜けた戦士の証だった。

 

「戦時下でもか?」

 

そして出た言葉に、輝の真っ直ぐな瞳は揺れた。

そのまま俯いて、刑部から目を逸らしてしまう。

輝は経験した事は無いが、人間が人間を殺す。

余計なルールなど無く、多くの命を奪った者が英雄となる地獄。

そんな狂った戦場の中で、お前に出来ることは何だ。

そう問いかけているのだ。

だが、これもまた考えるまでも無い。

 

「戦時下でも、です」

 

そう、決まっている。

 

「俺は大淵さんと約束したんです、レスキューを愛して愛して愛し尽くすって!

だから人を殺すのが覚悟だって言うならそんな覚悟」

 

其処で切ると、視線の中心に刑部を捉え。

 

「超災害にでも、くれてやります!」

 

宣言した。

何時しか言葉には熱が篭り、語気は強くなっている。

 

「合格……だな」

「合格……ですね」

「合格? 何がですか?」

「済まない、轟隊員。実は君の気持ちをどうしても先に確かめたかったんだ、何せ」

「今度の君の出張先は、戦場だからな」

「戦場と言っても、敵は人間と言う訳では無い。恐らくはだが、機械だ」

「恐らくは? どう言う事ですか?」

「深海棲艦、と言う言葉を君は聞いた事があるかね?」

「深海棲艦………はい、少しは」

 

質問に、輝は頷いた。

因みに情報源は美人キャスターが務める朝の情報番組である。

 

「其れならば話は早い、君も存じての通り、奴等は急遽世界中の海に現れ、侵略を開始したんだ。それは時には民間、軍事問わず死者も出す程の物となっている

事態を重く見た我々は、これを超水害と呼ぶ事にしたんだ」

「超……水害」

「若造、お前には自衛隊が発足した特殊部隊の指揮を務めて貰う」

「特殊………部隊? レスキューフォースみたいな………ですか?」

「いいや、少し違う」

「艦娘、と呼ばれる者達は敵を倒す為に造られた部隊なんだ」

「敵を、倒す……という事は、レスキューファイアーに近い部隊なんですね」

 

言いながら、輝には迷いが産まれていた。

戦闘とは、あくまでレスキューの為の物だ。

戦闘のみを目的に行う事は、輝にとって気の進むものではなかった。

 

「ああ、そうだな。しかし、問題が一つあるんだ」

「問題ですか? 一体何が」

「艦娘、と呼ばれる者達に、感情が備わっている、という事だ。そしてその命は……考慮されているとは言い難い」

「そんな………感情があるのに兵器として扱ってるんですか!?」

 

それは、只の事実だ。

総司令の淡々とした声色がそう告げていた。

しかし、それは。

輝にとって、絶対に許せる事では無かった。

AIを相棒と言い切った輝は、命の形を定義しない。

艦娘がどの様な姿形をしていようと、同じ様に生きられるなら輝にとって尊い命だ。

 

「ああ、だからこそ我々は問題を重く見ている」

「感情がある以上、どのような姿形をしていようとそれは命と呼んでも問題は無い。

そしてレスキューフォースは、救う命に制限を設けない。だからこそ刑部長官は、艦娘の指揮を君に任せようとお考えなのだ」

「一人たりとも失わず、戦争を終わらせる………貴様に出来るか? 若僧」

 

一瞬の躊躇。

それでも。

 

「俺、やってみせます。戦争の中でも、助けを呼ぶその声を逃しはしません! それが!」

 

それでも、その口を閉じる事が無かったのは。

先程出会った三人の影響が大きかった。

元々敵対していた筈の三人は、日本に居た頃にある子供の命をレスキューした。

それは、彼等の創造主の意志に逆らう行動だったにも関わらず、だ。

その時、輝は理解した。

艦娘がどのような姿をしていようが関係など無い。

人間も、ネオテーラも、艦娘も、同じ命だ。

ならば、きっと同じ様に生きられる。

輝はもう既にそれを経験している。

それなら、輝は絶対に救う。

それがーーーー

 

「ーーーーレスキュー魂………という訳だな? 轟隊員」

「はい! だから、俺行きます! うおおおおおおお!!!」

 

話を其処で打ち切って、輝はドアから出て行ってしまう。

しかし、一つだけ問題がある事に気付いてはいなかった。

少なくとも輝は。

 

「相変わらずの突貫野郎だな」

「そうですね、ですが其処がまた長所でもあります。まあ基地の場所を聞すきに直ぐに戻ってくるでしょう」

 

場所も聞かずに、飛び出している、という事だ。

それを慌てて追うでもなく、二人は冷静にその背を見送った。

 

「ああ、そうだな。にしても………」

 

自動ドアが閉まったタイミングで、輝には聞こえない様に刑部はボソリと呟いた。

 

「若僧め、くさい台詞を言いやがる……」

 

 

走る、走る。

街中を青いレスキュージャケットを靡かせながら輝が疾走する。

二人から行き先を聞いた輝は、その足を空港に向かわせていた。

横須賀鎮守府。

其処が自分の行くべき所だ。

其処で、自分のするべき事がある。

レスキューフォースでの経験からある程度は落ち着いたとは言え。元々、突貫野郎と揶揄される程に真っ直ぐな男なのだ。

ならば、意味は無いと分かっていても、急がずにはいられなかった。

 

(待ってろよ! 深海棲艦)

 

その胸中にあるのは、強い決意。

輝は、戦争の事など教科書でしか知らない。

その悲惨さも、悲しさも、想像の上でしか分からないものだ。

そう考えると、不安はある。

 

「小難しい理屈は、どうでもいい……」

 

しかし、それでも。

それでも、その足は、止まらなかった。

誰かを悲しませ。

誰かの明るい笑顔を奪う者。

そういった存在と、輝は戦う。

戦って、まだ見ぬ誰かの笑顔をレスキューする。

戦争が生み出す絶え間無い悲しみの連鎖は。

皆が笑顔を無くした時代は。

 

「俺が! 片っ端から爆鎮してやる!」




別にブラック鎮守府制圧物ではないです
クズはトミカヒーローの世界観に合わない気がします
後、輝が少し弱いかも知れません
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