奴隷と少女   作:煉音

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紅茶とケーキ

 エリーに敗北して数分眠った後、エリーのアドバイス通り、地形を念頭に想像して視界に確認しながら稽古に励んだ。何度かつまずきながらだったけど、いつもよりもつまづく回数も減って動きやすかった。その代わりと言ってはなんだが、相手の動きも一緒に見ることが難しくて、何度かナイフを当てられたりして敗北を味わった。でもかなり勉強になった。

 先に入浴を済ませ、まだ日は落ちきっていなかったけど夕食も済ませ、専属メイドの部屋で本を読みながらのんびりしていると、唐突にドアを叩かれた。

 今日のお嬢様のお守まで1時間あるけど、誰だろ。冬実さんと未希は今日は屋敷にいないし、エリーはたぶんほっつきまわってるし。てゆうか、専属メイドならノックなんかしないか。

 

「はいはーい」

 

 本を閉じて立ち上がり、ドアの前まで来るとガチャっと開いた。開かれたドアの先にいたのは銀髪の短い髪で金色の瞳の女の子、文字通り、お嬢様がいた。

 

「こんばんは」

 

 そう満面の笑みでお嬢様は言った。あれ、ソフィさんどこだ。

 

「え、あ……こんばんは……」

 

 胸が小さくドキドキと脈打つのがわかった。やっぱり相当好きなんだな私。てゆうか普通に挨拶しちゃったけどいいのかこれは。

 

「あ、あの、ソフィさんは……」

「早めの交代をしてもらうことにしたの」

 

 ニッコリ笑顔でお嬢様はそう言ってのけた。ドキドキしてるのに、ひときわ大きくドキッとしてしまった。

 

「ぁ……あ、とりあえず立ってるのもアレなんで……どうぞ中へ……」

 

 ガチガチに体が固まってるのをなんとか動かし、中への催促をする。なんか共用部屋のはずなのに自分の部屋みたいになってる。

 

「ふふ、ありがと。お邪魔するね」

 

 コツコツとお嬢様は部屋の中に入っていき、私の私用スペースに迷うことなく進んでいった。私はドアを閉め、そのあとについていく。

 小さな仕切りの空間に、お尻が痛くならない柔らかい椅子を置き、小さな四本足の丸テーブルを設置し、簡易の応接スペースを設立した。お嬢様を仕切りの奥側に座らせ、共用のポットでお湯を沸かす。

 

「こ、紅茶でいいですか?」

「おまかせするよ」

 

 お嬢さまは小さく足をパタパタと動かしながら私の図書館から借りてる本とかを凝視している。仕切りの私用空間にはベッドと大きくない収納箪笥と椅子が置いてあるのだ。箪笥の上に本とかノートを並べて保管している。

 それと共用スペースには台所があって、水と火を自由に使える。他にもいくつか調理器具とかもある。あとは食べ物とかを低温で保管するための冷蔵庫っていうものがある。全て地下の魔術結晶から発生する熱エネルギーの応用でまかり通ってるらしい。台所の水は地下から組み上げたものを屋敷内に水道管を通してまかなわれ、火は地下からのエネルギーを直接通し、つまみをねじると瞬間的に熱エネルギーを圧縮し放出する仕組みになっている。冷蔵庫は知らない。

 冷蔵庫をカパッと開けると、中にケーキがあった。そういえば、今日の午前に船見さんがケーキコンテストのための試作と言ってくれたんだった。ちょうどいいや、味見をしてお嬢様に出そう。

 ケーキを取り出し、とりあえず2等分した。お嬢様の取り分に悩んだけど、半分を4つに分け、一つをお皿にのっけた。さらにもう一つを別でお皿に乗せ、一口フォークにとってパクッと食べてみた。生クリームの良い舌触りとともにだんだんと感じる甘味、生地もふわふわでとてもおいしい。これなら大丈夫だ。船見さんに感謝。

 お嬢様の分のケーキをお盆に乗せ、残りは元通りにして冷蔵庫にいれた。ポットがピューと音を出して湯気を拭いたので、紅茶の葉っぱを入れたティーポットにお湯を注ぎ、ティーカップとともにお盆にのっけてお嬢様の元に戻った。

 

「お、おまたせしました」

 

 お嬢様は私のノートを手に持って、じっと目を動かしていた。私が声をかけると視線を投げかけて微笑んでくれる。本当に鼻血が出そうだ。

 

「ケーキ?」

「は、はい。厨房の船見さんからいただいたものですが……」

 

 パタンとお嬢様はノートを閉じて片付け、少し身を乗り出すようにしてお盆の上を見る。

 

「きっとお口に合うと思います」

 

 そうお嬢様に言い、お盆からティーカップを先に置き、ケーキを次に置いた。フォークはすでに皿の上だ。ティーポットを片手に持ち、お盆は自分の背中ごしの帯にひっかけてしまい。両手でティーポットを扱い、ティーカップに紅茶を注いだ。屋敷の管轄で生産されている茶葉はとってもお湯への順応が早い。良い色合いが出ているし、何よりも漂う香りが鼻にきつくない。船見さん曰く、ここの紅茶を飲むと外で紅茶は飲めなくなるそうだ。

 

「うん、ありがと」

 

 お嬢様はそう言ってさっそくとばかりにケーキにフォークをさした。小さくとり、口にいれた。最初は味わうように小さく口を動かしていたけど、一度瞬きする間に子供が目をつむって喜ぶような感じに満面の笑顔を浮かべてた。咄嗟に鼻を抑え、鼻血が出てないか確認する。幸い、出ていなかった。

 

「おいしい!!甘さが段階的で面白いわ!」

 

 そう称賛し、二口三口と手が進み、あっという間にお皿の上は真っ白になった。絞めといえばアレだけど、紅茶に口をつけ、また笑顔を作る。

 

「やっぱりケーキは紅茶が一番合うね!」

 

 お嬢様は一人ではしゃぎ、一連の動作を終えた。

 そして、ふと私に視線を移し言った。

 

「琴香は食べないの?」

 

 メイドはお嬢様と一緒の食事を隣でとってはいけないと指導されているので、さすがにそれは拒否しなければならなかった。

 

「申し訳ございませんが……私はお嬢様にお仕えする身ですので……」

「そう……じゃあ、私と同じものを私の隣で食べなさい」

「え?」

 

 お嬢様はニコニコとした笑顔のままトンデモ発言をしてしまう。

 

「聞こえたでしょ?琴香、私の隣で同じものを食べなさい」

「で、ですが……ハッ!?」

 

 従事者基本総則3条1、お嬢様に従事する者は全て、その命を何より優先とし行うこと。2、これは生死と過労、そのほか身体的精神的異常をきたすことの外であるときどんな規制や縛りにも問われない。

 つまりお嬢様の命令は大半が強制実行だということ。そしてこのとき返さないといけない言葉は……。

 

「し、承知しました」

「それでよろし」

 

 うんうんと頷くお嬢様は本当に嬉しそうだ。

 

ー数秒後

 

 お嬢様の隣に椅子を置き、ケーキを用意したわけだが、味見をしたあとが残っていて何とも言えぬ状態です。

 

「も、申し訳ありません……屋敷内の者が作った物とはいえ、味もわからぬままお嬢様にお出しするわけにはいかないと思い……ことに至った次第であります……」

 

 ニッコリ笑顔をキープしたお嬢様がなんだか怖い。怒ってるの?え?怒ってるの?

 

「気にしてないよー」

 

 よかったー!普段の声音だし怒ってなさそうだ。

 

「それよりほら、あーん」

「!!?」

 

 気づけばお嬢様にフォークを強奪されケーキを運ばれてる!?

 

「え、ぁぃゃ……お、お、おじょうさま……さすがにそれは……」

「?……あーん」

 

 なんだ今の疑惑の顔は!?私がおかしいのか!?も、もうどうにでもなっちゃえ!!

 

「ぁ、あーん」

 

 口を開けるとお嬢様はすんなりとケーキを食べさてくれた。嗚呼、やばいエリーどっかで見てるよ……ソフィさんに知れたらどうなるのかな。

 顔が火照って暑い。緊張とかのせいでケーキの味全然わかんないや。さっきまで甘かったはずなのになんかおいしいとしか言えないこの感覚なんなんだ。

 

ー数分後

 

 どうにか完食しました。ですが味を全然覚えてません。悲劇ですね。わかります。

 

「琴香、こっち向いて」

「あ、はい」

 

 振り向くと唐突にお嬢様が迫ってきた。ビックリしたけど、間に合うはずもなく頬に感触だけ残った。

 

「生クリームついてたよ」

 

 ニッコリ笑顔のお嬢様……今しがたなにをされたのか思考が3秒も遅れて理解し。ボシュッと湯気を噴いた気がした。幸い今回は気がしただけだった。いっそこのまま倒れても良かったのに。

 

「琴香、大丈夫?」

 

 今度は心配そうに上目遣いで見られる。コロコロと表情を変えるお嬢様はすごいや。私もう全然ついていけてない。

 

「は、はひ……」

 

 小さく噛み、返事すらもむちゃくちゃになってしまった。

 

「ごめんね、無理言って」

「……い、いえ……こんな私でよければ……その…………いつでも……」

 

 自分でもなんだか言ってる事がおかしい気がする。

 

「なんだか今日の琴香、はにかんでばっかりだね」

「……そ、そうですね」

 

 少し落ち着こうと小さく深呼吸をした。

 

「ふぅ」

「そこまで私のこと好き?」

 

 ビクッと体が一瞬震え、お嬢様に目線が止まった。昨日はちょっと意地悪したのは悪いとは思ってるけど、そのあとし返したじゃないか。ひどい。

 

「も、もちろんです……そ、その……ほ、本気で心の底から大好きですから……」

 

 ああ!!!!穴があったら入りたい!!!てか自分で掘ってもいいかな!?いやもう火の輪っかでもいいや!丸い穴ならなんでもいいから通らしてください!!!

 

「琴香は正直でよろし」

 

 お嬢様は嬉しそうに笑顔を作ると、照れ隠しか私の頭を優しくなぜてくれた。

 

「私も大好きだよ」

 

 お嬢様は戸惑いもなくまっすぐに私にそう言ってくれた。両想いだとわかってるのにそういわれるたびにすっごく嬉しくてまた胸がキュンと締め付けられる感覚がした。

 目を閉じれば今にも眠ってしまいそうなお誘いを我慢し、お嬢様をジッと見つめた。するとお嬢様はなんだか意を決するように一瞬口をつぐんだ。

 

「キス……しよっか」

「……はい……」

 

 一瞬の間をあけて私はその言葉を容認したのだった。

 

ー夜中

 

 ジンジンと少し痛む唇に指を触れ今日あったことを振り返る。本当に今でも信じられないくらい夢のような出来事だった。布団に入っているのに寝付けなくてゴロゴロしてる。それでさっきエリーに寝なさいって叱られた。

 お嬢様の言葉通りにどちらからともなくキスをしようとしたのは事実だ。今でも思い出すだけで胸がギュウギュウと締め付けられる感覚に陥るくらいすごい出来事だし……。

 それで、お嬢様が近づいたとき、不意にお嬢様が椅子から滑って勢いよく頭突きをくらい、唇を切ったわけだ。結果、キスはできなかった。そのあと仕切りが倒れてしまい、横で待機していたエリーが下敷きになるなど大変な事態だったのだ。エリーについては私の責任じゃないんだけどな……。

 と、とりあえず明後日……いや、明日のこともあるし寝ないと……次はうまくいくといいな。

 

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