お嬢様との一件以来から2日がたった。いよいよ今日が認定試験、昨日はお嬢様のお守の時間のギリギリまでしっかり稽古の練習をし、お嬢様のお守のあとは復習して寝た。ちなみに昨日のお嬢様のお守は少し忙しく動き回っていたからゆっくり話す時間はなかった。
「専属メイド認定試験を3分後に始める。その前に説明をしておこう」
メイド長直々の監督のもとでこの試験は行われるのだ。いつもなら特例がないかぎりこの認定試験というものはないらしいけど、屋敷の事業が大幅に拡大するということで、専属メイドを数人増やす方針に変わったみたいで、推薦者らしい数十人のメイドたちも来ている。
「今回は屋敷の進出拡大もあるため、専属メイドの枠が15人に増えることになった。そのためこの中から成績とお嬢様との面接を兼ねたのち10人採用する。試験は午前と午後、今から行う午前の試験は筆記試験だ。専属メイドとしての品格などの基礎的知識と屋敷に関すること等の知識を問う。午後は実技試験で、メイド戦術を使いこなせるかどうかを見る。以上だ。質問はあるか?……ないな。では試験開始は合図するからそのままで待つように」
そう言ってメイド長は前で腕を組んで構える。威圧感みたいなのが半端じゃない。緊張してきた……。
ー数時間後
机につっぷして腕を伸ばす。思ったより難しい問題が出題されてかなり考える時間を作ってしまった。ギリギリ完答は間に合ったけど正直不安だ。とゆか最終問題が超長文記述問題といやがらせのような感じになってた。
エリーと未希にはお嬢様の推薦だから落ちるわけない。と言われているがかなり心配になる。とゆか一番最後にお嬢様と面接があるのか。うまくやれるといいな。とゆかまて、軽食とったらすぐ実技試験だった。まぁ頑張ろう。
そう思って伸びをすると急に目の前が真っ暗になる。目元がとっても暖かくてどうやらだれかが目を隠したようだ。
「だぁ~れだ?」
また神出鬼没にこの人は……。
「お嬢様……さすがに試験会場まで来るのはいかがなものかと……」
その手を取って目元から外し、後ろを見る。今日も白いドレス姿のお嬢様、袖が広くなるように作られたドレスはお嬢様にピッタリな仕様らしい。露出が極めて少なく清楚らしさがうかがえる。
「私が誰に会いにきてもいいでしょー。今日はちゃんとエリーもいるし」
そう言って私の前を見る。振り返ればエリーが満面の笑みで机に肘をついてた。
「お嬢様は仕方がないお人です」
そんなことを言うもんだからエリーのほっぺをプニーっとつまんでやった。
「イデデデデ」
「そのステルス性をもっとちゃんと生かしなさい」
エリーは大体盗み聞きしにきたりするときだけ、かなりの正確性と隠密性で潜んでいる。この間だって仕切りの横にテレポートしたらしいけど気づかなくて下敷きにしたし、その前はどうやらクローゼットの影に潜んでいたらしい。
とゆか待てよ……もしかしてテレポートを使える人って女湯とか簡単に覗けるんじゃ……またあとで聞いてみよう。
お嬢様が首に腕を回してきて後ろからギューッと抱き着かれる。
「ほえ!?ちょ、お、お嬢様!?」
ビックリしてエリーから指を離してしまう。エリーはつままれていたのにも変わらずすぐ表情をニヤッと変えて悪いこと考える顔になった。
エリーはその瞬間が早かった。わざとらしく顔を赤らめるようにして口元に手を当てて初々しいですなぁみたいな表情を作りだす。
「おやおやぁ?琴香ちゃんモテモテだねぇ~」
「後で倒す」
その間もお嬢様に抱きしめられ、体が密着する。お嬢様の匂いは正直、この前抱きしめられたときに覚えてしまった。その匂いが鼻を突いた瞬間からもう体中が暑い。
お嬢様の腕に手を添える。どうにか助けてというサインをエリーに目で伝えるが当の本人はお熱いですなぁーっと言った表情をしている。しかも完全に目がわざとらしすぎてこいつわかっててやってると確信、うん、あとで絞めよう。
少し目線をそらして右のほうを見ればメイド長が無言でこっち見てる。やばい、メイド長の無表情は見たことあるけど、あんなダダ漏れの威圧感見たことない。
そんな威圧感に対抗するように助けての視線を送ってみる。
「はぁ……」
明らかに聞こえる程度の音量であのひとため息ついた。しどい!
コツコツと歩いてきてどうにか助けてくれそうだった。
「お嬢様、吹田は次の試験がありますのでお放しください。試験後はいくらでもそうしていてかまいませんので」
まさかの私の後半の時間を全て売られた。
「わかったわ」
そう言ってお嬢様は離れてくれた。やばい、体中ベタベタ感がやばいんですけど、てゆうかまて真っ先にあいつしめとこう。
「エリー!!!」
「おっと」
エリーの飛びつくも普通によけられる。すぐ立ち上がり自分の精一杯の笑顔で言う。
「覚悟しなさいねー!!」
「何のことやら」
またもや飛びつくもテレポートで消えてしまう。
「く、どこだ!」
「後ろー」
バッと振り向くも今度はエリーが抱き着いてくる。
「おわ、ちょこら」
腕も一緒にぎゅっと抱きしめられ抵抗することもかなわず。必死にもがいて脱出しようとした矢先、急にシュンとした顔で力は緩めずに私のことを見つめてきた。
「!な、なにその顔……」
「分かってるくせに」
ふと抵抗を緩めた瞬間、エリーが顔を近づけてきた。
「え!?あ、ちょ、やめ」
咄嗟のことに抵抗できなかった私はギュッと目をつぶる。しかし何もなかった。むしろ急に開放され私は数歩後ろに下がった。
「エリー?意地悪がしたいからってやっていいことと悪いことがありますよね?」
気づけばメイド長が私の前に腕くんで立っていた。私からは後ろ姿しか見えないけど、メイド長はおそらくあの冷徹な目だ。
「吹田はお嬢様が先約しています。先に手を出すのはいけません。相手なら私がいくらでもしてあげるわ」
そう冷たいようなツンツンとした声でメイド長は言うが、当のエリーはガクブルだ。
「そ、そんなことするわけないじゃないですかぁ~」ガクガクブルブル
「ならよし。今後気を付けるよう」
そう言ってメイド長は部屋を後にしていった。お嬢様はニコニコとしながらエリーを見ていた。その視線に気づいたようでエリーは頭の上に!?の文字を浮かべていたのだった。
ー午後試験
試験の方法は教えてもらっていなかったが、簡易なトーナメント形式らしい。上位30名は有力候補として認定され、そのあと有力候補など関係なく順位別に現役専属メイドと手合わせという形。それぞれの専門分野で勝負をすることが許されているため、魔法錬金系統ならエリーと冬実さん、剣や短剣、肉弾戦ならソフィさん、槍や長距離武器なら未希、人不足に限りメイド長が出てくる。今回のハズレはメイド長とソフィさんという話が受験者の間で言われている。
「じゃあ、予定通り午後試験を開始します。先ほど渡せた資料通りに位置についてください」
冬実さんが司会をし、受験者の行動を促す。私はB-1のフィールドにつく。相手は自分と同じくらいの体格の人だ。メイド戦術は基本的に相手を無力化することを目的とした技だ。倒す技じゃないことを知っておかないといけない。相手がどれだけ違う分野の攻撃をしてきてもそれに対する対処はすべて同じ。無力化する。それだけだ。
「あのときの新人さんが相手なのね。一戦目はもらっとこかしら」
まぁ正直周りのメイドのほとんどは年数持ちの人ばっかりだ。1週間もない稽古でどうにかなるレベルじゃないことは承知している。自分を信じ、頑張って挑んで悔いのない成果を残そう。大丈夫自分ならできる。ほら、そこにお嬢様がいるじゃないか。頑張ろう。
「え?」
二度見したお嬢様が私のフィールドの隣で私を見ているのだ。緊張どころの騒ぎじゃないよ。負けたらどんな顔されるかわからないし勝たないと申し訳なくなる。絶対わざとだ。エリーめ吹き込みやがった。やっぱりあとで絞めておこう。
「それでは、午後試験開始!」
冬実さんの合図で全員が一斉に動き出す。お嬢様に気を取られていたせいで一歩出遅れた。相手の武器は……あ、ちなみに今回は特殊な条件下のもと実践武器が使えるようになってる。当たっても痛くないがそれ相応の衝撃を与えることで相手の気力を削ぐといったものだ。立てなくなったら相手の勝ち。制限時間は無制限。
「新人さん!覚悟!」
相手の武器は短剣、数は三つ、刃渡りは14cm程度、木のナイフより少々長いものだ。肩書も大事だが、一番は相手の出方をどうとれるかだ。とにかく振られる隙を見てこっちが早く動けばいい。手を抑えて殴ってもいい。短剣を奪って攻撃するのも手だ。こっちのほうがいいかもしれない。
相手が間近に迫ったころ、空中に一本浮いているのを確認した。どうやら熟練技術で獲得した技があるようだ。正面のナイフだけで対抗していると見せかけ空中からのナイフも利用した戦略だろう。きっと少し相手は私を舐めてかかっているナイフの数くらい確認しといてよかった。
「……」
無言でふぅと息を吐き集中する。お嬢様にみられている意識もあってかかなり集中しやすい。たぶん緊張してるのかな。
「や!」
振られるナイフを低姿勢で相手の横に移動するついでによけ、脇腹に肘を一発かます。
「ぐへっ!?」
変な声をあげて相手は一瞬体制を崩す。エリーの動きのほうが早い。
パシッと上から降ってきたナイフをキャッチする。相手はおそらくコンボ技みたいなのを考えていたようだけど、一瞬の隙をついてその考えも崩れたみたいだ。目が本気になった気がする。握り心地は悪くない。だけど少し大きいか、私の手には合わない。ま、あるだけいいか。
エリーに逃げ腰じゃ駄目だ。と指導をいれられたため姿勢を低くし動きやすい体制を維持する。ナイフを背中の帯にひっかけ、相手の出方を見る。
「新人さんやるね……ちょっとふざけすぎたかな」
そう言って相手は両手にナイフを持ち直し、突撃してくる。
今度は不規則になるよう考えたのか、体を回転させながら切りかかってくる。だけどまだ大丈夫だ。振られるときに焦ったのか近すぎだ。簡単に相手の肘を抑え、ナイフを一本叩き落とし、咄嗟に出したナイフで少し戸惑いながらも背中を思いっきり切りつけた。メイド服に亀裂が入り、入り綺麗に一本線が入ってペラッと肌が見える。どうやら肉体的な物理ダメージはないらしい。血は出てないし。
「うわぁ……こんなだるくなるの……」
相手はそう言って振り返りナイフを構えている。叩き落とされたナイフは場外に蹴り飛ばしたためもう使えない。
「……」
少しフラフラとした足取りで相手はどうにかこっちを見る。少しボーッとしたような顔つき、切りつけたダメージが大きかったらしい。そういえばかなり正確な実戦状態を生み出す魔法でルールが決められているから、槍で突かれればそれなりの疲労が体にかかるみたいだ。私はゼロ距離から思いっきり切りつけたから相手もそれなりのダメージを負ったらしい。武器は全て魔法を念入りにかけて支給されるものだから大丈夫、ただ、肉体的な攻撃の場合は一応物理ダメージをあるみたい。すぐに治療されるらしいけど。
「降参は考えませんか?」
「考えるわけない」
即答だった。仕方ない。ルール通り倒してしまおう。
そして今度はこっちから突っ込んで行き、相手に振るうナイフの腕をつかみその手からナイフをかすめ取り、場外へ投げる次いでに相手の足をすくい転ばせる。我ながら思うけど相手を転ばせるのが上手な気がする。なんとなく足のどの方向からとれば転ぶかがわかるのだ。
そのまま上に乗り、持っていたナイフを首元に当てる。
「さて、降参しませんか?」
「わかったわかった」
私の始めの午後試験はこれで終わったのだった。