奴隷と少女   作:煉音

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第二章 メイドとお嬢様
予告


 こんにちは、望月大公娘様の専属メイド翠田藍香こと翠田琴香です。本日より3ヶ月前に新人メイドから専属メイドに昇格採用されました。

 

 採用が決まった後日からは特別鍛錬枠の時間が組まれ、専属メイドとしての知識と体つくりに励みました。内容としましては、メイドとしてのより深く細かい作法などです。体つくりのことについては、女性を主張している程度の強靭な身体能力の取得ということで、メイド長友美さんの指導のもと、他国の国家所属師範家様方と提携した鍛錬を行いました。

 

 そんなこともあって、私もかなり強くなったものだと思います。3ヶ月前の地形を把握するとか、そんなちっちゃなレベルじゃないですよ。

 

 ま、そんな話は置いといてですね。今日はお嬢様の一日を1週間程度に渡って分析しようと考えています。なんでそんなことになったかと言うと、画面の前の皆さまもきっとお嬢様がどのような生活をしているのか気になると思うのと、この私自身が気になるからです。どっちかっていうと後者が一番影響しています。

 

 そんなわけで、明日の5時より開始です。では、おやすみ。

 

ーー

 

「ごきげんよう船見さん」

 

 浴場に響く綺麗な発音の声が私の名前を読んだ。この声を忘れるような人間がこの屋敷の使用人に何人いようか。いや、いないだろう。

 

 スッと立ち上がりすぐ振り向いた。

 

「お嬢様、今日も一段とお美しく……」

 

「まぁまぁ、気楽にいいよ」

 

 そう言って手を軽く上げて制したお嬢様は、髪を肩にかかる程度まで伸ばしておられた。そういえば藍ちゃんが正式に専属メイドになってから切らなくなったようだと聞いたな。

 

 お嬢様はチャポチャポと小さな音を立てて私の隣に腰掛けた。私もゆっくりとした動作でそのお隣に腰掛ける。そういえば専属メイドの姿が見えないな。

 

「お一人とは珍しいですね」

 

「んー、まぁたまにはね」

 

 お嬢様は足をグッと伸ばしてリラックスする動作をする。最近得たメイド情報を思い返しても別になにかしたわけじゃない。本当にお嬢様は気分で来ているのだろう。

 

「船見さんは、今の生活どう?」

 

 お嬢様はいつもの明るい声のトーンを何段か落としてそう聞いた。

 

「私もお嬢様に救われた身ですので文句の一つもありません。ですが、大好きな料理ができる生活は今でも夢を見ている気分です」

 

 私の過去は置いといて、お嬢様に対するこの思いは全て本当だ。お金を持て余して遊びに手を焼く貴族と比べれば、下人のはずのメイドと同じ食事をとり、同じ卓に椅子を置いたりもする。しかも下手をすればメイドの仕事の場に現れては自分も精を出そうとしたりするのだ。昨月にお嬢様が料理をしに来たのはここだけの話だ。

 

「そっか、それならよかった。時々不安になるのよね。お父様たちがしていた奴隷に対する態度に反発して、奴隷や貧民の人達に働く場所と生活する場所を与えている。そんな自分はみんなから偽善者だと思われているかもしれないって、不足させられた体のまま治すこともできないのに働かせ生かしている最低な人間だって……」

 

 お嬢様の言葉は暗くポツンポツンと雨を落とすようにつぶやかれた。お嬢様は、昔はとにかく前に前に進む性格で、こんな弱みを見せるような人じゃなかった。もっとこう、自分の思う理想をかなえるのに前向きで突っ走る人だった。

 

「大丈夫ですよお嬢様、みんなお嬢様のおかげでやりたい事をして今生きているのです。それに前の生活ならできなかった恋も趣味も読書も研究もぜんぶ、自由なんですから、きっとお嬢様をそんな風に思うような人なんていないですよ。きっと」

 

 お嬢様は藍ちゃんが来てから何か変わったような気がするな。でも私たちのご主人様は弱気な人には務まらないから、いつでも強い自信を持っていてもらわないといけない。それに、お嬢様は間違ってなんかいない。

 

「そうかな……そうだよね。あなたたちが言うならきっとそうだよね。ごめんね、私はもっと強くならないといけないみたい」

 

 前に向き直し、きれいな星空を一瞥して軽く目を閉じて小さく頷いた。お嬢様は賢く優しい人だ。きっともうわかっているだろう。自分がどういう人であらないといけないか。

 

「みんな、お嬢様に不満なんて一ミリもありません。私から自信を持て、なんてことは言えませんが、みんなを信じてあげてください」

 

 お嬢様にそう言って、お湯を肩までつかり直した。

 

「ありがとね。船見さん」

 

 お嬢様は先にお湯から上がり、ピチャピチャと音を立てて急ぐように浴場を後にしたのだった。

 

「いるんでしょ?」

 

「あららぁ……ばれちった?」

 

 自然風景を模様作る壁の陰から頭を掻いて専属メイドエリーが出てきた。

 

「最近の専属メイドはお嬢様を不安がらせる行為を無意識に行うのかしら?」

 

「そういうわけじゃないよ。お嬢様も心の内に春が来たから、そういう感情も出てくるんじゃない?」

 

 エリーはよくわからない例えをポンポンと出してきた。

 

「春が来たの?」

 

「そう、春」

 

 横目に見れば割と真剣な顔をしている。なんだこの人。

 

「ふーん、何でもいいけど、お嬢様のフォローをしっかりしなよ」

 

 そう言って前に向き直った。

 

「まかせときなー……ところで船見さん、また胸おっきくなったんじゃない?」

 

 エリーの声が急に耳元で聞こえ、生命の危機を感じたが遅かった。

 

「ッ!?」

 

 指一本一本が別の動きをさせる、何とも気持ちの悪い感触が胸を刺激した。

 

「おろ?二つぐらいおっきくなったんじゃない?」

 

「き」

 

「き?」

 

「キャァァァァーーーー!!!!」

 

 翌日、最上階の浴場から人が落ちる目撃談が出たのは言うまでもない。

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