チャプンと小さなを音を立て湯につかった。これでもかというくらい柔らかいタオルと泡で体を擦り汚れを落とした。水浴び程度じゃ落ちない垢がボロボロと落ちたのはとてもが気持ちよかった。そのせいか黒ずんでいた肌がきれいな白ピンクになった。まぁ、体中にある戦火の傷はやっぱり落ちるものではなが……まぁ触り心地は普通の肌といたって変わらないところまで治ったので、見た目がちょっとグロテスクっていうか。うん、よくわからない状態だ。
「……」
広い風呂場にはいくつもの湯場があり、その中央の湯につかった。四角形の大きな湯場で、ちょっと熱い程度の湯加減だ。肩までつかり軽く泡をプクプクと立てる。
先ほどメイド長さんに館の中に連れられ、まず体を清潔にすることを言われたのだ。まぁ、当たり前か。と言うか汚れた姿のままお嬢様に触らせてしまったのは少し罪悪感を感じる。
そういえば今日の予定を軽く説明された。まずはここで汚れを落とし、次に昼食があるみたいだ。そこからはメイドとしての1から10を教えられるそうだ。やっぱりメイドの仕事ってお茶運んだりとか掃除したりとかそんなことなのかな。戦争が起きる前は家庭の事情もあって、いろんなところで働いていたからだいたいのことはできるつもりなのだが、はてさてうまくできるかな。
「ふぅ……」
湯から出てペチペチと濡れた足音を立てながら浴場を後にした。
脱衣場に出るとメイド長さんが何か服をもって立っていた。広い脱衣場には籠が入ったロッカーの列が何個も何個も……ほんとうに一気にこんなに使うのだろうか。疑問だ。
「あら、もういいの?」
メイド長さんはそう言ってバスタオルを渡してくれた。受け取り髪をゴシゴシと拭いていく。微妙な長さの自分の髪はあまり好きじゃない。
「はい」
軽くそう返事を返し、次に体をしっかり拭いた。牢屋暮らしもあって自分の体はかなり痩せている。おまけにまだまだ子供、恥ずかしがるものもないのでさっさとメイドの勉強でもしたい。
「わかったわ。それにしても、あなたお嬢様と同じ年頃に見えるけど、お嬢様ほど豊かではないのね」
「奴隷ですからね」
「そうでしたね。しかし、あなたはこれからはここのメイドだから、奴隷ではないわ」
メイド長はそう言いながら、両端の左右に二本ずつ紐のついた下着と胸まきのようなものとお揃いのメイド服を渡してくれた。この手の下着は久しぶりだ。あとなんだこの包帯みたいな胸まきは……まぁないよりはましか。メイド服は黒がほとんどで黄色い線のような刺繍が施されている。エプロンとは別らしい。まぁ洗濯とかはしやすそうだ。靴は一つストラップみたいなものがついたなめした革の黒い靴だ。よく想像する白いカチューシャはなかった。代わりに黄色い刺繍がいくつかされた白いリボンを渡された。髪に結び付けて使えって言われた。あと、なぜか半分リボンと間違えそうな首巻をもらった。そういえば他のメイドさんもなんか巻いていたな。ほとんど首輪みたいになるけどまぁいいか。それもつけることになった。
「……」
鏡を見る。茶色の揃わない髪を後ろでポニーテールにした顔と目が合う。相変わらずの緑色の瞳はどこか遠くを見るような目だ。首に巻かれた白い黄色の線が二本入った白いリボン(首巻)にところどころ黄色の線が入ったエプロンをつけた黒いメイド服、白い靴下と黒い靴だ。小さいメイドがここに一つ完成した。メイド長と何が違うかというと、つけている頭飾りとエプロンだ。私は上半身分もあるエプロンで、メイド長はヒラヒラと綻び止めの入った腰に巻いたエプロンだ。あとところどころ違うが、細かいことは気にしないでおこう。あともう一つ、メイド服は二の腕分までしかないのだが、その右腕の胸よりのところに小さな紋章の入ったボタンらしきものがついている。おそらくメイド長の証だろう。
「似合ってるわ。さっそくお昼を食べに行きましょうか」
「あ、ありがとうございます。はい」
メイド長が急に鏡に割り込んできてビックリした。思ってたより見とれてた。
ー
食堂らしいところに来た。さっきも言ったがとにかく広い。天井からぶら下がっているシャンデリアがひーふーみー……たくさんあります。二階席もあり、そこからテラスまでもある。厨房らしいところには数人のコック姿の人がいる。おいしそうな匂いがこちらまで匂っている。胡椒に山椒までいろいろなにおいがする。
「あ、メイド長、お早い食事ですか?」
厨房付近に来るとコックさんの一人がこちらに気づいて声をかけてきた。私より少し年上らしい顔つき、ちょうどよい嫁入り前の女の子って感じ。元気そうな顔は裏表なさそうだ。
「ええ、この子の教育前に先にお腹を満たしておこうかなってね」
「お?新入りですか?」
コック姿の女の子は元気そうな瞳を私に移してまじまじと見つめてきた。
「あ、あの……」
「可愛いですね」
「っ!?……」
急にかわいいといわれて少し顔が熱くなる。あれ?こんなキャラだったっけ?
「赤くなりましたね。本当にかわいいですね」
「はいはい、いじめないであげて、これでもこの子はお嬢様直々に専属メイドに指名されたのよ。あなたより断然上司よ」
「え!マジですかぁ……頑張ってね」
「は、はい」
そういわれて軽く頭を下げる。結構陽気な人が多いのかな。それなら嬉しいな。
「ところで、今日は何にします?本日のセットメニューは料理長の気まぐれセット、あとはこの私、船見の推奨セットですよー?あとは定番のセットぐらいですかね。ちなみに船見の推奨セットは中華系の料理が中心で、健康的かつ栄養バランスの取れたスタミナ料理ですよ!」
やたらと自分のセットを押してくる船見さん。メイド長は少し考えるそぶりを見せたが、その様子からしてすでに決まっていたようだ。
「船見のセット二つでお願いするよ」
「あいよー!」
元気よく返事を返して厨房に引っ込んでいった。数人いるコックも指示を受けて料理にかかりはじめた。
「すまないな。船見は悪いやつじゃないんだが、前からかわいいものには目がなくてな。おまけにちょっといじり癖が強い」
「いえいえ、友達感覚だときっと親しみやすい性格ですよ。船見さん」
正直な感想だ。船見さんはきっと友達の多い性格だと思う。おまけに料理もできるようだし。もし町娘なら最強だと思うな。
「一応説明しておくよ。この食堂はこの館に従事する人専用の食事処だ。館の権力と財力を駆使して、国内の料理から外国の民族料理までほとんどの料理を食べれる場所よ。私たちはこの館で仕えるけど、給料として金銭をもらわないわ。かわりに衣食住すべてがそろって得られるわ。だからここでの食事では金銭のやりとりはしない」
「面白い構造ですね」
ちょっと難しいかもしれない。つまり言いたいことは、私たちはこの館に衣食住の面倒を見てもらうかわりに労働力を提供しているということだ。奴隷的な考え方をするとかなり充実した空間での生活だからもう望むこともないくらいだ。
「あら?もう理解したの?やっぱり結構賢いのね」
私からすればかなりふつうなことだから褒められてもあれなんだがな……。だったら一つ疑問になりそうだな。どうやってその資金を稼いでいるのだろう。考えられるのはメイドの仕事のいくつかは稼ぐための仕事となる可能性だ。どんな仕事をするのだろう。
「質問いいですか?」
メイド長は厨房に向けていた目を私に向けて「何かしら?」と言ってくれた。
「どうやってここの運営の資金を稼いでいるのですか?私たちがお嬢様のお世話を保持するだけなら、きっと大公様の出費は赤字になりますよね?お屋敷の人員の量も見ているかぎり、やっぱり稼ぐための仕事をしているふうに考えられるのですが……」
「なかなか経済に興味があるようね。うん、そうね。お嬢様に仕えるだけじゃ赤字ですぐ破産しちゃうでしょうね。だからあなたの考え通りそういう仕事があるわ。でも重労働じゃないわ。むしろ机に座って書面を見てときにちょっと出かけるだけでいいものばかりだわ。安心してここの人たちはみんな奴隷のような扱いはさせられない」
予想通りだ。まぁ別に気にするほどのものでもなかったな。
「まぁ、その辺のことはメイドの基礎としてすべて教えるから安心しなさい」
「はい」
そう返事すると、良いにおいがするとともにカタッと音を立てて、お盆がおかれた。お盆の上には良いにおいのするスープや醤油の香りがするご飯、何か薄い皮で包まれた料理があった。どれもこれもおいしそうだ。
「お待たせしましたぁー!船見の推奨セット二つです!」
「ん、ありがとう船見。さ、翠田、行こうか」
「はい」
そのたくさん料理の乗ったお盆を持つとメイド長は後ろのテーブル席のほうに歩いて行った。もちろんついていくのだが、「ちょっとまって」と船見さんに呼び止められた。
「どうしましたか?」
船見さんはニコッと可愛らしい笑顔で「サービスだよ」って言って、小さい蒸籠を一個お盆に乗せてくれた。中には何かしわの目立つ白い皮の料理が4つほど入ってた。
「あ、ありがとうございます」
船見さんは少し照れるように笑ってくれた。
「頑張ってね」
とっても嬉しそうだった。
そんなやりとりをしたあと、メイド長のもとに歩いていくのだった。