奴隷と少女   作:煉音

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食事とご対面

 船見さんにお礼を言ってメイド長の正面に座った。

 

「それじゃ、いただきましょうか」

「は、はい!」

 

 つい声をあげて返事してしまった。さきほどから鼻をノックアウトするレベルで、おいしい匂いがたたいているのだ。いやでもそっちに気を取られてしまう。

 

「い、いただきます」

「はい、いただきます」

 

 メイド長も後に続いて挨拶をする。まずはスープで口を湿らそうか。いや、まて。こんな料理でもテーブルマナーみたいなものがあるんじゃないか?大公様のお屋敷なのだから……。

 

「……」

 

 そう思ってメイド長を見る。背筋をピンと伸ばして優雅にお食事されていることくらいしか目を引くものはない。たしかにナイフを右手にフォークを左手で食べているが……イマイチわからん。ええい!適当に食べて注意されたら直していこう!

 まずスプーンを手に取った。良いお肉の香りのするスープを掬って口に運ぶ。やばい、香りだけで味がわかりそうだ。

 

「……!?」

 

 できるだけ音を立てないようにして口にスープをふくんだ。何とも言えないたくさんの味が口の中で踊る。今までにこんなスープ飲んだことない。美味しい。

 

「面白い顔をするのね」

「はっ!?」

 

 あまりにも美味しすぎて意識が飛んでた。無意識に右手を頬に添えてしまっている。

 

「お嬢様があなたのような人たちを連れて帰ってくると、決まってそういう顔をするのよね。まぁ、私としては毎回そういう反応をするあなた達が楽しくてたまんないだけどね」

 

 そういってメイド長は笑ってくれた。ああ、なんかすこし恥ずかしい。それより気になった。

 

「私のほかにもそのような人が?」

 

 メイド長は「そうね」と言って言葉を続けてくれる。軽くフォークでお肉をちょいちょいといじりながらだが。

 

「この館に仕えるメイドと召使いはほとんどそんな人たちよ。ひどい扱いをされていた人もたくさんいるわ……」

 

 急にメイド長は少し寂しげな顔をして料理に目を落とした。ちょっといけないことを聞いてしまった気がする。

 

「なんかすいません。私のような人たちばかりとは知らずに……」

「いえ、いいのよ。いずれ知ることになっていたわ。それに、みんな似た者同士ってわかったでしょ?心配しないでいいよ。ここでは誰もあなたをそういう人って言わないし見ない、思いもしない。だから安心してここで暮らすといいわ」

 

 顔を上げたメイド長は笑顔で、大人っぽさを感じた。いや大人なのだが……それ以上に何か割り切りのついた綺麗な大人の笑顔だった。

 そのあとの食事ももちろん楽しんだ。白い皮の柔らかいモチモチしたお肉詰めは肉まんっていうらしい。中から肉汁があふれ出してきて、その濃い味と柔らかいパンのような皮を一緒にほおばるのだ。美味しかった。しょうゆの味がきいたご飯はパラパラと固まることなく面白い感触だった。

 初めての料理に目を丸くしたりボヘェーっと意識が飛んで行ったり大変だったが、なんとか食事を済ませ今はなぜかお嬢様のいるお部屋に来ている。

 広めにできている四角い白と赤っぽい色が主な部屋だ。端っこには大きなベッドが置いてあり、その隣に小さめの丸テーブルと椅子が置いてある。あと窓際にちょっとだけ豪華な柔らかそうな椅子があり、そこに太陽の光が差し込んでいる。

 そんな太陽の下の椅子に、輝くばかりの銀色の髪をした雪のように白い肌の少女が座っている。外を眺めているのか顔が見えない。窓に金色の瞳が一点を見つめているのが少しばかりだが見える。

 

「お嬢様、翠田を連れてまいりました」

 

 そんなメイド長の声を聞いてか聞かずか。窓に映った金色の瞳がゆっくりと動き、今度は直接こちらにその瞳が向いた。ようやく見えた顔は幼さこそ残るが、どこまでも見えているような表情だ。そんな表情が少し微笑み、口が小さく動く。

 

「ええ、ありがと」

 

 そのへんの貴族の子息でもイチコロかもしれない。馬車の中じゃ落ち着いて見れなかったお嬢様の顔もよく見ると本当にすごいものがある。

 

「翠田、また後で向かいに来ますね。では、お嬢様、またのちほど」

 

 両手を前で揃えて失礼のないように一礼したメイド長はスタスタと部屋を出ていってしまった。え?うそでしょ?私とお嬢様二人きり?まだメイドの1ですら教えてもらってないんですけどーーー!!!

 どうにか表情にでないように「はい」と返事を返しておいた。

 バタンとドアが閉まり、静寂が訪れる。なにこの間、すっごい気まずいんですが。とゆかめっちゃお嬢様見てるんだけど、やばい、あの笑顔をまた作られたら今度こそ死ぬかもしれない。

 

「……」ジィー

「……」

「……」ジィー

「……」

 

 めっちゃ見つめられてるんですけど……とゆかなんで見つめられてるんだろう。金色の瞳がすっごく狼っぽくて何も言えなくなって固まってしまう。

 

「ふふ」

「……?」

 

 お嬢様はふっと微笑んで急に立ち上がった。コツコツと小さな足音を立ててこちらに近づいてきた。朝まで眠たそうだった顔もパッチリ目が開いて可愛らしくなっている。

 

「緊張しないでいいよ」

 

 ふと伸ばされた手が私の頬をなぜる。アレ?なんか目線が少しだけ下に……。

 

「目立つ傷とかはなさそうだね」

 

 私の目の前まで来たお嬢様は、私の左の頬を軽くなぜながら微笑んでそういってきた。金色の瞳が少しだけ細められ嬉しそうにしている……気がする。

 

「そ、そうですか……」

「それより……なんで私より身長高いのさ」

 

 そうだ。さっきから感じていた違和感、私より目線が低いのだ。真正面から真っすぐに視線を合わせなかったからさっきまでは気づかなかった。それにお嬢様少し怒ってるっぽい。つかめない人だなぁ。

 

「そ、そんなこと言われても……」

「ふふ、冗談だよ」

 

 また笑顔に戻って今度は私の頬をプニプニと軽くつまんできた。なんだかこそばゆい。

 

「それにぃ……メイド服は似合ってるしとっても美人だね」

「!?」

 

 急にそんなことを言われて顔が熱くなる。無意識に目線が逸れてしまう。なんだか照れるな。

 

「あらら、さっきよりも素直になっちゃって可愛い。私のメイドなんだから自信持っていいんだからね。過去のことは忘れて、今を楽しみなさい?」

 

 視線を戻して優しく微笑んでくれるお嬢様に笑顔を返した。

 

「はい、ありがとうございます」

「そうそう、それでいいのよ」

 

 うんうんとお嬢様は頷いて踵を返した。今度はベッドの前にある小さめの木の椅子に腰を預けて私を見据える。

 

「そういえば名前を聞いてないね。聞かせてくれる?」

「は、はい。琴香といいます」

「琴香……うん、ありがと。これからはその名前で呼ばせてもらうね」

「はい」

 

 手をお腹の前らへんで軽く組んだ状態ってあまり慣れないな。すぐ手をほどいてしまいそうだ。

 

「琴香、これからは難しいこともわからないこともたくさんあると思うけど、頑張ってね」

 

 お嬢様はテーブルの上のカップをとって軽く口をつける。優しい紅茶の匂いを漂わせて、軽く口に含んだようだ。口から離したあとも上品にゆっくりとカップを置いた。いかにもお嬢様って感じなのに、なにか別の性格さえ感じられる。

 

「はい、まだ右も左もわかりませんが、必死にメイドとして頑張らせていただきます」

 

 またお嬢様はうんうんと頷いて軽く手を叩いた。

 後ろの扉が少し開き、メイド長が顔をのぞかせる。とゆかずっとそこにいたのか。迎えに来るって言ってなかったっけ?

 

「お済みでしょうか?お嬢様」

「聞いてたんでしょ?あとはよろしくね」

 

 お嬢様は両掌を軽く絡ませて、微笑みながらメイド長に言った。

 

「かしこまりました。では、翠田、こちらに」

「あ、はい」

 

 メイド長の後を追って部屋を出る。一度振り返り深く一礼する。お嬢様がフリフリと手を振ってくれた。やっぱりなぜか嬉しい。

 カチャッとドアを閉め、メイド長の後に続いた。

 館は広い、覚えることもたくさんある。難しいこともやりにくいこともあるだろうけど、私はここで頑張っていこうと思う。とくになんだかお嬢様がすっごく気になるし。それとお嬢様の名前ってなんて言うんだろう。気になるな。また聞いてみようか。

 よし、気合入れてこ!

 

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