「えー、まずはじめに……」
テカテカと太陽の光が見下ろす巨大な中庭に今私はいる。周辺にはかなりの人数のメイドさんとか使用人さんがいる。そして一つ段の高いところで講義をしているメイド教官はナミという人だ。メイド戦術のマスター習得者だ。
それよりも……今日の朝は非常に大変だった。専属メイド専用の部屋で寝ていたのに、目が覚めて隣を見ればお嬢様が入り込んでいたり、お嬢様ばかり見ていたせいで階段から足を外したりいろいろしでかしてしまった。
布団に入り込まれていたのは本当にビックリした。そのせいでベッドから落ちて全身強打するわ不幸続きだ。
一応メイド戦術についての基礎をさっき習ったから教えておきます。メイド戦術は基本的にはゲリラ戦術を基礎とした地上戦格闘術だ。近くにあるものはなんでも利用し、周辺全てを武器とする術だ。常に自分の身を守りながら攻めるのをモットーとして相手の隙をつき無力化する。ちなみに無力化の具合は”殺さない程度”だ。負傷させる程度なら全く許容範囲だそうだ。
「では軽くペアで手合わせをしてみましょう」
ナミさんがそう言うとともに周りの人々がぞろぞろと動き出す。どんどんペアができていくなか私は……あ、孤立するやつか?
「琴ちゃん!一緒にやろ!」
やった!勝ち組!あれ?てかこの声どこかで……振り向けばコック姿の面影のある女の子がいた。私より少し身長の高い女の子で、白っぽい瞳と短い黒髪の子、声からしてもわかる通り船見さんだ。
「あ、船見さん。お願いします」
良かったボッチにならずに済んだ。
「ではさっき言った通り、戦闘訓練を開始しなさい」
木でできたナイフを使った簡単な模擬戦闘だ。相手に当たるまでが戦闘、地を這って転がってでもナイフに当たらないようにし、隙をみて素手でやりあうのが今回だ。
「じゃ、琴ちゃん行くよ!」
船見さんが突っ込んでくる。支給された木ナイフを器用に回転させながらの攻撃、さすがコックさんだ。だけど、私だってただ働いていただけじゃないんでね。
スッと後ろに下がってよける。まだ見える攻撃だからどうさもない。せっかくのメイド服を汚すことは非常に嫌悪したくなるけど、それだけ本気で勝負をしろということだろう。
「お、よけたねー。本気でよけないと捌いちゃうよー!」
「な!?」
船見さんはニヤッと意地悪な笑顔を作ると同時にもう片方の手を見せた。そこにはもう一本木のナイフが握られている。まさかの二刀流。
「ちょ、まさか……」
「ええ、私は剣術2段二刀流よ!」
「んなバカな……」
あ、私としたことが……ビックリのあまり言葉にしてしまった。
「えへへへ、どこまでよけれるかなぁ?琴ちゃん」
ちょっとまて、剣術2段だと……級はさんだ子にしてくれよぉ……。
まぁそこからは想像に任せます。と言いつつ教えようとする私は悪い子かな?簡単に言えばフルボッコです。ギリギリ回避を繰り返してゴロゴロ転がり、目が回りそうなくらいクルクル回りよけた。
そんなことがあって今日もすでに日が暮れてしまった。練習が終わってからはずっとお嬢様のおそばにいる。私がお嬢様の就寝前まで付き添うことが専属メイドの間の決まりになった。朝から夕方まで私は勉強と学習が主なためだ。お嬢様のお隣にいれるようになるまではこれの繰り返しだ。
「ふふ、もうこんな時間だね。そろそろお風呂行こ?」
「え?あ、はい」
専属メイドは基本的にお嬢様の後について入浴を共にする。しかし基本的には一緒に湯に浸かるのではなく、メイド服の裾と袖をまくってお背中を流すというものだ。一つ言っておきますが、初めてです。
お嬢様のお部屋を後にし、浴場へと向かった。まだ緊張する頭を下げられる中を歩くこの感覚、非常に顔も胸も熱くなる。
巨大な脱衣場につきました。この間と同じ脱衣場……手が空いているのか十数人以上の女性や女の子がいる。そういえば若い女性が多いなこの館。
一つの籠の前でお嬢様がスルスルと紐をほどいた。それを手伝って服を脱がせていく、なんか脱がせているみたいで非常に背徳感を感じる。お嬢様の白い肌がどんどんうつわになっていく。傷一つないきれいな体で、とっても華奢で小柄だ。それでいて私より身長が少し低い。いかにも守ってあげたくなるような女の子の体だ。
「なぁに?もしかして私の体に見惚れてる?」
お嬢様は自分の体を軽く抱きしめ身を捻って後ろ目に意地悪な顔をする。いや、私にはそういう気があるわけじゃない。あるわけじゃないんだけど……なぜか顔が熱くなって目線が……。
「あはは、別にいいよ。減るもんじゃないし。ふふ」
どうしても笑いが漏れるのかお嬢様は口元を抑えて声を漏らす。あれ?もしかしてからかわれてる?
「うぅぅ……早く脱いでください……もう」
仕返しとばかりにお嬢様の服を脱がして下着だけにしてさしあげた。白い下着は普通に私たちに支給される下着よりも質感がどうみても高価なもののようにみえる。やっぱりお嬢様なんだなと思う。
「冗談だってばぁー」
お嬢様はベーっと舌を出しながら笑って、下着も全部脱いでしまった。あ、やばい慎ましい程度の膨らみにきれいな線のある腰、まるで美術館の絵画の中の女性のようだ。
「えへへー、さきにいっちゃうよー?」
「すぐ行きますのでどうぞ」
クルッとターンしてお嬢様は浴場の方にトテトテと行ってしまった。
「ふぅ……」
お嬢様の服をたたみ、籠に綺麗にいれた。そして自分のメイド服をまくりあげ、靴下とエプロンとそのほかの装飾品を外した。柔らかい小さめのタオルを片手に浴場の扉を開けたのだった。
ー
カポンと音がしそうな良い湯場だ。まぁ屋敷内の複数あるうちの一つ。ちなみにここで一番高い場所に位置するのだ。つまり何が言いたいのかというと、露天風呂です!とても見晴らしが良いです。とはいっても山しかないから周りは真っ暗ですがね。
浴場の扉を開け、中に入るとお嬢様はチョコンと木の椅子に座っている。アレ?お湯も浴びずに何をやっているんだろう。ピチャピチャと湿ったタイルっていうのか床を歩いていき、お嬢様の後ろまで来た。
「お嬢様?」
「あ、琴香、やさしくしてね?」
また色気みたいな雰囲気さらしてそんなことを言ってきた。おまけにオドオドしたような瞳で私を後ろ目に右手の人差し指を唇に当てている。
「乱暴にしましょうか?」
「え、ちょちょ、冗談だってばぁ……あははは……」
お嬢様は笑いながらすぐ前に向きなおした。仕方ない優しくしてあげよう。
「お嬢様お湯かけますよ?」
「うん」
お嬢様の前に少し回るようにして水栓を捻る。桶にお湯をためる。指をつけて熱さを確かめる。ちょっとぬるめだが悪くないだろう。熱すぎると肌に悪いだろうし。
溜まったお湯をお嬢様の肩からゆっくりかけ、一連の流れで頭にもかけてあげた。お嬢様の銀髪は濡れても綺麗な輝きがあり、白い肌に似合っている。肩にかからない程度の長さがとても可愛らしく思える。
備え付けのシャンプーを手に乗せた。お嬢様に使う石鹸類は基本的に備え付けでいいと教えられたので、それに従うつもりだ。軽く手を合わせて塗り広げ、爪を立てないようにそれぞれ十本の指の腹でお嬢様の頭に触れる。
ゴシゴシ?んーどっちかっていうとクシクシか。そんな擬音がしそうな感じに洗う。シャバシャバと泡だってお嬢様の髪の上にはあっという間に泡の塔が出来上がってしまった。
「かゆいところはないですか?」
「あはは、ちょっとくすぐったい」
そんな会話をしながらお嬢様の髪の先っぽまでしっかりと泡をつけた。
「目開けると痛いですから開けないでくださいね」
「うん」
子どものように明るい声で頷くお嬢様を横目にまた桶にお湯をためていく。さっきよりもちょっと温かくなった気がする。ためながらお嬢様を肩越しに見てみる。さっきも見たはずなのにお嬢様に裸体を見たとたん顔が熱くなった。さっきと違って透明なお湯のあとがたくさんついていて色っぽいのだ。
「早くぅー」
ジャボジャボとお湯がこぼれる音とともに桶からお湯があふれた。ボーっとしてしまった。
「し、失礼」
お嬢様に一言あやまり桶のお湯を頭からかけてあげた。この館のメイド特注のシャンプーは非常に泡落ちが良い。桶一杯で十分に落ちる。
洗髪の次は洗体……タオルでやればいいって言われたけど、正直そんなことしたことないしやり方がわからない……やるしかないのかな。
お嬢様のお顔に泡が残ってないかを確認する。うん、大丈夫そうだ。
「いいですよ。お嬢様」
「うん、ありがと」
パチッと目が開き、いつもの金色の瞳が覗いた。微笑んだときと違ってあまり感情を出していないときは本当に狼のような威厳がある。ちなみに今は微妙な微笑み方をしている。
「?」
キョトンとしたお嬢様の顔はやっぱり隙が無い。いつでも笑顔で殺されそうだ。もちろん恐怖じゃない方の意味で。
軽く首を振ってなんでもないという意思を表しておいた。お湯に浸したタオルに体用の石鹸をつける。何度かお湯につけ、ゴシゴシとタオル同士をこすりあわせて泡立てた。まずはお決まりの相場、背中から洗うことにする。
さっき同様、お嬢様の後ろに膝をついて座り、その広くない肩幅の背中にタオルをつける。強くしすぎない程度にゴシゴシと小さな音を立てながら擦る。お嬢様は気持ちよさそうなふうな感じの雰囲気で笑顔だ。横からのぞく軽くつぶった瞳がそう語る。
「やっぱり琴香の洗い方くすぐったい!」
「す、すみません」
ちょっと長すぎたのかお嬢様の語尾が強かった。そのために私はちょっと焦って謝ってしまった。
「いいよ。ほら、最後までやってー」
お嬢様がそういって軽く身をよじる。可愛らしいのか色っぽいのかよくわからない。
そんなお嬢様の前に回って肩から腰までゆっくり洗う。胸と下半身部分はできるだけささっとやってしまい、どうにか事なきを得た。でもやっぱり女の子の部分はどうしてもしっかり洗わないといけないから、ビクビクしながらお嬢様と会話をしながら洗ったのだった。
「お、お嬢様失礼しますね……そういえばお嬢様」
ゆっくりお嬢様の下半身に手を伸ばす、私の目はもう緊張と慎重がまじりあって恐ろしいまでの集中力を生み出してしまっている。やばい、これ今日はよく眠れる気がする。
「なーに?」
お嬢様の声が上から聞こえてくる。お嬢様が変な声とか漏らさないか心配でその発声の一文字一文字が鮮明に脳内で何度も何度も繰り返される。
「お嬢様はなぜこのお屋敷に独立したのですか?」
メイドの基礎の課程で教えてもらった。このお屋敷は完全に”望月大公の御息女の物”だ。お嬢様は過去に数人のメイドと使用人、あと馬車の老人を連れてこのお屋敷を住処とし、親元から独立したそうだ。そこからは様々なルートと情報網を確立し、難民に奴隷、身寄りのいない外国人から亜人まで様々な人々を屋敷に引き入れたそうだ。その介あって、最上流階級がメイド長を含め6人、上流階級が約200人、中流階級が約6千人、下流階級が約2万人、その他外部活動者が複数いるそうだ。
そのままお嬢様の陰部を慎重になぞるようにふれ、できるだけ早く、できるだけ慎重に洗う。
「そうだねー、もう何年も前の話だけど、私の住んでいたところにも奴隷とかがいたの、たまたま地下で会った女の子と仲良くなったんだけどね」
やっぱりこんな世界だ。大公の元といえど奴隷やそれ相応の人がいるのだろう。
「だけどね、その女の子は奴隷だったの。牢屋の監視の目をうまくごまかして牢の外で暮らしていたの。毎回そこに行けば必ず私を待っていてくれたの。本当に楽しかった。私の知らない遊びや運動を教えてくれた」
お嬢様の声音が変わった。洗うのは十分だろう。桶にお湯をためながら話を聞く。だけどその声音はなんていうか、私のせいではなく何か悲哀を孕んでいる。
「だけどある日は違ったの。いつもの地下に行くと女の子の声が聞こえた。でも違う。叫び声、泣き声、絶望の声、私を呼ぶ声、一つの声なのにその声はたくさんの声に聞こえた」
「お嬢様……?」
お嬢様の体にお湯をかけ泡を洗い流し、お嬢様の顔を見た。さっきまでの笑顔が消えうせ、思い出したくない何かを思い出すように暗い雲を顔に浮かべていた。まさかまずいことを聞いてしまったか。
「それから……それから……それから……」
お嬢様の声がどんどん荒くなってる、呼吸も荒くなってる。まずいどうにかして落ち着けないと……。
「お、お嬢様!落ち着いてください!」
「え……違う……違う……ただ……私は……私は!!」
お嬢様の手を取りギュッと握った。さっきの暗い雲のような顔は涙をためていた。お嬢様は私よりもひどいものを見てきたのか。話から察するに偶然仲良くなった奴隷の女の子に何かあったのか。
「お嬢様!」
「どうしたんですか?」「あ、お嬢様だ」
「え?あ?ご、ごめん。大丈夫大丈夫……」
お嬢様の手をぎゅっと握るとお嬢様がようやくこちらを見てくれた。金色の瞳が涙に濡れて崩れかけている。泣かせるつもりもなかったのにやらかしてしまった。
そこからはやばいくらい気まずい空気の中お嬢様の入浴にお共したのだった。